八話 丘の上の強者
~~~~~~~ 登場人物 ~~~~~~~
●イアン・ソマフ
この小説の主人公。女性の容姿を持つ少年。髪の色は水色。
戦斧を武器とする冒険者。
イライザ本人の依頼を受け、彼女を護衛している。
女性にしか見えない容姿のせいか、同性に言い寄られたり、女性の服を着せられることがある。
そして、紆余曲折あって現在は、セーラードレスというワンピースのような服を着ている。
○イライザ
外見も性格も緩く明るい雰囲気の少女。髪の色は明るい橙色。
フォーン王国の貴族で、今回の観光旅行にイアンを使命した人物。
明るい性格とは裏腹に言動に謎が多く、その存在にも謎が多い。
丘の上から日が徐々に顔を見せ始める。
朝である今、ナウブールの町中は多くの人が行き交ていた。
多いとは言っても、石畳の地面が見えなくなるほど密集しているわけではない。
それぞれが向かう先にはバラつきがあるのだ。
その多くは町の住民であり、旅人は極わずか。
大半の者が自分の仕事場へと向かっている最中であった。
町の中や近辺には、茶畑や野菜や果物を育てる畑、牛や羊といった家畜を育てる畜産農場が存在する。
住民の多くは農家であり、収穫物を他の町や村に売ることを主な収益としていた。
また、町を訪れた者に対しての商売もしており、この町で採れた収穫物を使った料理や雑貨なども販売している。
「いやぁ、なかなか充実した町だね~」
町を歩くイライザは、満面の笑みを浮かべていた。
彼女の両手には、この町で買った食べ物が握られている。
右手には、肉や野菜を小麦粉から作られた生地で包まれた逆三角形の料理。
左手にあるのも同じようなものだが、中身が肉や野菜ではなく白いクリームであった。
彼女はそれを交互に頬張っていた。
「このアイス菓子というのは初めて食ったが、おいしいな」
彼女の横で、イアンも何かを持っていた。
彼が右手の持っているのは、逆さまの円錐状の物体の上に、とぐろを巻く蛇のような形のクリームが乗ったもの。
上のクリームは、イライザが片方の手に持つものと同じで、牛乳から作られた甘い食べ物である。
下の物体は小麦粉で作られたもので食べることができ、コーンと呼ばれていた。
イアンはクリームの部分を舌で舐めて味わっていた。
この町では、食べながら歩くことを良しとされている
二人は、食べ歩きをしながら町を散策している最中であった。
「もう少しブラブラして……っと。昼は何食べる? 」
食べている時に、今日の昼食について話し出すイライザ。
「けっこう料理屋があったな。悩みどころだな」
「そうだねぇ。じゃあ、これから行くところにあったらそこにして、さっき回ったところは夕食にしよっか」
「そうしよう」
イライザの提案に、イアンは頷いた。
二人は、食という観点でナウブールの町を満喫していた。
「うーん……大丈夫かなぁ」
「おや? 」
歩くイライザの視線が一人の住民へ向けられる。
背の高い男性で、困り顔で町の裏に見える丘を眺めていた。
「どうした? 」
足を止めたイライザへイアンが訊ねる。
「なんか困っている人がいるみたいだよ」
「……みたいだな」
イライザの顔が向けられている方を見て、イアンも男の住民に気付いた。
彼が困っていることは、自分達にも影響があるものかもしれない。
その考えを踏まえて、とりあえず話を聞くことにした。
二人は、その男の住民の元へ向かう。
「おはようございます。どうしかしましたか? 」
イライザが声を掛けた。
「うん? 旅のお方……ですか」
男の住民は、僅かに戸惑った様子を見せる。
同じ住民ならまだしも見慣れない者に、どうかしたのかと聞かれること滅多にないだろう。
戸惑うのは無理もない話である。
「実は心配……なことがありまして」
「良ければ、話を聞きましょうか」
「あ……では……」
男の住民は話しだす。
町の裏、その周辺は丘になっているのだが、その辺りに魔物達が大量に現れたとのこと。
普段は、定期的に冒険者達が討伐するおかげで魔物が集まることはない。
しかし、最近になってこの町から冒険者達がいなくなったことで、魔物の数が増えてしまった。
まだ被害は出ていないが、そのうち町の周辺や町そのもので魔物に襲われる被害が出てしまう。
そういった事情があり、町の住民達は困っていた。
「なるほど。町の近隣の魔物が増えすぎているということですか。それで今、困っていると」
「いえ、そのことでも困っているのですが、私は別のことで困っている……というより、心配しているのです」
イライザの言葉に、困っている男の住民は首を横に振らなかった。
しかし、別のことで思い悩んでいるようであった。
「実は、今から少し前に、一人の旅のお方に来られて、事情を話したら……」
「まさか、魔物の討伐に行った? 」
このイライザの問いかけに、男の住民は頷いて答えた。
彼が困っていること。
それは、一人で魔物の討伐に向かった旅の者の安否であった。
「丘の魔物の数は尋常がじゃないはず、強い魔物もいる。そう言ったのですが、それでも行ってしまいました」
「そういうことですか。確かに、一人では心配ですね」
イライザはうんうんと頷く。
「はい。ともかく、丘には魔物が多いです。行くのは控えてください。では、これで」
男の住民はそう言うと、この場から立ち去っていった。
「ふーん……どうする、イアンさん? 」
「どうするもなにも、おまえがしたいようにしたらいい」
イライザが訊ねると、彼女の隣に立つイアンはそう答えた。
彼の答えに、彼女はニッコリと笑みを浮かべた。
「なら、様子を見に行くだけでも行きたいね」
「分かった。イライザはここで待ってろ」
イアンはそう言って、アイス菓子を頬張りだすと、あっとう間に食べつくしてしまった。
「少し時間が掛かるかもしれない。終わったら、宿屋に行く」
「了解。一応、まだ依頼の途中なんだから、ちゃんと帰ってきてよね」
「約束しよう」
こうして、イアンは一人で丘へと向かうのだった。
目的は、先に向かった旅の者の安否確認。
それと、出来れば魔物の数を減らすつもりであった。
ナルブール周辺の丘と草原の境界は曖昧である。
斜面になっている場所が丘というのが一般的な認識のようだ。
町の裏へ向かったイアンは、すぐに丘へと辿り着くことができた。
「うっ……!? 」
そこで見た光景に、彼は思わず足を止める。
その光景とは、丘の斜面に転がる大量の魔物の死体である。
死体となた魔物の種類は様々である。
しかし、目立った外傷はなく、飛び散った血の量も少ない点は、どの死体も共通だ。
斬撃や刺突によるものではなく、打撃によって倒されたと推測できた。
それらの死体は、丘の上へと続いていた。
このことが意味するのは、魔物達を倒した何者かがその先に向かったということだろう。
イアンは魔物の死体を辿りながら、丘の上へと進んでゆく。
そして、一番高い場所であり、丘の頂上へ辿り着く。
「……!! あいつか……」
そこには、複数の魔物と一人の人物がいた。
魔物は狼の姿で、体長は二メートルほど。
身のこなしが軽く、その巨体と呼べる体格から繰り出される攻撃は、相当のものだろう。
一目見て、イアンはその魔物がこの付近でもひときわ強力な部類であると判断した。
その魔物は十体存在しており、一つの群れを成しているのだろう。
群れは、一人の人物を取り囲んでいた。
その人物を見て、イアンは眉をひそめる。
まず、その人物は怪しい見た目をしていた。
以前のイアンと同じように頭巾が付いた外套を身に纏っており、顔には目の部分に穴の開いた素朴なデザインの仮面をつけている。
そして、背中には包帯で巻かれた長い物体を背負っていた。
大剣と呼ばれる巨大な剣か、はたまた槍か。
何であるかは定かではないが、恐らく扱う武器なのだろう。
「何者だ? 全く見当がつかん」
イアンは参ったと言わんばかりに、小さく首を横に振った。
自分の正体は何が何でも知られたくはない。
その人物――仮面の者は、そのような気持を見た目で表したかのような恰好だ。
内に秘められた素性を推測することすら叶わないのだった。
「グルルアッ!! 」
一体の魔物が仮面の者へ飛びかかる。
口を開いたイアンが「あ」と声を出す頃には、既に事は終わっているだろう。
それほど、素早い動きであった。
仮面の者もイアンと同じく驚いたのだろうか。
それとも、驚く暇もなかったのだろうか。
襲い掛かる魔物に対し、仮面の者は微動だにしなかった。
「……!? 」
この瞬間、イアンの両目が見開かれた。
仮面の者が呆気なく魔物に組み伏せられ、敗北したからではない。
「ガアッ!? 」
仮面の者の直前で、魔物が吹き飛ばされたからだ。
吹き飛ばされた方向は、まるで跳ね返されたかのように飛びかかった時とは真反対。
その距離は、およそ五十メートル以上。
「うわっ……」
魔物は、ちょうどイアンの足元へ落下した。
当たるかと思い、ヒヤッとしたイアンであった。
「やはり、死んでいるな」
彼の足元に落下して以降、魔物が動くことはなく、生き物の気配すら感じられなかった。
一目見て、絶命していると判断できた。
何故なら、攻撃を受けたであろう上顎が真上に反り上がっているからだ。
そのため、口は少しだけ開いている状態のはずにも関わらず、蛇のように大きく口を開いているようであった。
「確か、武器を取り出す間もなかったはず」
魔物が強い打撃を受けて絶命したことは理解できた。
しかし、その強い打撃の正体がイアンには不明であった。
「……なるほど、これは驚いた」
仮面の者へ視線を移すと、すぐに判明した。
右の拳を突き出した体勢をしていたからである。
仮面の者は、魔物を殴っていたのだ。
「武器は不要、それも一撃とは……」
イアンは、それ以上言葉が出なかった。
素手で魔物を倒したことに、衝撃を受けたわけではない。
彼が注目しているところは、一撃で魔物を殴り仕留めた腕力の強さ。
そこから――
(背負った武器を持てば、これ以上に強いというわけか……)
仮面の者の全力が底知れぬものだと感じ、圧倒されているのだ。
(この魔物を相手にするにも、オレは斧を手放すことも、妖精達の力を頼る考えるを捨てることもできないというのに……)
イアンは仮面の者との実力差が、天と地ほど差があると考えずにはいられなかった。
それほど圧倒的であると、彼は衝撃を受けたのだった。
ちなみに、拳を突き出したことで右腕が外套から出たのだが、その腕は指の先まで包帯で巻かれていた。
肌の色さえ見せない徹底ぶりであった。
「……杞憂だったな」
今も襲い掛かる魔物を次々と殴り飛ばす仮面の者。
その様を見るイアンは、ここへ来たことが取り越し苦労だったと思うのだった。
しかし、来てしまった。
仮面の者の手助けをするか、他の魔物を探すか。
何もせずに帰るわけにはいかず、イアンはこれからどうするかを悩み始めた。
「ん? なんだ……」
イアンは、後方に何かの気配を感じたのか振り返る。
「なにっ!? 」
すると、彼は驚愕した。
自分の後方である丘の斜面に、一体の魔物がいたからだ。
その魔物は、ひとことで言えば虫である。
バッタのような形で、一番後ろの長い足がよく目立つ。
高さが三メートル、体長は六メートルほど。
そのような巨体の虫の魔物がそこにいたのだ。
その魔物がいつからそこにいたのか。
この見晴らしの良い丘のどこに潜んでいたのか。
イアンは、全く見当がつかなかった。
しかし、一つだけ理解していることがある。
それは、あの虫の魔物がこの辺りで一番強い魔物だろうということだ。
虫の魔物は長い後ろ足で地面を蹴り、大きく跳躍する。
丘の頂上に立っていたイアンが見上げるほどの高さに到達していた。
その後、イアンの頭上目掛けて落下を開始する。
この跳躍から落下までの間はほんの僅かな時間であった。
イアンは、行先を考えないまま、とにかく前方へと走る。
「うっ! 」
そして、自分の背後から大きな衝撃を受ける。
そのせいで体のバランスが崩れて転倒する。
イアンはゴロゴロと地面を転がった後、なんとか立ち上がる。
虫の魔物に目を向けようとするが、自分の視界にはいなかった。
姿が見えない。
そのことに嫌な予感を感じ、イアンは空を見上げてみる。
すると、彼が思った通り、虫の魔物は空にいた。
「くそっ! 」
またも、ギリギリのところで虫の魔物の落下を回避するイアン。
彼は回避するのが精一杯で、攻撃に転じる機会を見つけることができなかった。
しかし、それは彼一人で戦う場合に限る。
「お、おお……」
虫の魔物が落下した直後、その巨体は大きく横へ吹き飛んだ。
あまり遠くへは飛ばなかったが、バランスを崩して横に倒れる。
感嘆の声を上げるイアンが見えているのは、仮面の者だ。
仮面の者が虫の魔物を殴り飛ばしたのである。
(そっちの戦いはいいのか……? )
イアンは、さきほどまで仮面の者が戦っていた方へ目を向けると、そこには狼型の魔物の死体が十体あった。
自分の戦いを終えてから、こちらに来ていたのだ。
「助かった……」
そう言って、イアンは仮面の者へ近づく。
声を掛けたというのに、彼の方へ顔を向けることはなかった。
要するに無反応であった。
「う、うぅむ……加勢に来た。そういうことで、いいのか? 」
めげずに、イアンは仮面の者に話しかける。
すると、小さくコクリと頷いたのだった。
(声も出したくない……そういうことか? )
助けに来てくれたことは分かった。
それでも、仮面の者に対する怪しさが増したイアンであった。
「協力して戦いたいものだ」
ようやく、イアンは腰のホルダーから戦斧を取り、左手に持つ。
この直後――
「……む。奴め、まだ息があるようだぞ」
倒れていた虫の魔物が起き上がった。
その体に外傷は見られず、弱った様子も見られない。
まだ生きているだけではない。
体長約ニメートルの魔物を一撃で葬る仮面の者の攻撃をものとのしないようであった。
「打撃が効かない? そういうことだろうか……むっ! また飛び上がった! 」
虫の魔物が跳躍したことで、イアンは急いで移動をする。
「な……!? 攻撃が来るぞ! 早くそこから移動しろ! 」
振り返ると、何故か仮面の者は動かなかった。
イアンは、そのことに気付いて声を掛けるしか出来なかった。
一秒の間もなく、仮面の者へと虫の魔物が落下したからだ。
仮面の者に殴られた時、虫の魔物は一メートルも飛ぶことはなかった。
その重量で勢いをつけて押しつぶされたのだから、生存の可能性は皆無と言えよう。
「くっ……なんてことだ……」
イアンの表情が青ざめる。
自分の傍で人が死んでしまった。
そのことに、ショックを受けたのだ。
「……ん? な、なんだ? 」
戸惑うイアンが見る先には、ジタバタともがく虫の魔物。
どうやら身動きが取れないようであった。
しばらく様子を見ていると、原因が判明する。
虫の魔物の巨体が浮き上がり、その下には仮面の者が立っていた。
仮面の者に虫の魔物は持ち上げられ、身動きが取れないのだった。
「生きていたか。しかし、なんとうやつだ」
ホッとすると同時に、イアンは戦慄していた。
仮面の者が何事もなかったかのように立ち、さらに虫の魔物を持ち上げているからである。
絶大な腕力に加えて、自分の体格より数倍大きい魔物の体重に耐えきる堅牢の体。
仮面の者は攻守共に人並み外れていた。
信じられないほどであり、イアンは圧倒されているのだ。
「……早く! いまのうちに攻撃! 魔法かなんか使えないの! 」
「あ、ああ。すぐにやる」
突然聞こえた声により、イアンは我に返る。
「リュリュスパーク! 」
そして、虫の魔物の元へと向かい、その頭部にリュリュスパークを放った。
虫の魔物の頭部に当たるイアンの右の拳から、緑色に発光する雷が発生。
その雷が虫の魔物の全身を駆け巡る。
ほどなくして、ジタバタしていた虫の魔物は動かなくなった。
リュリュスパークの雷撃は、生物の体の内部にもダメージを与える。
故に、厚い皮や固い外殻を持つ魔物に有効的な技である。
「やっと、倒れた……うおっ!? 」
動かなくなった虫の魔物の足が一部だけ動き出した。
それにイアンは、まだ生きていると錯覚したが――
「…………足が動いただけ……か」
死後硬直か何かだと判断し、安堵するのだった。
虫の魔物を倒すことができたのだ。
「しかし、助けられっぱなしだったな」
傍にいるであろう仮面の者へ、声を掛けるイアン。
「……ん? なんだ。もう……いないのか」
しかし、返事もなければ、周りに姿も見えなかった。
どうやら、虫の魔物を倒した直後にどこかへ行ってしまったようであった。
「礼も言わせてくれないとは……」
せめて、別れの挨拶くらいはするものだろう。
それすらもしなかった仮面の者の無頓着さに、イアンは呆れるのだった。
(しかし……何だろうな。何か……思い出せそうで、やはり気のせいだった。そんな感じがしたな……)
この時、イアンは不思議な気分を味わっていた。
はっきり表現できないあやふやなものである。
何に対して、その気分を味わったのか。
それすらも分からず、ただ不思議だった。
「なんだかな……」
そう言って、イアンはため息をついたのだった。
丘を下り、町へ戻ってきたイアン。
宿屋の部屋に戻ると、イライザがいた。
彼女は部屋の中で、テーブルの上にある料理を食べていた。
この時、時間は昼頃で彼女は昼食の真っ最中であった。
「昼は部屋に食べ物を持ち込んで正解だったね。お腹空いてるでしょ? 」
「ああ、魔物と戦ったからな」
椅子に座ると、イアンも料理を食べ始める。
しばらくの間、何も喋らず、ただ料理を食べる時間が続いた。
「どうだったか。聞かないのか? 」
料理を食べ終えたところで、ようやくイアンが喋りだす。
「ん? もう聞いたから、いいよ」
「聞いたって誰にだ? 」
「誰に……って、あれ? 会ったはずでしょ? 」
イライザの言葉に、イアンは首を捻る。
そして、すぐにどういうことか察した。
「仮面の奴! あいつに会ったのか」
「うん。まあ、やっぱりこの辺にいたよねぇ」
イライザは、いつもの調子で話す。
どうやら、彼女は仮面の者と会うために、この町で一日滞在することにしたようだ。
「なるほど。あいつに会うために、一日ここにいたのか」
イアンは、そう思っていた。
「違うよ」
「違うのか……」
イアンの考えは違っていた。
「あの人は偶然だよ。本命は別。でも、王都周辺が心配だ~とか言って、行っちゃったんだよねぇ。
一緒に来てくれればいいのに~」
イライザは腕を組んで、頬を膨らます。
仮面の者に対して、不満があるようであった。
「ん? どういうことだ? 」
「あの人、イアンさんと同じく、私の護衛」
「そういうことか」
「……のはずだった人」
「ま、また違うのか」
イライザの発言に散々振り回され、イアンは椅子から転げ落ちそうになる。
「だって、やっぱりまだ無理とか言うんだもーん!たぶん、今回の依頼には参加しないんじゃないかな? 」
「うぅむ……やはり、難しい奴なのか? 」
そう訊ねたイアンだが、彼の中では難しい人物だと定まっている。
「難しいらしいよ。あの中で一番ね」
「あの中……? 」
イアンは、彼女の発言の中に引っかかるものがあった。
「まあなんとかなるでしょ! さ、朝の続きに行くよ! 」
「む、むぅ、まだ行くのか。元気なやつだ」
しかし、すぐに頭の中から消え去り、再び町の散策に出かけるイライザに付き合うのだった。
2019年4月1日 文章一部変更
「もう少しブラブラしてと。昼は何食べる? 」 → 「もう少しブラブラして……っと。昼は何食べる? 」
でも、王都周辺が心配だ~って、行っちゃったんだよねぇ。 → でも、王都周辺が心配だ~とか言って、行っちゃったんだよねぇ。
2019年6月7日 誤字修正
そのような気持を見た目で表したかのような恰好であった。 → そのような気持ちを見た目で表したかのような恰好だ。
文章改正
何であるかは定かではないが、恐らく扱う武器なのだろう。 → この文章付近から文章改正




