第15話 アイドル
祐樹は繁華街をつーさんと2人で歩いていた。
「もうすぐ着くな!!」
つーさんははしゃぎながら勇気をバシバシと叩く。
こうなったのは1日前の学校での事だった。
祐樹がトイレに行こうと歩いていると女の子を男の子達が囲んでいた。
「おい、サインくれよ」
「てかさ、俺たちに付き合えよ」
あれは隣のクラスの女の子でアイドルをやっている相澤さんだと気がついた。
たまにしか学校に来ないが来たら来たで男子にも女子にも囲まれる。
「おい、あれいじめか?」
祐樹の背後から声が聞こえる。
「つーさん!!」
祐樹が少し大きい声で言うと向こうにも聞こえた様でみんながこっちを向く。
「おい、あれはいじめかって聞いてんだよ」
「はい……そうだと……」
つーさんは男の子達の頭を持つとそのまま力任せに壁にぶつけて倒す。
残った男の子達は走って逃げて行く。
「大丈夫か?」
つーさんが女の子の顔を覗き込むと女の子はつーさんを睨みつけた。
「あんたも私の体が目当て?」
「いや、そういう訳では……弱いものイジメが嫌いなだけだ」
「私が弱いと言うの!?」
「いや……そういう訳では……相手の方が人数が多かったし、女の子だし」
「男女差別?」
「違う違う!! そう言うのじゃない!! 兎に角何かあったらあいつに言ってくれれば俺が駆けつけるぜ」
「なぜあの人をいちいち通さないといけないの? あなたに直接言えばいいじゃない?」
「えっと……そうですね……2年の吉田です。 妹がいます」
「え!? 先輩!? あ、あのすいません……私は相澤です。 吉田さんのお兄さんだったんですね……彼女は優しくしてくれます」
相澤さんは慌てて頭を下げる。
「……かわいい」
つーさんは呟くとハッと我に帰る。
「違う違う!! 今の変わり身が可愛らしくてつい……」
「あ、ありがとうございます!!」
それだけ言うと相澤さんは走り去った。
「祐樹!! 俺は彼女を落としてみせる!!」
変な宣言をされたので祐樹は黙ってトイレに向かった。
トイレから出るとつーさんが待ち構えていた。
「トイレの中まではついては来ないんですね」
「流石にそれはキモいだろ? それよりも相澤さんのこと教えてくれよ!!」
「僕もあんまりよく知らないんですよ。 隣のクラスでアイドルをやっていることくらいしか……」
「アイドルだと!? それで可愛かったのか……」
「えぇ、でも少し特殊なグループなんですよ」
「どんなグループなんだ!?」
つーさんは明らかにテンションが上がっている。
「闇系アイドルです……」
「はぁ? なんだそれ? 黒いのか? 闇だから黒いのか!?」
「知らないです。 興味ないですし」
「なんで興味ないんだよ!! アイドルだぞ? 闇系だぞ? なんだろって思わないか?」
「いや、それは思いましたけれど……それ以上は興味なくて。 それどころか彼女の存在すらほとんど忘れてましたよ」
「マジか!? お前もしかして2次元しか愛せないのか?」
「いや、茜ちゃん一筋なだけです!!」
祐樹は照れながらも答える。
「まぁ、お前に茜は渡さないがな!! 俺は茜の全てを見たことあるんだぞ!!」
「いや、まぁ、そりゃぁ……ね」
「なんだ? 風呂入ったこともあるんだぞ!?」
「ですから……兄弟ですからね」
「トイレの中までついていこうとしたぞ!!」
「それは単純に引きます。 兄弟でもそれはアウトだと思います」
「一緒にご飯食べてるんだぜ!!」
「それは僕も経験ありますよ……てかなんで最後にそれを持ってきたんですか!?」
「え、ご飯を一緒に食ったことあるの!? 一緒の箸を使ってか!?」
「それは無いですよ!!」
「フフフ、俺はすでに茜マスターなのだ!! ひれ伏すが良い」
「いや、ストーカー兄貴ですね……」
「祐樹、お前この前俺が身代わりに使ったこと根に持ってやがるな?」
「えぇ、そうです。 まーさん派になりました」
「お前まで……言っとくがなまーさんは人望はないんだよ!!」
「でも変態よりマシです」
「お前も言うようになったな!! それでこそライバルだ!! 一緒にサッカーで甲子園目指してガバディしような!!」
「いや、訳がわからないので……それよりも彼女の事知りたいんですよね?」
「え? あ、あぁ」
「あそこから見てますよ……」
祐樹はつーさんの後ろの廊下の曲がり角を指差す。
「おっ!? マジか!?」
つーさんが振り向くと相澤さんの姿は消えた。
「あれ? いねぇな……よし教室まで行ってみようぜ!!」
つーさんに引っ張られて勇気もとなりのクラスの教室に入る。
「おー、いたいた」
教室ですでに女の子たちに囲まれていた。
「相澤ちゃん!! 人気者だねぇ、それよりちょっと話いいかな?」
女の子達はつーさんにビビって道を開ける。
つーさんは相澤さんの手を取るとそのまま廊下に出る。
教室から離れたところで止まると向かい合う。
「話聞いてた?」
「えぇ……まさか妹萌えとは思わなかったですけれども……」
「それは誤解だ。 それを正したかったんだ。 あれは兄弟愛であって恋愛対象ではない!! ただ兄弟愛が少し強いだけなんだ」
「そ、そうなんですね……」
かなり微妙そうな顔をしている。
「だから俺は君だけしか見てないと伝えたかった。 それと教室で絡まれてるのをみて助けたくなった」
相澤さんは下を向く。
「あ、ありがとうございます……」
「さっき聞いたんだけどさアイドルやってるんだって? 凄いな!!」
「え? 今まで知らなかったんですか?」
驚きながら顔を上げる。
「あぁ、知らなかった。 しかし闇系アイドルってなんだ?」
「……知らないのに助けてくれたんですか?」
「え? 当たり前だろ?」
「そうなんですか……ちなみに将来は何か考えていますか?」
「将来? うーん、親父の跡継ぐくらいかな?」
ーーこの時相澤さんは運命を感じたと後に語っていた。
「あの……良かったらこれ見に来てください。 あの彼と2人で」
そう言うとつーさんにチケットを2枚渡す。
「あー、ありがと。 でも何だこれ?」
「闇系アイドルが何かきになるなら見に来てください!! そうすればわかると思います」
ニッコリ笑うと相澤さんは走り去った。
つーさんはその場で立ち止まっていたがすぐに祐樹の元に来た。
「明日暇か!?」
こうして2人でライブを見に来た。
「こんな地下でやるのか?」
ライブハウスに続く階段を下りるとチケットを2枚渡し中に入る。
小さな舞台があり客席は特になかった。
「おい、大丈夫なのか?」
「どうでしょう?」
明らかに2人は浮いているように見える。
みんなは応援の練習をしたりそれぞれ好きな女の子の法被を着たりしている。
つーさんはファンの人たちを見ていた。
「君は初めて来るのかね?」
おじさんがつーさんに話しかけてきた。
「え!? あー、はい。 初めてですね」
つーさんは素っ気なく答える。
「君は情熱を燃やしているのか!? 私は普段部下達の世話に明け暮れて荒んでいく心を癒して貰う為に毎回きているのだ!!」
「あ……そうなんすか……」
「君はなぜここに来たんだ!?」
「え? チケット貰ったから……」
「チケットを貰っただと!? 誰から貰った!? 関係者か!?」
「え!? いやぁ……多分?」
「多分だと!? うん? 君は学生かい?」
「そうっすよー」
「なんだそうか……すまなかった、私は学生に対してなんと言う事を言ってしまったんだ……てっきりニートだと思った……君が学生ならもしかして……彼女達の誰かだな!!」
「はぁ?」
「いいんだ、何も言うな!! 前に行け!! 最前列だ!!」
「ちょつ!? は!? え!?」
つーさんは最前列のど真ん中に立たされる。
音楽が鳴り始めると客は歓声を上げる。
祐樹は1番後ろでひっそりと立っていた。
ライブが終わるとなぜかファンのみんなはつーさんと握手を交わしていく。
「疲れた、もう二度と来ない」
つーさんは少しゲッソリしたようだった。
「今日来てくれたんだね、ありがと」
2人が振り向くとセンターで踊っていた女の子がステージから降りてきた。
「あぁ、どうも……」
「私の名前覚えてくれた?」
「えっと雅さん?」
「そうだよ。 みやびだよ、改めてよろしくね」
微笑みに2人はニヤけてしまう。
「いやぁ、いいチケット貰ったな。 明日相澤ちゃんにお礼言わないとな」
つーさんが祐樹の肩をバシバシ叩く。
「お礼言ってくれるの? じゃあまた明日会ってくれるのね!! じゃあ明日学校行かなきゃ」
雅は嬉しそうに言う。
「えっと……相澤さん?」
「うん」
「マジっすか!? 気がつかなかった、いやぁ普段とはまた違った雰囲気だね。 いや、これはこれでアリだな」
つーさんがマジマジと見ていると雅は頬を赤く染めていた。
「普段……化粧しないから」
「マジで!? それであのかわいさか!!」
「あ、ありがとう……ございます」
「いいなぁ、可愛いなぁ」
といいながら頬っぺたをツンツンし始める。
「ちょっ!! つーさん!?」
祐樹が慌てて止めようとするが雅の手が伸び祐樹を止めると睨みつけ手に力を入れる。
祐樹が手を引くと離される。
当然つーさんには見えていない。
「ありがとうございます。 つーさんもカッコいいです」
「おっ!? そうか!? ありがと」
2人は祐樹の事を忘れていちゃついている。
祐樹は呆れてその場を後にした。
続く?




