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「決して、わざとではないんです……っ、」
エミリが涙を滲ませたような声で言った。
(うーわー……)
あれ絶対ゲームのイベントだ。困ってる主人公助ける系のイベントだ。
「なんだよ?」
「だから、しーっ、てば。あそこ、人がいるから」
「……なんか駄目なのか?」
「空気読んで!なんか、話に割り込んだらややこしくなる雰囲気でしょ!」
ぐいぐい、とロイの背中を押す。
そうして、訳の分かっていないロイが振り返るのを必死に押さえた。
「いや、というか、あんたは何してるんだよ?」
「ロイ、そのまま、私を隠して」
「はぁ?」
あれには関わりたくない。あんなに分かりやすいゲームイベントもないと思うから。
「……お願いだから、じっとしてて」
私の必死さがようやく分かったらしいロイは、振り返るのを諦めてくれた。私はほっと胸を撫で下ろす。
これでこのまま身を潜めておけば、イベントは無事終了するだろう。
「でも……なんていうか意外だな」
「え?」
「あんたはあーゆーの見逃せないと思ったけど」
一人のか弱そうな女の子が五人に囲まれてわーわー、言われているあの状況。普通だったら確かに、私は割り込まずにはいられないと思う。
もちろん、これが孤児院での出来事だったら、すぐに割って入って、揉め事をおさめるだろう。
それなのに、私がここで身を潜める理由は、ただひとつ。
「……あーゆーのは、ヒーローが助けにくるから大丈夫なの」
「ヒーロー……?」
あ。思わず前世での言葉つかっちゃった。
耳慣れない言葉に、流石にまた、ロイが振り返ろうとする。
「ちょ、ちょっとロイ、ちゃんと私を隠しててってば!」
「リーリア?」
「えっ」
突然かけられた声に、ロイじゃなくて、私が振り返ってしまった。
「で、殿下……?」
振り返った先、目を丸くして、皇太子がしっかり私を見ていた。
(きゃー!でたー!)
失礼な叫び声をなんとかこらえる。現れるとは思ってたけど、実際に見てしまうと、驚いてしまうのは仕方ないだろう。
でも!
(いやいや、なんでこっち?攻略対象なら、あっちに行かないといけないでしょ!)
そう、皇太子が見ているのは、エミリとそれを囲む女の子たちじゃなく私だった。
「……殿下、あの、こんにちは」
「うん。入学式以来かな、」
「そ、そうですね……」
「同じ学園でも、なかなか会わないものだね。ところで、こんなところでどうしたの?」
「えっと、いえ……」
「……」
探検していただけだけど、主人公から隠れている今となっては、どう答えていいものか迷う。
まごついていると、皇太子の視線がゆっくりと、私がしがみついているロイに移った。
私と同じように呆けていたらしいロイは、すぐにそれに気付いたのか、慌てて皇太子に礼をとる。
「ロイド・エルディ、皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「……ああ、成る程……。楽にして。話はアヴェルから聞いてるよ。君は……新入生代表だったか。優秀なんだね。アヴェルも鼻が高いだろうな」
「もったいないお言葉です」
「リーリアも……新しく兄が出来て、嬉しいんじゃない?」
「……えっと、あの、そうですね」
私としてはエミリたちが気になって、今現在、皇太子とロイどころじゃない。
早く、気付いてー!と思ってチラチラ茂みの方を見るけど、効果はなさそうだった。なんで?!
「……とても、仲が良さそうで……なによりだよ」
「……」
「……」
「……」
(ちょっと、なに?主人公、まだ責められてるけど?気付かないの?)
何故か見つめ合っている皇太子とロイは、そのまま動かなくなってしまった。内心慌てているのは、私だけみたいだ。
「……あの、」
「リーリアさん!!」
げ。
皇太子は気付かないのに、よりによって、主人公に気付かれてしまった。




