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まだいたの?!って、そりゃそうか。公爵令嬢と一緒に帰るわけないもんね。

折角地味に感動していたところに水を差してくれたエミリは、いそいそと近寄ってきた。

キラキラと綺麗な瞳をゆるませるその姿は、確かに可愛らしくて、成る程、主人公と言えるだけある。


「……わたし、あの、なんだか混乱しちゃって……なにも言えないままだったので、助かりました。ありがとうございました、リーリアさん」


あら、私いつの間にか主人公と友だちになってたっけ……?


「……いえ、私はヴァルティス様とお話しただけですから……」

「お嬢様、」

「へ」


話している途中だったのに、急にロイが視界を遮った。貴族のマナー以前の問題だ。驚いて変な声が出た。


「ロイ?」

「もう門限も近いので、アーデム嬢をお送りしようかと思うんですが、」

「え……?なんで?」


いや、送るのはいいんだけど、別にロイが送る必要ないよね?だって、攻略対象がここにいるんだし。

私が皇太子をちらっと見てしまったのに気付いたロイが、わざとらしく言った。


「お嬢様、殿下にお聞きしたいことがあると、おっしゃっていたではないですか」

「……聞きたいこと?」


ちょっと、なんの話?

ロイは勝手に話を進める。口を挟む隙もなかった。


「私は、後程お迎えに参りますので、」

「……いや。話のあとに、僕が寮まで送り届けるよ。アーデム嬢を送ったら、君もそのまま寮へ戻ってくれ」

「……かしこまりました」

「ちょ、ちょっと、」


皇太子まで。私、何も言ってないんですけど?

ロイは、私の顔に「ちょっと勝手になんの話よ!」と書いてあるのに気付いたらしい。少しだけ身を寄せてきて声を潜めた。


「よく分からんことになったけど、なんとなくこうしたほうがいいと思うから、あんたは大人しく皇太子殿下に送られてこい」

「なにそれ。ていうか、話とかないのに、どうするのよ」

「図書室までの道聞いておけばいいだろ」


そんな適当な。それに、道ならもう聞いてるのだ。ただ、それ通りに辿り着けなかっただけで。

皇太子から道を聞いたところで、どうせ辿り着けなくなるのは分かりきっているのに。


「……ついでに、俺はあんたの兄で護衛で友だちだって、それとなく伝えててくれ」

「はぁ?」

「では、アーデム嬢。行きましょう」

「は、はい」


エミリは突然の展開に思考が止まってしまったのか、促されるまま素直にロイと行ってしまった。

もう、なんなの?

あっという間に皇太子と二人きりだ。どうしてこうなった?


「……リーリア」

「は、はい」


慌てちゃだめよ、リーリア。皇太子は攻略対象だけど、私にとったら親友──セルシアさま──の兄で、一応、友だち第一号だ。

攻略対象と思い出しただけで、避けることはしたくないと、思ったばかりだったじゃない。


「殿下、あの……」

「リーリア、その前にいいかな?」

「え、はい」

「さっきはありがとう。リーリアだって新入生なのに、損な役回りをさせてしまった」

「い……っ、いえ!ああいうのは、第三者が出た方が、おさまるものですから」

「……皇太子ともあろうものがふがいないよ……」

「……殿下」


いや、あれは皇太子とか関係なくない?むしろ、あのゲームイベントってなにが正解だったんだろうと思うくらいなのに。


「恐れながら、殿下のお立場が難しいこと、理解しているつもりです。あの場での発言が、いずれかの令嬢にとって、今後を左右されるものになるかもしれませんもの。殿下がお言葉をかけられなかったのも、仕方のないことと、思っております」

「……」

「それに、損な役回りだなんて思ってません」

「え?」

「ヴァルティス様にお茶会のお誘いをいただけましたもの。とっても嬉しいんですよ、私」


目を丸くしていた皇太子は、私のどや顔──いや、ちょっとは抑えたけど──に、しばらくして、思い切り吹き出した。


「そうか、それならよかったよ」


う。綺麗なお顔でそんな風に笑われると、破壊力がとんでもない。

内心どぎまぎして、視線を外す。落ち着け、私の心臓。

その美しい顔に耐性がないから、まともに顔を見れない。


「リーリア」


呼ばれたので顔を上げると、本当に近くに美しい顔が迫っていて、息をのんだ。

皇太子は私の様子に気付いているのかいないのか、なお、身を寄せてくる。


(きゃー!近い、近い!)


「また、こうして、二人で話せると嬉しいな。手紙でも書いたみたいに、学園の案内もさせてほしい」

「ぅ……は、い」

「……約束だよ?」


結局最後まで、図書室までの道を聞けないままだった。






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