第十三話
「申し遅れましたぁ、私、出雲 志麻と申しますぅ」
そうだ、思い出した。日本の魔術界で知名度だけなら樫原踝と並ぶほどの一族、出雲家の長女。かの有名な神社の巫女であり、家督でもある。
魔術が広まり、日本の神職は魔術と定義しても良い行為を行っていたという。つまり、人の願いをかなえていたのは魔術だったということだ。
何度かテレビにも出演していたのを見たことがあったから、覚えているのだろう。
「志麻先輩!こんにちは!」
志麻さんがいることに気が付いたのか、クリスがすぐに挨拶をしている。
「なんだ、クリスも敬語とか使えたのか」
「私は尊敬する人はちゃんと敬語を使うのよ、人として当たり前でしょ」
「あっという間に仲良しのようで何よりですぅ、和佑君もお友達ができて良かったじゃないですかぁ」
「友達……そうか、友達か」
「ちょっと、何赤くなってんの?」
なんということだ、友達という響きに感激してしまった。
そうだ、ずっと闘ったり、狙われたりで忙しかったが俺には友達ができたのだ! これこそ青春だ! 俺の求めていた高校生活だ!
「それに、友達だなんて、そんな馴れ馴れしくしないでよね」
「え、それってまだ友達じゃないってこと……?」
「あら和佑君が傷ついてますよぉ、いいのかしらクリス?」
「あぁもう、友達、友達ね! これでいいでしょ!」
危なかった、志麻さんの助け舟がなかったら、高校生活を挫折しかけていた。
「そうだわ、クリス、このあと臨時の会議があるから出席してくれないかしらぁ?」
「もちろんです!」
「会議?なにかやっているんですか?」
「えぇ、学内序列十二位以上の者で構成される『樫原十二賢者会』というものがあるんですぅ」
「樫原十二賢者会……?」
この学院はどうも賢者という言葉にこだわるな。
「そうよ、この学院の運営は基本的に賢者会が担当しているわ」
なるほど、いうなれば実力者のそろった生徒会という感じか。この学院は実力至上主義だというのは、半日で痛いほど分かった。
確かに志麻さんは強いだろうし、所属しているのも納得だ。
「それじゃ、クリスを借りますねぇ~」
「いいこと、絶対イリスと慣れ合うんじゃないわよ!」
そう言って、戦闘の疲れはどこへやら、志麻さんと共に去って行ってしまった。
俺も、疲れを癒そう。流石に二連戦は体に堪えるものがある。
広場のベンチに座り、ボケーっと青空を見る。遠くからは、昼休みを堪能している生徒の声がどこかしこからも聞こえてくる。結局、昼飯はほぼ食っていないが、疲れからかストレスからか空腹感は無かった。
目を瞑ると、これまでのことが脳裏に次々と流れてくる。
血なまぐさい研究所、泥まみれになった訓練、返り血を浴びた任務、特に何もしない事務所の生活、そして今日。
紆余曲折あったが、俺は平穏で普通の日常を手に入れかけている。それを確実に手にするためにも、あの魔弾の正体を探らなければ。
少ししてから、再び立ち上がり、学院内を捜索を始めた。
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モチベがめっちゃあがります。