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3





男の子が全然口を開かないので、私たちはしばらく睨み合いを続けていた。


「……」

「……」


うーん。このまま睨み合っていてもしょうがないんだけど。

そんな私たちの間に割り込むように、三人の子どもが現れる。女の子と、男の子、小さい男の子だ。

そのうち女の子が木から落ちた男の子へ「ロイ!」と呼び掛けながら駆け寄ってくる。ロイ?石を投げてきた男の子のことかな。


「ルル!カイン!レオ!こっちに来るな!」


そのロイは、駆け寄ってきた三人の子どもたちを庇うように私との間へ立ちはだかった。

お?私は怪獣か何かか?


「……私は……ロイと言ったかしら、貴方が、なんで石を投げてきたのか、それを聞きたいだけなんだけど?」

「……お前たちは悪魔だ」

「……」


お兄さま、背後で笑ってるのがバレバレなんですけど。失礼な。

私は兄の脇腹を四人の子どもに見えないよう突いた。兄は「う"……っ」と呻いてうずくまったけど、私は話を続ける。


「どういう意味?」

「お前たちみたいに、寄付金をもってくる偉い男の娘は、いつだって俺たちに酷いことをする。俺たちが汚いみなしごだからだ」

「……」

「俺は、この中で一番腕がたつから、こいつらを守るんだ」


なるほど。それで今まさに私からみんなを庇ってるわけね。でもよく思い出して。三人とも、あんたのために駆け寄ってきたのよ。


「……あのねぇ、」

「お、おじょうさま!もうしわけありません!」

「ルル!」

「ちいさいこたちは、すぐにてをだされます!ロイは、また、わたしたちがそんなめにあうんじゃないかと……それで、あんなことを!」


ルルと呼ばれた女の子がロイより前に出て私に土下座をする。カインとレオと呼ばれた子たちも、それに倣った。

うわー。私端から見たらものすごく悪人じゃない?


「……顔を上げて。私は話をしたいのよ。そんな格好のままじゃ、ろくに話ができないでしょ」

「こんなやつに謝るな!」


そこでロイが、また前に出てきて私を睨む。腹立たしいので、私もやっぱり睨み返す。いや、これ何時まで続くわけ?


「……この子たちは貴方のために謝ってるんじゃないの?」

「うるさい!お前らはどうせ、俺たちのことなんか、人間だと思ってないんだろ!」


ぶちっ。何かの切れる音が聞こえた気がする。それは間違いなく、堪忍袋の緒ってやつだ。


「いい加減にしなさい!」


三人の子どもはびくりと固まった。本当はわーわー喚くロイの頭でもはたいてやりたかったけど、そんなことしたらまたごちゃごちゃすると思うので踏みとどまった。

そのロイはといえば、思わぬ反撃だったのだろう。ぐ、と口をつぐんでいる。私は固い声で言った。


「ロイ、貴方はそこに座って」

「は?」

「いいから、座りなさい」

「……」


あまりの剣幕にか、ロイは顔をひきつらせながら、それでも黙ったままその場に座る。

次いで私は、他の三人に向き直った。


「ルル、カイン、レオと言ったわね?さぁ、貴方たちはさっさと立って」


三人は大人しく素直に立ち上がった。私は三人の土下座によって汚れた服やらを軽くはらっていく。三人は、どうしていいか分からないのか、されるがままだ。


「いい?貴方たち三人はこんなことをしなくていいの。悪いのは、ロイなんだから。謝るならロイが謝らなきゃ」

「……」

「さて、ロイ。とりあえず、貴方がなんで石を投げてきたのかは分かったわ。ようするに、また仲間たちがいじめられるんじゃないかと思って、やられる前にやろうってことだった。でしょ?」

「……」

「でも、私がなにをしたの?」

「は?」

「名も知らないどこかの令嬢が貴方たちにしたことは分かったわ。でも、私がなにをしたというの?」


ロイは思わぬことを言われたかのように目を見開く。


「私たちは両親の代わりにここに来て、私は兄を待っている間に貴方たちと話をしようとしただけ。別にいじめようなんてこれっぽっちも思ってなかったわ。なのに、どうしてこんなことをされないといけないの?」

「……」

「なにも言えないなら、貴方もその令嬢と一緒ね」

「なっ!」

「どこかの令嬢が貴方たちを「孤児院の子だから」といじめたように、貴方は私がどんな人物なのか知らずに「貴族の令嬢だから」というだけで石を投げてきたのよ。だから、その令嬢と一緒だと言ったの」

「……」

「確かに、私はこうして貴方に文句が言えるわ。貴方たちは、令嬢に文句が言えないままで悔しかったでしょう。でも、反撃出来ないようなか弱い令嬢を代わりにしようなんて間違ってるんじゃない?」

「……反撃出来ないようなか弱い令嬢?」


兄がボソッと言ったけど無視だ。いや、確かに私は反撃してますけど!なんなら、打ち返した石がロイの頬ぎりぎりを通過しましたけど!パッと見はそう見えるって話でしょ!

再び兄の脇腹を突く。物理的に黙らせておかないと、話の邪魔だ。

兄への一連を今度は目撃していたようで、四人は警戒するように、あるいは怯えたように私を見る。失礼な!私は兄にしかこういうことをしないんだけど。

とりあえず、誤魔化すように咳払いをした。


「いい?私の両親はそうでもないけど、中には傷一つつけただけで相手に酷い罰を与える親だっているのよ。うちの両親だって、私がけがをしていたら罰は与えないにしろ、もしかしたらこの孤児院の寄付を打ち切ったりだとか、金に物を言わせるかもしれない。そんなことになったら困るのは貴方だけじゃない。周りの子たちだって、どうなるかわからないでしょ?それを貴方は考えたの?」

「ぐっ、」

「そりゃ、貴方はばつを受ける覚悟でこんなことをしたのかもしれない。でも、他の子は?貴方の勝手な行動で周りがどんな目にあうかを、貴方はちゃんと、考えないといけなかったんじゃないの」

「……っ、じゃあ、どうすればよかったんだよ!俺たちみたいなのは、文句も言えず、抵抗も出来ず、黙っていいようにされてろってのか!」

「頭を使いなさいって言ってるのよ」


私はロイの額に指をつきつけた。


「う、」

「いい?分かってると思うけど、捨て身覚悟で暴力に訴えたってなにも解決しないわ。むしろ、貴方たちにとっては、最悪の結果が待ってる。じゃあ、どうする?」


三人の子どもは呆気に取られたように、べらべら喋る私を見ている。ロイも、ずっと睨んでいたのを忘れたように、目を丸くしていた。


「そうね。私なら、ここへ来る人たちで、誰が使えそうか観察するわ。えらければえらいほどいいわね。自分にとって有利になるような人を探すの。今回でいうなら例えば、私」

「……?」

「私はこの領地を治めるエルディ家の令嬢よ。こんなに使える人はいないでしょう。そうやって、使えそうな人を見つけて、味方になってもらえばいいのよ。そうしたら、出来ることはたくさんあるわ。例えばいじめてきたその令嬢を、暴力に訴えないで、懲らしめたりとか?」


ロイは驚いたように目を開く。言葉が出ないようで口をぱくぱくしているだけだったので、私はとびきり悪い笑みを向けた。


「さぁ、じゃあ貴方はまず、どうすればいい?」

「……」


ロイはしばらく私を見ていたけど、一瞬項垂れて、顔を上げた。それから姿勢を正し、地面に両手をついて、ついでに頭もつく。なんか、武士みたいな土下座だな、と思った。


「本当に、無礼なことをしました。大変、申し訳ありませんでした!罰はもちろん受ける。だから、どうか、俺たちの味方になってください!」

「よし!いい子ね!」


やっぱり謝罪は大事よね。それに、自分から助けを求めるのも大事。うやむやにすると、後々面倒だもん。


「……リーア、多分そいつはお前より年上だと思うが」


兄がまたぼそりと言ったけど、無視だ。言っとくけど、前世を足したら父より年上なんだからね、私!


「さぁ、ロイも謝ったんだし、身分をかさにして好き勝手するお嬢ちゃんにも、しっかり謝ってもらいましょう!」


オーッホッホッホ!って笑うべき?

多分、さっきのどの場面より今が一番、悪人に見えるだろうなぁ、と思いつつ、ちょっと楽しくなって来てしまった私だった。






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