前日譚
「Take me to Neverland.」
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ずっと むかし、リド は もり の なか に ひとり で すんで いました。
リド は いつも おなか を すかせて いました。
ひとりぼっち で さみしい リド は 1ぽん の き を そだてました。
おおきく なった その き には ちいさな あかい み が なりました。
あるとき、ひとり の しょうねん が、リド に パン を くれました。
リド は よろこんで、おれい に あかい み を さしだしました。
それから たくさん の ひと が リド を おとずれ、リド に パン を くれました。
リド は よろこんで、おれい に あかい み を さしだしました。
ある ひ、ひとびと は おこりました。
リド が、みんな を ころした からです。
「あくま め。あくま め。はやく でていけ。」
リド は かなしんで、しょうねん と ともに でていきました。
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(絵本『リド と あかい み』より引用)
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この町は特別な町。
今からおよそ70年前まで、この町に住む者は皆、何もないところから火を、水を生み出せた。0から1なんてものじゃない。0から100だって作り出せた。そう、それはまるで、さながら魔法のように! 想像したことを現実に落とし込む力を持っていた……らしい。
……それが封印されて70年後の現在。僕たちはただの田舎の少年少女だ。しかし、どうして、ただの無能な田舎の少年少女なわけではない。
「封印」
それは、力が封じられたとか、そういう中二病チックな話ではなく、単に力の行使が禁止されただけである。
「夢幻能力行使禁止法」
この町の法律そのものが、僕たちの血統が、能力が、嘘ではないことを表しているのだ。
そして、ここは「夢見学園」……の敷地内の封鎖された図書館だ。元は高名な研究者のラボだったらしいが、現在はボロボロで、内部の書物は今亡き研究者の遺言で持ち出せないとのこと。
立ち入り禁止のそこは、静かで、広くて、魔法の練習に丁度良かった。
指に火をともす。小さな小さな火は、僕の想像力が乏しいからすぐにかき消えてしまう。この能力は、使用者の想像力に直結しているのだ。だから、もっと、想像力を、丁寧に、丁寧に磨き上げ、形にする。そう、ゆっくりと、火が大きく膨らんで……
ボン、と小さな爆発を起こしたそれに僕は思わず跳び上がってしまった。後ろの本棚に強く背中を打ち付ける。がしゃん。
「やば」
運が悪いことに警備員の巡回時間だったらしい。足早にこちらに近づいてくる音がする。ここは立ち入り禁止の図書館、見つかったら最悪停学……いや、退学だ。大急ぎで出口へと走る。背後から、にゃあん、と聞こえた気がして振り向こうと身体を捻るが、猫の姿なんてない。少しゾッとしたものの、僕は、速やかに図書館から脱出したのであった。