1.新しい名前と、ダンジョン。
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――ある貴族の家に、一人の男児が生を受けた。
その男児は生まれながらにして、多大な魔力をその身に内包し、かつ自在に操ってみせたのである。それを見た親族たちは、彼を「神童だ」と囃し立てた。
そして、そのことに最も気を良くしたのは少年の父親。
この子ならば、きっと自分が成し得なかった成果を残すであろう――と。
そうすれば、この家はさらに発展し自身もまた歴史に名を遺すに違いなかった。
父親はそんな邪な考えから、息子を教育せんとしたのだ。
「嫌だ。やりたくない」
しかし、少年は聡かった。
自分の父親の浅はかな考えを見破り、拒絶したのである。
その少年こそ、クロス・シェフィールド。
彼は十五歳の誕生日翌日をもって、その姓を捨てることになるのだった。
◆
街に出ると、いつも通りの喧騒が俺を包み込んだ。
雑多に露店が並んで、そこに売られる商品はどれも安価なものばかり。それでも活気に満ちた人々の表情が、俺は大好きだった。
貴族のように、面子と家柄しか気にしない頭でっかちよりも万倍良い。
「……さて。どうすっかな?」
俺はそんなことを考えつつ、ひとまず広場へと向かった。
そして、今後の身の振り方を考える。せっかく自由になったのだから、これからは好き勝手に生きていきたい。それこそが俺の望んだことであり、夢であった。
だったら――。
「それなら、もう答えは決まってるか……!」
俺は自然と笑みを浮かべる。
そうだ。自由を生業とするのなら、最適な職業があるじゃないか。
そう考えて、俺は広場から程近いとある建物の中に足を踏み入れたのだった。
「へぇ、ここが……!」
そこには、見たことのない景色が広がっていた。
歩く人々はみな、武器を携え防具を身にまとっている。屈強な者もいれば、細身で素早い動きを得手としていそうな者もいた。
――そう。
ここは、冒険者ギルド。
自由に生き、己の腕一つで名を上げようとする者たちが集う場所。
その空気を吸っただけで、俺は全身に鳥肌が立った。
そして、その勢いのまま受付へと向かう。
「あの、冒険者に登録したいんだけど!」
そう声をかけると、若い受付嬢はいくつかの質問を投げてきた。
しかし、その大半が注意事項のようなもの。
要するに、死んでしまう可能性もあるが、大丈夫かという話だった。
俺にとってそんなことは、些末事でしかない。
「それでは、こちらにフルネームをご記入ください」
すべてに明朗快活に答えると、最後に署名を求められた。
その時ふと、考える。
「フルネーム、か……」
俺はもうシェフィールドを名乗ることはない。
だとしたら、好きな名前をここで決めても大丈夫のはずだった。だから、
「よし、俺は今日から……!」
嬉々として渡された紙に署名する。
そこには、こんな文字が並んでいるのだ。
『クロス・フリーダム』――と。
◆
――ダンジョン内部。
俺は武器屋で適当に見繕った剣を手に、ダンジョンへ潜った。
ここでなら、思う存分いままでの鍛錬の成果を発揮できる。それを考えるだけで、心が躍った。俺は黙々と突き進み、そして……。
「へぇ……? 岩の怪物、か!」
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
遭遇したのは、岩石が人の形を模して動く魔物だった。
名前はたしか――ゴレム。
「さて、それじゃ――」
俺は少しだけ舌なめずりをしつつ、剣を抜き放った。
そして、真っすぐにゴレムへと猛進する……!
「ちょっとは、楽しませてくれよ?」
振り下ろされる岩の拳。
回避すると、勢いそのままにそれは大地を陥没させた。
喰らえば間違いない。即死はしないにしても、戦闘不能に陥るのは目に見えていた。それでも、相手の動きは鈍い。だとすれば、動ける以上こちらが有利だ。
「遅いんだよ、この石っころ!!」
俺はまず、ゴレムの脚部に狙いを定めて剣を振るう。
表面を叩いた瞬間に、剣が弾かれるような感触があった。しかし、関係ない。そのまま力を込めると、ヒビの入ったゴレムの脚は砕け散った。
バランスを崩す相手から一度距離を取り、反撃に注意を払いつつ狙いを定める。
そして、ついに敵の脳天ががら空きになった瞬間……!
「行くぞ……!」
俺は跳躍し、ゴレムの頭目がけて剣を振り下ろした。
力を込める感覚、加えてその角度も完璧だ。
先ほどのような反発は一つもなく。
ゴレムの身体は、いとも容易く真っ二つになった。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアア!?】
断末魔の叫びが響き渡り、煌めく魔素の欠片へと還っていくゴレム。
俺は換金アイテムだと聞いたそれを拾い、ふっと一息ついた。
そして、自分の手のひらを見つめて確信するのだ。
――俺の居場所はここだ、と。
あのように鬱屈とした、しがらみに満ちた場所ではない。
俺はようやく、胸いっぱいに空気を吸えたような心地になるのだった。
◆
クロスがダンジョンを去った後、そこには一つの人影があった。
「ふむ。ゴレムを剣一本で圧倒、か……」
その人物は少しだけ考えてから、口元に笑みを浮かべる。
「魔法を駆使した気配もない。つまり、圧倒的物理耐久を持つ相手を上回る剣技を持っていた、ということに他ならない。……面白いな」
目を細めるその者の存在をクロスは知らない。
しかし、その人物は間違いなく彼へと狙いを定めていた。
次回更新は、明日の昼頃予定!




