第十四話
その日は結局、何も得られずに帰宅。
事務所から学院まで、電車で約十分ほどなのだがその間にも特に襲われることもなく無事だった。やはり、敵は学院を拠点として活動しているのだろうか。
そして、現在は未悠さんと共に今日起きた出来事を話し合っている。
「お前もさんざんだな、和佑。というより、よく生還したな」
「まったく、化け物ばかりですよあそこは」
夕食後のコーヒーを啜り、マッサージチェアの電源を入れる。今日ほどこれを買ってよかったと思った日はない。
未悠さんは、俺が回収した弾丸を魔術分析にかけている。結果が出るまで数週間はかかるだろうとのことだ。
「それでも、『明確な殺意』を感じたのはあの時だけです」
「狙撃……それも、銃弾と魔術を混成した狙撃銃だ。そう簡単に用意できるものでもない」
武器は魔術の公表と共に進化していった。これまで使われていた鉄や火薬の銃火器は衰退し、主に使用者の魔力に依存する武器が多くなった。だが、今回使用されていたのはその間にある武器だ。魔素の特定や、具体的な武器の特定に時間がかかる、プロ御用達の武器だ。もちろん、普通の市場には出回らない。
「村正を抜かなければ、危うかったかもしれません」
「あぁ、抜刀許可無しでの使用については不問にしよう。それに、こちらとしては都合がいい」
「都合がいいってどういうことですか?」
「これを見てくれ」
そう言って渡された茶封筒。中を開けると、新たな依頼のようだ。『私立樫原学院の実態と運営組織について』と題されている。
めくると、樫原学院の裏にいる国防省の存在、樫原踝の悪い噂などがまとめられている。
「これって…」
一通り目を通した後に、未悠さんに返却する。コーヒーを飲み干した後に「その通りだ」と話し始めた。
「新たな任務として、和佑には調査をしてもらう必要がある。OFや私たちにとっても、国防省の暗躍は掴んでおく必要がある」
「結局、任務かぁ……」
「別に仕事のためだけであの学院に入学させたわけじゃない。それに、お前も青春しているようだしな」
「魔術戦闘に命まで狙われて、ちっとも穏やかじゃないですけどね」
今日一日だけでも相当忙しかった。初日だからなのかもしれないが、これから先を考えると胃が痛くなる。青春ってこんなに辛いものだったのか。
「そういうことだ、狙撃の件に関してはこちらで捜査を始めるから安心して学院生活を楽しみたまえ」
「了解です、俺はもう寝ます」
「なら、食器洗いくらいは私がしておこう」
「また皿を減らす気ですか!? 明日やりますから触らないでください!」
「む、それならば諦めてお前の装備コストのやりくりでもしているか」
嫌味を少し言われたが、未悠さんに家事をやらせるよりかはマシだろう。
適当に後片付けをし、明日の準備をして布団にもぐった。
明日は、いったいどんな学校生活になるのだろうか。楽しみで仕方がない。