第8話 格闘家
祐樹はつーさんに連れられてゲームセンターに来ていた。
初めてのゲームセンターに心躍らせていた。
「なんだよ、初めてかよ。 いいか茜が欲しがってるぬいぐるみがあるんだ。 それを取りに行くぞ」
「はい!」
2人の意見は一致していた。
中に入ると結構な人数の人がゲームをしていた。
ヤンキーがいるような場所では無いようで安心した。
2人並びにクレーンゲームをしているとつーさんはなんとか1つ取れた。
「あと4種類」
すぐに祐樹が取り残り3種類になった。
「やるな」
その後が長かった。
なかなか取れなかった。
そこへまーさんが現れた。
「お前らもゲーセン来てたんだ。 これ取りたいのか?」
まーさんは中を覗きながら聞いた。
「祐樹ダメだぞ、こいつに頼るな」
つーさんがなぜか拒絶する。
「ふーん。 まぁいいや、頑張れ」
そう言うとまーさんは違うゲームをやりに行く。
「なんでダメなんですか?」
「いいか、やつはクレーンゲームが得意なんだ。 それで茜は毎回まーさんに頼むんだ。 それは嫌だろ? 取られたく無いだろ?」
「取られたく無いです! 頑張ります!!」
「そうだ、俺たちで奴を超えるんだ!!」
2人は燃えた。
そして燃え尽きた。
「あと1種類がどうしても取れない……残金はいくらある?」
「あと200円です」
「俺も300円……2人の金を合わせれば6回できる! やるしかないな」
「はい!!」
500円を投入する。
祐樹が先にやることになった。
ぬいぐるみが持ち上がるが穴には落ちず転がった。
「よくやった! あとは俺に任せろ」
つーさんに変わるとぬいぐるみを持ち上げる。
しかしクレーンが上がるとぬいぐるみは落ちて穴から遠くに落ちた。
祐樹は穴の側に寄せた。
これで取れる確率はかなり上がった。
「すまない、お前はいい弟だ」
つーさんは慎重にクレーンを動かすとぬいぐるみを掴んだ。
しかしまたしても上に上がるとぬいぐるみが転がる。
「ちくしょーー!!」
祐樹は穴のすぐ横までぬいぐるみを持ってきた。
「これでお願いします、お兄さん」
「よし任せろ!!」
つーさんが慎重に合わせる。
「横から見てくれ」
「わかりました。 もう少し奥です」
「わかった」
「オッケーです」
「よし、いけーー!!」
クレーンが下がっていく。
しかし予想外の展開が起きた。
アームが穴を囲うアクリルの壁にあたりぬいぐるみまで下がらなかった。
最後のクレジットが無くなり残金も尽きた。
「終わったな……」
つーさんはクレーンゲームから離れるとベンチに座る。
祐樹も後に続き2人は落ち込んでいた。
その時まーさんが現れる。
「これでいいのか?」
2人が見上げると取れなかった最後の1個を投げて渡した。
「いくら使いやがった!?」
「100円」
「ちくしょーー!!」
つーさんはぬいぐるみを受け取ると祐樹を連れて外に出た。
そこに1人ボロボロの服を着た格闘家と思われるおじさんが立っていた。
「君は格闘技をやるのか!?」
「は? いや、やらないけど」
「強いとお見受けした。 いざ勝負!!」
つーさんはぬいぐるみを祐樹に渡すと構える。
相手は見たことのない構えをしていた。
「いきますぞ」
そう言うと格闘家は摺り足で近付いてくる。
「気持ち悪っ!!」
つーさんはつい本音が出てしまったようだ。
その時格闘家は蹴りを繰り出したがつーさんは足を掴んだ。
「え?」
格闘家の男は振りほどくと距離を取る。
「祐樹、こいつメチャクチャ弱い」
つーさんは困った顔をしながらこちらを向いた。
「男なら本気で相手するのが礼儀だろ」
格闘家の男がそう言うとつーさんは更に困った顔をしていた。
格闘家は前に出るとつーさんを掴む。
つーさんは軽く殴ると相手は倒れこむ。
「えー」
つーさんは流石にこれ以上何も出来ないと思っているようだった。
「私の負けだ。 殺せ」
格闘家の男は大の字に寝転び大きな声で言った。
「いやぁ。 そう言われましても……」
その時不幸にもまーさんが出てきた。
「命断つの少し待ってくれ、彼と戦いたい」
格闘家は立ち上がるとまーさんの前に立ちはだかる。
「なぁ、コーヒーでも飲みに行こうぜ」
まーさんは無視して話しかけてくる。
「あなたは強いとお見受けした。 いざ勝負」
格闘家の連続の突きを全て躱すとここでようやく格闘家の男に目を合わせた。
「お前死にたいのか?」
格闘家の男は震えながら一歩ずつ下がっていく。
「いや、こんな不良を野放しにしていたらこの世界は終わってしまう。 私は世界を平和にする為に格闘技を極めたのだ」
そう言うと男は構える。
「いくぞ!!」
その時パトカーが入ってきて警官が降りてくる。
「いたいた、はい、君ちょっと来てもらうね。 あれ? 君たちも勝負挑まれた? 怪我は……なさそうだね」
警官はまーさんとつーさんと祐樹を見て言うと格闘家の男をパトカーに乗せて走り去っていった。
「なんだったんだ?」
流石のまーさんも呆れていた。
つづく?