第十五話
学院にも慣れ始めたが、俺の行動は特に変わることはなかった。
毎日、この足で学院内を練り歩いては痕跡探しをしたり、図書室で資料を漁ったりだ。
新聞部は、未納部長の圧力で俺とクリスの報道を控えるようになったが、結局は話のネタになり続けた。それによって、学院内での俺を見る目はまるで珍獣を見つけた探検隊だ。
だが、どうやら俺にも友人が増えたようだ。
「よ、また何か調べてんのか?」
俺が図書室で学院内記録を漁っていると、ちっさい奴が話しかけてくる。ボサボサで整えられていない髪に、不良のようなだらしない恰好。こいつは、実は知り合いだったりする。
「加苅が図書室に来るなんて珍しいな」
「部活の新聞を届けに来たんだよ」
新聞部カメラマンの加苅だ。七三分けの姿が幻覚だとバレたからか、最近では本来の姿で活動することも多い。学院内では、見たこともない生徒としての扱いを受けているようだ。新聞部はまじめに活動しているものの、学業にはあまり勤しんでいないらしい。
俺が去年の学院内でのトラブルをまとめたファイルを手に取ると、それを斜め下から奪い取られる。
「なんだよ、邪魔しに来たんなら帰れ」
「いーや、その逆だ。面白そうな情報が入ったぞ」
ファイルを机に置いてから、一枚の紙を渡される。そのタイトルは『樫原十二賢者会議事録』とあった。
「これ、大丈夫な奴か?」
「バレなければな」
その内容は、生徒が連続で失踪しているという事件についての対応策についてだった。この事件自体、一切聞かされたことはない。
「連続失踪事件については、まだ公表されてないが有名な事件だ。今朝、空間移動の結晶が配布されただろ?」
「そういえば……『緊急時に限る』とかなんとか」
「それもこの事件のためだ。使用すると、ログが残るようになってる」
「いつ頃から失踪者が出てるんだ?」
「二週間前……お前が転入してくる一週間前から始まったようだ。現在の被害者は八人、行方は未だ分かっていない」
「なんだそれ……警察は動かないのか」
「この学院内の問題は、基本的に警察は介入してこない。それこそが樫原学院の特徴の一つだ」
あの樫原学院長は、何を考えているか分からない。だからこそ、警察を関与させないのも何か考えがあるのかもしれない。だが、実際に被害者が出ているというのに対応を生徒に任せるだけというのは如何なものか。
「それで、本題だが……」
「まだ何かあるのか?」
「あぁ……これは公式記録に残っていないことだが、容疑者の名前が一つ上がっている」
「そうなのか、なら安心だが……」
「お前だよ、伏見」
「お、俺……?」
「無理もない、お前の素性の暗さ、得体のしれない転校生として十分容疑がかかる」
確かに、俺は素性を明かしていないし、帰る家も普通の家と違って未悠さんの元だ。俺だって、犯人捜しをしろと言われたら容疑者にする。
「なら、そんなこと俺に伝えていいのか?」
「俺は面白ければそれでいいんだ、お前がどんなマッドサイエンティストだろうとニュースになればそれでいい」
「尊敬するほどのジャーナリスト魂だな」
「ま、そういうことだ。辻斬りには気をつけろよ~」
そういって手をひらひらさせながら去っていった。あいつは、本当に面白いニュースがあればそれでいいんだろう。
だが、それにしても俺が疑われているということは常に監視されている可能性もある。周囲にそれらしき気配はないが、気を付けるに越したことはないだろう。こんな風に調査をしているだけで、何かを探っていると疑われかねない。
俺は、ファイルを棚に戻してから出来るだけいつものようにすることを心がけて図書室を出た。
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モチベがめっちゃあがります。