異世界移民はお断り!
異世界移民とは、異世界に転生したと自称する国籍不明者のことである。
移民者と言っても彼らは千差万別であり、突如少年から青年・三十路四十路で現れる者もいれば生まれつき異世界の知識があるとかほざく連中もいる。
見分け方は後者では難しいものの、基本的には善良で周りに迷惑が掛からない場合では異世界移民とは認定しない。
異世界移民と認定する多くはあらゆる事象を捻じ曲げ、制止しても止まらない連中を指し示す。
例えば、チート能力だとか意味の分からない卓越した知能能力を持っている者や強くてニューゲームとか意味不明な理由で最初から個々の能力が振り切れている者も異世界移民だ。大概これらは、本人が言わずともあからさまな行動で周りに知らしてくれる。
それでも常識があってこちらの慣わし従ってくれるならまだ良いが、中には俺が正しい俺を讃えよと間違った思い込みをする者もいるし。勝手に魔王を倒しに行くとか。俺ツエーをしにいくとか。ハーレムを作りにいくだとか。面倒この上ない連中もたくさんいる。
中でも、大して性格が良いわけでもないのに人望に厚いわけでもないのに複数人の女性からモテたりする奴らは男性陣からのヘイトが高く、治安維持的によろしくない。
彼らが迷惑をかけるのは言葉だけなら良い。また、単に破壊行為をしたり、傷害殺人を犯すだけなら法治によって取り締まれるので逆にやりやすい。問題なのは大ごとを勝手に起こしていくことだ。
頼みもしないのに山賊を倒したり、飛龍を倒してしまう、などだ。
山賊がいなくなれば旅商人にとっては大助かりだが同時にその道を使いだす密輸業者も新たに取り締まりしなければならなくなってしまうし。飛龍が倒されれば近隣の町にとっては大助かりだが飛龍が食べていた大型の魔物が増えてしまい、その討伐をしなければならなくなってしまう。
とくにアフターケアというものを異世界の者たちは苦手らしく、それは俺の管轄外とばかりにこちらに仕事をほっぽり出すのだから迷惑この上ない。
そんな私は異世界移民管理局員、管理局員とも呼ばれる。
今日も働きすぎの異世界移民を怠けさせなければならない。
管理局員の仕事は、異世界移民に何かをさせないことだ。
普通、移民は働かずにいるほど福祉のコストになる。そして、異世界移民は動かれることで社会秩序のコストになる。
なので、できるだけ異世界移民に寄り添って何もしないでいただくのだ。
異世界移民はもれなく衣食住を保証し、働かなければ報奨金を与える。逆に竜を狩りに魔物を狩りに行くならば、街から出るのに税金を取り立て、もちろん入る際にも取り立てる。
異世界移民に何か頼むことは当然厳罰、話すことも厳重注意、ハーレムを作ることも原則禁止だ。もちろん、治安のためだ。
異世界移民からこれらの条例に反対する者は最終手段がある。
それはまた異世界に飛んでもらうことだ。
こちら側に召喚される世界があるように、他にも異世界と呼べる別の世界がいくつもある。そちらに召喚しなおしてもらうのだ。
もちろんこれは国外退去のようなものだが、異世界移民にはこう述べる。
「私たちの世界ではあなたのような素晴らしき人々を受け入れられるほどの文化の成熟はありません。どうか、私たちにあなたが別の世界でチャンスを掴むお手伝いをさせてください」
特に最後のお手伝いというフレーズは異世界移民たちには好評なので、どのフレーズが最も親しみを覚えるかも調査を行っている。
こうして、こちらの世界で許容できない異世界移民には別の異世界にわたってもらうのだ。
飛んで行った先の責任? そんなものはこちらも手いっぱいなので考えたくもない。
異世界移民なんてこちらからお断りだ。
あとがきにもある通り、そんな素朴な疑問とネガティブな回答。
異世界ものに拒絶反応があるわけではなく、大量に異世界転生が押しかけたらきっと迷惑だろうなと考えてしまった。
実際、異世界移民のように大量に来たらどう対応するんだろうね。