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少し歩くと、講堂はすぐに姿を現した。
「…………」
私が解せぬ……という顔をしたのに真っ先に気付いた兄は、肩を震わせる。
笑わば笑え。方向音痴は前世からなのだ。もう治らない。
でも、とりあえず足は踏んでやった。
「う"」
(ふん……!)
幸い講堂はまだざわざわしていた。どうやら間に合ったらしい。
ほっとしていると、急に隣にいた兄が後ろに引っ張られた。
「えっ?」
「会長……!やっと見つけましたよ!」
情けない声を上げて兄の服を引っ張ったのは、眼鏡をかけた藍色の髪、水色の瞳の男子生徒だ。
髪はボサボサで、息が上がっている。
(誰……?!)
「マルク」
「もうすぐ式が始まるのに何をしていたんですか!」
「可愛い妹が新入生なんだ。許せ」
「はぁ?!理由になっていません!」
ああ、兄を探していたんだな。
ものすごく怒ってるみたいだけど、兄との身長差と、幼い顔と大きな瞳のせいで小型犬がきゃんきゃん言ってるようにしか見えない。なんか可愛い。
……じゃなくて!
「まさかお兄さま、会長だったんですか?!」
「言ってなかったか?」
「聞いてませんわ!生徒会に入ったというのは聞いていましたけど……」
「まぁ、会長といってもほとんど雑用係みたいなものだ」
「なわけないでしょ?!」
兄、言ったそばから否定されてますが。
「妹君。私はマルク・リディガーといいます。不躾で申し訳ありませんが、時間がありませんので、兄君を今すぐ連れていってよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
あまりの形相に、素直に頷くしかなかった。怖くはないけど、なんだかかわいそう。これは、後でちゃんと謝罪したほうがいいかもしれない。
兄が私を探しにきたのは私が迷子になったからだし、そのあと道案内させてるし。
「そうだ。リーア」
「はい?」
「式のあと、言いたいことがあるだろうから、生徒会室にくるといい」
「?」
いや、言いたいこととかありませんけど?兄は私の疑問をそのままに、マルクさんに連れて行かれてしまった。え?なに?どういうこと?
会長になったお祝いを、やっぱり言ってほしいのだろうか。でも、別に次に会ったときでもいいと思うんだけど。
「リーリア、新入生はあっちだよ」
再び頭を抱えた私の肩を優しく叩いて皇太子が促してくれた。おっと。そろそろ新入生が軒並み座りつつある。
「あ、はい!」
あれ?主人公がいつの間にか消えていた。ここに来るまでの間、主人公の相手は皇太子がしていたはずなのに。
私が何を考えているのか察したらしい皇太子は、新入生の方を見た。視線の先に主人公が座っている。
「アーデム嬢ならあそこに」
「そうでしたか……あ、殿下ももう行かなければいけませんよね、申し訳ありません、ここまで一緒にきていただいたのに、」
今の今まで主人公と皇太子のことをすっかり忘れて、兄に構っていたから、そういう申し訳なさから頭を下げたけど、皇太子はなんでもないことのように言った。
「全然大丈夫。アヴェルとリーリアが仲が良いのはよく知っているから。見ていて楽しいよ」
皇太子だって在校生として式に参加するだろうから、行かないといけないだろうに、もしかすると、皇太子は私と兄の会話を待って声をかけないでいてくれたのかもしれない。やっぱり気が利く。流石攻略対象。
(……)
「どうかした?」
「いえ……!」
本当に、なんで思い出したんだろう。折角友だち……もはや第二の兄、くらいには仲良くなれたと思ってたのに。
「……ありがとうございます、殿下」
「……?うん」
これから、話をするたび、攻略対象だなんだと思い出すかもしれないと思ったら、うんざりする。
(かといって、今さら関わらないようにすることも……したくないしなぁ)
「じゃあ私、行きますね」
「うん。リーリア」
「はい?」
「……入学おめでとう」
(……うん、やっぱりしたくない)
「はい!ありがとうございます!」




