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「孤児院訪問?」

「そうだ」

貴族の果たすべき義務に、慈善活動がある。今では少ないながら偽善活動のように言われることもあるので、義務を果たさない貴族も多いらしいけど。

エルディ家は、祖父の代から多くの孤児院を経営していたので、父はそのままそれを引き継いだらしい。

それで、年に数回は視察を兼ねて寄付金を納めるために孤児院を回るのだそうだ。父は、そのうちのいくつかを、兄と私に任せたいのだと言った。

結構量があって、回るだけでも重労働らしいから、手分けして回るのは得策だろう。特に今年は蒸し暑い気候のせいで母の体調がよくない日もあるから。私は喜んで引き受けた。


「慈善活動はお祖父様の代からの大事な仕事だ。しっかり頼むな」

「はい、お父さま」

「アヴェル、リーアをよろしくね」

「はい、もちろん」


私の信用はあんまりないらしく、母はちょっと心配そうだった。

私、もう11歳になったし、そこそこ大きくなったと思うんだけど。体力だって、そこらの令嬢より大分あるほうだと思うし。兄にはそりゃ、負けるけど。それに、流石に慈善活動してて危険な目には遭わないでしょう。うん。





なんて思ってたのは、大きな間違いだったらしい。


「……」


私は、項垂れて座り込む私より大きな男の子を前に、腕を組んでふんぞり返っていた。

いや、偉ぶっているわけではない。ものすごく、怒っているのだ。



エルディで一番大きな街の、ある孤児院へ寄った時のことである。

そこそこ大きな孤児院で、兄が責任者と話をしている間、私は孤児院にいた子どもたちと少しでも話を出来ないかと、外へ出ていた。

あわよくば、友だちが出来たら嬉しいな、とも思ってたし。ここには小さい子どもから兄と同じくらいの歳の子たちが多く暮らしていて、楽しそうな遊び声がそこかしこで聞こえていた。

私はそれに誘われるようふらふらと近付いていく。そして、そのうちの一つの輪へ怖がらせないよう、笑顔で声をかけた。


「ねぇ、なにをして遊んでるの?」


そんな時だ。ひゅんっ、と耳の近くで音がして、何かで髪が揺れた。

は?と思ううちに、今度は頭の上で音がする。なにかが飛んできてる、と思ったときには、近くにあった枝をとり、反射で打ち返していた。

飛んできた先、二メートルほど離れた木の上へ。


「うわぁーっ!!」


大きな音を立てて、男の子が落ちてくる。どんぴしゃ。飛んできた方向へ打ち返せたらしい。気分はプロ野球選手だ。


「ホームラ~ン」

「……またお前はおかしなことを……」


気づけば背後に兄がいた。慌てて来てくれたのか、ちょっと息切れしてる。なんかごめん、兄。

このくらいは対処できるようになってしまった、たくましい妹でごめん。

でも、今は思わず出た私の言葉について議論している場合ではない。打ち返して分かったけど、飛んできていたのは石だった。当たりどころが悪ければ、最悪の事態だってありえるくらいには、大きな石だ。

す、と私の顔から表情が消える。こんなに憤りを感じたのは、今世では初めてだ。全然嬉しくもないけど。


「……石を投げたのは、貴方?」


木から落ちた男の子の頬には血が一筋伝っていた。打ち返した石が頬をかすったのかもしれない。でも、私に謝る筋合いはない。何故こんなことをするのか、問い詰める権利はあってもだ。


「さて、どうしてこんなことをしたのか、詳しく話をしてもらいましょうか?」


ようやく顔を上げた男の子からは、特に反省の色も感じなかった。ボサボサの黒髪をそのままに、紫色の瞳が、下から私を睨み上げている。

あ、これ情状酌量の余地もないな。

さて、どんな訳が出てくるのやら。私はそのまま、同じように、男の子を睨み付けた。






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