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5.誰のために。

次回、第1章のエピローグ。

_(:3 」∠)_


区切りは良さげなので、面白かったらあとがきも読んでね?









 ――その少年は、薬草学が好きだった。

 騎士の家系に生まれながら、剣術とは無縁の日々。

 周囲は呆れながらも、その少年のことを止めたりはしなかった。事実として、彼の薬草学における知識とポーションづくりの腕は優れていたのだ。

 それらについては専門家すら舌を巻く。


 ダイス・アークイズムは、その分野において神童と呼ばれていたのだ。







「ボクは……! あの頃から変わった!!」



 鬼気迫る表情で剣を振るいながら、ダイスはそう叫んだ。



「騎士の家系に生まれながら薬草学に傾倒していた時! そしてボクに力がないばかりに、アークイズム家が取り潰しになった時から……!!」

「くっ……!?」



 さすがのクロスも、その勢いに気圧される。

 先ほど飲んだポーションの効果、であろうか。ダイスの身体能力は飛躍的に向上し、確実にクロスのそれを追い抜いていた。

 剣筋に粗さは目立つ。

 しかしながら、圧倒的な力の前には関係がなくなってしまう。



「周囲のみんなは、ボクを責めなかった! それどころか、騎士になるよりも学者になった方が良いと慰めてくれた!! でも、ボクはそれが――」



 感情を爆発させながら、ダイスは剣を振るった。

 クロスになら、語っても良いと考えた。


 誰のために、と。

 自分にそう問いかけてくれた彼になら、と。


 もしかしたら、クロスという少年なら答えを知っているのではないか。

 ダイスの心にはそんな思いが渦巻いたから。だから、




「ボクは、それが辛かった……!!」




 ついに、その言葉を口にした。


 苦しかったのだ、と。

 周囲の期待に応えきれなかった自分が、許されてしまったことが。

 誰もダイスのことを責めなかった。それどころか、キミの道はこっちではない、とさえ助言してくれた。嫌味でもなんでもなく、ただ純粋に彼を案じて。


 だが、ダイスは自分が許せなかった。

 本来進むべきだった道を見ず、周囲に迷惑をかけた。

 だからこそ、自分は剣の腕でアークイズムの名を高めなければならない。



「だから、ボクは……!!」



 そう、思ったのだ。

 ダイスは肩で呼吸をしながら、クロスと鍔迫り合いを続ける。

 勝たなければならない。負けるわけにはいかない。そんな衝動にも近い感情が、何度も彼の心を突き動かしてきたのだ。


 だが、その時だった――。




「でも、それでお前は楽しかったのか?」

「………………え?」




 大粒の汗を流しながら。

 剣を受け止めるクロスの言葉に、ダイスはハッとした。








「お前、それで楽しかったのかよ……?」




 俺はあえて、二度同じ質問を繰り返す。

 するとダイスはようやく顔を上げ、こっちを見た。

 ほんの少しだけ、剣の圧力が落ちたところで一度距離を取る。そして、



「誰かのために、自分を殺して。それで、楽しかったか?」



 加えて、もう一度訊ねた。


 返事はない。

 ただ真っすぐに、ダイスは俺を見ながら剣を構えていた。

 そんな沈黙が長く、長く続いた後。彼はようやく、こう口にした。



「じゃあ、どうすればよかったんだ……?」――と。



 今にも壊れてしまいそうな声色で。

 ダイスは、俺に訊いてきた。



「ボクは、どうすればよかったんだ。どうすれば、みんなに報いることができたんだ?」

「………………」



 震える声。

 それを聞いて俺は、ハッキリと答えた。




「だったら、俺が教えてやるよ」――と。




 剣を構えて。

 俺は、自身の中にある魔力を全身に巡らせた。

 騎士団長以外には、初めてだ。身体能力強化の魔法。ダイス・アークイズムという青年を認めたからこそ、俺はそれを使うと決めた。



「クロスくん……」

「こいよ、ダイス。お前が欲しがってる答え、くれてやる!」



 こちらの変化を雰囲気で察したのだろう。

 ダイスも、力強い眼差しで俺を睨みながら大きく踏み込んだ。そして、




「はああああああああああああああああああああ!!」

「でやあああああああああああああああああああ!!」





 互いの持つ、渾身の一振りがぶつかり合う。

 その結果は――。




「あぁ、降参だよ。……クロスくん」




 ダイスの剣が真っ二つに折れた。

 リリがそれを見て、宣言する。



「勝者、クロス・フリーダム!!」――と。




 



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