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攻撃力0のリセイバー  作者: 松平雅樹
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第一章1『始まりの街の雑魚』

 皆状況が理解できず戸惑うが各々が持ってきた一つだけの持ち物が手に握られおり、状況を理解する。


 異世界に来たのだ。


 やはり家族写真が一番多かったが、俺は中学時代愛用していた思い出のテニスラケットを選んだ。


「救済者様が天から助けに来てくださった」


「救済者?」


隣の男子が第一声を上げる。


「この世界は災いによって、終焉を迎えようとしております。どうかお力をお貸しください」


 どうやらパラレルワールドの衝突の歪みによる災いは日本だけではなく、こちらの世界にも有るようだ。


「災いとは具体的に何が起きているんだ?」


「まだ大きな事態にはなっておりませんが、モンスターの活性化が既に始まっており、天の災厄の8つの災いが占われました。なので我々はあなた方が現れるのをずっと祈っておりました。あの1000年前の神話のように」


「なるほどな、状況は理解した。引き受けよう」


 一人で「引き受けよう」なんて言いやがって、そもそも俺達の目的と必然的に一致してるだけじゃないか。


「ありがとうございます!本当に良かった……!」


 辺りを見回すが、30人程しか居らず一瞬驚いたが、禁書庫の文献に書いてあったことを思いだし理解する。


『異世界へは30ずつ10回に分けて召還される』


 要するに10回に分けての異世界召還のうち初回を引き当ててしまったのだ。


 ゲームの立ち回り上、先行プレイ出来ているのと同じなので、大当たりと考えて良いだろう。


「まだ270人が9回に分けて召喚されますので、その方々も宜しくお願いいたします」


 少女がお辞儀をしながら言った。


「承知いたしました。さぁさぁ、こちらへどうぞ神話通りに初期装備をお渡し致しますので」


 教会のような建物を出ると、そこには綺麗な街並みが広がっていた。

 ヨーロッパのマルセイユを思わせる様な素晴らしい町並みだ。


 一番安心したの文字は少なく絵で表記されていると言うことだ。これなら文字が読み書きできずとも、とりあえずはやっていけそうだ。



 風景に見とれつつ30人は街のギルドへと移動した。

 しかし、冒険心を擽るような内装とは裏腹に人は誰も居らず殺風景だった。


「なんで誰も居ないのですか?」


先程の男子とは別の男子が聞く


「夜は酒場になるので賑やかになります。お酒以外にも果実ジュース等ございます」


 ここにいる人も後から来る人も皆高校生なので酒は飲めない。


「ギルドってもっとこう、クエストを受ける場所じゃないのですか?」


「この街は特殊でしてね。ギルドがいらないのです。

 街外れに『魔結界の洞窟』があり、そこから放たれる結界の波動はモンスターと反発する力が有るので、この街の近くに居るモンスターは最弱です。そしてこの街から遠ければ遠いほどモンスターは強くなります。

 ただ8つの災いの占いに【『魔結界の洞窟』の無力化】が含まれていたのです。もしも無力化されてしまったら世界の生態系が総崩れし、それこそ終焉です………………………。

 さぁ…皆様、1人1セットご用意しましたので、お受け取りください」


 受け取り確認すると、剣、剣ベルト、腰ポーチ、ポーチの中にはカードの様な物が複数枚、液体の入った瓶が4つ。


 剣はノーマルな物で良く切れそうだ。試しに剣先を指で撫でてみたが、紙で指を切ったように少し出血した。


 瓶4つは緑色の液体なので回復薬であろう。


 そして驚いたのは貨幣。電子マネーの大きさの金属でできた薄いカードがお金らしい。


『ラグナム』と言い、この世界共通貨幣。銅貨、銀貨、青貨、金貨の4段階。

 渡されたのは青貨20枚。青貨1枚で平均的な3食と宿題程らしい。


「私どもがご用意できるのはこれまでですが、どうか宜しくお願い致します。

 この街にクエストは有りませんので早めに装備を整え次の街でクエストをこなすことをオススメします」


「おい、喚んでおいた割にはこれだけかよ。割に合わねぇ」


一番最初に出しゃばっていた男子が暴君する。


「いえ、神話通りにしておりますので、なにぞとご理解を」


 手を合わせ必死でお願いしている。それでも300人分を用意しているだけでも凄い。


「そうかよ」


「ご理解、感謝致します。街の外でモンスターを狩る方はギルドを出て右に直進したら門が有るのでそこから外に出れます。多少の資金増量にはなります。それでは皆様、ご気をつけて」


 第一回召喚者30人はギルドを出てバラけた。狩に行く者、街を散策する者、装備を整える者、ご飯を食べる者。と皆それぞれ考えが有るのだろう。


 ショウは自分の強さを知らなければ何も始まらないと踏み、狩りを選択した。

 狩に行くものはショウの他にも7人おり、4人一組の2チームのパーティーを組むことになった。


 狩り場へ向かうべく2つのパーティーは街の門を抜け平原へと出る。



「そっちにいったぞ!」


「OK〜」


「ナイス!」


 ショウ以外の3人は上手く連携をとり、イタチの姿をしたモンスターを狩っている。


「おいおい、ショウ。お前一匹も倒してなくないか?」


「お、おう。悪い」


 さっきから剣で刺しているはずなのに、一匹も倒れてくれないどころか、傷もつけられていない。


「経験値はパーティー共通で稼げるんだから頑張れよ」


「3人で追い込むから。とどめを差してみて」


 3人に追われこちらに向かって来るイタチ型モンスター。


 ショウは剣を構え思い切り振る。


 当たった!手応え有り。

「やったじゃないか!ショウ!………剣が当たってる…のに切れてない………」


 剣がモンスターの頭に当たったため失神はさしたものの、モンスターに外傷は無い。


「お前、力無いのか?」


「いや、そんなはずは無いんだけど。ほら」


 そう言ってテニスで鍛え上げた自慢の右腕を見せる。


「剣が悪いのか。それなら俺の剣使ってみ。力入れずにサクッと切れるから。俺、こう見えても全然力無いんだよ」


 剣を受け取り、失神しているモンスターに斬りかかる。


―――やはり切れない。力の入れ具合を変えても斬れない。


 3人が連携して狩ってる時に斬れない原因を捜そうと色々試した。

 木の枝、花の茎、雑草、枯れ葉までもが。手では簡単には真っ二つにできるがショウが振った剣では切れなかった。


「なんで……斬れないんだ…」


「ショウ、悪いがパーティーから抜けてくれ。使えないやつは居た所で邪魔なだけだ」


 ショウの肩をトントンと叩き通りすぎて行く。続くように後の2人も「悪いな」、「悪く思うな」と言い残し去っていった。


 俺はやはりこの世界でも落ちこぼれなのか。


 現実でも余り得意な事は無く、できるだけ面倒な事から逃げていたショウは異世界の話をされた時ひょっとしたら、異世界で人生をやり直せると思っていたが現実は甘くない。



 時は流れ、召還時から23日後


 10回目での召還者も含め、皆は既に『始まりの街ゼイロ』を出て隣の街へと行っていた。


 あれからと言うものも毎日モンスターを倒そうと頑張った。

 かなりの時間を掛けて問題を探したが見つからず、モンスターには傷一つ付けられなかった。


 おまけに武器屋に有る、この街の中で最も切れ味が良い剣を試し振りさせて貰ったが、それでも何一つ切れなかった。


 それでもやはり手で剣先をなぞると紙で指を切ったように少し出血はするのだった。


 モンスター倒せないからお金が入らない。それでは生きていけないので、街で仕事を探した。


 しかし俺が「最弱モンスターに傷一つ入れられない雑魚」と言う噂が街を飛び交った為、差別や偏見で、どこも雇用してくれなかった。


 原因はあの3人が夜のギルド、酒場で言いふらしたのが始まりらしく、その地点では噂でしかなかったが、この街の最強の剣を振ってもモンスターを倒せないと言う真実を武器屋の店主から噂を肯定されてしまったからだ。


 毎日1枚青貨が減っていき、遂に3日前、最後の青貨を使いきり、生命線が途絶えた。


 最終手段で愛用のテニスラケットを売ろうとしたが、「雑魚」を相手にもして貰えず、ストリートの隅で縮まり、哀れみ、バカにした顔でこちらを見る住民どもの展示物となっている。


 心身共に屍のように、魂が無いような状態だ。


「…………」


 泊まる場所は無い、ご飯も食べられない、助けてくれる人もいない。

 ポーション等を売っても良いのだが、どちらにせよ長くは持たないので飢え死にを決断した。


 今は昼の12時頃で8食分食べていない事になる。


「やーい雑魚!」


「バーカ雑魚」


「クソ雑魚」


「ただの大人でも倒せるモンスターを倒せない雑魚!」


 4人の子供に石を投げられながら罵倒されている。いつもの俺なら怒ったかもしれないが、今はもうそんな余裕は無い。


 3日も食べないってこんな心が抉られるようなひもじい気持ちになるのか……。


 10分程、子供のおもちゃにされたが俺が何も反応しない為、飽きて帰っていった。


 しばらくボーっとしていたが、夜になっているのに気づく


「早く寝て、明日には死ねるかな………」


「大丈夫?」


 どうせまた誰かがまたからかいに来たんだろと、ゆっくり見上げるとバケットを持ち、メイド服の様なドレスを着た女性が立っていた。


「とりあえず食べて?うちの店のまかないだけどね」


 小さなパンが一つ、レタスの用な野菜、ソーセージ1本。お水一杯を奪うように手に掴み貪る。


 飢え死にしようとしていたが、本能にはさからえなかった。


 あぁ、うまい。その味を噛み締めて体に巡らせて……。温もりを感じる。生きると言うことを。


 ショウが食べているときに女性が話を聞かせてくれた。


「神話にはね『モンスターを倒せない救済者には手助け不要』と書いてあるの。だから皆バカにしたり、助けて貰えなかったりするんだと思うけど、私はそれは違うと思う」


「………」


「困ってる人をバカにするなんておかしいでしょ?それに神話なんて1000年前にあった昔のお話。千切られているページもあるのに、神話を信じきる必要も無いと思うの…………。

 さて、私は行くね。本当は泊めてあげたいけどいい場所が無くて…地下倉庫で良ければ雨風は凌げると思うけど来る?」


 こくり、と頷き女性について行く事にした。


 地下倉庫は農具倉庫で土臭かったが、街で風にさらされて眠るよりはましだった。


「じゃあね。あ、お礼はいらないから」


「……」



 翌朝、目を覚まし地下室の時計を確認する。なんともう11時30分、かなり寝過ごした。だが一食取らずに済むのでこれはこれでありがたい。


 地下室を出て、日光にさらされる。すると次の瞬間、目に映ったものは血、死体、炎、瓦礫。


 街は南側の壁が破壊されており、街中どこを見渡しても破壊済みだった。


 だが、正直どうでもいい。こんな街潰れてしまえば良いと思っていたぐらいだから。


 しばらく街を歩いたが、何とも思わなかった。

 とりあえずご飯を食べようと思い、地下室の横の昨日助けてくれた女性の店へ行く。


 店は半壊しており、危ないと分かっていたが、何よりもご飯を求めて進む。半壊したところから厨房らしき場所に繋がっており、直ぐに食べ物にありつけた。


 貪りつくし、満腹で店を後にしようとした時、ふと目に映る。バケット持ち、ドレス型のメイド服を来た臼ピンクの髪をした女性が倒れていた。


「ぁ……あ………ぁ…あ…ぁ」


 声を震わせ、この街に来て初めて涙を出した。


「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ…………!」


 なんで俺はこんなにも悲しくて辛いんだ。昨日の夜、食事と寝床をくれただけ人、少し喋り掛けてくれただけの人じゃないか。なんで…。なんで泣いているのだ…。


「なんで………」


 昨日はよく彼女の事を見ていなかったが、顔が整っており細身。とても美人だった。


「ごめんな……」


 バケットから投げたされているパンと野菜とソーセージ。左手に握られたコップに目をやる。


「……俺が君の分まで世界を救う。この犠牲が、暖かい心が無駄にならないように」


 その震えた声には憎しみと、怒りにで支配されていた。もちろん無力な自分がこの街を滅ぼした相手を倒せるとは思っていない。


 怒りの感情が支配しきった瞬間世界は真っ白になった。




「えっ……?」


 驚きで、怒りの感情が少し解き放たれある意味、冷静になるも理解できない。ただ、ストリートの隅で縮こまり、座っている。


 相変わらず、通り過ぎる視線は哀れみ、バカにした視線だ。


 何が起こったのか理解できない。さっきまで壊れていたはずの街は綺麗に元通りになり、街行く人も普通に生きている。


 ここから見える時計塔を確認するが、時刻は視界が白くなる前と同じ12時頃。


「夢だったのか?」


 そう言えばとても空腹感が有る。だが、夢とは思いがたい感情や、暖かさがさっきまであった。縮こまり考えていると聞き覚えのある声と共に石が投げ込まれた。


「やーい雑魚!」


「バーカ雑魚」


「クソ雑魚」


「ただの大人でも倒せるモンスターを倒せない雑魚!」


「また来たのか、ガキども!」


「何言ってるんだ?雑魚とは初めてだけど?」


「じゃあ今日は何日?」


「4月23日だ。雑魚」


 これは……あれだ…仮定だが時間がまる1日巻き戻ったな。SFで良くあるやつだ。信じがたいがとりあえずはそう捉えた方が良さそうだ。というか捉えたい。


 今ならこの街を救える。俺なら救える。彼女を救える。例え、この街が嫌いでも救済者として、人としてやらねばならない。


 起こりうることを知ってしまったのだから。


 ショウはなけ無しの力を振り絞り、立ち上がり走り出した。

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