夢か現実か
天上が見える。
ここは室内なのか。
(痛っ)
体に激痛が走った。
(痛み?俺はたしか…)
脳内に映像が再生される。
記憶が途切れる前に見た全裸の女性の姿だ。
(うっ!?)
とっさに手で鼻を押さえた。
(あれは夢だったのか?)
(じゃあその前の大雨の中を走って雷に直撃されて死んだと思ってたのは夢?)
「おお、目が覚めたかね」
声がした方向に視線を逸らすと人が立ってこちらを見ていた。
白衣を着ているおじさん。医者かな?
「君は落雷に撃たれて瀕死のところを通行人が連絡してくれてね」
「病院に運び込まれた途端に傷が回復を初めてみるみる火傷が治っていった」
「呼吸も正常。心臓も動いてる。臓器はまるでダメージを受けている様子はない」
「君は一体、何者だね?」
(そんなことを言われましても)
俺は混乱していた。
今、医者と思われる人物がした発言の内容を素直に受け入れられない。
病院に運び込まれた途端に傷が回復?
臓器はまるでダメージを受けている様子はない?
落雷の直撃を受けて、そんなことがあり得るのか?
非科学的だ。あり得ない。
そもそもそのあり得ないことが自分の体に起きたという事実。
俺は俺の体が一体どうなってしまったんだ?
いくら悪運が強いとはいえ。そんな超回復できる力は持ってないぞ?
「わかりません…」
俺はそう答えるしかなかった。
「そうか…。いや人体の不思議というべきか」
「興味深い…。こんな事例は初めてだ…」
そんな珍しい物を見る目で見ないでほしい。
まあ、そんなことが本当に俺の体で起きたのならしょうがないとは思うけど。
「あの…俺は、死んでない……ん…ですね?」
これが夢でないなら、そういうことになるだろう。
自分では納得も理解もできないこの状況。
誰かの口から真実が語られるのを聞きたかった。
「普通は死んでる。でも君は生きてる。間違いなく」
「ここは現実、死後の世界じゃないよ」
その言葉を聞いて安心した。
まだ100%納得はできてないが。とりあえずそういうことにしておこうと思った。
「意識も戻ったみたいだし、明日には退院できるだろう」
「本当はその異常な回復の原因が分かるまで入院。そう思ったが、実は上と決めたことがあってね」
白衣の男は、ため息混じりでそう云った。
「??」
一体なにを決めたんだろう。俺は首をかしげた。
「……君の私生活を見てみたい」
「なぜ君がそのような体質を持っているのか?」
「私生活に鍵があるのではないか?」
「それを観察し君の体の秘密を解明したいと私も上も思っているからねぇ」
「君の体の秘密が分かれば多くの人類を救うことができる。まさに医者の夢が詰まっている!」
次第に興奮していく男。
まあ分からなくもないが。
「だから君は今後。定期的に通院して近況を体の調子を私たちに伝える」
「君の意識が戻って平気そうなら。そうしようと話し合いで纏まったのさ」
なるほど、観察対象になるのは変わらないと。
このとき俺はそれ以上の疑問を持たなかった。
だが疑問をもっともっておくべきだったと後々思い知ることになる。
この病院のお偉いさんの中に紛れ込んでるだろう、ある集団の陰謀に利用されていたことを。
「さて、そろそろ寝なさい。明日の朝には退院するんだからそれまでゆっくりとね」
俺はそのまま目を閉じた。
たしかに今はやることもないし寝るくらいしかできないだろう。
頭も混乱してないわけじゃない。
寝て起きたときにこの病室の天上が視界に映るならばこれが現実だと認識すればいい。
俺の意識は深い眠りへと落ちていき、熟睡した。
詩音が熟睡したのを見届けると部屋を出て
暗い病院の廊下をコツコツと歩きながら男は呟いた。
「期待してますよ。選ばれし被験者殿」
「計画に使えるかどうか見極めさせていただきます」
詩音の周りで確実に何かが起きようとしている。
彼が目覚めたとき、彼の日常は大きく変わっていくだろう。
詩音は何も知らずにただ眠り続けた。
次回の更新をお待ちを