11歳、か弱い令嬢じゃないけどなにか?
領地へやって来てから三年が経った。
新しい場所で友だちもいないままだったけど、マナーを学んだり、勉強したり、母から刺繍やらを習ったりしているうちにあっという間に過ぎた気がする。
なにより、あるものの開発に多大な時間を費やしたのも大きいだろう。
母と二人(父は仕事があり、兄は父の補佐があったので首都から動けなかったためだ)領地へやって来て、私が取り組んだのは体力づくりと、なにかが起きたとき危機を脱することが出来るための、なにかの開発だった。
体力づくりはすぐに始められたものの、大変なのは開発だった。なんせ、なにをどう作ればいいのか全く思い付かなかったからだ。
(前世でのそういう知識があれば、活かせれられたりしたのかもだけど……)
便利な世の中で生きていたが、前世の自分はそれをただ使っていただけなのだ。なにかを産み出すための知識もなにもない。
だからこそまずは、そのなにかを考えることから始まった。
(うーん、危機を脱するためのなにか、危機を脱するためのなにか……)
そもそも、前世で私が生きていたのは平和な国だった。危機を脱するためのなにか、はそもそもいらない世界だったのだ。
(でも待って。いくら平和な国だっていっても、防犯の授業は毎年のようにあったわ)
防犯ブザーを鳴らしましょうとか、ちょっとした護身術とかを習った。でも、それは周りに助けがあるときの本当にちょっとした身の守り方だろう。
皇宮でのあの騒動のように、刺客が襲ってきたとして、逃げる以外に出来ることを考えなければ、あのときの二の舞は避けられないと思うのだ。
(お兄さまみたいになにか投げる?でも、もし周りになにもなかったらアウトよね。じゃあ、ちょっとした武器を身につけておくとか?いやいや、皇宮へ行くのに武装したら、下手したら私が捕まっちゃう)
非力な令嬢が、刺客を追っ払えるようななにかが、果たしてないものだろうか。
(女性の防犯グッズってなんだったかしら。ストーカー対策とかで持ち歩けてたもの……)
「あ!」
そうして、私の危機を脱するためのなにか、の開発が始まるのである。
なんて、ちょっと大袈裟に語ってはみたけど、要するに私は催涙スプレーに変わるものを開発することにした。それなら非力でも使えるし、使ったあと逃げる時間を稼ぐことが出来るというわけだ。
そんな中、私が目をつけたのは、植物である。持ち歩かなきゃいけないのに、武器に見えるものを開発してしまうのは本末転倒だ。だが、植物なら、髪飾りっぽくすればいつでも持ち歩けるというわけである。
このファンタジーの世界には、前世には存在しなかった植物が沢山あって、調べれば調べるほど様々な種類のものがあった。
私は、庭師のミゼフに協力してもらいながら、長い年月をかけてついに最適な植物を見つけたのだ。
「ミゼフじい!」
「おお、お嬢様」
「今日の様子はどう?」
「収穫まであと少しといったところですな」
「まぁ!流石ミゼフじいね!」
「なぁに、植物のことならこのミゼフにおまかせください」
ものすごく頼もしい。
この開発の致命的弱点は、私に植物を育てる能力が全くなかったことだろう。
最初はがっかりしたものだ。そこは前世と全く変わってなかったので。
落ち込んでいたところ、ミゼフじいが世話を快く引き受けてくれたことで、そこからはとんとん拍子に開発が進んでいる。本当にありがたいことだ。
「頼りにしてるわ!よろしくね!」
「もちろん。おまかせください」
これで、私の目標はほぼ達成出来たと言ってもいいと思う。体力づくりも続けてるしね。
こうして日々を過ごしていた私と、一足先に学校へ通い、丁度長期休暇で領地へ来ていた兄へ、両親がある話を持ちかけたのは、11歳も終わりかけのある日のことだった。




