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「……」
「……」
「なぁ、さっきから同じとこぐるぐる回ってるのは、あえて、だよな?」
「……ちょっと静かにして」
学園に入学して数日が経った。
広大なだけあって、毎日のように探検と称してうろうろしていても、未だに全て回れていない。
まぁ、気ままに歩いているだけだし、そんなもんだろうな、と思ったけど、回れていない場所に、図書室があった。
ファンタジー世界の図書室なんて、私的に行ってみたいナンバーワンだ。
なので、いつもより時間がある今日こそ、図書室へ行きたいとロイに宣言して歩き始め、かれこれ数十分。
私たちは、未だに到着出来ていなかった。
「……」
「あんたまさか、方向音痴なのか?」
「……」
ううっ。なにも言えない。
どうして真っ直ぐ歩いているはずなのに同じ場所をぐるぐる回る羽目になっているのか、全く分からなかったからだ。
「……見てロイ、あんなところに温室があるわ!」
「初日に行ったところだけどな」
「……」
「……あー……アヴェルさまに、俺たちの教室からの行き方聞いといてやるから。図書室は明日行こう」
「……うん」
楽しみにしていただけに、ちょっと落ち込む。最初からロイに道を聞いておいてもらえばよかった。
「まだ門限まで時間あるから、その辺歩けるだろ。そんな落ち込むなよ」
「……うん」
頭を撫でられる。それは、多分孤児院でも子どもたちにそうしていたんだろうな、と思うくらいに気安い。
でも。
「……ちょっと。子ども扱いしてない?」
私は眉をひそめた。だって確か孤児院ではロイより歳上の子はいなかったはず。
流石にそのくらいの年代の子たちと一緒にされるのは微妙だった。
「いや、そんなつもりはなかったけど。なんかあんたがそんな落ち込んでんの、初めて見たから」
「……だって、図書室楽しみだったから」
「明日行けるって」
「絶対よ!お兄さまにちゃんと聞いててよね!」
「はいはい。しっかし、アヴェルさまも、あんたが方向音痴だって、先に教えててくれればよかったのに」
「あのね!方向音痴じゃなくて、道が分からなくなっちゃっただけでしょ!」
「それを方向音痴って言うんじゃないのかよ……?あー、まぁいいや。これからは俺がちゃんと道、覚えておいてやるから」
「……ふふ。兄で友だちで道案内役なの?ロイ最強じゃない」
ロイには悪いけど、これでもう迷わなくて済むようになるかもしれない。ほら、どこでもロイに案内してもらえばいいわけだし。
(……そうだ!それに、ロイと一緒にいるなら、もしかしたら、恋愛のごたごたに巻き込まれないようになるかも)
我ながらよく思い付いたと思う。
最悪、恋愛のごたごたには、ロイに巻き込まれてもらおう。
「ロイ、いざとなったら、色々よろしくね!」
我ながら悪いことを考えてにやりとした。ロイは困ったような、呆れたような顔で笑う。
「色々ってのがなんか怖い気もするけど……まぁ、なんでも言えよ」
ロイ!本当にいいやつだよ!
「うん、」
「まぁ!なんですの、その態度!」
私の返事をかき消す勢いで聞こえてきたのは、甲高い、攻撃的な声。
私は咄嗟に、声の主を探す。
(え……)
甲高い声の主は、すぐ傍の茂みの奥にいた。女の子が全員で六人。
一人を、五人が囲んでいる。
(う、うわ)
私は慌てて木の影に隠れた。その上、ロイを盾にするように、背中に張り付く。
「おい?」
「しっ、」
「聞いてますの?!」
私は囲まれている一人に心当たりがあった。
「……っ、す、すみません……っ、」
エミリ・アーデム。私にとっては厄介な、このゲームの主人公だ。




