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『なぁ、あいつ都合が良いってマジ?』
『マジマジ。なんかちょっと気がある風でいけば、困ったときなんでもしてくれるぜ』
『あーいけないんだ〜。人の親切心に漬け込むとか〜』
『よく言うわ。お節介ウザとか言ってたくせに』
「……」
ものすごーく嫌な夢を見た。
リーリアとして13年…しかももうそろそろ14年。その間、全く思い出しもしなかった前世の、しかも一番苦い記憶のところ。嫌がらせかなにかなの?
意識が戻ってよかったと思いたいのに、気分は最悪だ。
揺れに合わせて頭を打ち続けているから、地味に痛いし。
(はぁ……よし!)
気分はともかく、とりあえず現状把握にとりかかるのが先決だ。
どんなときでもまず行動!これ鉄則である!特に今みたいに切羽詰まってる状況ならなおさらだ。
(……何かしらの荷馬車っぽい感じかな……?)
腕には縄が巻かれているものの跡がつかないように気を遣ったのか緩く、少し動かせば容易に解けたので、思わず小さくガッツポーズしてしまった。そんな場合ではない。
もともと足は縛られてすらなかったので、ゆっくり起き上がる。
状況をみるに、私は何者かに拉致されてしまったらしい。マリー・ワーゲンを囮に。
そして今まさに運ばれている最中なのだろう。何者かのところか、はたまたどこかよくない予感のする場所へ。
(……多分だけど、体感的に気を失ってまだそんなに時間は経ってない……。今、ここから逃げ出せればきっと助けにきたロイとかと合流できるはず……)
となれば、優先すべきは情報収集だ。
幸いというべきか、身体検査はされなかったらしく、咄嗟に脚に装着した護身用セット(再改良済)は無事だったので、逃げるには問題なさそうである。
(あとはマリー・ワーゲンがどうなったかが分かればいいんだけど……)
現在荷馬車には私だけ。このまま、私だけなら頑張れば逃げ出せる自信があるが、もし他の場所にマリー・ワーゲンが捕まっているのであれば、救出込みになるのでなかなかややこしいことになる。
「でも勿体ねぇよなぁぁあ」
(……!)
犯人は意外と近くにいるようだった。
万が一にも起きたことが伝わらないよう、私は必死に気配を殺す。
「サリーだかマリーだかいってたあの女も一緒に売っぱらっちまえばこの女ほどじゃないにしろ金になったのによ〜」
「しょうがねぇだろ。人身売買はそれでなくてもリスクがあるってのに、隣国のやつがバレたせいで規制がキツくなったんだからよ〜。一人売っぱらうので精一杯だ」
「はぁあ、どこのどいつのせいで隣国のやつがバレたかしらねえが、商売あがったりだよな〜」
(……クソ野郎どもね)
人身売買なんて非道なことを正しい商売かなにかのように言ってるのも腹立たしいし、その隣国の人身売買を防ぐため、隣国の王女がわざわざこの国へ来てまで奮闘していたというのに、こんな言われようなのも腹立たしい。
心の声とはいえ、思わず口が悪くなってしまうのも無理はないと思うのだ。
(……でもまぁ、マリー・ワーゲンがここにいないのが分かってラッキーだけど)
こういう犯罪者たちはなんでこう、揃いも揃って現状を大きな声で教えてくれるのだろうか。とても助かるけども。
(そうとなれば、長居は無用!)
情けをかける必要もなさそうな犯罪者たちだし、ここはいっちょ派手めにやっちゃうことにしよう。ロイとかもこの場所を特定しやすいだろうし。
(3……2……)
1。バンッ!!
ヒヒーンッ!
「な、なんだあっ?!」
「うわぁあっ!!おいっ!!」
(よしっ!)
この世界、移動手段といえば馬である。荷馬車は荷車を馬が引いているもの。つまり、連結部分を壊せば馬部分と荷車部分は離れて、荷車部分は止まるということだ。
私が使ったのは、最近完成させたばかりの小さな火薬玉。別に危害を加える気はないので、脅かす程度の、爆竹のようなものだ。ただ、馬には抜群の効果を与えるので、こういう場面にうってつけなわけだ。いや、まぁ、こういう場面がそうそうないというツッコミはおいといて。
大きな声音に驚いた馬は、操縦している人を巻き込み、ついでにもう一人も巻き込んで暴れ回った。
その隙に、私は荷馬車から降りると、向かっていた方とは反対へ向かってただただ走る。
(あとはひたすら走るのみ!!)
途中でドレスの裾を破って、また走る。
(……っ、馬を落ち着かせて、荷馬車で追いかけてこられたらひとたまりもない。なんでか分からないけどあの人たち、"私"を攫いたいみたいだし。少しでも遠くに逃げないと……っ!)
遠くで馬の走る音が聞こえる気がする。
でも、人攫いのものか、救援か分からない以上、足を止めるわけにはいかなかった。
(もう……っ、本当、今世って走ってばっかり!貴族令嬢のはずなのに、なんでこんなに走ってるの、私……っ!)
なんてことを考えていたからかも知れない。
「………ッ!!!」
気付いたら、地面がなくなっていた。
そんなに高くないと思って入った草むらの先。迂闊にもその先が崖だと気付かないまま、私は大きく一歩を踏み出してしまっていたのだ。
(っ、本当にヤバい時って、悲鳴なんて出ないんだなぁ)
呑気なことを考えるくらいには、頭は本当に真っ白だった。
(…………ッ、死……)
「リーリアッッ!!!」
声が聞こえたのと同時に、身体が一瞬浮いた。思考が戻ってくると、急激に理解する。
(た、たすか、った……?)
「リーリア!もう片方の手も!こっちだ!!」
「……………で、んか………?」
いつぞやとは逆の立ち位置だ。
崖から落ちるところだった私の腕を掴んでくれたのは、皇太子だった。




