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「で?どうするつもりだ?」

「うーん……」


私は自分の部屋のソファの上で行儀悪く寝そべったまま唸った。部屋にいるのは兄だけなので、正す必要もない。


「なんだ。自信満々に「謝ってもらいましょう!」なんて言うから、なにか案があるかと思ったら」

「……最終手段だけ持ってるんですけど……でも、やっぱりよく考えたら最終手段だから、まずはそれを使わない手段を考えなきゃな、って思って……」


私はまた唸った。

孤児院の責任者からの話によると、ロイたちを苛めている令嬢は、マリー・ワーゲン。ワーゲン子爵の一人娘だった。

ワーゲン子爵といえば、このところ力をつけてきた商会を持っていて、エルディ家にも何度か売り込みにきていたことがある。商品層がこの家の誰にも合わなくて、一度も使ったことがないけど。


「お兄さま。ワーゲン子爵の弱味とか知りません?」

「無茶を言うな」

「う"ーん、」


このまま令嬢になにを言ったところで、所詮11歳である私の言うことなんて響かないだろう。だからこそ、一緒に孤児院へやってくる父親を狙ったほうが確実だと思ったのだが。


(ああいう人たちは脅すくらいしないと、自分の行いなんて改めないと思うのよねぇ)


頭を抱える私を、兄は苦く笑って見ているだけだ。確かに大見得きっといてあれだけど、手段はなくはないんだってば!

そのとき控え目なノックが聞こえた。一応、寝そべっていたソファから起き上がる。


「はい」

「お嬢様、サーシャです。入ってよろしいでしょうか」

「サーシャ?もちろん、どうぞ」


私がまだ寝る時間じゃないのを知っているのに、どうしたんだろう?と思ったけど、サーシャが持っている物を見てすぐに分かった。


「サーシャ!もしかして!」

「はい。皇女殿下より、お手紙ですよ」

「……!見せて!」


セルシア様とは、私が領地に来てから頻繁に手紙でやり取りしていた。内容は毎日のなんでもないことだったけど、離れていてもこうして手紙のやり取りが出来るなんて、真の友情だわ……!と私は勝手に思っている。

いそいそと手紙を開けると、何枚かの便箋と、小さな封筒が出てきた。

ああ、また。

封筒の裏に書かれていた送り主の名前はジルディオ・リデル・レーヴァルト。皇太子だ。

何回目かのセルシア様との手紙のやり取りのあと、急に皇太子の手紙が入っていた時はものすごく驚いたものだった。セルシア様曰く、


『ひょんなことでお兄さまにお姉さまとの文通が知られてしまって。お姉さまが今領地でどう過ごしているか気になるというから、自分で聞いてみては?と言ったの。だから、私のと一緒にお兄さまの手紙も同封しておきます。一度だけでもいいから、返事を書いてあげてね』


恐れ多すぎて二回ぐらいスルーしてしまったんだけど、セルシア様の手紙に皇太子の手紙も同封されてくるから、今ではセルシア様と同じように返事を書いている。

内容はやっぱり近況とかなんでもないものだったけど。皇太子だって似たようなものだった。


「……」


私は封筒の裏の皇太子の名前を指でなぞる。私やセルシア様の書く文字は年相応だと思うんだけど、皇太子の文字はいつ見ても素晴らしいくらい綺麗だった。

驚いてセルシア様への手紙に『代筆だったりしませんよね?』と書いてしまったくらい。もちろん、本人が書いたものだと返事がきたけど。

こんな綺麗な文字を書く人へ手紙を書くのはやっぱり恐れ多かったんだけど、今ではもう慣れた。

それに、皇太子の手紙を読んでいると、私も字がうまくなりそうだし。


「……ありがとう、サーシャ。後でゆっくり読むわね」

「はい。でも、夜更かしはいけませんよ?」

「ふふっ、はぁい」


私はベッドのスツールに手紙を置いた。今からゆっくり読みたいところではあるけど、まず、考えないといけないことがある。


「あの、お嬢様……ちょっと聞こえてしまったんですが、ワーゲン子爵のお話をしていたんですか?」

「そう。ちょっと、色々あって、ワーゲン子爵の弱味がなにかないかなーと思ってるのよ」

「ワーゲン子爵の、弱味、ですか?」


私はサーシャへ孤児院でのことを話した。流石に石を投げられたことは話せなくて、その辺はぼやっとごまかしたけど。

サーシャは顎に指を当てて、しばらく考えていたかと思えば、口を開いた。


「……弱味かは分かりませんが、一つ、情報があります」

「えっ、ほんとに?」


思わぬ話だ。


「私が元々いた孤児院にも、ワーゲン子爵は寄付に来ていまして……。その、苛めをはたらくというその娘は見かけませんけど」

「うんうん、それで?」

「その時漏らしていたのですが、彼は、とんでもない恐妻家みたいです」

「恐妻家?」

「あぁ、それなら俺も聞いたことがあるな。小貴族とはいえ、貴族の主であれほど妻に頭が上がらない男も珍しいとか」

「……」


というか、情報あるんじゃない!それは立派に弱味といえるでしょ!もう!兄はすぐこれなんだから。

でも、なるほどね!頭が上がらないほどの恐妻家なら、やり方は色々あるわ!

私は兄を無視して、サーシャの両手を握った。


「サーシャ!ありがとう!とてもいい情報だわ!」

「いえ。お役に立てたならよかったです」


目下の悩みは解消された。あとはその弱味をベースに、令嬢にきっぱり謝ってもらって、二度と同じ真似が出来ないようにしてやらなければ。

これで失敗するなら最終手段もあるしね。俄然、自信がわいてきた。


「……ものすごく聞きたくないが、どうせ俺も使うつもりだろう?何をする気なのか教えておいてもらおうか」

「ふふっ。お兄さま、流石、私のことを分かってらっしゃる」


本当に使われるどうかは半々で言っていたのか、使われる予定だとはっきり言われて、兄は苦く笑う。


「まぁ、勝手にされて危ない目に遭うよりはいいけどな」

「あら、お兄さま。私結構たくましくなったんですよ?そんな心配しなくても……」

「むしろ、だから心配なんだ」


心当たりはなくはないけど。でも、石投げられたのは不可抗力でしょ。実際打ち返してるし。だから、今回だって全然大丈夫よ。


「さて、有言実行!これで、悪いことをするお嬢ちゃんに、しっかりきっぱり謝ってもらえるはず!」


兄は、これから何が起こるか分からず嫌そうな顔だったけど、私は今度こそ自信満々で、大満足で笑ったのだった。





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