4.決断
(決めた! トップ達と仕事をしよう)
帰りの車の中、答えはすぐに出た。
(友達もいるし、学校は楽しい……今の生活に不満はないけど)
現状維持よりも好奇心が勝った。
(なんだか分からないけど、やってみたい)
「おかえり」
「ただいま」
葬儀会社が用意してくれたお弁当の残りを二人で もそもそと食べる。
いつもと同じ、父のいない食卓。
(でも、違う)
寒々しい虚無感。
食後、母は熱い紅茶をマグカップいっぱいに淹れてくれた。
「お父さんはね……」
紅茶を飲みながら、亡き父の思い出を語る。
「面白いことが大好きで、活発だったわ」
母の語る父は、レオがこれまで認識していた父となんら変わるところがなかった。
「レオのこと、大好きだったのよ。
お父さん、出張先からいつもレオに手紙を送ってくれたの。覚えてる? なぞなぞをびっしり書いてたわね」
「覚えてる。帰ってくるまでに解かなくちゃって」
「そうそう、ご飯も食べずに解いてたわ。ふふ。
家にいるときも競争してクイズを解いたり謎解きしてたわね」
「暗号ごっこもよくやったよ。二人で秘密の言葉を作ったりして」
「小さなレオを連れて、荷物を持たずに山で何泊かしたりしたわねぇ。ほんとに、危ないったら」
「あれは楽しかった。
ペットボトルロケットを飛ばしたり、割り箸で銃を作ったり、工作も得意だったよね」
「気持ちが子供みたいに若かったのよ」
一通り話すと、レオは切り出した。
「父さんって、変わった仕事してたの?」
「変わった…というより、社外秘にあたる大事なお仕事をしていたみたいね。土地の開拓とか、遺跡の発掘とか」
(開拓と遺跡の発掘。トップ達が何かを集めているのと関係あるのかな)
「お仕事がそんなだから、お父さんの事故のこともいろいろ調査中で、詳しくは教えてもらえないし、遺体もまだ荼毘に伏すことはできないって。
とにかく私たちに早く会わせるために、皆さんが向こうの政府と交渉してくれて、帰国できたそうなの」
「そうだったんだ」
母がテーブルの上に名刺を何枚か並べた。
「これ、お父さんの遺体が帰国した時もらったの。会社の人たちがご挨拶にきてね、レオと話したいって言ってたけど。
今日、何の用事だったの?」
名刺は父が働いていたはずの会社のもので、それぞれに連絡先や肩書き、氏名が印字されていた。
(何から話そう)
「えーと……、学校…じゃなくて事務所みたいなところで、父さんの仕事のこと聞いて、」
「仕事の?」
遺伝子の話はしなかった。
とても信じてもらえる気がしなかったし、レオだってまだ信じられない。
葬儀が終わったばかりなのに、母に余計な心配を増やしたくなかった。
(でも、言わないと)
一息ついて、冷めた紅茶を飲み干した。
「その仕事、父さんがいなくなって、今、手が足りないんだってさ。良ければ手伝ってくれないかって言われたんだ。
それで……まだ学校に行きながらだけど…俺、家を出て働こうと思う」
母は驚いてしばし沈黙していたが、ハッと目を見開いた。
「私ね、ずっとお父さんから言われてたことがあったのよ。
『レオは、きっと十五を過ぎたらやりたいことが出てくる、その時 引き留めてはいけないよ』って。
それが今なのね。
お父さん、勘が鋭いから、思うところがあったんだろうね」
部屋へ戻ると、喪服の上着から聴きなれないメロディが聞こえてきた。
(着信音?)
音を頼りに内ポケットを探ると、見覚えのないスマートフォン。
鳴り続けるので、電話に出る。
「おいっす! 今日はお疲れさん! お母んと話し合いすんだかいな」
独特の訛り。
「ノ、ノイズ? この電話、いつの間に?」
「ええのん、気にせんといてー。ほなら、明日迎えに行くから荷物用意しといてな」
(なんで仕事するって分かったんだろ?)
翌日午後。
ノイズとスコットがやってきて荷物をあっという間に運び出し、レオは廃校の居住者になった。
父の死後、四日目のことだった。