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第三十一話


「――――――起きて、起きてください」

「はっ」


 目が覚めると、そこは青い空。

 近くには、出雲志麻、悠麻姉弟がいた。


「うっぐ」

「無理に起き上がらないでください、酷い怪我です」


 遅れてやってくる全身の痛み。

 右腕からは、もうまともな感覚は届かない。全身からもズキズキと常に痛みを訴えられている。

 そうだ……デスアスクはどうなったんだ。

 出雲姉弟がいるということは、一先ずの安全は確保できたということだろうか。


「あれが今回の主犯ということですかぁ~?」

「志麻さん……って、あれは――――」


 志麻さんが見つめている先にあったのは、膝をついたまま動かない巨体。

 その姿は、まるで天を仰いでいるかのようだ。だが、心臓に穴が開いている。


「我々が到着した頃には、既にこの状況に……」

「俺が……やったのか……?」


 左手には、がっしりと握られている村正。

 まるで、一仕事を終えたかのようにシンと静まり返っている。

 記憶にはまるでない。だが、心の奥底で燃えていた焔は鎮火されている。

 あと、何かが……


「とりあえずぅ、状況確認が先です~。急いで樫原十二賢者を集合させま――――」

「そうだ! クリス!」


 体に鞭を打ち、叩き起こす。

 屋上の階段室の端に、クリスがぐったりと倒れている。まずい、俺よりもクリスの方が危険だ。


「ク、クリス!? 何故ここにいるんですかぁ?」

「ん、んん……」

「クリス! 無事か!? 今、救急隊が――――」

「手を…………」


 と、か細い声で腕を伸ばしてくる。

 何かにすがりたいんだろうか。俺が、相棒として守らなければ。


「クリス……」


 そういって、その手を掴もうとする。

 だが。

 直後、クリスは俺のボロボロの右腕を掴んだ。


「痛――――――」


 急な刺激に体が悶え、声にならない声が出る。

 どうした、何が起きたんだ。

 そして、俺が一歩下がる前にクリスの口と屋上の扉が同時に開く。


「――和佑! そいつから逃げろ!」

「――その右腕、食べてもいいよね?」


 ここ何年も聞きなれた声と、クリスから発せられるクリスとは思えない声が耳に届くのと同じく、右肩から先が綺麗さっぱり無くなっていた。


「う、あああ、ああああ」


 一歩、また一歩と後ろにふらつく。

 尻もちをつくころには、状況も判断できていた。だが、理解はしたくなかった。

 俺の右腕”だったもの”を口に咥え、まるで骨付き肉を食らうかのよう、いや、実際に食らっているのだ。

 肉を食い、骨を捨て、軟骨を噛み砕く。

 それをクリスが、行っているのだ。


「クソ、遅かったか……」


 そういって、俺の右腕の切断面を包帯で巻いているのは、この学院では見かけるはずのない人、神貫未悠さんだ。

 いつも綺麗な白衣は、俺の血で汚れている。未悠さんは俺にすぐさま鎮静剤を注入した。


「和佑、見ておけ」


 そういって俺の懐から拳銃を抜き出すと、未悠さんはただ獣の如く肉を食らっている生物に弾丸を放つ。

 避ける様すら見せない生物は、まともに眉間に弾丸が入った。


「いったい、いたいいたいいたいいったいなんなんだ!」


 眉間に当たるも、怯む様子も見えない。

 だが、クリスの容姿は泥のように溶けていき、黒髪の麗人が現れる。声から推測するに男性だ。

 そして、口には肉片が付着している。


「あれはぁ、いったいなんですかぁ?」

「なんだこの生き物……」

「出雲のガキ共、あれが今回の真犯人だ」


 その人物――人物と言っていいのかも定かでない――は、楽しむように首を回しながらこちらを見る。

 樫原学院の女性用制服を着ているが、足は男性のものだ。

 未悠さんは、弾丸を再び放った。だが、それを高々とジャンプして避けて見せる。

 デスアスクの死体辺りに着地した生物は、デスアスクを舐めるように見ていた。


「これも、食べていいよね?」


 そういうと、体を逸らせ、息を大きく吸い込んだ。

 そして、息を吐くのと同時に口から現れたのはドス黒い影のような塊。


 黒い塊は、デスアスクを飲み込むとそのまま口に戻っていく。

 先ほどまで死体があった場所は、何事もなかったかのように消え去っていた。


「未悠さん……」

「アイツはヒトじゃあない。 そうだろう、ゾルヴァン」


 ゾルヴァン、そう呼ばれた生物は再びこちらに振り向き、口を開く。


「俺は、まだ、人だ、まだひとだだだだだだだだたぶん」


 狂ったように、そう言っている


 あれは、人じゃない。

 論理的とか、人道的とか、そういう面倒くさい理論を全てほっぽって、単純に人と認識してはいけない。


「だって、俺、まだ、食べる、寝る、女欲しい、欲が、あるるるるる」


 これ以上は聞いていられない。

 未悠さんもそう判断し、拳銃をもう一度放つ。

 足は片方潰れたままで、まるで早く動けそうにないというのに、それをバク転で回避して見せたゾルヴァン。

 そして、そのままこちらをにらみつけ、屋上から飛び降りた。

 深追いはしない、逃げられたのだろう。


「未悠さん、あいつはなにものな――――――」


 立ち上がり、未悠さんの元へ向かおうとすると、顔面から倒れた。

 全身に力が入らない。


 遠くから、未悠さんと志麻さんが指示を飛ばすのが聞こえた。

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