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第十二話

「――――勝者、日葉伏見ペア! これにて決着です!」


 バトルフィールド内に、割れんばかりの歓声。


「……お疲れ」

「……ん、悪くはなかったわ」


 クリスの隣に並んで、目は合わせないがハイタッチは交わす。

 体の切り傷は痛いが、勝てたことはよかった。

 ボロボロになっている未納と加苅を保健室に運ぶため、担架がやってくる。


「大丈夫です?」

「……ええ、でも…あなたの体は一体……?」

「それは――また取材でもしてください」

「ふふっ……そうするわ」


 負けたというのに、爽やかにやられた未納は担架で運ばれていく。


「おめでとう、クリス」


 観客がまだ盛り上がっている中、一番最初に話しかけてきたのは、ぬいぐるみを抱える因縁ある人物だった。


「……いまさら、よくも私の前に立てたわね――――イリス」


 イリス・フォン・アッヘンバッハ。

 有名なアッヘンバッハ財団の令嬢。ドイツの魔術界での第一人者であるフォルデウス・フォン・アッヘンバッハの娘として日本へやってきているというのはニュースで聞いた。多岐にわたる魔術を行使でき、クリスと共に学内最強ペアの一角を担っていた。

 この二人の問題にはあまり首を突っ込みたくなかったので、下がろうとするとイリスが俺の腕を掴んでいた。


「な、なんだ……?」

「さっきの……見せて」

「さっきの?」

「貴方の装備」


 と、クリスから当てられる怒りも無視し、俺へずいずい寄ってくる。背が低く、本当に高校一年生なのか疑いそうになる。

 そういえば、クリスとコンビを別れるときに「科学を研究したい」と言っていたことを思い出す。なるほど、興味が湧いたわけか。

 とりあえず、拳銃を手渡す。弾は抜いてあるから、魔術師のイリスでも触れられるだろう。


「これが……なるほど……文献通り……」

「ちょっとカズスケ?なーにイリスと慣れあってるわけ?」


 イリスに拳銃や足に装備している加速器を見せていることに腹が立ったのか、胸倉を掴まれる。


「あ、いや、別に悪いことをしてるわけじゃ……」

「イリスも離れなさい!」

「別に……彼はクリスのものじゃない……」

「それはっ! 確かにそうだけど……」

「まぁまぁ二人とも落ち着い――――」

「そうだ……カズスケ、だっけ? 私と……ペア、組まない?」

「ちょ、ちょ、はぁ!?」


 とんでもないイリスの言葉に、クリスが烈火の如く怒る。

 それも、ぎゃーぎゃー言わずに、下を向いて震えている。


「ね……ちょうど私一人だし……」

「わ、ちょ、困るって」


 イリスは、俺の腕を更に掴んでくる。控えめな胸が、腕に押し付けられる。やはりおっぱいは大きいだけじゃない。

 すると、クリスがイリスを押しのけ、俺の腕を掴む。これまたイリスより少し膨らんだ胸が。

 そして、インパクトのない胸の代わりに、インパクトのあるセリフが飛んできた。


「カズスケは――――私のパートナーよ!」

「え、ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

「そう……じゃあ、諦める」


 渋々離れるイリス。二人は仲直りはまだしていないが、相性は良さそうに見える。


「ちょっと待て、俺は――――」

「何よ、私じゃ……嫌ってわけ!?」

「そうじゃなくてだな」


 もともと俺は、好戦主義じゃない。この学院では出来る限り、普通の高校生活を送りたいんだ。クリスなんかと組めば、戦闘が日常になってしまう。


「でも……カズスケとクリス、お似合い」 

「どこがお似合いだよ、俺はそこまで魔術師と戦えるわけでもないし、戦いたいわけじゃない」

「それでも…あの未納部長に勝つのは……すごい」

「『あの』?有名な人なのか?」

「もちろん……現状、幽化(ゆうか)魔術で彼女を上回る人はいない……」


 幽化魔術、なるほど。文献で読んだことはある魔術だ。自らの肉体も魂へと変換させることで、本質から幽霊に近い状態にまで引き上げる死霊魔術の一種だ。あの白い靄は、魂の残留魔素ということだろう。難度も高いらしく、実際にこの目で見たのは未納と闘う前には一度もない。


「彼女は学内序列四位よ、知らなかったの?」

「よ、四位ぃ!?」


 クリスが常識だというように伝える。クリスは学内序列七位で、俺は新入生。だというのに学内序列四位と十八位のペアに喧嘩売ったということだ。それなら、試合を即受理したのも、観客の多さも、あの強さも納得だ。

 流石に馬鹿なのか、とも思ったがよく考えればクリスは感情で動くタイプだった。相手が強かろうと弱かろうと関係ないのだろう。


「本当に危ないところだったな……それにしても、クリスも良くあんな魔術が使えたな」

「当たり前よ、あれくらい使えなきゃ学内序列七位にはなってないわ」

「いや、そうじゃなくて」


 と、クリスの右肩を親指で少し強めに押してみる。


「ひゃっ!なにす――――」

「お前、魔術起点が傷んでるだろ。そろそろ変換の時期じゃないのか?」

「大正解……新入生……すごい」

「ちょ、イリス!なにばらしてるの!」


 魔術起点は五か所に配置され魔術発動には不可欠だが、何年も使っていると魔素の流れが悪くなってしまう。なので数年に一度、調整師に頼み起点を変換するのだ。前述したように、魔術起点についてはそうそう人に教えない。それは変換期についてもである。

 魔術起点を見抜かれ、更にその変換期までも言い当てられ、クリスは耳まで真っ赤になっている。


「そういえば、あの試合の時だって!」

「このことは……私か、日葉家しか知らないはず……なんで、分かったの?」

「単純というか、ちょっとしたことだ。クリス、朝からずっと右肩を気にしていただろ?」

「な、それだけで!?」

「異常に気にしすぎているきらいがある、そしてハイタッチした時に確信した」


 ハイタッチした時の魔力の流れが、少しだけ不自然になっていたのだ。タイマン試合の時は、魔術起点であってもなくても魔術を停止させるだけの威力は弾丸にあったから狙っただけで、確証はなかった。


「良いパートナー……持ったじゃん……」

「うっさい!イリスはもうどっか行って!」

「それじゃ……またね、カズスケ」

「お、俺っ!?」


 そう言ってちゃっちゃか消えていったイリス。俺にまだ何か用があるのだろうか……

 クリスはイリスの別れ際の言葉にまた怒っているようだった。これからイリスと会っても、クリスに言わない方がよさそうだな。


「あらあらまあまあ、おめでとうございますぅ~」


 休む暇もなく話しかけられる。次にやってきたのは、イリスと対照的に背が高く黒髪が見目麗しい美人だった。言うならば、大和撫子。

 この人は、確かどこかで見たことがある。いつしかのテレビにも取り上げられていたはずだ。


「貴方が新入生の伏見和佑君ですねぇ、クリスがペアで試合をしたと聞いたときは何事かと思いましたよぉ」

「えっと、貴方は確か……」

「申し遅れましたぁ、私、出雲 志麻(いずも しま)と申しますぅ」

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モチベがめっちゃあがります。

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