閑話
場所は樫原学院教室棟最上階の巨大なガラス張りの部屋である。
そこには十二人の生徒が机を囲むように座っており、各々自由に過ごしている。
その中には、イリス、未納に志麻先輩もそろっていた。
「それではぁ、樫原十二賢者会定例会議を始めますぅ」
志麻先輩が立ち上がり、声を発すると皆の視線がモニターに映る。このモニターも光学魔術を用いている。
「今回の議題はぁ、前回から引き続き生徒連続失踪事件についてですぅ」
モニターには、八人の生徒の顔写真とプロフィールが並べられている。失踪した生徒たちだ。
カズスケと共に、未納加苅ペアと戦った後に召集された会議。そこで語られたのは生徒が連続で疾走しているとのことだった。
連日会議をしているけれど、一向に進展はない。
「一週間前から始まった生徒失踪ですがぁ、二日前にも新たな被害者が発生してしまいましたぁ」
「発覚したのはいつなんだ?」
すかさず、未納が質問をする。未納は賢者会の報告書担当であるので、事細かに質問を投げかける。
「発覚は今朝ですぅ、ルームメイトから二日も帰ってこないとのことで通報がありましたぁ」
「五日前も被害者が出たばっかりだっていうのに……」
噛みしめるように呟く。学院の運営を任されておいて、防げないなんて。
「クリスの気持ちも分かりますぅ、これ以上の被害者が出た場合ぃ、最悪公的機関が動く可能性もありますぅ」
「逆に、ここまで公的機関を動かさない方がどうかしてると思うがな」
目をつぶって浅めに腰かけている男が、皮肉のように言う。
学院自体が、事件は自己解決を掲げている以上、自衛は基本だがそれでも警察が動かないのは、樫原踝学院長の圧力があるからだ。学院長は、学院生徒なら魔術で解決できるという自負がある。逆に言うならば、解決できない生徒などいらない、つまりどうなろうと知ったことではないということだ。
「とにもかくにもぉ、対策を練れない以上は自衛しかありません~。生徒にはぁ、空間移動の結晶を配布しましょう~」
「空間移動の結晶を全生徒に? そんな予算はないですよ」
黒髪ポニーテールの女子生徒が質問する。空間移動の結晶は一つがとんでもない値段がつく。全校生徒に配布となると、金額は想像もつかない額になる。
「宮崎ちゃん~、ここには世界トップの令嬢子息の集まりなんですよぉ~?募金してくださいますよねぇ?」
「それなら……アッヘンバッハが……全額出す」
イリスが手を挙げる。アッヘンバッハ家は巨大な財団であり、当主のフォルデウス氏の個人資産だけでも国が何個か買収出来ると言われている。だからこそ、周囲に反対意見を出すようなものはいなかった。
「ありがとうございますぅ~、それではイリスにお任せしますぅ。あとは風紀委員に巡回数を増やすように伝えてください~」
「了解しました」
風紀委員長であるセミロングの女性が頷く。
「それではぁ、定例会議は終了しますぅ。あとぉ、クリスはあとで私のとこへ来てください~」
「ひゃっ、はい!」
突然の呼び出しに声が上ずる。皆が会議室を退出する中、資料をまとめている志麻先輩に近づく。
「あの……何用でしょうか?」
「クリス……」
と、話しかけた途端、志麻先輩に抱きつかれる。状況が理解できず、急にアワアワしていると、耳元に志麻先輩の顔が近づく。
「あ、あの……どのような……!」
「――――――伏見和佑に気を付けなさい」
「……カズスケ?」
スッと離れると、一枚の資料を手渡される。そこには、失踪事件の被害者の失踪日と発覚日がタイムラインになって上がっていた。
「これをみると、第一の被害者の発覚の数日後に伏見和佑が転入していますぅ。第四の被害者の失踪日はその次の日ですぅ」
「ええ、確かに……」
「彼は見たこともないような武装をしていますぅ、それに彼の履歴書を見てください~」
次に渡されたのは、カズスケの入学書類。履歴書の経歴欄は真っ黒に塗りつぶされ、資格などは見たこともないようなものばかり。中には塗りつぶされているものもあった。使用魔術欄も、家系欄もすべて黒塗りになっている。
「これは樫原学院長から拝借したものですがぁ、ここまで黒塗りの履歴書、怪しさしかありませんよねぇ」
「そういえば、私もペアを組んでからカズスケの素性は聞いてません。それどころか、戦い方と名前くらいしか知らない……」
「そういうことですぅ、確証はありませんがぁ、疑うに足る状況ですぅ。ぜひ、用心して関わってくださいねぇ」
話を終えた後、会議室から退出した。
その胸の中には、確実にカズスケに対する疑心暗鬼が生じていた。
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モチベがめっちゃあがります。