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2.職員室

「ここ、どこ?」


 スコットはレオより背が高く、少し見上げながら尋ねた。


 スコットは東京都の西にある地名を言い、両方の眉頭を寄せつつ同情の笑みを見せた。

「急に連れてこられて心配だよね」

「……え、ええ、いえ……」


(そんなに遠くに来たんだ)


 車内では気づかなかったが、夕陽に透けてスコットの髪が飴色に輝いている。

 切長の目に薄い唇、細い鼻梁。異国情緒あふれる顔立ち。

 クールな印象だったが、笑うときゅっと目が細くなり、年齢は若そうに見える。


 スコットは見た目にそぐわないくだけた口調だった。

「ここ、見ての通り廃校なの。自治体からこの近辺の土地を買い取ったんさ。途中の雑木林のあたりから、全部俺たちの土地だよ」

 レオはスコットの髪が風にサラサラとそよぐのに見とれて、返事をしそびれた。


 ジェニーが挨拶をした。

「慌ただしくてごめんなさい。

 これから、ラボにお父様のご遺体を運ぶのでこのまま移動するわね。私はここで失礼します。また会える日を」

 両手でレオの右手を取って軽く上下に振った。


 温かくて柔らかい手。ジェニーはかっちりした喪服を着ているのに、どこか魅惑的で明るい雰囲気だった。肩より長いウェーブのかかった髪が胸の隆起にかかって揺れている。


(ラボ? ラボって何だ?)


 ノイズがレオの背中をバン!とたたく。

「あんちゃん、ウチとも仲ようしたってな!」


 ノイズはレオより小柄だった。大きな瞳に吊り上がった目尻、大きな口、細い顎。

 細身な身体に、ぴったりサイズの合った黒いスーツ。見るからに敏捷そうだ。


 ノイズはいたずらっぽく口角をあげてニヤッと笑うと

「ウチのこと、男やと思うてない? 先に言うとくけど、女の子やからね? 優しゅうしてな」

 ガハハっと声をあげた。


「お、女の子? こ、これで?」

「これとは失礼やな。ひはは!」

「ご、ごめん」


 

 ジェニーが車で去ると、入れ替わりに校舎の玄関から可愛い女の子の声がした。


「あーっ、こんにちはぁ!」


 簡素なサンダルをつっかけて、少女がパタパタと駆けてくる。


(ど、どういうこと?)


 父の葬儀からこの廃校までの移動ですら 納得がいかないのに、小さな女の子が漫画のようにあたふたと現れ、レオは軽くパニックになった。


 さまざまな疑問を顔に出しながら かろうじて会釈をすると、少女は屈託のない丸い瞳を輝かせ、底抜けに明るい笑顔で

「トップが待ってるよ!」

 レオの腕を取り、校舎へ引っ張った。


「あー、おいおい、初対面だろ」

 スコットがレオの困惑を見てとった。

「あっ、そうだった!ごめんね!

 あたし、キティって言うの。いろいろ教えてね!」

「えっ?」


 レオは思考が一時停止した。

(いろいろ教えてって…、教えてほしいのは俺の方なんだけど)



 校舎内を土足。

 黒い革靴を鳴らして歩きながら、レオは心の整理をした。


(なんで連れてこられたんだろう。

 親父の仕事ってなんだった?

 スコットにジェニーに、ノイズ、それからキティ。

 ハンドルネームか何かだろうか)

 

 思えば弔問客は、国際色豊かで髪の色、瞳の色、肌の色もさまざまだった。

 今、目の前を歩いている三人も日本人ではないのか。


(父さんは商社に勤めていたはず。名刺も持っている。肩書も連絡先もある。

 ちゃんと財布に入って…、)


 レオが尻ポケットの財布に手を当てた時、スコットが階段を上がった先の、大きな引き戸をガラリと開けた。


「うぃーす、帰ったよぉー」

 気の抜けた声で、広い部屋の中に向かって話しかけた。

「連れてきたー」


 レオは見渡しながら、ここは職員室だったのではないかと見当をつけた。灰色の机が向き合ってたくさん並んでいる。


 廃校なのに、机の上はパソコンをはじめとする精密機器が置かれ、超近代的なオフィスが作り上げられていた。


 床は古い校舎らしく、ところどころ木目が裂けていて、壁には「月行事予定表」と印字されている三十一日分の仕切りがある黒板が掛かっている。

 だが、床には機材や電子機器のケーブルや、ジェラルミンケースが積み重ねられていて、部屋の奥に目をやると、宇宙戦艦のコックピットのようにモニターがたくさん並んでいた。


 いろんなものがちぐはぐで、レオは何度も部屋を見回した。


「なに、ここ…」


 レオが驚愕していると、モニターの方から黒い頭がひょいと立ち上がり、優しそうな男性が微笑みながらこちらに歩いてきた。


「いらっしゃい」






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