第1話 出会い
僕はいつもクラスの端っこで友達と仲良く話しているのが楽しかった。
そんな僕にも好きな女の子がいる。
背が低く胸も小さい女の子。
茜ちゃんだ。
彼女は長い髪をいじりながらぼーっとしていた。
いつもなら友達と話をしているはずなのに今日はひとりぼっちだった。
祐樹は気になりながらも彼女を見ていた。
当然友達の話は上の空だ。
その時彼女はこちらを向いた。
祐樹はビクッとなったが彼女は微笑むと席を立ち歩いて行った。
「……かわいい」
「はぁ? 何がだ?」
友達が祐樹の視線を追うがそこにいたのは背の高いイケメンの男だった。
「そ、そうか……あれはどちらかというとカッコいいだと思うけどな」
友達はそう言い残すと祐樹から離れて行った。
「え!? いや、違うよ! 彼じゃないよ!」
祐樹は言い訳するが相手は笑いながらトイレに駆け込むと水道で顔を洗っていた。
祐樹は声をかけるのをやめて教室に戻るため廊下を歩いていた。
階段に近づいた時声が聞こえてきた。
「もうやめて、本当に嫌」
これは茜ちゃんの声だと祐樹は思いゆっくり階段を上る。
「いや、そう言われてもな……」
男の方の声も聞き覚えがある。
1つ上の学年の不良、まーさんつーさんのつーさんだ。
「あのね、本当に迷惑なの。 友達も離れて行くの、もう関わらないで」
茜ちゃんははっきりと言うと階段を降り始める。
「待てよ」
つーさんは茜ちゃんの手を掴んだ。
祐樹はその時何も考えずに階段を上がると2人の前に姿を出す。
「やめろ、嫌がってるだろ」
「あぁ!? テメェ誰だ? 茜の同級生か!?」
怖い。
恐怖で全身が震えだす。
その時足音が聞こえた。
「お、下級生いじめてんの? 楽しそうだね。 混ぜろよ」
まーさんも現れた。
「いじめてないけどさ、なんか急に現れた」
「マジか、かっこいいじゃん! おもしれぇからタイマンしてやろうか?」
「あ、あの……かの、彼女から手を離せ!」
「あぁ、彼女ねぇ。 おもしれぇ、俺の拳がいかれるかお前の形がなくなるまで殴ってやるよ」
まーさんはケラケラと笑いながら壁に収納されている防火扉を殴る。
拳がどけられると防火扉は拳の形にへこんでいた。
その時祐樹は殺されると思った。
しかし逃げようにも体は全く動かない。
「やめてよ、彼は関係ないわ」
「そうだよ、それにお前の拳が壊れるまでって……どんだけだよ」
爆笑しながらつーさんは言う。
まーさんは笑みを浮かべながらゆっくり歩いてくる。
祐樹は一歩後ずさるがそこで踏みとどまる。
「うぁぁぁぁぁあ!!」
叫ぶとまーさんに向かって走り出した。
彼女の前では絶対に逃げない。
それだけの思いで体当たりをする。
しかし相手はビクともしなかった。
祐樹は殴りかかる。
初めて人を殴った。
しばらくすると疲れ果て祐樹は座り込む。
「おい、お前名前は?」
まーさんはしゃがみこむと聞いてきた。
「祐樹……です」
「そっか、そっか。 いやぁ、お前面白いや。 彼女の事よっぽど好きなんだな」
爆笑している。
ものすごく恥ずかしくなった。
すると後ろからつーさんも寄ってきた。
「いやぁ、愛の力だね。 あいつに向かって行ったら確実に負けるの分かってるのにさ、お前なかなか勇気あるな、気に入った、妹と仲良くしてやってくれ」
つーさんは手を差し出してくれたので掴むと立たせてくれた。
「はい、妹さんと仲良くさせていただきます」
なぜか誇らしげに祐樹は答える。
「……え? 妹?」
そこで祐樹は気が付き、茜ちゃんの方を見てからつーさんを見た。
「そ、俺の妹。 いやぁ、俺の手作り愛情弁当を渡そうとしてるんだけどな嫌がるんだよ。 わかるだろ、このお兄ちゃん愛がさ」
「はぁ……」
「お兄ちゃん黙ってて!!」
茜ちゃんは呆れている様だった。
「面白いもん見たし帰ろうぜ、またな祐樹」
まーさんはそういうとつーさんを引きずって帰って行った。
「祐樹くん本当にごめんね。 多分彼らは手を出す気は無かったと思うから」
「いや、いいんだよ。 無事で良かったよ……」
「あ、あの……」
「はい!!」
祐樹は背筋を伸ばして答える。
「もうすぐ授業始まるから教室に戻ろうよ」
「は、はい……」
少しがっかりしながら2人は教室に戻った。
そして告白できるわけもなく、まるで何事も無かったかの様に日常に戻っていく。
ただ一つを除いては。
「おーい、祐樹、お前にも弁当作ってやったから食えよ! 妹のとは別物だからな!」
「おい、祐樹告ったのか? まだなのか? 面白くねぇなぁ。 シバいていい?」
まーさん、つーさんが懐いたのだった。
つづく?