13歳、入学式が平穏じゃありません!
首都に戻ってきて、初っぱなから人身売買とかいう非日常に巻き込まれはしたものの、それからは、当然のように穏やかな日々だった。そりゃそうだ。巻き込まれるほうがおかしいんだから。
兄は恐れおののいてたけど。逆に大きなことが起こるんじゃないか、って。でも、言わせてもらえば、領地でも頻繁に非日常的ななにかがあったわけじゃない。現に、最初の孤児院事件以降は、特になにもなかったし。
まぁ……令嬢としては色々とアウトよりだったことも、あったかもしれないけど。そこは、年齢的にセーフにしてほしい。前世足して齢約四十で何言ってんだ、ってのもなしで。
さて、私が通う──というか、兄も皇太子も通っている──学園は全寮制だ。伯爵家以上の令息令嬢には個室、それ以外には二人~三人部屋が与えられ、門限やら厳しく決まっている。
長期休暇の時以外は、外出も制限されるくらいの徹底ぶり。
だから、今日までにセルシアさまともしばしの別れを惜しんだ。お互い分かっていたこととはいえ、さびしく感じるのは仕方ない。
「せっかくお姉さまが戻ってきたのにまた会えなくなるのはさびしいけど、来年には私も学園に通えるようになるから、それまで我慢するわ。もちろん、お手紙はこれまで通りにやり取りしましょうね!」
「もちろんです!」
本当に、今からすでに待ち遠しいと、しみじみ思った。
そうして私は、学園の門をくぐった。
……んだけど。
一体なんなの?!
時は数十分前に遡る。
兄と馬車に乗って一緒に学園まで来ていたけど、生徒会の仕事があるというので、その場で別れ、私は講堂を目指していた。
講堂で入学式なんて、その辺は前世もファンタジー世界も変わらないなぁ、と呑気に思ってたけど、全然違うところもあった。
(ま、まさか…………まよっ、た?)
敷地がとんでもなく広大なのである。兄が真っ直ぐ行ったら講堂だと言っていたから真っ直ぐ歩いているのに、どうしても辿り着けない。と、そのくらい。
辺り一面の緑!もはやこれは森では?!
(なんで?!ちゃんと真っ直ぐ歩いてたのに!)
さては兄め、説明が面倒でちょっと省いたな。
兄にはたまにこういうところがある。今までそんなに被害を被ったことはなかったけど、ここにきて最大の被害だ。
だって、初日の入学式サボる学生ってまずくない?最初から劣等生認定は嫌すぎる。
そのときだった。
「あの、あのとき助けていただいて、本当にありがとうございました」
茂みの向こうから人の声が聞こえた。
(やった!人だ!)
これで道を聞いたら講堂まで行くことが出来るんじゃない?私はこれ幸いと声の方へ足を向けた。
(あれ……?)
「本当に、こわくて……もう、一生両親に会えないかと思って、私……!」
「全員無事だったと報告を受けたよ。大事なくてよかった」
(殿下だ)
話をしていたのは、殿下と、金髪で蒼い瞳をした女の子だった。二人、向き合って話をしている。
(あ、れ……?)
「命の恩人である殿下へ、名乗ることをお許しいただけませんか?」
「……うん」
「ありがとうございます!」
きゃらきゃらと可愛らしい声で女の子が笑う。私の目は女の子に釘付けだった。だって、
(なんで、なんか、見覚えのある、ような、シチュエーション……?)
「アーデム家息女、エミリ・アーデムと申します。これからもよろしくお願いします!」
──…………、……。
「へ、」
私はがさ、と思い切り音を立てて、茂みから出てしまった。目を丸くした皇太子と目が合う。
「リーリア?」
──うん、よろしく。君の学園生活が素晴らしいものであるように、願っているよ。
(な、なに……?)
脳がくらりと揺れた心地がした。耳の奥で幻聴が聞こえてる。ちゃんと皇太子の声で。
でも待って、目の前の皇太子は、目を丸くして、私を見ている、のに……?
──ふふっ。これからいいことがたくさんありそう。
──エミリはこれからの学園生活に、胸を高鳴らせた。
(こ、これ……!)
ぐらり、と視界が歪んだ。
「リーリア!」
皇太子が血相を変えて、地面に倒れ込む寸前の私に駆け寄ってくれる。肩を優しく抱き起こされて、顔を覗き込まれた。
「大丈夫……?」
「……」
ああ。ジルディオ・リデル・レーヴァルトだ。
かっこよくて優しい、一番人気の──攻略対象。




