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三十三話 明らかになる正体と偽りの名

 ホックスタップ大森林地帯。

その中で繰り広げられた二人の戦いは決した。

勝者となったセアレウスは、敗者の元へと向かう。

その敗者は今、セアレウスの操る水の球体によって、首から下が包まれている。

そんな状態で高い場所を浮いていたのだが、徐々に地面へと下がってゆく。

セアレウスが足を止めた時、彼女の目の前には戦いの敗者――ローブの者の顔があった。

その者は全身がローブに包まれており正体不明であった。


「聞きたいことはありますが、まずは顔を拝見させていただきます」


そう言って、セアレウスは目の前の人物の顔を覆い隠すフードを取り払った。


「女の子……でしたか」


すると、セアレウスはそう呟いた。

まず、彼女の目に入ったのは、鎖骨に届くほど長い銀色の髪と、凛としつつも幼さを感じる顔。

それらの特徴から、ローブの者の正体は少女のようであった。

恐らく。セアレウスよりも背丈が一回りほど小さいことから、彼女より歳は下になるだろう。

彼女は今、拘束されて身動き一つ取れず、敵であるセアレウスに顔を見られた状況である。

非常に危機的な状況だ。

しかし、この状況の中、彼女は微動だにしなかった。

髪と同じく銀色の瞳をセアレウスの顔に向けるのみである。


「うっ……」


セアレウスは、呻き声を漏らした。

少女の瞳には、何かしらの力を宿している。

ふとそんな気がして、思わず少女の瞳から視線を外したのだった。


「……? 何しているの? 聞きたいことがあるのでは? 」


見ているばかりで何もしないセアレウスに、少女は問いかけた。


「あ……すみません。そうでした」


「すみませんって……うーん、調子狂うなぁ……」


敵に謝るセアレウスに少女は、やれやれと首を横に振るった。


「ほら、お得意の洗脳魔法を使って、ちゃっちゃと聞けばいいじゃない」


「え? 」


セアレウスは、思わず声を出した。


「も、もう一度、さっきの言葉をお願いします」


「はあ? 聞こえなかった? とっとと、洗脳魔法を使えばいいじゃないって言ったんだよ」


怪訝な表情を浮かべる少女。

彼女は、セアレウスが何を考えているのか理解できなかった。


「あ……はい、ありがとうございます」


「え……う、うん。ん? 」


さらに、セアレウスが礼を言うので、ますます少女は分からなくなる。

そんな彼女とは異なり、セアレウスは少女の正体について、おおよその推測が出来ていた。

その推測は、ほぼ確実と言えるほど、彼女の中では自信があるものである。

自信の裏付けというのは、少女の発言だ。

少女は、セアレウスに洗脳をかければ良いと言ったのだ。

グリーンローブの一員とは思えない発言だ。

故に、セアレウスは少女がグリーンローブの一員ではないと推測していた。

では、少女は一体何者なのか。


「あなたは、エクシリユスさんですか? 」


それをセアレウスは、単刀直入に訊ねた。


「……その名前を誰から聞いたの? 」


すると、エクシリユスかどうかは答えることなく、少女はセアレウスに訊ねた。

セアレウスは、フードの影からチラリと少女を見る。

少女の神妙な顔つきと、ギラリと光るような彼女の相貌が視界に入った。


(なるほど……)


答えは少女の口から聞くまでもなかった。

この反応を見れば、自分がエクシリユスであることは明白であったからだ。


「イライザさんです」


セアレウスは、少女に対して素直に答えた。

最早、隠したり偽る必要がないからだ。

しかし――


「出た、イライザ」


「え……? 」


「そのイライザというのは、一体誰のこと? さっきから、ずぅーっと、気になっていたの」


「なっ……!? そんな馬鹿な」


セアレウスは、イライザの名前を口にしたことを後悔する。

少女がエクシリユスであるのは、セアレウスの中では確実である。

エクシリユスは、イライザが呼んだ助っ人ということもあって、彼女のことも知っているはずだ。

だが、そのエクシリユスはイライザを知らないと言うのだ。


「あり得ない……エクシリユスさんであるなら、知っているはずです……」


予想外というのが、今のセアレウスの状況を表す言葉として当てはまるだろう。

ここにきて、目の前の少女がエクシリユスではない可能性が出てくるなど、セアレウスには考えられないことであった。

故に、彼女は混乱。

思考は停止し、半開きの口は開いたまま。


「……そのイライザは、エクシリユスとどういう関係なの? 」


そんなセアレウスに、少女は問いかけた。


「え、えーと……雇い主……とか? 」


その問いかけに、素直に答えてしまうセアレウス。


「……まあ、合ってるかぁ。なるほど」


少女は意味深な反応をした。

この時、セアレウスはこの少女の反応を見逃してしまっていた。

それほど、今の彼女は余裕のない状態であった。


「いや、何でも。それより、あなたに興味が湧いてきた。私はともかくとして、あなたは一体何者なんです? 」


「……セアレウスです」


「セアレウス……さん、ねぇ。あなたが? 本当に? 」


「本当です」


「じゃあ、顔を見せてもらおうかな。いいでしょ? 私はもう何もできないし」


「う……」


この少女の要求に聞き、セアレウスはピクリと体を震わせてしまう。

しかし、それは一瞬だけであった。

つまり、セアレウスが判断を下すのが早かったのだ。

言い合っていても話は進展しない。

少女の要求に刺激され、混乱し停止していたセアレウスの思考は働き、その結論に至ったのだ。

セアレウスは、少女の言う通りに頭のフードを取り払う。


「青い髪……」


少女はセアレウスの頭部、特に彼女の髪を凝視する。

この後、少女がどうでるかで、セアレウスの行動は変わる。

セアレウスも自分を凝視する少女の顔を、緊張の面持ちでじっと見つめていた。


「え? 本当にセアレウスさん? 」


「へ? あ、はい」


この会話の後、およそ五秒間ほど二人の間に沈黙が訪れた。


「うわ……うわぁ、偽物じゃなかった。え? でも、なんで? なんで、お嬢様の名前を知らないの? というか、お嬢様はどこ? 」


その沈黙を破ったのは、少女であった。

彼女は驚いた様子で、疑問の言葉を繰り返す。

先ほどはセアレウスが混乱していたが、今度は少女であった。


「え? 私、セアレウスさんに戦いを……っていうか、イライザ! イライザって何? そんなの聞いてないし、知らない! 」


少女は、思いつく限りのことをそのまま口にしているようであった。

その取り乱しようは、先ほどのセアレウス以上のものであった。


「お嬢様? え-と、あなたはエクシリユスさん……でいいんですよね? 」


「あ……はい。そ、そうです。


セアレウスが恐る恐る訊ねてみると、少女は自分がエクシリユスであることを認めた。

これで、セアレウスはエクシリユスに会うとう目的を達成したことになる。

あとはクリンク村へ戻り、イライザを救出しなければならないのだが――


「あの、イライザというのは……」


謎は残されたままであった。


「ちょっと……ちょっと待ってください。何かおかしいことになっているみたいなので、ちょっと話し合いましょう」


セアレウスは少女を落ち着かせ、自分達の状況について話し合うことを提案した。

急いではいるものの、まずは残された謎――二人の話がかみ合わないことについての解決を優先すべきだと思ったのだ。







 水の塊による少女の拘束を解くセアレウス。、

その後、彼女は改めて自分がセアレウスであること、イライザが敵の罠にかかってクリンク村から出られないことを説明した。


「なるほど。それで、お嬢様が傍にいないというわけですか…」


コクコクと頷きつつ、少女はセアレウスの話を聞いていた。


「はい。エクシリユスさんなら救出できる術があると、こうして会いにきました」


「……私でどうにかできるか分かりませんが、直接見てみないとどうにも……っと、今度は私が話す番ですね」


少女はコホンと軽く咳払いをした後――


「改めまして私の名はエクシリユス・アルタルネ。お嬢様に仕える騎士の一人……とは言っても、最近仕えることなったばかりの新参者です」


と自己紹介をした。

それから、少女――エクシリユスは、自分に置かれた状況の説明を始めた。

まず、彼女がこの森にいたのはクリンク村の監視。

グリーンローブの者の目に入らぬようにと、外から村の様子を伺っていたとのことであった。

想像に容易いことではあるが、彼女は村には一度も入ったことがない。

故に、監視してから今日までクリンク村は普通の村に見え――


「普通すぎて何もない。それが逆に怪しいかもと思ったのですが、村そのものが罠であり、私が見ていたものが幻の類であったとは……驚きです」


村に仕掛けられていた罠にも気づくことはなかったのだ。


「それにしても、驚きなのはあなたがお嬢様の本当の名前を知らないことです」


「それはどういうことでしょうか? 」


セアレウスがイライザと呼び、エクシリユスがお嬢さまと呼ぶ人物。

その者の名前こそ、二人の話し合いの本題であり、話がかみ合わなかった原因である。


「お嬢様が同伴せずあなた方が私の前に現れた場合、お嬢様の本当の名前を知っている……一応そういう前提だったのです」


「それがあなたの言うお嬢様との関係者である証というわけですか。イライザ……ではないのですね」


「はい。恐らく、それは今回の件でお嬢様が作った偽名でしょう」


「そういうことでしたか」


イライザは偽名で本当の名前が存在していること。

その本当の名前を知らないがために、エクシリユスに疑われて戦闘になってしまったこと。

以上の二点をセアレウスは理解した。

しかし、まだ分からないことがある。


「何故、イライザさんは……わたしはイライザさんと呼びします。彼女は偽名を? イライザさんの本当の名前は一体……」


それは、イライザの本当の名前と偽名を使う理由である。

偽名に関しては、この国でフォーン王国の貴族が関与していることを伏せるため、などが考えられる。


(本名もフォーン王国の貴族が関与を隠すため……ですか。それにしたって、頑なすぎではありませんか? )


しかし、本名を自分達に名乗らなかった理由に関しては見当もつかなかった。


「……イライザを名乗った理由も、本名を名乗らなかった理由も、恐らく今回の件は関係ないでしょう? 」


「え……? 」


エクシリユスの言葉に、セアレウスは驚きの声を漏らす。


「申し訳ないのですが、お嬢様の本名については本人から直接聞いてください」


彼女がどうしてと訊ねる前に、エクシリユスは答えた。


「そ、そうですか……」


セアレウスは、そう言うしかなかった。

エクシリユスには、自分から絶対に言わないという強い意志が見えたからだ。

故に、それ以上は聞いても教えてはくれないだろうと判断させられたのだ。

それからエクシリユスは――


「ひとまず話し合いは終わりとしましょう。ちょっと準備してきます。すぐに戻ってきますので、ここで待っていてください」


と言い、森の奥へと進もうとしたが足を止めた。


「あなたを一人で私の元に向かわせたということは、あなたに本名を言うつもりだった。これだけは言えます」


エクシリユスは、セアレウスの方へ体を向けると、そう言ったのだった。

イライザが本名を名乗らなかった理由。

実は、セアレウスには考えられることが一つあった。

それは自分達を信用していないこと。

これを理由として数えてしまうと、自分達もイライザのことを信用していないようだと感じ、考えたくはなかったのだ。

そういうこともあり、セアレウスは先ほどから憂鬱な気分であった。

だが、エクリシユスの言葉により、彼女の気分は少しだけ楽になったのだった。


「あと、言い忘れてただけかと思います。私と戦うはめになってしまいましたが、あまり責めないでやっていただければと……」


「あはは……失敗は誰にでもありますからね。なんとも思っていませんよ」


「……ありがとうございます」


エクシリシュスはセアレウスに礼を言った後、森の奥へと消えていった。

イライザに関しては、本名の件で何かしらの事情を抱えている。

それが気がかりなことではあるものの、今はイライザの救出に専念するとセアレウスは心の中で決めた。







 ――夕方。

太陽が徐々に地平線に沈み始め、辺りが僅かに薄暗くなった頃。

セアレウスとエクシリユスの二人は、森林を抜けてクリンク村の近くに来ていた。

村の入り口方面が前方であるのなら、その後方側である。


「……村の中に人が見えましたね。本当、よく出来ていますよ」


村の様子を伺いつつ、エクシリユスが言った。


「はい。村の中に入ると、先ほど見かけていた人達はどこにもいなくなります」


「そして出られなくなると……何故、入れはするのに出られなくなるのか。そもそも、元の村の人達はどこにいったのか……気になる気になる沢山気になる……」


エクシリユスは、村をじっと見つめたままブツブツと呟いていた。


(好奇心強めの子みたいですね)


そんな彼女を横で見ながら、セアレウスはそんな評価をしていた。


「いえ、一番に気になるのは、セアレウスさん! 」


「え、はい」


急に名前を呼ばれたものの、セアレウスは返事をすることができた。


「何故、あなたが村の外へ出られたのか。それが一番気になります」


エクシリユスはそう言って、今度はセアレウスをじっと見つめだした。

自分は出られたことについて、自身はどういう考えなのか。

それを暗に問いかけているようであった。


「うっ……」


セアレウスは軽く呻き声を漏らしてしまう。

相変わらず、彼女の瞳に慣れないのであった。


「……うまくは言えませんがわたしの体質にあるかと思います」


ここに戻ってくるまで、セアレウスはある推測を立てていた。

それは、自分が人間ではないこと。

村に仕掛けられた罠が人間だけを捕らえるものだと仮定の上での考えである。

それでも、イライザと自分との比較で決定的な違いはそれであり、彼女自身かなり自信のある考えであった。


「体質ですか……おっと、いけない。まだセアレウスさんについて気になることがありますが、やるべきことをしないとですね」


エクシリユスは、ローブの中でごそごそと身じろぎすると、中から小さな袋を取り出した。


「それは? 」


「これは、クリスタさん……騎士の中でも魔法に詳しい人から頂いたアイテムです 」


エクシリユスはセアレウスにそう答えると、袋の中に手を入れ、中に入っていた粉を前方に振りまいた。

すると、粉が降り注いだ前方に緑色に光り出す。

その緑色の光は。ほぼ垂直上に広がっており、まるで光る壁のようであった。


「こうして、魔法で生成されたものに触れると光る性質があるようです。どうやら、村を囲むように結界があるようですね」


エクシリユスは、光る壁の一歩手前に向かい、片手を手を突き出してみる。

すると、手は光の壁を突き抜けた。

それから、手を引いてみると光の壁から手を戻すことができた。


「どうやら、体全体が入らなければ問題はなさそうですね」


「……なるほど、魔法を検知する粉ですか。ひょっとして、クリスタさん自身が作ったものでしょうか? 」


「おや? クリスタさんをご存じでしたか。はい、魔法学院で対魔法の研究の一環で出来たとかなんとか……」


「ううむ。こんなことができるとは……魔法に関しては、わたしもまだまだということですか……」


セアレウスは、関心しつつも僅かに悔しい気持ちであった。

クリスタとは、イライザと関係の深い人物の一人である。

恐らく、エクシリユスと同じく騎士の一人であろう。

そんな彼女は魔法学院の学生であり、その実力は学年でも上位に位置している。

歳も魔法の知識も離れてはいるが、魔法を扱う者としてセアレウスには思うことがあるようであった。


「さて、結界があることを確認できたわけですが、ここからどうしましょうか? 」


「……えーと、結界を壊すアイテムとかはありませんか? 」


「それは……流石にありません。申し訳ないです」


「いえ、ないものは仕方ありません。うーん、どうしましょうか……お? 」


セアレウスは何かに気づいた。


「あの部分、緑ではなくて黄色になっていませんか? 」


粉によって光る色は大部分は緑色であるのだが、少しだけ黄色の部分があった。


「ああ、本当だ。これは何を意味しているんでしたっけ……」


セアレウスに言われて、エクシリユスも気づく。


「うーん、もしかすると。エクシリユスさん、その粉を黄色のところのさらに先を振りかけていってください」


何かを閃いたセアレウス。


「え……あ、そうか! 分かりました」


それに呼応するかのように、エクシリユスにも分かったことがあったようであった。

それから、彼女はセアレウスの指示の通りに粉を振りかけていく。

すると、黄色の部分から横へと粉は振りかけられ、横へ横へと行くたびに光の色は赤みを増していく。

そして、とうとう赤と呼べるほどの色に光る部分が現れだした。


「ここは、村の入り口からちょうど反対の場所。この粉は、結界の強度によって光る色が変わり、赤色が一番弱いところを指す……違うでしょうか? 」


「……確か厳密には、込められた魔力の力? が弱いところと聞いた覚えがあります。まあ、だいたい合っているかと」


少し考えた後、エクシリユスはセアレウスの問いに頷いて答えた。

この時、セアレウスは不敵な笑みを浮かべていた。


「ここから結界を壊すのですか」


その顔を見て、セアレウスが何をするのかは聞くまでもなかった。


「しかし、どのようにして壊すつもりなのでしょうか? この結界には触れられませんよ」


それでも、結界を壊す方法は想像できなかった。


「ええ。ですが、結界は魔法で生成されたもの……つまり、魔法です。同じ魔法なら干渉できる可能性はありますし、村に向けて魔法が放たれるような突飛なことは想定していないはず」


そう言って、セアレウスは赤く光る結界に向かってウォーターブラストを放つ。

すると、放たれた水の塊は結界の先に行くことなく、その手前で弾けた。

この結果は、魔法であるウォーターブラストが結界に衝突したことを示していた。


「おおっ! 結界に当たった」


一部始終を見ていたエクシリユスが感嘆の声を上げる。


「ええ。ただ、弱いところとは言っても今のでヒビ一つ入りませんか。今度はもっと強いものをぶつけます」


「はい、お願いします……それにしても。光の色の違いだけで結界に弱いところがある……なんて、よく気づけましたね」


エクシリシスは、セアレウスに関心していた。


「魔法についてはクリスタさんから教わっていますが、知識も使うのもまだまだ……そんな私と比べるのは失礼かと思いますが、その……すごいです! 」


否、関心というよりかは尊敬しているのだろう。

セアレウスを見る彼女の目はキラキラと輝いていた。

エクシリユスは、先ほどセアレウスが評価していたように好奇心旺盛だ。

それは、知識が豊富なほど優れた人間であるという考えから来ているものである。

自身もそうありたいと知識を求めて、気になったことは理解するまで調べる、あるいは聞きまくるという習慣を持ち合わせていた。

最近、彼女が特に知識を追い求めていることは魔法の分野である。

魔法というのは、一説には知識がモノを言う世界と呼ばれており、エクシリユスが夢中にならないわけがなかった。


「先の戦いで披露した水のムチ……いや、私を捕らえた水の魔法! あれすごいです! クリスタさんだって、あんなに自在に水を操れはしないですよ! 」


そんな彼女は、まだ魔法の道に一歩踏み入れたばかりの見習い程度。

彼女の目から見ればセアレウスは充分魔法上級者に見え、尊敬しないわけにはいかないのだ。


「いやぁ……わたしもまだまだだと思いますよ……」


セアレウスは苦笑いをしていた。

知識、実力共にまだまだと思う反面、エクシリユスのような年下から尊敬されて悪い気はしない。

今の彼女はそのような感情を持っていた。


(水を操るのは、人が使う魔法とは違う力なんですよね……って、言ったらガッカリしちゃうでしょうか。うーん……)


そして、真実を言うべきか否かで若干悩んでいた。


「結界に関して、少し前に痛い目に遭いましてね。ちょっと勉強したのですよ」


言わないことにした。

考えてみると、自分でも説明できないことがあるからだ。

決して後が面倒なことになるなどという理由ではない。


「はあああ! 」


セアレウスの発言に、エクシリユスは感極まったのかブルブルと身を震わせつつ、満面の笑みを浮かべていた。

今がイライザの救出中であることを忘れているかのような素振りである。


「聞きたいですか……というのは愚問ですね。えーと、余裕が出たらゆっくり話しましょう。とりあえず、魔法を撃つのでもう少し離れて……」


その後、セアレウスが放った強力なウォーターブラストにより、結界に穴を空けることに成功する。

これで結界の内と外を行き来することが可能になった。

しかし、結界が自動的に修復する可能性があるということで、二人はイライザの救出を急ぐのだった。




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