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六話 ナウブールへの道のり

~~~~~~~~~~ 登場人物 ~~~~~~~~~~


●イアン・ソマフ

この小説の主人公。女性の容姿を持つ少年。髪の色は水色。

戦斧を武器とする冒険者。

イライザ本人の依頼を受け、彼女を護衛している。

女性にしか見えない容姿のせいか、同性に言い寄られたり、女性の服を着せられることがある。

そして、紆余曲折あって現在は、セーラードレスというワンピースのような服を着ている。


○イライザ

外見も性格も緩く明るい雰囲気の少女。髪の色は明るい橙色。

フォーン王国の貴族で、今回の観光旅行にイアンを使命した人物。

明るい性格とは裏腹に言動に謎が多く、その存在にも謎が多い。




 イアン達がペジ村を出発した日の昼頃。

彼らの姿は、ペジ村から南東へ進んだ所にあった。

そこは草原の上である。

見晴らしがよく、北西に目を凝らせば小さくなったペジ村を眺めることができる。

彼らは、トップニウスからペジ村までは道路の上を通り、町村を移動していた。

しかし、今は道路を利用せず、次の目的地であるナウブールの町を目指している。

道路を利用しないということは、安全に旅をする保障はないとうこと。

自分達で進む方向を把握する必要があり、道路を進むよりも魔物との遭遇率が各段に上昇するということだ。

何か理由が無い限り、道路を利用して旅をするのが無難と言える。

今、イアン達は道路を利用しなかった弊害を受けている最中であった。


「……なんだ、こいつは? 」


イアンの口から、疑問の声が漏れる。

彼は戦斧を左手に持っており、後方へと跳躍している。

その跳躍が行われる前の彼が立っていた場所に、緑色の半透明の物体が落下した。

ドスンと音を立てたそれは、丸い形をしている。

顔や手や足などは見当たらないい。

この時、イアンは、初めてこの存在を見たのだった。


「それは、草原スライムだよ。一応言っておくけど、魔物だよ」


イアンとは離れた場所にいるイライザが言った。

戦いに巻き込まれないようにと、イアンと魔物から離れているのだ。


「押しつぶそうとしてくるから気を付けて」


「今、気を付けている最中だ」


跳躍と落下により、イアンを押しつぶそうとする草原スライム。

大きさはイアンを包み込めるほど。

押しつぶされてしまえば、怪我はおろか死ぬ危険もあるだろう。

イアンは押しつぶされまいと、草原スライムの攻撃を躱していた。

しかし、彼は逃げるつもりはなく、倒すつもりでいた。

そのため、草原スライムが落下した瞬間を狙って、接近する。

そして、戦斧を振り下ろして叩きつけた。


「うおっ!? 」


結果、イアンの戦斧は草原スライムを切り裂くことも、傷をつけることもなかった。

戦斧は草原スライムの柔らかく弾力のある体に、ボヨンと弾かれたのだった。

与えたダメージはゼロであろう。


「あ、スライム系統の魔物は基本、武器の攻撃は通りにくいからね。ちなみに、弱点は中の核」


「いつも言ってる気がするが、言うのが遅い。ならば……」


イアンは左手を下ろすと、今度は右手を前に突き出した。

その右手は何も持っておらず、拳は握りしめられている。

ただのパンチであった。

勿論、草原スライムへのダメージはない。

しかし、イアンはただパンチをしたつもりではない。


「こいつはどうだ? リュリュスパーク! 」


この直後、イアンの右手が緑色の光に包まれる。

その緑色の光の正体は、(いかづち)である。

右手から緑色の雷が発生したのだ。

発生した時間は、瞬きをするよりも短い間であった。

その短い時間で、雷は草原スライムの全体を駆け巡る。

緑色の光が消えた後、草原スライムは緑色の液体となってはじけ飛ぶ。

雷が体内の核へ届き、焼いて破壊したのだ。


「うおっ、びっくりした」


無表情でそう言うと、イアンは体についた草原スライムの体液を払い落しにかかる。


「おお、すごい! イアンさん、魔法が使えるんだね! あと、核を破壊したら、体液が飛び散るから気を付けて」


離れていたイライザが近寄ってくる。

先ほどのイアンの緑色の雷を見て興奮したのか、上機嫌であった。


「だから、言うのが遅い」


「あはは、ごめんごめん」


呆れるように半目で睨み付けてつけてくるイアンに対し、イライザは笑顔であった。

恐らく、反省はしていない。

そう思いつつ、イアンはいつもの無表情に戻る。


「魔法が使える……おまえが思っているものとは違うがな」


「どういうこと? 」


「うぅむ? 魔法の仕組みはよく分からん。ただ言えることは、今使った魔法は、オレの魔法ではないことだ」


「んんっ!? ますます分からなくなちゃったよ」


笑顔から一転、イライザの表情が曇り出した。

それと、同時にイアンも僅かに表情を曇らせる。


「特殊でな……誰かが使う魔法を呼び出す。というような感じらしい」


イアン自身もよく分かっていないことである。

そのため、どう説明をしたら伝わるのか悩んでいるのだ。


「他にもあるが……ああ、そうだ。回数制限があってな。今のは、日に三回……いや四回できる。つまり、今日はあと三回だな」


「うーん……うん、よく分かんないや。まあ、回数があるってことには、私も気を付けといたほうがいいかもね」


「そう……だな。使い切った後に当てにされても困るからな」


「そうそう。それで、誰かが使う魔法を呼び出す……って言ってたけど、誰かって誰のこと? 」


「……妖精だ」


イライザの問いかけに、イアンはそう答えた。

少し間を置いてから答えたのは、伝わる自信がないからだ。

この世には、妖精と呼ばれる存在がいるのだが、まず人前には現れない。

それでも伝説に残っていたり、民話などの本に登場することもあって言葉だけは知られている。

つまり、大半の者が妖精を伝説上の存在という認識している。

イライザが妖精という存在そのものを知らないか、それとも伝説上の存在であるが故に信じないか。

そのどちらかであろうとイアンは思っていた。


「……何それ? 」


結果、前者であった。

彼女の返答を聞き、イアンは空を見上げ――


「……ふわふわした連中のことだ」


と、一言だけ言った。

それ以上言いたくはなかった。

イアンは、冒険者となってから、複数の妖精達と会ったことがある。

その度に契約を行い、彼女達が扱う魔法を呼び出せるようになったのだ。

妖精達がどのような存在であるか。

出会ったことのあるイアンにも、よく分からないことであった。

分かっている範囲を説明しようにも、それも難しく、言いたくないと思っているのだ。


「なるほどね。少しだけイアンさんの謎について、知ることができた……かな? 」


イアンの気持ちを察したのか、イライザは妖精について追及しなかった。


「……ほう。ならば、イライザ。今度は、おまえのことを教えてくれ」


イアンがイライザについて知ることは少ない。

フォーン王国の貴族で、自分を知る貴族とキキョウに面識がある。

このくらいのものだ。

彼にとっては、未だに謎の多い人物である。

故に、イアンは、この機会に少しでも謎の部分を無くしたいと思っていた。


「ふーん、いいよーどんなことが知りたいのかな? 」


「うむ、ならば……」


イライザに嫌がる素振りは見られなかった。

そのことが意外であり、イアンは内心驚いていた。


「貴族とは、一体何をする者なのだ? 」


「階級とか個別で違うけど政治かな。まあ、良い国にするにはーを考えたり、したりするんだよ」


「ほお、そうなのか! 知らなかった」


イライザの返答に関心するイアンだが、それほどのものではない。

貴族の役割をざっくり説明しただけで、大半の者が把握していること。

つまり、イアンが知らなすぎなだけである。


「聞いて良かった」


そして、貴族についてはこれで満足するのだった。

普通なら、これから深い部分を聞いていくところであろう。


「貴族についてはもういいんだね。じゃあ、あとは何かある? 」


「では……父と母について聞いてもいいだろうか? 」


「うーん、それは後々話すよ」


「ん? どういうことだ」


「ちゃんと言うよ。でも、まだ言わない」


イアンにとって、父と母については雑談のようなものであった。

答えても答えなくてもどちらでも構わないことである。

しかし、イライザはいつか話すと言うのである。

今ではなく、後で言うという意味がイアンには理解できなかった。


「さて、他にあるかな? 」


「いや、もういい」


まだ質問を受け付ける意志のあるイライザ。

彼女に対し、イアンは自ら質問を打ち切った。


「ありゃ? なんでかな? 」


「互いに言葉では伝えきれないこともあるだろう」


「まあねぇ」


「だから、自分の目で判断することにする」


言葉ではなく、行動で判断する。

イアンはそのつもりであった。

イライザの言葉は信じないと捉えることもできるがそうではない。

謎は彼女自身が解決してくれると信じ、彼女の人格は自分で判断すると言ったのだ。

依頼人であり護衛対象、そして共に旅をする者が自分にとって良い人物であるか。

それがイアンにとって大切なことであるが故のことである。


「……じゃあ、イアンさんの目には、今の私はどう見えているのかな? 」


イライザに、イアンの意志は伝わっているようであった。

彼の意志を知った上で、彼女は聞いたのである。


「色々と思うことはあるが、悪い奴じゃない……そう見えている」


イアンは自分の目に、真っ直ぐに視線を向けてくるイライザに、そう答えた。

彼が口にした言葉は、他人を褒めるような言葉ではなかった。

それでも、イライザにとっては嬉しいと思える言葉であったのだろう。


「そう? なら、良かった! 」


イライザは、いつもの力の抜けた表情のまま、微笑んでいた。








 「まさか……これほどとは……」


ふらふらとおぼつかない足取りで歩いていたイアンは、崩れるように腰を下ろした。

そして、顔を下に向けて項垂れる。

今、この時間は日が昇り始める頃である。

つまり、早朝だ。

ペジ村を出発してから今まで、ずっと歩き続けていたのである。


「うーん、久々の太陽って感じだね~ちょっと休憩しようか」


イライザは座り込むイアンの横で、朝日を眺めていた。

疲労困憊(ひろうこんぱい)のイアンとは異なり、彼女に疲れている様子は見られない。


「あれだけ歩いたというのに、元気な奴だな……」


そのことをイアンが指摘する。


「体力には自信があるんだよ。それに、イアンさんは戦ってたから」


彼女の言葉を聞き、イアンは昨夜のことを思い返す。

昼の間にも魔物と遭遇していたが、夜はその比ではなかった。

魔物には夜行性の種が多く、凶暴であるからだ。

夜の間、イアンは暗闇の中を進みつつ、襲ってくる魔物を撃退していたのだ。

ただ魔物を撃退するのではなく、護衛対象のイライザを守る役目もある。

いつも以上に神経を使いながらの戦闘を何度も行い、今の疲労困憊に繋がるのだった。


「夜の怖さを身を以て知った。あんなのは、二度とごめんだ」


イアンは、激しく首を横に振る。

思い出すだけで疲れてくるので、頭の中から早く消し去りたいと思っていた。


「でも、すごいよね、イアンさん。あんな真っ暗な中で、魔物をバッタバッタと倒しちゃうんだもん! 」


戦うイアンの真似をしているのか、腕を激しく振り回すイライザ。


「すごい……って、オレがやれるかどうかも分からないのに、よく夜中に移動するなんてしようと思ったな」


「いやーチイシ村には寄らないって決めてたからね」


ペジ村とナウブールの町の間には、チイシ村があった。

今、イアン達のいる場所は、その村の東へ進んだ位置にあり、既に通り過ぎている。

夜間も通して歩き続けていた彼らは、その村には入っていない。

入らない理由があり、それにはイアンが関係していた。

青い髪の少女の始末、その依頼が受けた冒険者がいる可能性があるからだ。


「違法冒険者……とやらか。しかし、ナウブールという町にもいるのではないか? 」


「いるかもしれないけど、数は少ないだろうから大丈夫。王都から離れてるから、冒険者の数も少ないはずだからね」


「そういうものか? 」


「そういうものって考えないとキリがないよ」


「……そうだな」


イアンはそう言った後、大きく息を吸い込み、大きく息を吐いた。

今は休憩中ということを思い出し、力を抜いて体を休ませることにしたのだ。


「眠い……」


体の力を抜いたことで、眠気がやってくる。

ほどなく、イアンはうたた寝の状態となった。

意識が無くなったり、戻ったりを繰り返すことになる。


「……あー馬車だ……なー、私も……りたいー……」


そんなイアンの横では、イライザが何かを喋っていた。

どうやら、彼女は馬車を見つけたようであった。

イアンにとっては、どうでもいいことで、特に反応することはなかった。


「……れ? 何か……くない? 」


しかし、イライザの言葉は段々と雲行きの怪しいものとなっていく。


「……あ! あの馬車、襲われてる! 」


「なにっ!? 」


そして、彼女の言葉を聞き、イアンの眠気が吹き飛んだ。

馬車が襲われていると聞こえた。

つまり、人が襲われているのだ。

ただ事ではなく、休んでいる場合ではなかった。

彼が目を開けると、イライザが言っていた通り、馬車を発見することが出来た。

視界の奥に、幌が付いた荷車に乗る人影と、それを引く馬の姿が見えるのだ。

今、その馬車は動きを止めており、周囲にいくつかの影がある。


「……賊か」


その影は人の形をしていた。

片手に剣か何かを持っており、じわじわと馬車へ近づいていく様子が見れる。

賊と見て間違いはないだろう。

馬車は賊に襲われているようであった。

そして、馬車の近くにも自分達の周りにも騎士や冒険者といった人物は見られない。


「イライザ、少し寄り道をしてもいいか? 」


隣に立つイライザに訊ねる。

自分達しか馬車を救う人物がいないのだ。

しかし、今のイアンはイライザを護衛している最中である。

彼女の許可なくしては、馬車を助けに行くことはできなかった。


「えーやだなぁ」


彼女の言葉に、イアンは一瞬だけ凍り付いたかのように体の動きが止まった。

しかし、これはイアンの早とちりと言うべきだろうか。


「人助けを寄り道だなんて言ってほしくはないなぁ」


彼女は、すぐにその言葉を付け足した。

思わせぶりに言っただけであった。


「これから、あの馬車のある所を通ろうと考えてたんだ。だから、寄り道じゃあないよ」


イライザはそう言うと、馬車に目掛けて走りだした。


「……守られる奴が護衛より先に行ってどうする」


彼女に続いて、イアンも走り出した。

馬車へと向かう最中、イアンは全力で走り続ける。

それでも、目の前のイライザを追い抜くことはできなかった。

そんな彼女を危ういと思いつつ――


「ふっ……」


イアンは笑みを零すのだった。




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