二十九話 クリンク村の怪
~~~~~~~~~~ 登場人物 ~~~~~~~~~~
●イアン・ソマフ
この小説の主人公。女性の容姿を持つ少年。髪の色は水色。
戦斧を武器とする冒険者。
女性にしか見えない容姿のせいか、同性に言い寄られたり、女性の服を着せられることがある。
今は戦闘により着ていた服が破損したため、代替でキキョウの服を着ている。
○セアレウス
青色の長い髪を持つ少女。
血の繋がりはないがイアンの妹。
冒険者であり、アックスエッジと呼ぶ特殊な武器と水魔法を駆使して戦う。
誰に対しても敬語で話し、基本的には真面目であるのだが、
時々突拍子もないことを言い、主にイアンを困惑させることがあるが、
最近はネリーミアに被害が及びがち。
○ネリーミア
一人称が「僕」の落ち着いた雰囲気のダークエルフの少女。髪の色は淡い紫。
彼女も冒険者であり、普通の剣と何かしらの能力を持つ白い剣を使い分けて戦う。
イアンとは兄妹関係ではないが、彼のことを「にいさん」と呼び、彼女にとってイアンは親しい存在である。
基本的に心優しい性格で大人しい。この性格のためか自分よりも他人の意見を尊重しがち。
○キキョウ
胡散臭い雰囲気を持つ狐獣人の少女。髪の色は基本的に銀色。
高い知力を持ち、己の思惑を実現するために狡猾に立ち回る。
刀による剣術、魔法、妖術と扱える技能は多彩であり、幅広い戦術を持つ。
自分と親しく特別な存在であるイアンのことをあにさまと呼ぶ。
○イライザ
外見も性格も緩く明るい雰囲気の少女。髪の色は明るい橙色。
フォーン王国の貴族で、護衛依頼によりイアンと共にアニンバまでやってきた。
厳粛な貴族のイメージとは異なり、明るく人当たりが良い。
未だに謎多き人物。
~~~~~~~~~~ あらすじ ~~~~~~~~~~
イライザの依頼により、レウリニア王国の第一王子であるレナウスに
協力することになったイアン達。
その協力の内容は、王国内で住民の洗脳や殺害などを行う危険組織
グリーンローブの調査および壊滅。
洗脳を得意とする組織のため、精神異常攻撃を常時無効化できる
イアン単身による敵本拠地への侵入が考案された。
現在、その準備段階として、敵の戦力の分散と削減を目的に陽動作戦を実行中。
青い髪の少女が狙われていることを利用し、イアン班とセアレウス班に別れて敵の目を引き付けに行くのだった。
ライウォールからクリンク村へは、街道を通ることで難なく辿り着くことができる。
町中からその街道を行くには、石橋に繋がる北門の反対側、南門から出て行くことになる。
セアレウスとイライザ、二人がライウォールを出ていくと決めた時刻から、およそ一時間後。
セアレウスの姿は、南門の少し離れたところにあった。
そこは、クリンク村へと続く街道から外れた草原の草の上。
律儀に街道に沿う者達にとっては、目につきにくい場所になるだろう。
さらに、今の彼女は羽織ったローブのフードを頭に被っていた。
彼女の長い後ろ髪もローブの中に納まっている。
一見にして正体不明。
頭のフードを取らない限り、誰もセアレウスだと認識する者はいないだろう。
そんなセアレウスは、ぽつんと一人で立っていた。
周辺にイライザの姿は見当たらない。
現在セアレウスは、イライザと行動を共にしていないのだ。
それには理由がある。
家屋を出る際に、二人は別々に動くこととなったからだ。
合流地点は、この場所である。
「……遅いですね」
セアレウスは先に到着し、イライザを待っていた。
彼女がここに来てから、およそ半時間の時が経つ。
イライザは、予定の時間を大幅に過ぎてもやってくることはないのだ。
「あ、いたいた。ごめんね、遅くなって」
それからほどなくして、イライザが小走りでやってきた。
彼女の姿を見て安心したのか、セアレウスの口元が緩む。
「え・・・?」
しかし、すぐにその口から戸惑いの声が漏れだした。
やってくるイライザが少し離れたところでピタリと足を止めたからだ。
その仕草にセアレウスが首を傾げると――
「あ……えっと、セラちゃんだよね? 」
イライザが恐る恐ると訊ねてきた。
彼女から見れば、目の前の人物はローブを着こんだ何者か。
セアレウスがローブを着こんでいることを知ってはいるが、本当に彼女かどうか不安になったのだろう。
「はい、セアレウスです」
「あ、セラちゃんだ」
イライザはホッとしたのか明るい表情を浮かべる。
「予定より遅いですね。何かありましたか? 」
セアレウスは、被ったフードを後ろに払いのけつつ訊ねた。
「それがねぇ、門の騎士達の検問が厳しかったんだよぉ~身元とか行先とか……とにかく色々! 聞かれることが多くて参ったよ……」
「お、お疲れ様です」
セアレウスの顔がひきつったものとなる。
イライザは、美少女の部類に入る端正な顔立ちである。
今はげっそりとした表情をしており、顔中に疲労が張り付いているようであった。
普段の美少女の顔立ちは見る影もない。
(イライザさんもこんな顔をするのですね)
セアレウスにとって、このようなイライザの姿は見たことも想像すらできなったのだった。
「念を入れて、わたしは門を通らずに町を出て正解でしたね」
これから向おうとしているクリンクの村は、グリーンローブの本拠地に想定されている場所だ。
そこへは陽動ではなく、調査が目的である。
故に、セアレウスは自身の姿を隠す必要があった。
青い髪をさらしたまま向かえば、どのようなことが起きると予想できるか。
恐らく、冒険者達はもちろんグリーンローブの者達も集まってしまい、調査どころではなくなってしまうだろう。
そのような事態を避けるべく、セアレウスはローブを着こみ、フードで髪を隠している。
しかし、町から外へ出る際に問題があった。
それは検問である。
ライウォールでは、町の出入り口で騎士による検問が行われていた。
検問を受ける際には身元の確認のため、確実にフードを外すことになるだろう。
それは、周囲に青い髪の少女が町を出て行く様を見られることを意味している。
セアレウスは門を通るわけにはいかなかった。
「しかし、こちらも苦労はしましたよ。何せ、見張りの騎士の目を盗んで、壁を越えなければいけなかったのですから」
ライウォールの町は、周囲を見上げるほど高い壁に囲まれている。
セアレウスは、その壁を越えて、ライウォールから出ていた。
これらがイライザと別行動をとっていたあらましである。
「今頃、冒険者さん達は、わたしが町を出たのを知らずに探し回っていることでしょうね」
「それはうまくいったと思っていいね。しかしねぇ、検問のせいで出発が遅れちゃったね。入る時は分かるけど、出る時は厳しくする必要あるかなぁ? 」
「……ひょっとして、あそこの騎士達もグリーンローブを警戒しているとか? 」
「いやぁ、それは無いと思う。はあ、何度アレを出そうか迷ったことか……」
「……えっと、アレとは? 」
セアレウスの問いかけを受け、イライザは何かを取り出した。
差し出された彼女の手に平に置かれたそれは、平たく丸いもの。
何かの紋章が刻まれており、全体的に金色で豪奢であった。
セアレウスはそれが高価あるいは希少なものだと一目で判断しゴクリと喉を鳴らす。
「レナウス様がくださったバッジだよ。これを見せれば王家が認めた者ってことで楽に通れたんだろうね」
「え……グ、グリーンローブの人達がどこに潜んでいるか分からないのですよ? もし出したところを目撃されていれば、余計に敵の警戒を煽ることになっていましたね」
セアレウスは、苦笑いを浮かべる。
イライザが持つバッジは、この国の王家の紋章が刻まれたもの。
バッジを持つ者は王家が認めた人物であることを意味する。
どこまでの効力があるかは計り知れないが検問をパスするくらいは容易いことだろう。
レウリニア王国の国民にとっては、与えられたら家宝するほどの代物である。
しかし、現状のセアレウス達にとっては危険な代物でもある。
「あー……王族の誰かしらの指示で動いているって感づかれるよねぇ。そういうことか……」
レナウスとの関わりがあること。
そのことをを推測される可能性があるのだ。
もしバッジを所持していることをグリーンローブの者に知られたらどうなるか。
内通者に王家の者の行動の調査を命じることだろう。
そして、レナウスが秘密裏に動いていたことが暴かれる。
グリーンローブは対策を講じ、イアン達では手の付けられない状態となってしまうだろう。
結果、レウリニア王国からグリーンローブを排除するというレナウスの願いは、大幅に遠のくことになる。
「万が一の時に危険です。何故このバッジを受け取ったのですか? 」
「基本的にレナウス様との関係は隠さないといけないけど、わたし達じゃあどうにもできない時ってあるじゃない」
「どうにもできない時……」
「ほら、例えば貴族とかの身分の高い人から情報を引き出したい時に話を通しやすくなるじゃん? 相手が内通者じゃないのが前提だけど」
「使いどころが難しいですけど、持っておくといざって時に助かる……ということですか。流石イライザさんです」
イライザならば、このバッジを上手く使うことが出来るだろう。
セアレウスはそう思いつつ、不測の事態に備えていたイライザの行動に関心していた。
「はは……」
その関心を向けられたイライザは、表情を見る限り嬉しくはなさそうであった。
苦笑いを浮かべており、何かワケありの様子である。
「いやぁ、実はキキョウちゃんが考えたアイディアなんだよね」
「あ、キキョウさんのでしたか……」
バッジを所持しておくことを考えたのは、イライザでもレナウスでもなくキキョウであった。
「なんかもっと深い考えがあってのことなのでしょうか? 」
「分かんない。ただ持っておいたほうが良いって……って、ああ! 」
何かを思い出したのかイライザは、突然声を上げた。
「遅れてるってば! 急いでクリンク村に行くよ! 」
予定よりも出発が遅れていること。
イライザが思い出したのは、そのことであった。
彼女は、それからやってきた時と同じように小走りで走り去ってゆく。
「……おっと、頭を隠さないとですね」
セアレウスはフードを被りなおすと、彼女の後を追うように走っていったのだった。
ライウォールを出発してから数時間。
セアレウスとイライザの二人は、クリンク村に辿り着いていた。
クリンク村に行く途中、二人は人目につくことを避けるため街道を通ることはなかった。
念には念をということで、自分達がライウォールから来たことを悟られないためである。
ところで、二人がどのようなところを通ってきたかといえば、騎士達の巡回が行われない地域である。
街道と比べて魔物と遭遇する確率は倍、ここに来るまでに幾度かの魔物との戦闘を強いられることとなっていた。
結果、今の時間帯は夕方。
日の明るいうちに到着するはずが、その二、三時間遅れて到着したのだった。
そして、村の前にまで到着した二人だが、未だに村の中へは入らない。
二人は今、村から少し離れた茂みに隠れつつ、村の景観を眺めているようであった。
何をしているかといえば、村に不審なところがないかの観察である。
敵の本拠地の疑いがある以上、無警戒で足を踏み入るわけにはいかないのだ。
「……特に変わったところは見られませんね」
村に目を凝らすセアレウスが呟いた。
村の構造は、村の中心が広場になっているようで、その外側に民家が円状に立ち並んでいる。
さらに、その外側に畑や牧場を見ることができる。
何の変哲もない村の構造である。
そのような村の中には、畑や牧場で作業をする者、広場で数人の者が談笑する者、道行く人に声をかける商人らしき者が存在していた。
これらもまた、特に珍しくもない村の者の姿である。
外から見る限りでは、グリーンローブに関係するような怪しい建屋や人物は見られなかった。
「村に出入りする人もいませんね。どうしましょうか? というか助っ人の人と合流した方が良いと思うのですが」
自分達が観察するよりも、その助っ人に話を聞いたほうが手っ取り早く情報を得ることができる。
セアレウスはそのようなことを考えて、イライザに提案したのだった。
「そうなんだけど……こっちはこっちで何かしらの情報を持っておきたいんだよね」
「手ぶらでは会えないということですか」
「まあ、そんなところ。潜伏場所は自前に教えられているから、いざってときも大丈夫だよ」
「あ……助っ人の方がこの村のどこかに……」
セアレウスは、村のあちこちに視線を飛ばす。
助っ人らしき姿を探すが――
「ん? ああ、村の中にはいないから探しても無駄だよ」
「ええっ……!? 」
イライザにそう言われ、ガックリと肩を落とす。
そんなセアレウスをよそに、イライザは遠くの方へ指を差した。
その指先は村よりもさらに奥、広大な森林に向けられていた。
「村の後ろに森が見えるでしょ。そのどこかにいるよ」
「……えっと、どこかってどこですか? 」
鬱蒼とした森林を眺めるセアレウス。
森林を照らす日の光は夕日のものとなり、より陰りを増している。
さらに、森林の広大さは視界に納まらないほどだ。
その中から一人の人物を探し出せと言われては、誰であっても途方もない気持ちなることだろう。
どこかにいると言われても、そうですかと簡単に納得することができなかった。
「どこかは……どこかだよ」
要するに詳細な居場所は特定できていないということであった。
「……そうですか」
セアレウスは、もうそう言うしかなかった。
「ははは、そりゃ探すのは難しいよ。だから、その時はあっちから見つけてもらんだよ」
そう言って、イライザは立ち上がる。
この時、彼女の視線はクリンク村に向けられていた。
「さて、多少の危険を冒さないと良い結果は得られない……ってね」
「と言いますと? 」
このセアレウスの問いかけに対して、イライザはニヤリと不適な笑みを浮かべた。
数分後、イライザとセアレウスの姿は村の中にあった。
イライザの言う多少の危険とは、村の中に入ることであった。
とりあえずということで、村の入り口から広場に向かう二人。
イライザは何の気なしに歩いているがセアレウスは違った。
頭に被ったフードから、時折覗かせる彼女の目は鋭い。
彼女は周囲に注意を払いながら歩いていた。
すれ違う人、建屋や看板といった物など、視界に入る全てに不審なとことが無いか確認していた。
必ずしもイライザが無警戒であるとは言い切れない。
しかし、見た目からしてセアレウスは、警戒している様が伺えた。
言ってしまえば、あからさまであった。
それほど警戒しているのは、ここが敵の本拠地である疑いがあると同時に今は武力のないイライザが共にいるからだ。
イライザを守りつつ戦わなければならない。
そのことを覚悟するが故の警戒であった。
ほどなく、何事も起きないまま二人は広場に辿り着く。
周囲を民家に囲まれたこの広場は、町の外から見るも広く感じるものであった。
「……あれ? 」
イライザが訝しむような顔をする。
「どうかしましたか? 」
セアレウスは、イライザに問いかけると同時に周囲を見回す。
返答がされる前に、イライザが感じた異変の正体を探すが見当たらない。
「……おや? 誰もいませんね」
それどころか、この広場に人の姿は見当たらなかった。
チクチクと肌に刺さるような嫌な予感を感じつつ、セアレウスは振り返る。
すると、先ほど見かけた者はおろか誰一人として、村の者の姿は見られなかった。
「……イライザさん、おかしいです」
「うん。人がいなくなったね」
セアレウスの発言にイライザは同意する。
彼女の嫌な予感を感じているようで、じんわりと額に汗が浮かび上がっていた。
広場に来た瞬間、村の中から人が消えたのだ。
民家の中に入ったなど、視界に入らない場所に入ったなどではない。
少なからず感じる人の気配が感じられないのだ。
村の中には百を超える人の数がいたのだから、全員が一斉に村の外へ出たなどは考えられない。
確実に、このクリンク村に何かしらの異変が起きていた。
「村から出ましょう! 」
「手遅れじゃないといいけどね」
二人は体の向きを反転させると、一目散に来た道を引き返してゆく。
この時もセアレウスは周囲を警戒していたが――
(……攻撃が来ない? )
村を出る自分達に対して、周囲に妨害するような動きは見られなかった。
敵も含めて、この村に人の気配がしないのだから、当たり前と言えば当たり前である。
しかし、これが罠だとすれば、何かしらの妨害がなければ不自然だと言えよう。
(一体、なんだと言うのですか……)
村から人が消えたこと、村を出ようとする自分達が妨害されないこと。
その全てが不気味であるとセアレウスは思った。
やがて、二人は村の出入り口となる場所の前までやってきた。
先行するイライザが先に村の外へ出ることになるだろう。
「ぐうぇ……!? 」
しかし、そうはならなかった。
村の外へ足を踏み出す直前、彼女は何かに阻まれ、その場に尻もちをついた。
まるで、見えない壁にぶつかったような様である。
「……! イライザさん!? 」
村の外へ出たところで、セアレウスは振り返る。
「いてて、何かにぶつかったみたい」
「そんな! 一体、何が……」
セアレウスがイライザの元へ駆け寄ろうとするが――
「待って」
イライザの制され、その場に足を止める。
セアレウスが再び村の中に入ることはなかった。
彼女が心配そうに見つめる中、イライザは立ち上がる。
その後、イライザは自分がぶつかった場所に立ち、手を伸ばした。
イライザの手は前方、セアレウスの方へと向かうが途中で止まってしまった。
「……うん。ここに壁みたいな何かがある」
それから、あらゆるところに左右の手を伸ばすが、一定のところから先へ向かうことはない。
強く押してもイライザの体が村の外へ出ることはなかった。
事情を知らない者の目からは、今のイライザは、そこに不可視の壁があると見せかけるパフォーマンスをしているように見えるだろう。
「参ったねぇ。閉じ込められたわ」
今の状況を単純に理解すれば、イライザはクリンク村に閉じ込められたことになる。
何はともあれ由々しき事態である。
しかし、イライザは普段と変わらない様子であった。
「よく分からないけど、セラちゃんは無事で良かった。セラちゃんにはこのまま、エクスィ……いや、エクシリユスと合流してほしい」
「エクシリユス……いえ、しかし! イライザさんを置いてはいけません! 」
セアレウスは食い下がり、この場を離れようとはしない。
イライザを護衛する立場から、彼女を置いていくことはできないのだ。
「セラちゃん、落ち着いて。悪いけど、ここは合理的に動こうか」
「合理的……わ、分かり……ました」
イライザの言葉に、セアレウスは頷いて答えた。
気持ちだけでは、何の解決にも繋がらない。
それを暗にイライザに言われ、セアレウス自身も納得したのだ。
「エクシリユスならこの状況をなんとかできるかもしれない。とりあえず、合流してから解決策を考えてみて」
「分かりました。ですがやはり心配です」
「いやぁ、そこまで心配しなくてもいいと思うよ」
不安そうなセアレウスに対し、イライザはいつもの表情だ。
捕らわれている状況に身を置きながら彼女はリラックスしていた。
「最初から殺すつもりなら、こんな捕まえる必要ないよ。たぶん、後々なんらかのアクションがあるはず」
「捕まえたイライザさんの素性を調べる……目的を聞き出すとかでしょうか? 」
「その辺りかなぁ。何はともあれ、セラちゃんはエクシリユスと合流すること。ほら、完全に日が暮れる前にさっさと行った行った」
「わ、分かりました。すぐ合流して、イライザさんを解放してみせます」
セアレウスは、そう言うと森林の方へ走り去る。
流石の足の速さで、彼女の姿はあっという間にイライザの視界から消えたのだった。
「……あの用心深いエクスィならね。頼りになるよ」
一人になったイライザは、ぽつりとそう呟いた。
セアレウスが去ってもなお、彼女の表情は変わらない。
彼女と助っ人であるエクシリユスが助けてくれると、嘘偽りなく信じているからであろう。
「あの娘は本当にしっかり者でねぇ。ちょっと疑り深いところもあるけど……ん? 何か嫌な予感がする……」
突如として、イライザの顔が凍り付いたかのように強張る。
何か過ちを犯してしまったのではないか。
そのような気がしてならなくなったのだ。
「…………あ、ああっ!! 」
ほどなくイライザは、そのことに気づいた。
「や、やばっ! セラちゃんに伝え忘れてた! いや、エクスィの方? どうしよう! どうしよう! 」
グルグルと意味もなく歩き始めるイライザ。
先ほどのリラックスしていた時とは打って変わって、今は落ち着きのない状態であった。
「うおおおおお‼ やっちゃったよおおおおおお!! 」
イライザの慟哭がクリンク村中に響き渡る。
彼女は絶望していた。
自分が犯した過ちにより、想定が大きく崩れることを。
「ご、ごめんねえええええ‼ 」
すべては自分の責任。
イライザは二人に対して、申し訳のない気持ちでいっぱいであった。
2020年8月16日 誤字修正
「いやぁ、それは無いと思うまぁ。はあ、何度アレを出そうか迷ったことか……」
↓
「いやぁ、それは無いと思う。はあ、何度アレを出そうか迷ったことか……」




