第十六話
「またこのクソマズプリンだけか」
昼休み、弁当を作る余裕もないので学食なのだが、今日も闘争に負けてプリンだけになってしまった。やはり、早起きしてでも弁当を作るべきかと思うほどだ。
飯を食う場所を探して道を歩いていると、目の前に何か一枚のメモが降ってくる。
拾い上げるとそこには、
『美味しいご飯が食べたければ、このまままっすぐ進め』
と書いてある。
「…………」
アホらしい。明らかに罠だ。というより、こんな典型的な罠に引っ掛かる奴がいるのか?
すこしだけ進んでみると、明らかに地面の色が違う部分がある。魔術的な偽装をしているが、このメモを見た後ならだれでも気付くだろう。
「……これくらいか」
適度に重さのある石を見つけてきて、その地面に落としてみる。すると案の定、地面に穴が開き底に落ちていく。少ししてから、「イテッ」という声も聞こえてくる。
これはあれだ、落とし穴っていう奴だ。縄文時代から、魔術を知らない人類が狩りの為に使用した罠の一種だ。今の時代、こんな分かりやすい誘導で引っかかるものは芸人くらいだろう。
「むぅ……見抜かれる……なんて」
「誰だ――――ってうわぁ!」
急に変なアームのようなものが穴から伸びてきたかと思うと、そのまま腕を掴まれ穴に引きずり込まれる。
適度に深い、というよりも落ちたらただでは済まなそうな深さを進んだ後、小さな部屋にたどり着く。
その部屋の周囲には、SF映画のようなモニターの数があった。更に、今では使われていないようなタイプライター、黒電話もそろっている。
ここは、一体……?
「いらっしゃい……私の工房へ」
背後から声がする。振り返ると、そこには一人の少女がいた。
銀髪で、クリスと同じくらいの身長。そして、大事に抱えるぬいぐるみ。俺はこの人物を知っている。
「……なんちゅうもんを学院内に作ってるんだ、イリス」
「許可は……自分で下ろしたから……セーフ」
「それは許可が下りたって言えるのか?」
クリスの元パートナーのイリス。そういえば、転入日にまたやってくるとかいうようなことを言っていた気がする。
それにしても、どうやらあのメモの差出人はイリスで間違いないようだ。頭のたんこぶが証拠だ。足元には投げ入れた石も落ちている。
「で、何をしようと俺を呼び出したんだ?」
「ぜひ……科学について……教えてほしい」
「教えろって言われても、そこまで詳しいわけじゃないぞ」
それに、クリスにバレたら何を言われるか分かったもんじゃない。この二人の喧嘩に巻き込まれると、命がいくつあっても足りなそうだ。
「教えてくれないなら……和佑の正体……探る」
「ちょ、正体って俺は何も……」
「嘘……何か隠してる」
なんて奴だ。アッヘンバッハ家の力を使えば、俺の情報も多少は漏れ出る可能性がある。まだ明かしていいような時期ではないし、話せば探らないでくれるというなら従うしかない。俺が正体を隠していることを知り、更にそれで脅迫するとはな。
「何を聞きたいんだ?」
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モチベがめっちゃあがります。