6.校舎案内
二階には、職員室のほかに、広々とした食堂があった。
正面の大きな窓に並行して 大きなダイニングテーブルが置かれ、その右手奥には大きなキッチン、左手奥にはリビングルーム。
「食事は当番制やで」
ノイズが食堂の入り口の手書きのホワイトボードを指差した。
レオがキッチンを覗くと、業者が使うような冷蔵庫や冷凍庫、巨大なオーブンがずらりと並んでいた。
(レストランの厨房みたい。なんでも作れそう。……俺は無理だけど)
レオは自分がカップラーメンと卵焼きしか料理経験がないことを悔いた。
リビングルームには大きな家具が揃い、ホテルのスイートルームのように豪華だったが、ホテルと違って思いつく限りのゲーム機が勢揃いし、棚にそれぞれのソフトがずらりと並んでいる。
「おおおぉ!」
感嘆の声をあげるレオ。
「ウチのコレクション。使わしたってもええでぇ〜」
ノイズが鼻高々に言うと、スコットが肩をすくめた。
「ノイズは 有り金をほとんどゲームにつぎ込んでるからな。あっちの部屋も全部ノイズのものばっかりさ」
「ええやん、スコットも遊んどるがな。
レオ、ついでにこっちも見たってや」
リビングルームを出て隣の部屋は「ゲームセンター」だった。
「家にゲーセン! 夢みたい!」
いくつの教室をつなげたのか、筐体がびっしり並んでいる。
レオは目を輝かせた。
「遊んでいいの?」
「もちろんですがな〜。すべてのゲーム、お代はいただかんよう心を尽くしておりますのや」
レオは近くにあった 足でステップを踏むリズムゲームに手をかけた。
「お客さん、いいのに目ェをつけてますな」
ノイズがササっと揉み手をしてスタートボタンを押した。
よく知っている起動音が鳴り、プレイヤー人数『1人』を選び、楽曲を選択する画面に移行したところで、レオは手を止めた。
「えっ、なにこれ? 見たことない画面」
戸惑うのも無理はなかった。
知っているはずのゲームなのに、知らないキャラクターが出てきて「私と対戦よ!」と話しかけてくる。
「こんなゲームだっけ?」
「このキャラ、ウチが作った」
「えっ?」
「ほなら、レオの足前、拝見させていただきまっせ〜」
ノイズは勝手に選曲し、画面を進めた。
エレキギターの勢いある和音と共に、レオの隣のステップスペースに、キャラクターが等身大立体映像で飛び出した。
「うわっ!」
レオが呆然と見ていると、すぐに曲が始まった。
「えっ、ちょ!」
とにかく足を動かす。
(なんだこれ! む…難しい!)
聞いたことのない曲に合わせて、ステップを示す光も最初から大雨のように降ってくる。
「ちょ! ちょちょ」
待って、と言う暇もない。
ミスをしてライフゲージがガンガン減り、曲の半ばに行きつく前にゲームオーバーしてしまった。
隣のスペースでは、対戦相手の立体映像が鼻歌を歌いながら超高速ステップで踊り続けている。
「と、いう具合やねん。曲もウチが作ったんやで」
「曲も!?」
(ゲームの中身は全くの自作ってこと?!)
「ちなみに、ここにあるゲームは全部手を加えてあるから、そう簡単にはクリアできないよ」
スコットがおかしそうに付け加える。
「反射神経とか、判断力のトレーニングにはもってこいかもしれないけど、作り手の趣味が反映されてて どれもこれもクセ強め」
そこへ、入り口の壁をコンコン、とノックする音。
トップが壁にもたれて立っていた。にっこり微笑む。
「楽しそうだね。見学は済んだかな?」
キティが嬉しそうに答える。
「トップ! 今、職員室に行くところだったの!」
トップは昨日と変わらず、優しい笑顔でレオに歩み寄ると
「よく来たね。分からないことあったら、いつでも言って」
握手しながら、レオの目を真っ直ぐにとらえた。
やや長めの前髪からのぞくダークグリーンの瞳に吸い込まれるような感覚。
(こんな特技の塊みたいなスタッフのリーダーなんだから、きっとすごい人なんだろうな)
トップはおっとりとした口調でみんなに尋ねるように言った。
「もうすぐランから定期連絡来るんだけど、案内が終わったならレオも一緒にどうかな」
職員室でレオの机を決める。
「ほな、これ。設定しよや」
「パソコン?」
「イスゴのタブレットや」
ノイズから説明を受け、顔や虹彩、血管を登録して認証設定しているうちに、一番奥の大型モニターが音もなく明るくなった。