4
いつの時代も、どんな世界でも、偉い人の話は気難しい。
まぁ生徒のほとんどが貴族の令息令嬢なわけだし、高位貴族の跡取りやなにより皇太子もいる訳だから、そりゃ式典は特に格式張ったものになるのは分かるけど。
やっと終わった学園長のお言葉に、私はほっと息をついた。これ以上小難しい挨拶を聞いてたら確実に寝てしまう。
(ゲームのことも、あんまり考えたくないなぁ……)
内容がほとんど思い出せないので、考えても仕方ないけど、はっきりしているのは乙女ゲームなので、恋愛が大いに絡んでくるということ。
そんなのに巻き込まれたら、私の平穏な学園生活がぱぁだ。
(私は友だちが欲しいだけなんだから!)
セルシア様も来年入学だし、皇太子や主人公は論外。このまま新しい友だちが出来なければ丸一年は一人っきりの学園生活。そんなの寂しすぎる。
(やっと学園に入学出来たんだから、せっかくなら友だちと、色々楽しみたいわよね)
『生徒会長挨拶』
(あっ!)
「えー、皆さんご入学おめでとうございます。生徒会長を勤めております、アヴェル・エルディと申します」
(お兄さまだ!)
うわぁ……と実感する。本当に生徒会長だったのね。
兄は挨拶を続ける。真剣な顔はなかなか見せてくれないので、新鮮だった。
「……かっこいい……」
「ねー……」
(なんですって?!)
小さな声は同じ新入生ゾーンから聞こえて来たようだ。目立たないように声のした方を見ると、初々しい女の子たちが頬を赤く染めていた。
(うーわー……そうよね、お兄さまかっこいいわよねー……)
意地悪だけど、それはきっと妹である自分だけにだろう。多分、他の女の子には優しいはず!
しかも、我が兄ながら、顔は整ってるし、背も高いし、恋愛対象としなかなかの優良物件だと思うのだ。
そういえば兄の浮いた話は全く聞いたことがない。というか、学園生活自体の話を聞いたことがなかった。生徒会長なのも今日初めて聞いた訳だし。
(今度色々聞いてみよう)
自分が関わらない恋愛話は面白い。兄がどんな人を好きになるのか、ものすごく気になった。
(でも、恥ずかしいかな?)
いざとなったら、私のほうが照れちゃうかも。
『新入生代表挨拶。新入生代表、ロイド・エルディ』
(…………?!)
思考の海に浸っている間に、いつの間にか、兄の挨拶は終わっていた。代わりに、新入生代表という男子生徒が壇上に立っている。私はその男子生徒を、よく知っていた。
(ろ、ロイ……?)
そう、そこに立っていたのは、エルディ家の領地にある孤児院にいるはずの、ロイだった。
見慣れた継ぎ接ぎだらけの服ではなく、真新しい制服に身を包んだ知っているはずなのに見慣れない男子生徒・ロイドは、粛々と新入生代表挨拶をこなしている。
(まさか、そっくりさん……ん?でも、エルディって……)
そのとき、兄とばっちり目が合った。
──ほら、言いたいことがあっだろう?
猛烈に、兄の足を踏みたくなった瞬間だった。
流石に新入生の分際で生徒会室に乗り込み「どういうことですの?!」と押し入って、兄の足を踏みつける訳にもいかないので、私は深呼吸をして、生徒会室の戸をノックした。
次いで「どうぞ」と許可する兄の声は、ちょっと楽しげだ。私のこれらの行動はもれなくお見通しなんだろう。
「……失礼します、」
中には座っている兄と、その後ろに立つロイしか居なかった。私は戸をゆっくり閉めて、兄に詰め寄る。
「お、に、い、さ、ま!どういうことか、説明していただけますか!」
「まぁまぁ、まずは落ち着いて座ったらどうだ、我が可愛い妹よ」
「……」
踏んだ足は避けられた。行動を先読みされたらしい。ちっ。
「ロイ、妹に落ち着くハーブティーでも入れてくれないか」
「はい」
「リーア、ほら、座りなさい」
渋々座る私の前に、慣れた香りのお茶が置かれた。ハーブティーってあんまり好きじゃないんだけど、これだけは好んで飲んでる、サーシャしか知らない私のお気に入り。
「どうぞ」
「……ありがとう」
どこからどう見てもロイなのに──しかも兄もロイって呼んでた──所作がまるで違う。
一流の執事のような、貴族の令息のような。
「ロイはエルディ家の養子に入ったから、これからはロイもお前のお兄さまだ。仲良くしろよ」
「…………はぁ?!」
突然、落ち着く間もなく、兄は呑気な声で爆弾を落とした。




