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「……」

「……」


ち、沈黙がつらい。

今世、こんなに黙っていたことがあったかしら。しかも、この兄との間で!



兄は、サーシャから知らせを受けたらしい。

いくら探しても私が見つからないこと、大事に抱えていたはずのチョコレート菓子の箱が地面に落ちていたことから、私が浚われたんだとすぐに判断したサーシャは、急いで屋敷へ戻った。だけど父はいない。

と、いうわけで、大急ぎで、兄に知らせがいったというわけだ。

そして兄は、学園で雑務中だったというのに──生徒会に入ったとのこと。こんなときじゃなきゃお祝いしたのに──その知らせを受け、仕事を放り出し慌てて私を探しに来てくれたらしい。

その辺は申し訳なくて一応謝ったけど、兄は特に返事を返してくれなかった。ううっ。

兄が迎えに来てくれたので、皇太子はやっとやってきた騎士たちと共に、伸びた男たちを連れて去っていった。

これから色々と事後処理が大変なんだろうなぁと、私は呑気に思った。全くそんな素振りを見せない皇太子は、ただ微笑んでいたけど。


『リーリアがこんな目に遭ったのは、この辺りの治安を維持出来なかった僕の責任だ。だから、君が安心して首都で過ごせるように、出来る限り綺麗さっぱり処理しておくよ。また学園で会おうね、リーリア』


なんかうっすら恐ろしかったのは気のせいだったんだろうか。深く考えないことにした。

今はそれより、この空気をどうにかすることが先決だろう。ちょっと現実逃避してたけど。

兄が乗ってきていた馬車に、二人で乗り込んでからかれこれ数十分。

ずっとだんまりを決め込んでいる兄は、未だ今まで見たことないくらいの無表情で、何を考えているのか、言いたいのかが全く分からないままだ。


「……お兄さま、怒ってるんですか?」

「……」

「……言っておきますけど、今回私はただ巻き込まれただけなんです。好きであんなところにいたわけじゃないんですからね」

「……今までもそうだっただろう」

「え?」

「今までも、お前はただ巻き込まれていただけじゃないか」

「……」


言われてみれば、最初の皇女さま暗殺未遂事件のときも追われたから逃げただけだし、孤児院のときもあっちから攻撃を仕掛けてきたので返り討ちにしてやって、返り討ちうちにする方法を教えただけだし。


「まぁ……確かに?」

「……なんでまぁ、お前はいつも、よりによって危険なことに巻き込まれてしまうのか」


そんなこと言われても。


「あのですねえ、お兄さま。巻き込まれてしまうものは仕方ないでしょう。私のせいじゃないですし。そのためにとっておきを引っ提げてきたんですから」

「……そのとっておきとやらに問題はなかったか?」

「……」


う。痛いところをつかれた。実際、危ないところを皇太子に助けてもらっているわけだし。


「……改良の余地ありってやつですわ」

「……」


兄は大きくため息をついた。多分、色々バレバレだろう。あの状況はどこからどう見ても、ピンチを皇太子に救ってもらったようにしか見えなかっただろうから。それでなくても目がばっちり泳いでしまったし。


「……リーア、もうすぐ学園に入学だな」

「はい」


そこで、兄はまた大きなため息をついた。


「……学園は身分も価値観も全く違う人間で溢れているから、なんというか、今から、お前があらゆることに巻き込まれそうな、嫌な予感しかしないんだが」

「……えっ」


待って。この流れはまずくない?また領地へ逆戻りな、嫌な予感がするんですけど!


「お、お兄さま!」

「だからといって、伯爵家の令嬢であるお前を通わせないわけにもいかないからなぁ」

「そうですわ!エルディ家の令嬢たるもの、正しい学と、マナーや諸々を学ばなければならないですものね!」

「……まぁ、その通りなんだが……うーん……やっぱりあれを進めるしかなさそうだ」

「えっ?」

「領地へ戻れと言うつもりはないから、安心しろということだ」


兄は先程までの無表情が嘘だったかのように、うっそりと笑った。え。なんで。逆にこわいんですけども。


「……お兄さま?いま、なにか、違うことをおっしゃっていましたわよね?」

「……まぁ今は、なんでもないと言っておこう」

「なんですか、それ」

「それよりお前は、ハンカチでも用意していたほうがいいぞ」

「は?」


馬車がゆっくり止まる。兄は、私の色々な疑問に答えないまま、さっさと馬車を降りてしまった。


「お、お兄さま!まだお話は、」

「お嬢さま!」

「う"、」


私が馬車を降りようとした途端、なにかがぶつかってきて馬車に押し戻される。それがなにかを理解する前に、頬を掴まれた。


「ふえ?」


目線を無理矢理合わされて、ようやくなにかの正体を知る。そして、兄の言葉の意味を理解した。


「お、おじょお、ざま"」


サーシャが号泣してた。

ぼろぼろと溢れる涙が、私の頬にも伝っていくくらい、そりゃもう豪快に。


「さ、サーシャ……」

「お、おけがは、ござい"まぜんか、」

「サーシャ、あの、大丈夫、けがは全くないのよ」

「私がついていながら、まさか、お嬢さまが、こんな目に、遭われるなんて……!」

「あの、本当に大丈夫だってば。だから、泣かないで」


兄はこの状況のサーシャを知っていたのだ。そりゃハンカチを用意しておけと言いたくもなるだろう。ものすごい泣きっぷりだ。


「おじょざま~っ」


それから小一時間、私はサーシャをなだめ続ける羽目になった。いやまぁ、そりゃ心配をかけた自覚がありますけども!

ちなみに兄は、最後まで一切助けてくれることはなく。

結局、兄の台詞はうやむやにされてしまったままになったのだった。






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