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その報せが届いたのは、ルルに爆弾発言を落とされてから、わずか1日後のことだった。


「…………なんて?」

「だから、皇太子殿下が来る、って話だろ」

「……えー……?」





朝起きたら、家中てんてこ舞いでした。私とロイを除いて。

というのも、てんてこ舞いの理由をなんとか聞けた後に「お嬢さま方はお部屋でお待ち下さい」と、邪魔とばかりに追いやられたからである。

まぁ、皇太子がくるんだから忙しいというのは分かるけども。


「……なんでまた……」

「お嬢様を嫁にくれと言いに来るんじゃないか……?」

「…………」

「冗談だ」


そんなにおかしな顔をしていただろうか。ロイはニヤニヤしながら言った台詞を、すぐさま撤回した。

でも物申したい気分にはなったので、拗ねた気分で呟く。


「……今ものすごくデリカシー無し男だったわよ」

「すまん……」


ロイの冗談はともかく、一体どうしてこのタイミングで皇太子が我が領地にやってくるというのか。母がなんのかんのと忙しそうにしていること以外、全く情報がなさすぎる。


「私、出かけようかな……」

「いや、駄目だろ」

「駄目か……」

「とりあえずなんの目的でくるかはともかく、居るはずのお嬢様が居ないとなると、また逃げられた、と思われても仕方ないだろ」


う。それは困る。

散々逃げてきてしまったのだ。はっきり言われてしまった今、向き合うこともせずに逃げるのだけは避けなければならない。

でも、である。

一応、熱烈?な告白を受けた、しかもその返事をしていない身で、よりにもよって色々と知っているらしい屋敷中の人の視線やらを浴びつつ皇太子と対面するとなると、ものすごく複雑な気分である。これは無理もないことだと思うのだ。


「はぁ、」


ため息が出るのだって、しょうがないと思うのだ。


「……別に会いたくないわけじゃないのよ?」

「……」

「ただ、ちょーっと今の状態で会うのは気まずいだけなの」

「……」


ロイはなんとも言えない顔で、なんとも言わなかった。多分、先程のこともあって、下手なことを言わないように黙ってるんだろう。まぁ、いいけど。


「……あー……今日も空が青いわね」

「どん曇りだけどな……」

「うるさい、ロイ」

「……すまん……」


いいじゃない。ちょっとくらい現実逃避したって。それでなくてもうちの庭は、私の現状あんまりうまく使いこなせてないとはいえ、ちゃんとした防災グッズもどきの植物を見事に育ててくれた、庭師のミゼフじいがお世話してる、結構見応えのある素晴らしい庭なんだから。

ほら、マリー・ワーゲンだって思わず散策しちゃってるくらいの……。


「……」

「……」

「ねぇ、ロイ」

「……はい」

「私の目がおかしいのか、マリー・ワーゲンが見えるんだけど」

「……俺にも見えてる」

「あれって、あの、マリー・ワーゲン?ロイのいたナナリ孤児院でロイたちを苛めてたあの、マリー・ワーゲン?」

「……そう、見える」


ということは、当たり前だけど、幽霊ではないようだ。

だからこそ、訳が分からない。どうして、二年前に一度だけ会ったっきりの、なんならこてんぱんにした、どこに住んでるかもよく知らない子爵家のご令嬢が、私の家の庭にいるのか。


「……これ、絶対何かに巻き込まれるやつだろ」

「……」


ロイが、まさに苦虫を噛み潰したような顔で言った。

これに関しては、おおむね同感である。

だが。


「……行かないわけには、いかないでしょ……」


そう。これでもし、皇太子とエンカウント、するだけならまだしも、なにか大変なことを起こしでもしたら、この時代、最悪死刑とかになる可能性もなしではないのだ。

それなら今のうちに捕まえて、さっさとお帰りいただくか、場合によっては、罪は住居侵入だけ!と穏便にすませるより他はない。


「本当だったら、俺一人で行きたいところなんだけどな」

「えっ、だめでしょ」

「なんで」

「相手は令嬢よ?これで万が一ロイが、令嬢相手に無体をどうのこうの、って話にでもなったら、セルシア様になんか申し訳ないもん」

「……おい、なんでそこで皇女殿下が出てくるんだ」

「……」


私はとりあえず、ふっ、とただ笑って、さっさと部屋を出た。すぐに着いてきたロイは、また同じ事を聞いてきたけど、完全に無視を決め込む。

いつの間にか知らないけど、セルシア様と手紙を何回か交わす仲になってること、知ってるんだからね。


(これから二人に何があるかは分からないけど、ロイだって思い悩めばいいのよ)





なんて、場違いにも憂さ晴らしをしてしまった、罰が当たったのかも。


「……」


なにが起きるかなんて、予測出来た試しはない。だって、いつだって予想外のことに巻き込まれるから。でも。

まさか、マリー・ワーゲンに近付いたら、急に黒尽くめの男が現れて、マリー・ワーゲンを人質にしたかと思えば、一瞬こちらが怯んだのを察知したらしく、黒尽くめの男2が現れて、ロイの背後をとり、すぐさま気絶させるなんて、思ってもみないじゃない。


「……色々聞きたいことはあるんだけど……とりあえずその子を離してあげてくれる?気になって話どころじゃないんだけど?」

「……お前が大人しく着いてくるなら離してやる」


あー……これ私狙いのやつかー。なんだろうなー。なんでいつもこうなるんだろう。私、悪いこと全然してないんだけどなー。


「……あなたたちがその子と私のツレに手を出さず解放してくれるなら、大人しくするわ」

「もちろん。さあ、こちらへ」

ニヤニヤしている黒尽くめの男はイマイチ信用しきれなかったけど、まぁこの状況で信用もなにもないので、私は息をついて、促されるままに黒尽くめの男に近づいた。


「っ!」


容赦なく手刀をきめられて身体が傾ぐ。こちとら貴族令嬢だというのに、容赦のないことだ。


「なんてことを……!」

「黙れ!」

「っ!」


薄れゆく意識の中で、黒尽くめの男とマリー・ワーゲンが争うような声のすぐ後にマリー・ワーゲンのうめき声が聞こえたから、マリー・ワーゲンも手刀をきめられたのかもしれない。


(……こいつら……覚えときなさいよ……)


うら若き乙女の身体に触った罪は重いのだ。必ず目にものみせてくれる。

心の中で悪態をついたのを最後に、私の意識は完全に途絶えた。





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