表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き砂漠の惑星と水豊かな惑星の物語(改)  作者: ののみやゆい(または、ののちゃ、高木眞弓、のの1号)
1/1

2つの惑星

溢れる水の豊かな天空の星の住人


善き者達 心優しい美しき民人ら 

我等に水の塔を与えたもう・・甘き水を与えたもう・・」


俺達の惑星には 伝説として謡われる幾つかの子守歌がある


「砂嵐が 我等の泉を奪い去った後さえも

地下の水の塔は枯れる事なく

水音を奏でながら 恵みを与える・・。


善き者 天空の星の住人は 星の箱舟で

天空から訪れた


砂嵐の魔人たちに追われ この地を去る

だが・・いつか 再び

水の恵みと 失われし緑の大地を与えると約束したまう


我等は 待ちつづける・・

砂嵐の魔人のくびきから逃れる日の事を夢見て・・

水と緑の恵みの楽園が蘇る日を・・」



そこは 俺の故郷 惑星ヴァンダルとは違う星だった

赤き砂漠の荒涼とした惑星ヴァンダル・・。


水の豊かなる惑星・・フォルトーナ

伝説に謡われた水の惑星

今 俺 ファリは 

伝説の地 水の豊かなるフォルトーナにいる・・。



ゆるやかに 都市の中に張り巡らされた水路を小船がゆく

更には 淡いオレンジ色のレンガで組まれた橋の中にも 水が引かれていた

大きな水道 その中にも小船がゆき それぞれ白い大きな建物と繋がっていた


都市部の乗り物やら移動には 空中を飛ぶ小さな船と

おもには 水路を使う小船が使われていた・・。


水路の水は清らかで 透明 小魚が泳いでたり

あの鳥・・水鳥が 小船の間をゆるやかに泳いでいる


花の咲く木々の合間からは 光がこぼれている

小鳥たち・・小鳥という可愛らしい生き物達が 

楽しげに謡い 鳴き さざめいている・・。


小船のゆく水音をつま弾き 奏でている・・。

青い空のもと 柔らかな風がそよいでいる


「見て ファリ 空中の噴水よ・・。」


変わった噴水がある 空中で水が球体となり 水が踊るのだ


ガラスのような管が噴水の上に立てられて 

それは40mほどので高さがあり 先の上の方で球体となっており 

中で 

空中に噴水をとなって ガラスの透明な球体の中で水が踊る

空中の水は光りを浴びて ときおり虹を描きだす


あるいは もっと小さなもの・・


こちらは

ガラスを使わず 無重力の装置で 水を宙にあげて

同じように球体にして 水を躍らせたりもしている・・。

宙に浮いた水は 様々に姿を変えている・・。


沢山の白い建物群 


建物の下には 熱帯のやしの木などが 風にそよぎ揺れる


鮮やかな花 ブーゲンビリアに 赤いハイビスカス

花のように華やかな色合いの赤や黄色の鳥たちの鳴き声



これが花というもの・・甘い芳しい香りに それだけでも

心が和らぐ・・


船に乗り合わせる 数人の客達がいる


小さな子供は笑いはしゃぎ 


そのすぐ横で鷹のように鋭い瞳をした少年が

まわりを見てる・・・


赤い瞳に黒い髪・・浅黒い肌・・船の水・・水鏡に映る

それが俺 ファリ


ファリ・ナジュム


赤い荒涼とした砂漠の惑星ヴァンダルから来た・・。


そして ここは 水だけで構成された惑星なので 

人が住まうための人工の大陸があり・・


今 俺がいる都市部は人工の大陸の一角・・。



人工の大陸は 円形で 水だけで構成された

この星に 浮かんでいる形となる・・

中には 空中に浮かぶ大陸もある・・。

 


都市の風景は こんな風に水を使った乗り物が多数あって

白い建物と 緑と色鮮やかな花々で彩られていた・・。


そして・・ため息


「もうすぐ到着よ ファリ 

もう一人のお友達も後からすぐ来るわね」


隣に座っている少女が笑いかける 

淡い金の髪 尖った耳の

愛らしい少女 エル


「疲れたのかい?ファリ」

少女の父親 そして 今の俺ファリの保護者でもある

ピウスが心配そうに声をかけた


「いえ 大丈夫です」

俺は軽く笑みを作って 彼らに答える


ここは まるで 夢の御伽噺の話ような桃源郷の場所


俺がいた場所とは ずいぶんと違う・・


軽く目を閉じ 思い起こす

そうだ・・俺がいたのは荒涼した砂漠

赤や金色の砂に ゴツゴツとした岩 

そして岩の間には水晶の岩も見受けられる・・そんな場所


赤き砂漠の惑星ヴァンダル


ほんの数年前まで 僅かばかりの技術力を頼りに

部族間での抗争を繰り返しながら 

砂の海の中を暮らしていたのだ


大昔にはあったと言われる 小さな湖は消滅して

東にある 古代の地下都市 

伝説の天空人の作った水の塔の恵みで 生き延びていた。


水の塔から 漏れ出る水が 地下を通り 離れた場所にいる者たちの

命をつなぐ


古代の地下の都市の跡には 水が溢れていたが 


そこには 巨大な生き物がいて 人を食らうので

大量の水を求め その水を汲みに行く者達は いつも命がけだ・・・。


天空の住人の贈り物

古代の天空の住人の魔法・・いや・・科学技術とかやらで

空気から水を造りだす装置が 地下都市の中心部分にあり


都市の中央に設置された 巨大な高台 

塔から水が溢れ 滝のように流れてゆく

都市は半ば 水没していたが

その水の恵みは 人や生き物達の多くの命を支えた・・。



他にも水を得る方法は幾つかあったが

やはり そこが一番多くの水を得られたのだ


その水の塔から流れ出た 漏れでた地下からの支流の先には


砂漠にはえる植物が その水にすがるように茂る・・

とげがないサボテンのサツバール

岩にはりつくこけのようなトリブル・・


それら植物の実が 水分を含み 

その実の果汁で 

俺達 人間や生き物達が 水分を補う事もあった。



畑や家畜を営むものには

水は重要で 家畜には 

水分を多く含んだ

サツバール(サボテンのようなもの)に

トリブル(コケ)を食べさせる事も可能だったが 


やはり水はかかせない


地下都市遺跡の中の塔の水

その場所に近ければ近いほど 支流からの水量も多く


当然地下都市遺跡とそれらの周辺の場所の取り合いで

部族の間の戦いは長く続き


血みどろの争いや厳しい砂漠の生活の中でも 

人々は たくましく暮らしていたのだ・・



赤い砂漠の地

彩りを添えるかのような 金の砂地や水晶の柱


砂漠の恵みは他にもある・・


それは

砂漠の砂の海の中に潜ってくらす 小さな砂魚サマク


砂の海の中に 時折混じっている 砂金で出来た砂場

アウルムの中に住む 砂魚サマク

その中を泳ぎ 時折 地上に顔を出したり 飛び跳ねる。


俺は ゴーグルとヘルメットを被り 小さな空気のタンクを背中に背負う


片方の手には槍

そしてもう片方の手には 開きかけた半開きにしたかさの形に似た機械フングス

横型で 先がとがり 後ろは傘の形のように広がっている。

前部分に薄くした水晶を埋め込み あたりが見えるようになっている 


下部分には 砂漠によく湧いている黒いコールタールを燃料にした

ジェットエンジンがついて


頭から被り 上身はそれから中心の柄の部分を握り スイッチを押して


砂の海の中を潜り 砂魚サマクを追いかける

やりで突き 砂魚を採る


あまり深く潜ると 機械が故障した場合 砂から出られないなどという

危険は 事態になる・・

 

浅く潜り 深く潜りすぎないように注意しながら

砂魚サマクを次々に採る・・


「今日は大漁だな・・」嬉しそうに 少年ファリは笑う


魚篭に砂魚サマクを次々に 入れて

にんまり・・と笑う


「大漁じゃないか!」近くに住む 別部族の男

ニヤニヤと笑い 少年の魚篭に手をかける

少年ファリは サッと魚篭を握る男の手の先に 槍の剣先を

突きける


「最近は 砂魚サマクは 高値で市場で売り買いされてるからな

注意しないと・・な・・。」

俺は 男をやぶ睨みしながら 槍先を突きつけて 呟いた


「そんなに 睨むなよ チッ」

舌打ちするなり 男は悔しげに

立ち去る。


キュア-ン それは獣・・モンスターの鳴き声


砂魚を狙う 小型のモンスター ギュアント

大きさは 10歳前後の子供ぐらい

2匹 こちらを見てる


沢山の小さな目に ゴツゴツとした岩のような肌

大きな口元には 鋭い牙 吸盤と魚のヒレがついた前足と後足

後ろには 魚のヒレ

かなり凶暴で 人間も襲う


ギュアントは こちらに襲いかかってくる

俺は 手にした槍で ギュアントを一突きで倒す


二匹目の攻撃 そして

ジャンプして避け 地面に手をつき 体を反転させる


槍を投げ 二匹目のギュアントを倒す


倒されたギュアントは まだ うめき声をあげて体を痙攣させている


今度は 長めの棒のような生き物 ミッテイラが 

5匹ほど砂の中から飛び出してくる

直径は6センチ前後で 

長さは1mほどの細長のひょろ長い小さなモンスターだ


口には 小さいながらも沢山の牙が見える

肉食で 人の血を吸うのだ

砂魚サマクも奴等のご馳走だ・・。


小さな子供の場合やミッテイラが沢山いる場合ならば 

ともかく ミッテイラは致命傷にはならないが

やはり かじられるのも 血を吸われるのも遠慮したい生き物だった・・。


ジャンプを数度繰り返して ミッテイラから逃れる

砂に身体が転がる

「ちい」舌打ちして 再び身体を

起こして ジャンプを繰り返す


奴等は砂金を嫌うので 

砂金の砂の場所に行こうかとも一瞬考えたが

ふと思い出す・・。


ミッテイラの皮部分は コケのトリブル酒に漬け込むと 

酒の味が増すらしく

市場で高く売れる事を思い出して 

足のブーツの中の小刀を取り出して

ミッテイラに投げつけた


2つは外して 逃げられたが

3つは 直撃して仕留めた・・


俺はため息をつく・・

「ギュアントの方は 軽めの毒があったっけ・・」

身体や顔に血がついてないか

確認して 念のために 妹が作ってくれたタオルで顔や手足を拭く


「砂魚や魚篭はギュアントの毒はかかってない・・大丈夫だな・・。 

ギュアントが食べられるモンスターだったら良かったのに」


「ミッテイラは 市場で売るか 親父殿達の土産だ・・

まあ どちらにしても

喜んでくれるだろう・・・ふう・・。」


「ギュアントの毒は

後で 腫れ上がるからな・・ まあ致命傷ではないけど・・」

ブツブツと独り言を言う・・・。


「あ・・近くに 東の水の塔・・地下遺跡から漏れ出した

地下支流・・で 井戸があったよな・・ また水が枯れてなきゃいいけど・・。」


顔を拭いながら 妹の作ったタオルを見る


妹の織り上げて作った  

タオルには綺麗な図案が織り込まれた


子供の頃に怪我をして以来 足の悪い妹だった だけど


妹リーシュは織物に 縫い物が上手で

図案は 東の水の塔の遺跡の壁面に彫られていたもの

花というもの・・。

大昔には ちいさな湖もあり 

滅んでしまった植物やら花やらがあって

遺跡の壁面には その有様が彫りこまれているのだった


可愛い俺の妹リーシュ・・

彼方から来た 天空人と交わったあかしとして

時折 先祖返りの姿を持つ者が生まれる・・異形の美しさを持つ妹・・。


俺達の種族は 本来 浅黒い肌に黒髪 それに赤か黒に茶色の瞳だが


天空人の姿は 様々で 金の髪に淡い瞳で耳が尖った者や

青みがかった肌に

銀色の髪と金色の瞳を持つ者

あるいは鱗や虹彩の瞳・・・


そして・・俺の妹は 伝説の天空人の中でも 

水の民に近いとされる その種族の一つ

水色の髪に 虹彩のかかった瞳 それに手の甲に虹色の鱗を持つ者・・


祖母もまた・・こちらは違う天空人の姿を映す・


異形の天空人の姿を映しとったような 先祖返りの者達は

その美しさゆえに そして先祖が与えた水の塔という地下遺跡の恵みゆえに 

時には畏敬の念で愛され 

時には 異形の者として 恐れられて

神への生贄にされる事やら・・様々あったのだ・・。


幸いなのか 俺達の部族では 

俺の妹達は 普通の子供と同じ扱いを受けている・・。


俺の祖母にあたる女性アリア・・


彼女の異形の天空人の姿は

尖った耳に金の髪に淡いグレーがかかった緑色の瞳・・。

部族の世代ごとの中で いつも一人か二人・・多くて三人か四人現れる・・。


あるいは その姿を一部だけ 映した者・・髪か 瞳の色だけとか・・


それは・・いつか戻って来る事を約束した 

子守唄の中の天空人の約束の証のように・・



「ふう・・」とため息をつく俺 ファリ・・


再び 織物のタオルに目をやる・・。


2世代前に追われる以前は 

東の水の塔の遺跡のすぐ近くに住んでいた・・

俺達の部族


前の世代が 織物の図案に 壁の壁面の彫り物を写していた・・。


この織物も 俺の村では 貴重な収入源・・。



この赤い砂漠・・大昔にあったと言われる 小さな湖は失われ

その時に ささやかな緑も失われた


その頃の風景は どんなものか 知らず

俺達は 残された地下遺跡の壁画と

伝説として子守唄で 伝え聴くのみ・・



天空の住人が作り 贈り物として与えてくれた 

水を作り出す装置の機械 東にある地下遺跡の水の塔ひとつで


時折おこる砂嵐(砂の魔人の息と呼ばれる嵐)にも耐えながら

この荒涼たる赤い砂漠の地で 人間は生き延びていた・・。


水の塔は 東の塔以外にも 幾つかあったが

東の塔以外はみな 壊れてしまった・・。


伝承では

西の塔は 半壊

南の塔は 水のみなもととなる 魔法の青い石が

盗賊によって奪われ それ以来 水が湧くことがなかったという・・。


他の塔は 砂の魔人により 彼らがその手を伸ばして 

地下深くに隠してしまったという・・

おそらく・・砂嵐か何かで地下に埋もれてしまった・・という事らしい。


水が湧き その恵みを与える 地下遺跡の中の東の水の塔・・。


俺達 人間は部族同士に分かれて 暮らしていた・・。


俺達の部族同士の争いで村を守り 貴重な水を確保する事 

砂魚の漁に 遊牧 

家畜は 乗り物にもなり 

ミルクも多くでるデアンカ(ラクダのようなもの)に小さな鳥・・

モンスターとの戦い


部族のおもな女達(女戦士は別だが)や身体の弱い者の仕事は 

家事に 夜の寒さや日中の暑さをしのぐ衣類や小物 

日用品も含めた道具や武器を作り


市場で売るための織物を編み

それから 危険と負担の少ない 

コケのトリブルなどの実

棘のないサボテンのサツバールを収穫したり 家畜の世話をしていた・・。 


そして 先月に一応は戦士として資格を認められた

今の俺の仕事は おもに金になり 手ごろな食料の確保に

なる砂魚サマクの漁・・


そうやって砂の海に潜っては サマクを採っていた


砂金も 金にはなるが・・俺達の住む砂漠の星では

あまり価値は低めで 味の上手い砂魚サマクの方が金になったのだ・・

・・・

そう その時までは・・・・・


俺は 口笛を吹いてデアンカ(ラクダ)を呼ぶ

体には 幾つもの水袋があり 乳も良く出る


足は6本もあり 水も飲まずに 熱砂にもよく耐える・・。

デアンカの体に魚篭をくくりつけて 鞍にまたがる

そして何より

デアンカは

俺達の移動を助けてくれる 乗り物の役割もしてくれる


「行くぞ・・この近くの井戸か水場まで移動するから・・」


移動には 砂船もあるが 大型で大人数を運ぶもの

風力とコールタールを調整した燃料が必要で

こちらは 遠方移動や大量の家畜を運ぶ時などの特別な場合に使われていた。


しばらく行くと・・そこにあるのは 岩場に囲まれた井戸

「廻りのコケのトフブルが生き生きしている 良かった水は枯れてないらしい・・。」


その時だった

空から奇妙な 巨大な光が照らす

「何だ?」


大きな大音響とともに 近くの砂の海に激突したもの

それは大きな変化 激変の始まり・・


一瞬 吹き飛ばされそうになるが

傍にあった岩場が俺を守った。


赤い布で結んでいた

肩ほどの長さの真っ直ぐした黒髪が 解けて サラサラと風にそよぐ


そして

しばらく呆然としていたが 何が起こったのか 確かめるべく


俺はまずは取りあえず 水を少々汲みあげて 水入れ用の皮袋に納め

そのまま 大きな爆音のした方へ向かった・・。


デアンカに乗り 砂漠を走り

砂の谷を二つ程越えた先に

それはあった・・。


巨大な物体が 砂の海にめり込んでいた・・。

丸みを帯びた箱型で 巨大なものだった・・。


箱型の表面から シューシューと音がしている。


「なんだろう?これ・・?」 

恐怖より好奇心の方が俺の気持ちを上回った・・。


デアンカに乗ったまま・・

グルグルと廻りを回る・・

一周を廻るだけでも かなりの大きさなので 時間がかかる


「大きいよな・・空から堕ちてきたのか・・?

え・・?空・・」


俺は 喉元で ごくりと唾を飲み込む・・

「まさか・・?」


「まさか・・・? 伝説の天空人・・?星の箱船か?」


表面はツルツルしていて まるで繋ぎ目がない・・


俺は 意を決して

そっと 恐る恐る 近づき 巨大な物体の表面に触れようと試みる

手をのばしかけて 一瞬やめた 近くによるだけで熱気が感じられたから


「危ない! 大気熱でまだ 熱されて 温度が高いんだ!

少しだけ そのまま 待って!」


どこからか 声がした・・。


まもなく

継ぎ目のないはずの巨大な箱型の一部が光り ぽっかりと穴があく

・・いや扉が開いた


俺はごくりと 喉を鳴らす・・天空人の星の箱舟

天空人が降りてくる!


どたん!! 降りてくるというより こけて転んだ・・という表現が

正しいのだろう・・。


「いや~まいった まいった! すっ転んだよ! あはは」

能天気な明るい笑い声


神々のような 威厳のある神々しさ(こうごうしさ)を 

心ならずも期待していた俺だったが・・

何かが・・力尽きるような 思いを感じた・・。




先程 転がったのは・・

まだ 俺とそう 年齢は変わらない少年だった


そして その姿は 淡い金色の髪に淡い青の瞳 尖った耳

・・天空人の姿の一つ 祖母のアリアと同じ姿の人間・・・。


「こらレーヴ・・まだ出るなと あれほど・・ん?君?」

俺の方を見る


少年を軽く叱り俺を見てる男・・

・・その姿もまた 少年と同じ淡い金色の髪と尖った耳を

持つ男だった・・。


その・・ちょっと間抜けな少年レーヴこそ 

この惑星に緑の恵みを与える者だったが

それは ずっと後の話・・。


俺は 彼らに問いかけた


子守歌の中にやら 

そして伝承として伝わった彼ら天空人の言葉で

俺は問いかける事にした


「貴方達は 天空人? 水の星に住むという

水の塔を作った伝説の空の彼方に

住まう者達ですか?・・」


「貴方方の姿は 天空人と交わった子孫である

俺達の部族の民・・

時折現れる 天空人の姿を現した祖母アリアの姿とそっくりだ・・。」 


「それは・・少々 大昔の古いイントネーションに表現やら

入り混じっているが

確かに我々の言葉だ・・。」


彼らは じっと驚きの表情でこちらを見てる



そう これは紛れもない天空人の箱舟


天空人と呼ばれる者達の星の箱舟


1隻の宇宙船が 砂の惑星に不時着したのだった

それも俺達の村の近くに・・・その伝説通りに・・



伝説として 伝えられていた天空人

いつの日にか 現れると信じられてきた人々・・。

彼らは 今 ここにいる・・。


俺は まず代表者数人を 村に案内する事になった

その中には 先ほどの 俺と同じ位の少年とその父親も

含まれていた・・。


俺は まず村の村長や親父達に引き合わせて

次に急いで 村にいる祖母と妹達と・・ 

数人の天空人の姿をした者達を連れてきた・・・。


祖母の姿と妹の姿を見て 彼らは 案の定

大変驚いていた・・。


そして 祖母や妹達も驚きの声を上げる

「ファリお兄ちゃん この人達?」


「・・伝説の天空人さ・・

ついに伝承通りに天からの星の箱舟に乗り翔けてきた・・

戻ってきたんだよ・・」


「・・我々の大昔の記録には確かに 一部残った者達がいたが・・

その少年ファリくんの言葉もだが


彼らの子孫がいたとは・・いや・・混血して 

この地にその姿や言葉を

とどめていたとは・・驚いた・・。」

彼らは 驚嘆しながら呟く・・。



祖母アリアと レーヴという名前の少年とその父親の姿は 

同じ血族の姿をしている



天空の星の箱舟に乗り この惑星へと来た その少年の父親は 

涙を浮かべ 同じ姿の祖母アリアの手をしっかりと握りしめた・・。



そして・・・彼ら天空人・・異星人が言うには 

あの地下都市の遺跡

水の塔は 彼らの先祖(正確には連邦という惑星間の組織)が作ったものだと言う・・


大昔に資源や他の星との交流を求めて

星域を探索中の宇宙船 連邦という組織に属する宇宙人の船が 


彼らの船がこの星に不時着して 俺達の先祖と交流をして

中には 数人 俺達の種族と結ばれる者達もいたらしいが・・


砂金や水晶に 岩に含まれる貴重なレアメタルなどの金属との交換に

この星に技術 惑星改造つまり水の塔の建造に着手したのだという



彼らとの交流が始まり 

天空人・・異星人の彼らを襲う他の部族から

彼らを守った・・・


ある時には

他の部族の元に出向き 生贄として殺されそうになった

天空人を救い出した・・。


あるいは 彼ら天空人が帰ってくるなどと

信じようとしない者達が多くいたからだった・・。


その事件は ある日の晩に

彼ら天空人(異星人)から相談を受けた事から始まった・・。


東の水の塔の調査のために

遠くの東の方にある部族の村に出向き 二人ほど帰ってこず

連絡も途絶えたという・・。 


相談をうけた 村の族長や親父殿達は 顔を合わせて

重々しく悩ましげに顔を互いの顔を見ている

一番年の若い戦士である俺ファリも この会議に参加していた。


俺はつい口が滑り 彼ら天空人に ある事実を告げた・・。


「東の部族の一部では 水を絶え間なく得るには

毎年 必ず生贄を必要だと考えられていて・・

一番良いのは 天空人の姿をした子孫・・

いなければ見目麗しい人間の血を捧げる・・」


「全身の血を抜かれ その血は 儀式の後で

遺跡の湖に注がれる」


「血を抜かれた身体は 砂漠の地に捧げられる」


「天空人なら・・

天空人が帰ってきたなどと信じずに・・ 


生贄にされる 天空人の子孫と

誤解されて 生贄にされる可能性が大きいな・・」


「ファリ!」


「あ・・ごめん・・口が滑った・・。」


族長は 重い口を開く・・

「我が部族には 天空人の姿をした子孫が

特に多く・・奴等は 我が部族を何度も襲ってきた・・。


12年前にファリの祖父は 襲ってきた奴等・・

天空人と同じ姿をしたファリの祖母を守ろうとして

奴等に・・・


天空人の姿ではなく 

我等部族の見目の良い者数人もさらわれた


その中には見目の麗しかったファリ達の母親もいて 

あいにく間に合わず 助ける事が出来なかった・・。」


「伝承は全部族には伝えられていたものの 

長い年月の果てに・・

中にはゆがめられて伝え聞いた者達も多い」


「交渉は?無理なのでしょうか?」


「歪んだ伝説で 凝り固まり 生贄を捧げてきた連中だ・・

代わりの生贄でも 差し出さない限り 難しい話だ・・。」

親父殿が今度は口を挟む・・。


その答えに レーヴ達の父親をはじめ

天空人・・異星人は沈黙する・・。


「我等に まかせて欲しい・・。

貴方方には 深い恩義がある 生きてるならば

必ず助け出すから・・」

族長は 彼らにそう告げた・・。


俺達は 夜の闇に紛れて

奴等 東の部族の村に忍び込む事にした


「ファリ 君も行くのかい?」と俺と同じくらいの少年

淡い金の髪 尖った耳のレーヴは問いかける


「ああ・・俺も戦士だからな 参加する資格はある・・。」

「儀式は 確か 2の月の半月の晩 


それは明日に毎年行われる儀式だから・・・

まだ 無事だと思うけどね・・。」


「俺達が必ず助けてやるから 心配するな・・。」

彼に笑いかける・・


「先日 レーヴで・・いいだよな・・。

レーヴ様でなく

呼び捨てで名前だけでいいって・・言ったから・・。」


「レーヴが作ってくれたお菓子が上手かった・・

妹も大喜びしていた。」

「有難う・・」


「それに

天空人の絵本やら

箱に映る映像・・コンピューターのアニメだっけ?

それも見せてもらった・・」


「あんな綺麗な絵や楽しい話とか 初めてだ

無事に帰ってきたら お菓子に

次の絵本とか あ?アニメ それを また頼んでもいいか?」


「うん ファリ! 楽しみにしててよ

沢山作る・・」


「楽しみだ・・期待してる」俺は笑った




夜の半月の月が顔を出している・・・


救出を買ってでた村の戦士達は

黒い衣を纏い

そっと 闇に隠れながら 東の村に忍び込む


東の村は 地下遺跡の東の水の塔に近く

水が多く その分 養える家畜も多い


あちらこちらに沢山のコケのトルブルが生えており

トルブルの実も多く見受けられた・・。


むしゃり・・村の誰かがつい トルブルの実に手を出す

親父がそっと それを たしなめる・・



村の広場近くに来て 小さな声で

誰かが言う

「ここで間違いないか?」


「生体反応がある・・間違いない」


だが、そこにいたのは・・儀式で殺されそうなっている者


彼の髪はまっすぐとした黒髪で長く 砂漠の冷たい夜風に揺らめく・・

一見すると俺達の種族 


しかし

天空人の血の証 

手先に銀色の鱗のある綺麗な顔の少年


その少年が 首筋を斬られて 身体を吊られている

下に置かれた壺に 彼の流した血が溜まっている


「さらわれた他部族の少年か?息がある・・。」

「この子も天空人と同じ子孫だね・・。」


「うっ・・」

瞳がうっすらと開く 青紫の虹彩を帯びた色の美しい瞳だった

瞳もまた 天空人達のもの・・・。



「助けるのか?」

「ああ・・こっちだ・・そっとな・・。」


「名前は?」俺はそっと問いかける


「ナギ・ナジュアナリ・・

ナギ・ナジュアナリ・ザフリイ・・・


水にいつも困っている遠くの南の村の者達に

まだ幼い頃に兄弟達と一緒に さらわれて そこで育って・・

その村人達に連れてこられた・・。」

小さく ゆっくりと呟く・・。


「すまんが 聴きたい事がある 彼らはどこだ? 

他にも生贄の人間がいるはずだ?」


「・・あの人達は天空人のそのままの姿・・

とっておき・・だと この村人達は言ってた・・。」


「あそこ・・

あそこの小屋にいる・・。」

息を荒くしながら・・・彼は 指差した・・。


すばやく彼の怪我の応急手当てを済ませ 

それから・・俺の村の戦士の一人がうなずき

彼を村の外の安全な場所へと避難させた・・・。


村の小屋のすぐ外で 彼等 天空人は縛られて 

刀をつきつけられていた


そして・・ 

彼ら・・選伐隊の二人は信じてくれと叫んでいた


「我等は この地に住む 天空人の子孫でなく

先日 宇宙から箱舟に乗って来た者だ!

信じてくれ!」

「生贄など まったくの無意味だ!」


「デタラメだ・・天空人が帰ってくるはずないだろう?


砂の魔人と地下遺跡の水の神に生贄を捧げなくては

俺達の唯一の水源は途絶えてしまうのさ」

東の村人達は笑う


小屋の屋根から 俺や親父達は大声で 叫ぶ


「彼らは 帰ってきた!」

「我等は 古代に水の恵みを与えてくれた大恩のある彼等を

命にかえても 救い出す!」

矢が放たれ 彼等を倒す


「貴様ら! この村に侵入して生きて帰れるなどと思うな!」


彼等もまた 矢を放ち 屋根に上り剣を交えた


ギュオオーン

奇妙な爆音がした

半月の夜の空に 宙に浮かぶ物

天空人の乗り物の一つで バイクという代物らしい

そのバイクは 空中を滑るように浮かび

今 俺達の目の前にある


乗っているのは・・・

「レーヴ!」


「あ!ファリ 心配で追いかけてきちゃった・・。」


「この馬鹿! 危ないだろうが! 戦闘の経験なんぞない

天空人は黙って大人しくしてろ!」


「それはないじゃないの ファリい・・」

泣きそうな情けない顔をするレーヴ


「なんだ!あれは!! 宙に浮かんでいるぞ!」

「矢だ! 砂の魔人の悪しき魔法だ!」


沢山の矢が雨あられとばかり

レーヴめがけて 降り注ぐ

「ぎやああ!」レーヴの悲鳴があがる


「ちい!」舌打ちをすると 俺はジャンプして

レーヴをバイクから引き剥がす


「ひゃああ!」今少し 情けない悲鳴を上げるレーヴ

彼を抱きかかえ すぐ下の屋根に着地する


バイクは落ちて大破する

勢いよく爆音が響く


レーヴをかばい 破片のかけらが当たる


「つう・・」背中から血が滲む


「大丈夫かい!ファリ!」


彼の心配そうな目を見て

俺は強がって 不敵そうな笑みを浮かべから

レーヴに言った・・。


「ふん! たいした事ない

それよか・・お姫様だっこをされてるレーヴ殿・・

見た目よか 少々重いようだな・・」


「!」


俺はもう一度 ニッと笑う・・。

それから 近づいてきた敵を振り向き際に

短めの剣で 斬り捨てる

「ぎゃああ!」


「親父殿! 天空人達は確保したか!」


「おお!」

レーヴの空中に浮かぶバイクに気をとられた敵から

親父達は捕まっていた天空人を救い出していた。




「レーヴが 敵方の目を引き付けてくれて助かったよ」

「・・で

とりあえず 今は目をつむってくれレーヴ」

俺はにっこりと微笑む


心の中でそっと 後でゆっくり じっくり この無茶を叱るがね・・。

そう・・こってりと・・絞る・・。


と思いながら

更に笑顔を見せる・・。


「なんか凄みのある とても怖い笑顔ですけど?ファリ?」


「そうか・・?ふふふ・・。

いいから・・さっさと 目を閉じろ!この馬鹿!」


「へ?」


言われた通り 慌てて目を閉じるレーヴ


「親父殿!皆! 光り玉を使う!」

「了解だ ファリ!」


光り玉を投げつけると あたりは眩しい光りで覆われた!

「ぎゃあ!」「うわああ!」

敵方の村から 俺達は騒ぎに乗じて 逃げ出した・・。


「ファリお兄ちゃん!父さん!」 

祖母と妹のリーシュ達が出迎えてくれた。


ぴょこぴょこと リーシュはびっこを引きながら

抱きかかってきた

「リーシュ!」俺は誰より可愛い妹を抱きしめて・・て・・

妹リーシュは 今度はレーヴを抱きしめる・・


「あ・・リーシュちゃん・・」赤くなりながらレーヴは

リーシュを抱きしめる

俺は微妙なものを レーヴに感じていた・・

多分 これが焼きもちとか 嫉妬とか そういう感情なんだろう・・。





「ええ! あの騒ぎから2日もたってないのに 

もう出かけるのかい!ファリ!」


「ああ・・例の生贄にされそうになった少年・・というか・・

俺達とそう年齢の変わらないナギ・ナジュアナリの妹達が 

彼の村にいるというから迎えに行くんだ・・。」


「早く迎えにいかないと・・彼みたいに 生贄にされかねないから・・」

俺はあるがままの話を 淡々とレーヴに告げる・・。


そして・・その会話の合間にも 

武器の調整やら 荷物の確認をしながらの会話だった・・。


「僕も行きます・・」と危うく生贄にされそうなった彼ナジュアナリも言う


「僕じゃないと 妹たちが警戒するし 案内も出来ないですから・・」


黙って彼ナギ・ナジュアナリの顔を見て・・

それからしばらく後に・・

「・・怪我が治ってない・・それに奴らにまた捕まったら危険なんだが・・」


「じゃあ 僕が行く」明るくレーヴが言う


「お姫様は大人しく 村にいろ・・。」

俺はポツリと呟く・・。


「なんだよ!それ!」

顔をまっ赤にして 怒るレーヴ


「たのむ・・

天空人に怪我でもさせたら 俺が親父殿に怒鳴られる・・。」


「大丈夫だよ!ファリ 

なんだ!俺の事を心配してくれてるの?・・もうやだな・・あはは」

明るく笑うレーヴ


「ああ・・そうだ・・ 

それに怪我人の彼ナギ・ナジュアナリくんを 酷暑の砂漠に連れ出すのは

彼にとってもかなり負担だよ ファリ・・。

結構 僕って 役に立つと思うけど・・駄目?」とレーヴ


俺はしばし悩んだが・・


「・・・そうだな

・・・天空人の姿の人間なら 」


「そうだ・・天空人・・・

兄さんの仲間が助けにきたと言えば・・

逆に ナギ・ナジュアナリの妹さん達も警戒せず

ついて来るかもな・・・よし わかった・・行こうレーヴ」


「・・・有難う ファリさん レーヴさん・・・。」

泣き出しそうなナギ・ナジュアナリ

 

彼の首筋の包帯が痛々しく俺の目に映る・・。


そんな彼の肩に手を置く・・。

「ファリでいい」  

「それに気にすんな・・困った時はお互い様・・。」



砂漠を渡る準備をすませ デアンカ(ラクダ)に乗り

砂の海を行く


砂漠の酷暑にも 俺の心配をよそに レーヴは元気について来た。



彼ナギ・ナジュアナリが書いた地図を元に 

夜半 無事に彼の村まで辿りつく・・。


「あそこの角の小さな家が彼の家のはず・・」

地図を見る・・


「なんでも 妹さんと弟さんの三人で

今は暮らしていたらしいが


水不足で・・村人達が 水欲しさに

別の村から まだ幼かった彼らを捕まえて 

東の部族の村の連中に差し出したらしい・・。」


「誰かが来る・・。」

俺達はそっと物陰に隠れた


「まだ見つからないのか!」村人の一人が怒鳴る


「ああ・・あの天空人の瞳を持った子供が 東の部族の元から逃げ出して

俺達に文句を言ってきた!」


「逃げ出したのは 奴らの手落ちのくせに

残りの代価の水を渡さないって 言いやがる!

代わりの生贄をよこせだと! 


あいつ等 人の足元ばかり見やがって!!」


「で・・まだ見つからないのか!奴の妹と弟は!!」


「ああ・・弟の方は 俺達と同じ姿だから 奴らも

つき返してくる可能性があるが・・

「妹の方は 兄貴と同じ天空人の瞳を持っているから・・

東の部族の連中も満足するだろう・・」


「来年 水が不足した時のために 

妹の方はとっておきたかったんだが・・

しかない・・。」


「なんて酷い連中だ!」怒るレーヴの肩をポンと軽く叩き


「そんなもんだ・・こんな苛酷な環境じゃ まあ元来の性格があっても

人間の気持ちは 荒れても仕方ないさ・・」


「それよか逃げ出したとなると・・あ・・!」


「レーヴ お前 確か通信機とかいう 

遠くからでも話が出来る機械持ってたよな・・。」


「うんファリ あるよ! どうすんの?」


「まず・・逃げ出したらなら どこに行きそうか

ナジュアナリに聴いてくれるか?」


「なるほど! で・・」


「それから・・」


俺達は通信機で 彼ナギ・ナジュアナリに連絡した


「・・・妹や弟が行きそうな場所ですか?」

心配そうな声が通信機から聞こえてくる・・。


「多分 近くの洞窟・・村から左手に進み1キロ先あります・・。」

 

「行ってみる 

また後で連絡するから 頼むよ・・。」


洞窟に行き 俺達は 彼の妹や弟の名前を呼ぶ


「アファイア それからウインダム」


「出ておいで・・俺達は 君達ナギ・ナジュアナリ兄さんの友達だ!」


「証拠はあるの?」 奥の方から小さな子供の声が響く


「ほら 見てごらん 僕は天空人だ・・」レーヴが呼びかける

「・・・・」


「お兄ちゃんや私と違うもん!」女の子の声


「ええっと・・同じ天空人でも種族が違うから・・

どうしたもんかな~ファリい・・」


「ま・・こんな時こそ 天空人の魔法を使わせてもらうさ・・。」

俺はニコリと笑うと・・

通信機のスイッチを入れ 

まずは彼等の兄であるナギ・ナジュアナリに呼びかけた


「これ 確か音を拡大する事が出来たな・・レーヴ?」

「ああ! そうか!わかった 今やる・・

よし! これでいい」


「いいかい 今 君達のお兄さんナギ・ナジュアナリが呼びかける

これは 通信機という天空人の魔法の道具さ・・


君達のナギ・ナジュアナリ兄さんの御話を聴いてくれるね・・。 


じゃあ 呼びかけてくれるかい?」

今度は俺は 通信機の向こうにいる彼等の兄ナギ・ナジュアナリ

に呼びかける


「うん わかった!」


「じゃあ!頼む!」


通信機の音の拡大装置にスイッチが入る

そして・・


「アファイア  ウインダム

僕だよ ナギナジュアナリ兄さんだ・・ その人達が僕を助けてくれて

今度は お前達を兄さんの代わりに迎えにきてくれたんだ・・。


今 兄さんは怪我をして お前達を迎えにいけないけど

その人達を信用して 一緒に来てくれるかい?

兄さんは 彼等の村で待ってるから・・。」


「兄ちゃん!ナギ兄ちゃん!」

二人の小さな子供達が洞窟の奥から

飛び出してきた!


二人をレーヴが抱きとめ 俺やレーヴに抱えられて

洞窟から出て 俺達の村に向かうことにした・・。


もうすぐ朝・・まだ暗闇だが うっすらと光がさし始めている

「朝の光は 綺麗だが・・俺達の村までは少し遠いか・・

まあいい レーヴや子供達は大丈夫か?」 


「ここはまだ 南の村の奴らの土地だから 

早く逃げないと・・」


「あ・・大事なものとか あるなら・・

ちょっとばかり ギリギリだが 夜の闇に紛れて

間に合うぞ 家まで戻って取ってくるが?」


子供達は首を横にふる

子供たちは大きな袋を大事そうにかかえてた


人形やら岩を削って作った手製の玩具に

小さな笛・・

くしゃくしゃになった布に子供達が描いた

家族の似顔絵 

それから櫛などの小物が少々・・


沢山のお菓子に水筒が入っていた・・。


「よし!大事なものは 残らずあるな・・

急いで ナギ・ナジュアナリ兄さんの所に行こうな・・

俺達の村には 沢山お菓子や甘い飲み物があるから

楽しみにしておいで・・」


俺は しゃがんで 子供達に視線をあわせて

努めて 優しくゆっくりと話した・・。


妹のリーシャや優しい祖母アリアならば 小さな子供の扱いは

上手いのだが・・


洞窟から出てしばらく 注意しながら 

砂漠の海を行く


矢が一本 目の前に飛んできた

「ふせろ! その岩陰に隠れろ!」

俺は大声をだした


岩陰に 皆 避難する

「レーヴ!この子をたのむ!」

俺はすばやく弟のウインダムを レーヴに渡し


前面に出て 矢を放つ


数矢程 放ち 敵の相手側から 悲鳴があがった

「ぎゃあ!」 「うわあ!」


すると 今度は三人後ろから 奴ら南の村の連中が飛びかかって来た!

「くそお! ガキどもを返せ!

お前! その服に 瞳の赤! 西の部族の連中だな!」


「はん! それがどうした?

子供らは 俺達がもらい受けた!」


俺は剣を抜き 相手の最初の一撃を受ける!

キイ―ン 剣を打ち鳴らす音が響く


「そっちへ隠れてろ!レーヴ それに二人とも!」


「あ!はい!」と二人を抱えるように連れて レーヴは

岩陰の奥へ・・


「まだ追いかけて来るとは・・

執念深いな!」

二人目の相手の剣をかわす


「東の部族に高く売る気か! そいつ等は我々のもんだ!」


「勝手にさらっておいて!よくまあ 言えるな!」


カキーン! キーン!

俺は言葉とともに 相手と何度も剣を交わし 答える


「まずは 一人目!」

接近してきた相手の剣を受け

キーン!

相手の膝頭を思いきり 蹴飛ばす!

「ぎゃあ!」

更に 奴のその腹にもう一度 キックする

倒れたこんだ所で 

剣の平で頭を殴り 気をうしなわせる・・。


ゴイイーン!

「いい音だ!次!」

振り返りながら 後ろにいた

傍の敵をまわし蹴りする

「うあああ!」

倒れこんだ所を再び

こちらも剣の平で 殴り倒す


三人目が飛びかかって来た!


避けられない!


ゴイイーン!

「ぎゃ!」


落ちていた 敵の奴らの剣の鞘で

今度はレーヴが後ろから 殴り倒した!

「へへへ・・」

レーヴがにまっ・・と笑った


くすっ・・と俺は笑う

「レーヴ 助かった」


「あ!」

黒い人影が前をさっと横切る

「ち!手間をかけさせやがって!」

殴り方が足らなかったのか 先程の敵の一人が起き上がり

レーヴをすばやく 羽交い絞めにした

「うあああ!」レーヴが悲鳴をあげる


「レーヴを離せ!」


「離せるかよ! こいつ!天空人そのままの姿じゃないか!」

「東の部族に連れてゆくのさ!

極上の生贄じゃないか! 来年の分まで 水をもらえる・・。」

奴は笑う


「子供らは見逃してもいいぞ」


「・・・」

「まずは お前の剣を渡せ・・ゆつくりとだ・・

変な事は考えるなよ・・。」


「レーヴ・・」


レーヴは黙って こっちを見てる

素直なまっすぐとした瞳


・・奴を倒すには・・剣以外の武器でもいい・・

例えば 手ごろな石ころ・・石ころでいいから 何かないのか?


・・ん?

レーヴの腰のベルトには ベルトが幾つかのポケット状になっていて

その中に すぐに取り出せるように 例の通信機がはさまってる


レーヴに言わせれば・・通信レベルが軽めの磁気嵐対応タイプで

衛星通信も可能だが・・少々 通常より大型で重いのだという・・。


手ごろだな・・俺は心の中で思った・・そして



「そうだ・・こっちだ ゆっくり来い・・。

ゆっくりだ・・。」


俺は奴の指示通りゆっくりと歩き 歩み寄る


奴は空いてる片手を差し出した 


腕をレーヴの身体に絡ませながら もう片方の手には小刀 

レーヴの首筋にピタリと小刀の先があたっている・・。



剣を渡すなり

奴はにやりと笑い

「ご苦労さん!」と言って


レーヴを抱えたまま

俺の剣で その剣を上に振り上げて 斬りかかってきた


ヒューン 

風を斬る音がした

上体を横にねじ曲げて さっと 最初の一撃をかわす


俺はすばやく レーヴに「借りるぞ!」言いいながら

彼レーヴの腰のベルトから通信装置を引き抜く!


身長差もあり 最初はまず 敵の腹めがけて

突き出すように 通信装置を奴の腹に打ち込む!

ドゴッ! 「げふ!」奴の声


うめきながら

身体をくの字に折り曲げた敵の頭に 今度は同じく通信装置で

思いきり殴りつけた!


「レーヴ 大丈夫か?」俺は手を差し出して 彼の腕を引っ張り

助け起こす・・。


「有難う・・ファリ。」

「こっちこそ 助かった・・ああ・・それから

・・・すまん・・」

俺は通信機をレーヴに差し出す・・


通信機は案の定 変形して機械の部品まで見えて・・壊れてる


「え・・?」

今にも泣き出しそうなレーヴの顔・・

「・・・・」

「ええっと・・すまん」

そのレーヴの顔を見ながら そんなに大事な貴重な物だったのかと

思った・・。


レーヴが微笑む 淡い金の色の髪がふわふわと風にゆれてる


レーヴは俺を抱きしめた

「大丈夫・・それよか有難うファリ」

「お・おい!抱きつくな! レーヴ こら!」




それから・・

縄で 敵の奴らを縛り付ける

「俺達が逃げるまで 時間稼ぎをしておかないと

他の奴らまで きたらまずいからな・・」

「そっちは?レーヴ?」


「出来たよ!」


「よし!出来た 行こうか!」

レーヴと二人で奴らを縛り上げる




心中・・こんな手間ひまを かけるより

本当はとどめを刺しておいた方が楽かな・・なんて思ってもみたが・・


何より こんな酷い事をする連中で

・・・


12年前に 俺の母親や祖父達も

彼等のような連中に 殺されたのだから・・


でも・・何より

あのレーヴに 奴らの返り血で

血まみれの俺を見られたくはなかったし・・



「ん? どうしたのファリ? じっとこっちを見て?」

のんびり のほほんとした 無邪気な顔でレーヴは

こっちを見てる


「・・ああ いや なんでもない・・。」



俺は まだ幼く 祖父や母の事

二人の事はよく覚えてない・・


だが・・親父殿は 時折 酒を飲みながら

二人の事を 思い出しては 涙を浮かべていた・・

祖母アリアも・・祖母のせいではないのに

自分を責めていた・・。


そう・・奴ら・・それから 奴らに 生贄の儀式を

してまで 水を欲しがる環境にした・・

・・・この苛酷な環境・・


強いて言うなら・・

伝承の中の砂漠の魔人のせいなのだ・・。


もっとも それらは俺達 人間の言い分なのであろうが・・


赤い砂漠の地に 音をたてて風が渡ってゆく

昼間の 暑い太陽の日差しの中

砂漠の海を渡る



「大丈夫か レーヴ?」

「うんファリ また奴らが襲ってくるといけないから

この子達は 僕が抱っこしておくよ」


乗り物・・デアンカ(ラクダ)の上で


頭から 大きな日よけのケープをかぶったレーヴ


日よけのケープはレーヴだけでなく 小さな子供達も

包み込む

 

まるで 母鳥に抱かれるヒナのように

小さな子供達は レーヴの膝でしがみつくように

すやすやと安らいで眠っていた・・。


「レーヴ・・」そっと 俺は声をかける

「先に行け・・あそこに見える 水晶の岩場で待っていてくれ・・。」

「一時間過ぎても 俺が来ない時は 先に行け いいな・・。」


「ファリ・・」

「・・子供達が起きる 早く!」


俺はレーヴをせかせて 水晶の岩場に先に行かせた。


それから・・まもなく

砂の中から 気配が感じられる・・。


いきなり 彼等 南の村の追っ手が 砂の中から現れた!

 

小さな空気用のタンクに 砂の中を潜る ジェットエンジンの装置

機械を背中につけてる・・口には空気タンクのパイプ

おそらく 砂魚サマクの漁に使うものだろう・・。


奴らは 漁に使う小型の網を俺にかぶせようと

デアンカ(ラクダ)に乗った俺に向かって 投げつけた!


「いない! デアンカの背中にいない!」


「ここだ!」俺はすばやく デアンカの腹に移動して

逆さまになった デアンカの腹に捕まっていた


先ほど 倒した奴から もらっておいた小刀を投げつける

「ぎゃあ!」

「うああ!」

なんとか敵を倒し

俺は急いで 水晶の岩場に向かう


「待たせたな! レーヴ!」

「ファリ! 大丈夫?怪我してない!」


「こっちは大丈夫 心配ないさ・・で

そっちは レーヴ」


「ふふ・・子供達はまだ 寝てるよ・・」


それから 感心したように 嬉しそうに

じっと水晶を見ているレーヴ


「綺麗だね この水晶 虹色に煌いてる・・

こちらは青みがかかってる」


「欲しいのか レーヴ」

俺は うっとりと水晶を見てるレーヴに

笑いかけながら 問いかけた・・。


「うん いいかな

・・この水晶の欠片 もらっていいかな・・

成分を調べてみたい・・」


「それから・・船に置いてる機械を使って

子供たちにこれで小さな人形でも彫ろうかなと思う・・。」


「ファリもいる? 迷惑でなければ受け取ってくれる?」


「俺の分も出来るのを楽しみにしてるよ レーヴ・・。」

俺は微笑んだ・・。



それから無事に砂漠を渡り


俺達の村に戻ると 彼等の兄ナギ・ナジュアナリは

二人を・・大事な自分の妹と弟を抱きしめた・・。


「兄ちゃん!」「ナギ兄ちゃん!」


「有難う なんて御礼を言ったら・・」

彼ナギ・ナジュアナリの瞳から大粒の涙がこぼれる・・。


「・・これからは 俺達の部族に君ら兄弟を迎える

今は余計な心配をせず ゆっくり養生してくれ・・。


もし・・産まれた故郷の村を捜したいなら協力する」


「そのうち・・きっと親父や祖母たちに こき使われるに違いないから

早く体を治した方がいい」俺はぶっきらぼうに言った・・


するとレーヴが・・

「ファリの奴 照れてるだよ・・。

とにかく 今は傷を治す事だよ ゆっくり静養しなきゃ・・」


「・・別に・・」

俺はむくれて 呟く・・。


「ファリは すごかったよ!ね!」


「うん!レーヴ兄ちゃん!」

「ファリ兄ちゃん 次々にあいつ等を倒したんだ!」


「あ・・妹さんや弟さん・・ 

アファイアちゃん とウインダムちゃんは こっちで遊ぼうね!


君達のお兄さんは まだゆっくり寝てないと 駄目なんだから・・ね」

明るく・・能天気と言える程に・・笑顔で小さな子供達に笑いかける

レーヴ


「・・・」むっつりとする俺・・


「レーヴさん いい人ですね・・。」とナギ・ナジュアナリ

「そうだな・・。」

明るくはしゃぐレーヴを見ながら やがて・・俺はふっと笑みがこぼれていた




それから数日後の事

家の近くの水場で 妹と二人 水を汲みに来て

のんびりと話をする・・・・

妹のリーシュは笑う「ファリお兄ちゃん」 


水色の髪 白い肌 虹彩を伴う黄昏色の瞳 体の手の甲には虹色の鱗が少々・・

時折 生まれる伝説の天空人の姿をした妹リーシュ

髪は一部を頭の上の左右の両方に 小さくお団子にして 残りは肩より長めにして

ゆるくウエーブを描いている・・祖母が髪を整えてくれたらしい・・ 


彼ら天空人の記録によれば 最初には 数人しか 

俺達の種族と結婚したものはいなかったはず


なのに・・

それでも 何故 俺達の種族の中に 

彼らの言うところの 劣性遺伝子にあたる

異星人(天空人)との混血の子孫が多く出現するのかといえば・・


天空人・・


つまり 連邦の異星人の中には 

連邦の許可を得て入り込んだ普通の商人達も多くいて 

レアメタルなどを採掘中に 

情報が混乱して宇宙船(天空の箱船)に乗りそびれ


または・・

使命感で ギリギリまで残り 磁気嵐で逃げそびれ

多くが この地で 俺達の種族の中に同化していった者もいたという・・・。


使命感で残った連邦の者達のおかげで

有難い事に 

この地の水の塔は守られたのだという・・

(初期の時代には 東だけでなく 南の塔に西の塔もらしい・・)



にっこりと・・その子孫・・天空人の姿をした 愛らしい妹は笑う・・。

「リーシュ? どうした   あのね私・・」


「あの天空人・・異星人の子

レーヴ・クリオス・ベネデクト・アレクサンダルと 

今度 近くの水晶の谷に遊びに行く事になったの・・」頬を赤らめて言う


「ああ・・彼ね

正式名は長い名前だよな・・


父親は 

ピエタ・リブラ・ベテルギウス・アレクサンドル

こっちも長い・・・」


妹は 幼い時分に足に深い怪我をして以来

その傷は治ることはなかったのだが 


彼らの一人 医師が 妹の足を完全に治癒した


淡い青色の肌と銀色の髪に長身で素晴らしいプロポーションを持つ 

女性のドクター 


ドクター・ドロシー・スピカ・オズ

肩先までの緩やかなウエーブのかかった銀色の髪がゆらぐ

蜂蜜色の瞳を輝かせて 彼女は 微笑みながら言う


「もう 大丈夫よ リーシュ ご家族の皆さん・・ 」


「怪我をした時に 骨が変形して

そのままになっていたの・・でも治療して骨の継ぎ目に

人工骨を移植したから もうすぐ走る事も出来るわよ」

彼女は 星の箱舟(宇宙船)の医療室で 

そう言って極上の笑みを浮かべて微笑んだ・・。


近くには 先日の生贄騒動の彼

ナギ・ナジュアナリもいた・・。


ナギ・ナジュアナリは俺やレーヴを見ると嬉しそうに笑いかける


彼は最近 よくドクター・オズの手伝いをしている・・。


ナジュアナリの妹や弟・・

アファイアとウインダム


ウインダム・・

弟は 俺達と同じ姿・・ 本来の砂漠の民の姿

黒髪に浅黒い肌・・赤みを帯びた薄茶色の瞳


妹は兄ナギ・ナジュアナリと同じ・・天空人の瞳と手の甲に少々の鱗を受け継いだ・・。

アファイア


面立ちは二人とも 兄ナギ・ナジュアナリに似て

素晴らしく

愛らしい上に 綺麗だった・・。


兄と同じ青紫の虹彩のある瞳をした可愛らしい女の子アファイアも


二人とも ずっと兄である彼ナギ・ナジュアナリのそばから 

離れようとしなかった・・。




彼等ナギ・ナジュアナリ達の産まれた村は 探索の結果

南の村の奴らの襲撃と その後の水不足で

生き残った村人は遠くに移動した事がわかった・・。


わずかばかり残った村人は後に 俺達の部族の村と合流する

事となる・・。



それから・・ドクター・オズの方だが・・

他にも 俺の部族や近隣の友好的な村人たち・・


戦いやモンスターに襲われて 

怪我をしたもの達の治療をしてくれた・・。


中には たいした怪我でもないが 通いづめる者もチラホラ・・

美しい女性ドクターに気があるらしい・・。


彼女が 後に彼等の組織(連邦)の一員となった

この村の・・部族の戦士の一人と結ばれたのは・・ずっと後の事・・



伝説で謡われた天空の彼方の人々



彼らは 伝説の通り 

心優しく 善き人々だった・・。


それらの様々な出来事が積み重なり


彼ら天空人・・異星人であるとの

更なる深い交流に繋がっていったのだった・・。



「ふ~ん 好きになったんだ あのレーヴ」 


「あいつは 祖母さんと同じ姿で 色は白いし 耳はとがってるけど

多少オッチョコチョイだが・・」


「ハンサムだよなあ・・優しいし・・特にリーシュには」


と・・にやりと笑う俺  頬がほんのりと赤くなるリーシュ


「もし誘われたら あの子の星へ一緒について行きたいの

レーヴさんの故郷の惑星は水の豊かな星でフォルトーナって言うだって・・」 


「本気か?」 うなずく妹のリーシュ


「そうか・・」

この過酷な砂漠の地ヴァンダルよりも 

彼らの星の方が妹にとってが幸せになるかも・・


「ファリ!」と異星人あるいは天空人 


俺の妹のボーイフレンド

レーヴは明るく 俺に呼びかけた。

俺達の祖母・・祖母を連れ立って 二人でやって来た


二人並ぶと・・

祖母と同じ種族になるレーヴは 

同じ淡い金の髪と淡い色の瞳 尖った耳の持ち主

同じ血族を示す その姿は まるで 彼の方が祖母の孫のようだった


「リーシュや お前は肌が弱いのだから そろそろ日焼け止めの

クリームを塗り直さないとね・・」


「ああ・・ファリ 

昨日採ってきてくれた砂魚サマクは美味しかったよ・・有難う」

祖母アリアは笑う


「いえ・・アリア祖母さま」俺はいつものように 

あまり年をとったように見えない 若々しい祖母に笑いかける


「じゃあ ファリお兄ちゃん それからレーヴさん・・後でね」


そっと耳打ちをするリーシュ

「あ・・ファリお兄ちゃん ねね・・知ってた?

実はレーヴのお父さんって 

御祖母ちゃんとあまり年が変わらないって・・


で・・ね・・

レーヴのお父さん・・ピウスさん・・

御祖母ちゃんに気があるみたい・・ふふふ・・。」


「・・い・・いや・・まさか・・」俺は目を白黒させる



リーシュは笑いながら 祖母と二人で 家に戻った


レーヴがニコニコと笑いながら こっちを見てる・・。

視線に気がつき

「やあ」俺は にこやかにレーヴに声をかける。


「西の方にある地下都市の遺跡に行きたいんだが 案内をたのめるかい?」


「そういえば・・

今度 僕の父さんと君の父さん達のグループは 東の水の塔か 

南の水の塔に向かうらしいって・・聴いたけどね」


「東の水の塔は生きてるけど・・怪物や例の敵方の部族が大勢いるから・・


南の水の塔は あそこが一番巨大な施設が建造されていて

父さん達はそこを調査したいと考えている」

とレーヴ


「ああ あそこにも地下都市の遺跡があったけ?

もっとも 東にある水が湧く 東の水の塔の遺跡と違って

西も南も完全に朽ちて 水が一滴もないから 誰もいないし

巨大で人食いの怪物のゴウフルやゴルダル達もいないから 西なら 簡単に行ける 


「南はここからは遠いし 砂の渦もあるから 

砂船か君らの宇宙船じゃないと無理かな」


「空中バイクは 先日の件で壊れてしまったし・・」


「ま・・心配するな 西なら俺 一人でも守ってやる

天空人・・いや レーヴ達からもらった武器もある」


「誰より大事な可愛い妹の足の怪我を治してくれた恩もある」


「ファリ 有難う!」レーヴは嬉そうに言った

俺は笑って・・彼に答えた・・。


明日の朝早くに

彼レーヴを案内することにした


赤の砂漠に 金色の砂がマーブル状に交じり合う


照り返す日差しに 頭から布をかぶり 

目の保護用のゴーグルをつける   

レーヴは何やら重たい荷物をリュック詰め込んでいた


乗り物は 身体に水分を大量に含む 生き物デアンカ


彼らから言わせるとラクダという生物に似てるらしい

毛深く足は6本 前足は指先が長く その手で

コケに似たトフブルを岩から削り食べる


デアンカに乗り 夜も明けぬうちから出かけた


「じゃあ 父さん 俺達は西へ向かうよ 父さん達は砂船で 南だったね」

「ああ!お互いに気をつけてな」


砂船は 風とモーターで動く乗り物で 遠方移動に使われるものだ

おもに 遠い地にある 岩塩などの採掘の時に使われる代物だった・・。


それから 砂漠を3時間半 デイアンカで渡った頃 

「あ!砂魚だね!」レーヴは言う


金色の砂の中に 砂魚サマクが泳ぐのを見ていた

「砂魚が多そうだな この地点は他の攻撃的な部族が来る

可能性も高いから また後日にするか」と俺はそう答えた・・。


「ファリ・・もし 遺跡が蘇り 本来の機能を取り戻したらここは 激変するかもね」

彼レーヴは ぽっんとつぶやいた


「? 水が?蘇る?」俺は不思議に思い レーヴに訊ねた。


「行ってみないとわからないけど 

今 現在残っている一基 東の水の塔も 

そう 君達が奪い合いをしている(東の水の塔)も本来の機能から言えば

50パーセントから60パーセント前後の機能しかない


この惑星はテラ・ホーミング中 惑星改造中だった

まず第一弾として

過ごしやすい地下に まず都市を作り

それから 地上に水をくみ出し いくつもの水路や 海の代わりになる

巨大な湖を建造する予定だっただけどね」


きょとんとしつつも・・長々とした説明を聞く俺ファリ・・

話は まだまだ・・続く・・

レーヴは熱く語る・・。



「計画の途中で 私達の星で 惑星間での宇宙規模の戦争の影響と

それから

この星は 磁気嵐と近くを通りすぎたミニサイズのブラックワームの影響で

地軸や大陸のバランスが崩れ そして磁気嵐の影響を逃れるために 

計画に参加していた 多くの連邦の船が

一旦 計画を放棄して 彼らの惑星に帰還した


心配だったのは 地軸の変動のおかげで この星のわずかな水源自体も 

君らの進化 生命の誕生を助けた 幾つかの小さな湖も消えた

失われた事・・水の塔から作り出される水のみが頼りだった


変動や磁気嵐は 水源となった 水の塔にも影響を与えてたから・・

余計に心配していた・・

だから 彼ら(連邦)は すぐに戻るつもりだったんだ・・。」


「だが 思った以上に 惑星間の戦争も 磁気嵐もひどく

戦争が終結したのは30年後 そして この惑星を覆っていた磁気嵐は

200年近く 


そう最近まで とまらなかったんだ

しかも突発的に 小さな規模で発生している 僕らの船が不時着したのも そのせい」


「しっ!静かに」 俺は レーヴに手で合図した


砂の海から 地響きが響き 砂の中から 一つ目のサイプロスが現れる

大きさは大体 固体にもよるが 人間の2倍から3倍

瞳部分は甲羅のような形状で 

手は左右に3つ 合わせて6本 指先の間には薄い膜があり 砂の中を潜り

泳ぐのだ

御尻には長いヒレのような尻尾


「あの怪物の尻の尾ひれは

オタマジャクシからカエルに脱皮中のものに似ている」

レーヴは なにやら そんな事をつぶやいた。


「・・こいつらは 普通なら 西の方にはいないはずだが・・


今 武器か何かあるか? 俺一人でも大丈夫だが 

他にも現れるかも知れないから注意してレーヴ?」


「銃なら ファリ」


「前面には俺が出る」

背中に抱えてた小型の弓を 左手に持ちかえて

右腕には 宝石がついた腕輪 それは新しい 彼らにもらった武器

俺の剣と盾


宝石部分を回して押すと  

金属状の平たい帯が現れ 宝石を中心にしてグルグルと回り

一つになり それは腕につけた小さな盾となる


シュンと音が軽く響き 盾の中から 前には剣先も現れる


俺は左手の弓を構え 矢を勢いよく襲ってきたモンスターに打ち込んだ

矢を数本 連続で打ち込む

モンスターは声をあげつつ まだひるみもせずに

砂を蹴散らしながら こちらに駆け寄って来る


俺は勢いよくジャンプして モンスターの身体に掴みかかり

モンスターもまた 俺に噛み付き 

胸元に引っかき傷が幾つも出来る


盾でモンスターに殴りつけて

すぐそばの喉元の急所を剣で刺した


声をあげて絶叫して 緑色の血が噴出して モンスターは砂の中に倒れる


安心してレーヴの元に戻ろうとした矢先


「危ない!」そう言ってレーヴは銃を構え 

「避けて!ファリ!」の声の合図に 俺は反射的に身を伏せる

彼は 銃を構えて 立ち上がったモンスターに打ち込む


奇妙な音がした そしてモンスターの悲鳴


銃は 弾を使わない超音波を使うもので

モンスターの上半身は その形を失い 下半身のみ残して

砂の海へと倒れこむ


「ふう こっちが助けられたな」

「ふふふ お互い様だねファリ こちらこそ有難う」

レーヴは笑う


「あ!腕や胸元 怪我したの!ファリ!」レーヴは顔色を変えて 慌てて言う 

「ああ かすり傷だよ」俺は肩をすくめる


「手当てするから・・え・・血と水・・

腕の怪我から 水・・が混ざってる?これ体液なのかい?」

レーヴは手当用の簡易医療キットで

テキパキと傷口を消毒して包帯を巻く



「・・・俺達の種族は腕の部分に小さいけど 

ラクダみたいな水分をためる袋がついてる 砂漠に適応したんだろう・・」

手当てをうけながら 俺は答えた


「天空人に似た俺の祖母や妹は 分からないけど・・」

心配そうに見てるレーヴ

「大丈夫?」

「ああ大丈夫・・有難うな レーヴ」と俺


「ファリ 休憩した方がいいんじゃないかい?」と心配そうなレーヴ


「いや日暮れ前には目的地に到着しないと・・ レーヴは大丈夫かい?」

「僕は大丈夫」 


「そうか・・じゃあ行こうか!」

俺は笑って言った。



幸い その他のモンスターやら 敵方の部族に出会うことなく

洞窟から潜り 奥にある地下遺跡の都市に向かう


小さな穴から 滑り込むように 洞窟に潜り込む

レーヴは 腕に取り付けたライトで 廻りを明るく照らす


奥に進むに従い 道幅は広くなり 円筒にくり貫かれた

地下道を進む・・。


壁面にはレリーフが彫られて 古代の・・大昔の様相が見てとれた

水浴びをしている人間に 動物達

動物達の多数は 見たこともない生き物達だった

それから・・・

花という植物


「これは 何の植物だろう?」

「多分 向日葵ひまわりじゃないかな? 花びらは黄色で中心は茶色

種類にもよるけど 大きくて 群生は見事なものだよ」


「こっちは?」

「多分 桜かアーモンドの花だと思う・・色がついていたら

分かるかな・・桜は淡いピンクで アーモンドは白いから・・

多分だけど・・

ここの環境からすると アーモンドの可能性が高い・・」とレーヴは

じっとレリーフを見ながら 俺に告げた・・。


「こっちは オリーブの実みたい・・あ・・パイナップルの実

こっちは バナナだ!」


「聴いた事のない 植物の名前だ・・」


「そうかい?ファリ・・水が蘇ったら これらの植物も生き返るからね・・」

レーヴは 優しい目をして微笑んだ・・。


「ん~そろそろ・・喉が渇かないかい?ファリ」


「俺は 身体に水袋がある種族だから まだ大丈夫だ・・

飲めよレーヴ」

俺は水筒をレーヴに手渡す


「・・一休みして 昼ご飯は?」とレーヴは言う


「・・・疲れたのか? いや俺を心配してるのか

大丈夫だよ・・。」

心配そうにレーヴはじっと見てる



「怪我のせいで 少し顔色が悪いよ・・

そろそろ休憩した方がいい・・」


「了解した・・一休みして 昼飯を食べるか・・」

俺はレーヴに笑いかけた・・。


昼ごはんの弁当は 干した砂魚サマクに

妹がコケのトリブルの実で作ってくれた甘いゼリーや

家畜の鳥のペースト

蒸してミルクで煮込んだサボテンのサツバール


それに こっちはレーヴが作ったチキンのサンドウッチ

ミートパイ

トマトという赤い実を使った暖かいスープ

様々な具財が入っている・・ 

スープは保温高効果のある小さな水筒のような容器に入れられていた

カップに入れられそれを飲む


「この前の紅茶やコーヒーに

それから甘いココアも上手かったが・・これも上手い」


「レーヴは 料理が上手いな 妹が料理を習いたがっていたよ・・。

ああ・・俺達の星では こんなに沢山の具財は手には入らないけど

何か参考にして 応用なら出来そうだ・・

そうだな・・

例えば・・

ミルクを使った料理

ホワイト・シチューとかなら 

こっちにもミルクの出るデアンカがいるから・・

それに ミルクから作るチーズもいいな」



それから・・


ラズベリーとかいう甘いジュースを口に含んだ後で

俺は うとうとして つい寝入ってしまった・・


「ファリ? 寝てるの? うん寝てる・・。」


「すやすやと寝てると・・なんか可愛い・・子供の顔だよね・・

目つきはキツイけど・・どちらかと言えば童顔だから・・」

クスクスと笑うレーヴ


簡易タイプの小さな毛布をファリの身体に乗せる


「この簡易タイプの毛布 ファリの妹さんのリーシュが作ったんだけど・・

綺麗な文様が織り込まれてて・・素敵だ・・。

僕の分も今度 お願いしてみようか・・ふふ」


「小一時間したら起こすからね ファリ・・お休み・・。」


まさか 自分が レーヴの守役か保護者のつもりだったファリだったが・・

(可愛い!)などと言われたと知れば・・微妙に気分を悪くしたかも知れないのだが・・


うたた寝ているファリには知りようもなく・・


小一時間後 レーヴに起こされるのであった・・。


「なかなか起きないから心配したよファリ・・」


こんな場所で

守役の自分が 油断して うたた寝してしまったなどと・・


戦士である自分が・・自分が信じられないファリは少々落ち込みながら

レーヴと一緒に歩いている・・。


チラリとレーヴを見るファリ 


俺はきっと間抜けな顔をして レーヴの前で

寝てたんだろうか?と悩む・・。


案外 そんなファリの気持ちは レーヴには 筒抜けで


拗ねた子供のような表情に なんとはなしに頬が赤いファリは 

きっと照れて拗ねてるのだろうな・・とも

思うレーヴ・・。


ここは やはり そ知らぬ顔で いつも通り振舞うのが得策だろうと

考えるレーヴ


「ここは本当に水が一滴もないだね・・。」と呟くレーヴ


「・・・・」

しばらくは黙っていたファリだったが・・


やがて口を開く・・。



「ここは水がないから 東の地下都市遺跡と違って

ドラゴみたいな他の巨大なモンスターがいない分 来る分は楽な方だ

もちろん 長期の探索には こちらは水を持参しての話だけど・・」

ファリは 肩をすくめる


「水の豊富な東の水の塔やその付近に植物や生き物が群がっているから・・」


レーヴは 二人で 歩きながらファリの話をじっと聞いている


遺跡には無数の地上と地下を結ぶ小さな穴が開いていた・・。


それは通気の為の換気と光を招きいれる為のものであり

遺跡の中を 所々照らしていた


やがて大きく道が開き 巨大な空洞が目の前にある

空洞には 大小の建物が沢山 あった


「こんな大きな建物は見たことがない・・」

俺は呟く・・。


建物の間には 規則正しく 線を思わせる窪みが無数にある


「多分 これは 地下水路かな? 本来なら川みたいに

ここを水が流れてるはずなんだ・・。」


「記録でも 君達の村の伝承でも

西の塔は 崩れて壊れてると聴いていたけど 

ちゃんと形が整って残っている・・。」


レーヴは 地下遺跡を見渡しながら 驚き

俺 ファリに告げた・・。


中心部分には 更に大きな円形の窪みがあって

中心には 巨大な建物があった・・。


「あ・・ここかい?

これが 水の塔だね


確かに水は枯れてるけど・・ん?あれ! 

ここのラインの動力が生きてる?」レーヴは驚き叫んだ


「それに 地軸の変動で 崩れたと記録にあったけど

他の連動している装置も無事だ!」


水の塔近くの大きな金属状の紐が淡く光ってる処を指差し

その紐を手の平ほどの小型の機械でモニターする


「ひょっとした まだ 生きてるかも!」


レーヴは水の塔の扉を開けて 階段を駆け上がる

「ここが動力室」彼は扉を開く


部屋の中は 荒れて塵がつもり 装置の幾つかは壊れていたが


「ここは今の僕でも応急処置で修理可能みたいだ 問題はメインの動力装置・・」

レーヴは中央の祭壇のような箇所に足を踏み入れる


「やっぱり 1個以外の 装置の核のジュエルが外れてるあと5個必要なんだ・・」


レーヴはブツブツ言いながら

自分のリュックから 装置に組み込まれた青い縦長の宝石と同じものを取り出した


「これをセットして・・それから」彼は手馴れた仕草で 

装置に青い宝石を組み込む

それから・・


レーヴは 縦長の黒い箱 通信装置を取り出した

「父さん そっちは?そっちの状況は?」


途切れがちの雑音ノイズの入った声が響く

「砂の渦がひどくて 移動が難しい 一旦引き上げる


南の水の塔の機械が生きているなら 南半球はテラ・ホーミング計画 

惑星改造計画が進むがね」ため息まじりの声がする


「父さん 記録から判断して 望み薄だと思っていたけど こっちは生きてたよ!

西の塔の規模は 南や東の塔に比べて小規模だけど こちらは進めるよ!」


「なんだと!これは先を越されたか・・しかし何たる幸運!よし!頑張ってくれ!」

「了解!父さん」


「ふふ・・見てて こちらの水の塔から始めるね 惑星改造の第二段階・・」


「それから・・それから」

わくわくとはしゃぐレーヴを きょっとんとして俺は見ていた


「何をはしゃいでるんだ?レーヴ」


「先人達 つまり君と僕らの先祖達の夢の続きさ」

彼レーヴは笑う


「一度は この惑星改造計画は 第二段階まで進んだんだ!」

レーヴは興奮して叫んだ


「ナツメヤシを食べたことある? ファリ? 

それからイチジクに葡萄 オレンジにいちごもいい・・」


「トウモロコシだろう それからトマト・・バナナにパイナップル

そうだ 麦!小麦粉!パンとかケーキも作れるようになる」


「君が好きだって言った 飲み物の種だってある

コーヒー豆にココアの原料 カカオも!」


「ああ・・僕らの船に保存しているけど 

食べ物とかは・・

これから君達の惑星でも飽きるほど食べれるから 

それらのシードが入ってる」


「これさ・・」


レーヴの手の平に乗る 小さな半透明の楕円のゼリー状のボール

その中には 幾つかの黒い種が入っていた。


「それだけじゃないぞ 本来 君たちの惑星にあった植物の種も含まれてる

絶滅したはずの木々の種やら食用の果実の種もね ファリ」


「これらを こちらの装置にセットする」

レーヴは 近くの装置のふたを開けて

その中に 種が入ったゼリー状のボールを数十個投げ入れた


「水と一緒に地上に流れでて やがて芽をだす 

本来なら水路や小型の人口の湖が完成してからセットするのだけど

今回はテスターだね」とレーヴ


塔の機械は蘇り 青い宝石は光輝き煌く 塔の中の機械が動きだしたのだ・・・



「水が生成されてる ほら上までメーターが達している」レーヴが機械を指指す


「ファリ・・歴史に名前を刻んでみないか? さあ この砂漠に湖を造る」


「湖?」俺はレーヴに聞いた 

「ふふ・・大量の水が このすぐ上の地上に出来上がる」とレーヴ


「俺が?」 

「このスイッチ・・青い宝石ジュエルの上にある 突起を押す」



「?」きょとんとしながら 俺はレーヴに言われるまま 突起を押す

すると・・地響きがした


「何!」 塔の最上階から水が溢れ出した


そして


地下都市の水路にまず水が供給され・・・


塔のすぐ横の寄り添うように立っていた建物が大きな音を立てて上へと伸び上がってゆく

それに呼応して天井が丸い円を開き 砂が零れ 

それから地上の眩しい光が地下都市を照らす


その丸い穴が開いた天井に向かい 動きだした建物が上へと登りつめて

それから地上に建物は顔を出す


俺達のいる建物の一番上の階からも 先ほどから 水が溢れていた


滝のように大きな水しぶきの音を立てて

それらの水は水路に流れて 更に地下の深くへと流れてゆく

「どこに流れてゆくのかな?」俺はぽつんとつぶやいた


「ファリ あのね地下水路の水は 離れた場所に送られて 上から汲み上げて

使うのが 当初の目的 おもに畑やオアシスを造る為だけど・・」


彼は笑みを浮かべて 笑いながら答える「見て 地上を映すモニターだよ」


地上部分に顔を出した建物は その上の階から同じく勢いよく水を噴出し 

地上に水をもたらす 


水は砂の中に埋もれていた 

八方に広がった形のそれぞれの隠されていた水路に運ばれてゆく

砂の中に埋もれていた もう一つの小さな人口の湖

水の受け皿


それらは 長い年月を経て ついには本来の目的を果たす・・。



「すげえ・・こんなに大量の水 見たことがな・・い」

俺はあっけに取られて やっとその言葉だけ絞り出した。

嬉しそうにレーヴは俺に笑いかけて 話出す


「大昔の記録と現在の状況

この西の塔は 小型のモデルタイプだから すぐに完成までこぎつけたらしい

実際 しばらく数年ほど稼動して 動いていた


340キロ前後の地区までは カバー出来る」


「問題は 記録とずいぶん違うだけど 

別の地区のデータと入れ替わっていたのかな?


下手をすると入れ替わったデータの記録が

南の水の塔だと あちら・・南の水の塔は全壊している


そうなると南半球 しばらくは開発は難しくなる」

レーヴはふうーと大きく息を吐いた


後でわかったことだが やはり 全壊していたのは 南の水の塔


西の水の塔は 装置の故障のみで済んだものの 水を湧くことが出来ず

東の水の塔の恵みで 北半球のみに人々は生き延びてたのだった。


そして 半月もたたないうちに

西の地区 俺達の領域だが その環境は激変した


オアシス・・小さな湖が幾つも形成され その回りを囲むように

木々が育ち 見たこともなかった果実の木や果実の花が育ち始め

早いものでは もう実をつけ始めていた


他の部族たちも やがて 彼ら異星人と俺達の部族に対して

豊かになりはじめた土地を欲しがり 戦いを仕掛けてくる者たちもいたが


態度を軟化しはじめる者達が現れ

やがて 人々は 次第に争いをやめて 連立を組み始めた


「木々が育てば これから水蒸気から本当の雨も期待出来る」

「甘露の雨だね・・」とレーヴ 「甘露の雨? 雨?って?」


「地球という星の仏陀の話でね ファリ  

仏教の言葉の一節だけど甘露の甘い雨  

普通の水でなく 甘い味のする雨が降ったという

地球という星の伝説の一つかな?

雨は 空から水のしずくが沢山降ってくる事を言うんだよ


そうだね 他にも沢山あって

聖書の中に 雨のくだりは沢山あるよ

主は貴方達を救う為に 秋の雨を与えて降らせて豊かにしてくださる」


「まあ・・東の塔の完全修理が済んだら 南の塔を再建しなおすか 

先に新たに この北半球で 小規模クラスの水の塔を作るか 今は計画中だけど・・・」

レーヴはこちらの顔を覗き込み こう言う


「なあ・・・僕の惑星に行ってみないか?ファリ」

「沢山の技術者がいる それから指導者も・・ 僕の惑星に留学してみない?」

レーヴは言う


「え?」


「昔に存在した星間の連邦は崩壊して

僕らの大きな団体が その事業の一部を引き継いだ 


本当にまだ小規模で

一応 それぞれの星の政府とかの許可と援助をうけて

活動してるけど 実態は 寄付やら交易の収益でどうにか活動している


交易の方は かなりの利益をあげてるけど・・活動資金も多く動くからね


それに 活動状況によっては 一旦 引き上げる事もありうる」 


「10年後には また巨大な磁気嵐が 

この惑星付近に発生する可能性が高い 


大きな磁気嵐中には この惑星に新しい宇宙船は来ることが出来ないし 

宇宙船は飛び立つ事も出来ない


稼動をはじめた 地下都市に 避難用の設備を追加したり

オアシスを守るドームを建造したり・・ やる事も沢山だけど・・」


「この惑星の次の進化の為にも次世代を育てないとね・・」


「はあ・・」

なかば 壮大すぎる彼レーヴの考えやら話に ため息をつく


「俺は ちょっと前までは ただの砂魚を採ったり 

獣を狩る狩人だっただけど?」


しかも そのレーヴの演説 説明は長い・・・

もう一度 改めて 俺はため息をついた


まあ 父親も彼に良く似てるし 親子だよな


壮大な考え方をするのが 天空人の特徴なんだろうか?


で・・親子で 連邦とかの事業? ああ事業だったけ?

大昔の惑星間に存在した連邦とかの事業を引き継ぐ?


「しかし 次世代ってレーヴ 俺とそう変わらない年のくせにレーヴは偉そうだな」


「へへへ・・そう?ファリ」彼レーヴはいたずらっ子のように笑う


「そ・れ・に 見てみない? これ僕の妹」


彼は服のポッケから 円形の機械を取り出し

スイッチを押すと

「わっ!」 出現した半透明の姿に驚く

「へへへ立体3Dだよん! 超のつくウルトラ可愛い妹だろ?」


世にも可愛らしい金色の髪の少女の姿が映し出された


「お兄ちゃん 待ってるね お仕事頑張って」

にこやかに その美少女は微笑む


「・・・・」


「ひひひ 頬が赤い!ファリい・・。」

 

「なんだよ! いいよ 俺の妹リーシュから預かった手製の菓子 いらないようだな

 後の楽しみでとっておいたんだが!」


「なんだと! くれ! お願い!可愛い彼女の作る絶品のお菓子  ~!」

うるうるとした瞳でレーヴに哀願されて 俺は半ば あきれ顔でポイと投げ渡す


「サンキュ~ へへへ」よだれをたらさんばかりのレーヴ


そのにやけてた その顔に

俺はふと・・こいつ・・いや 彼リーヴは菓子がそんなに嬉しいのか

それとも やはり妹のリーシュに気があるのか・・と少々考えこんでしまった。


赤い砂が風に舞う

だが 今は 砂漠の中に 人工のオアシスから供給されて

育ったやしの木などの森が 瞳に映る


最近到着した 他の宇宙船 彼らの仲間達も連絡を受けて来た者達も

テラ・ホーミング 惑星改造計画に加わる


人々の喜びに満ちた顔

水遊びなど 夢にも見たことがなかった


まあ・・蒸し風呂とか 植物から集めた水分 

たまに東の水の塔から持ってこれた貴重な水とかで

今まで 身体や髪を清めていて


水遊び自体・・泳ぐ(砂魚サマク狩りは砂の中に潜るので別として)など 

当然したことがなかったから


あ・・もちろん 水に恵まれていた 東の部族とかの方は 

こちらとしては どうしていたかは不明だが・・



惑星が・・この赤い砂漠の惑星に 水と緑が蘇る・・

俺たちの見たことがない・・

夢の中だけの風景


だけど・・伝承の中で謡われてきた 夢物語が蘇る・・。


西の水の塔が蘇り 近隣の友好的な数部族が 俺達の・・

いや・・天空人と俺達部族と協力して 人工のオアシス創り・・やら

人工湖の整備や水路の土木工事に加わり


新しい時代の幕が上がろうとした・・。




ある晩の事

家で 酒を飲む親父殿と話をした・・。


「東の部族の連中が来た?」


「我々の連立に加わりたいそうだ・・」

親父殿は 感情を交えずに言う


「・・・族長達や天空人達は?」


「天空人達も 仲間がさらわれて 生贄にされそうになった

事件もあったから・・。」


それに 奴らに 我々は あの東の地を追われた事や 

生贄の儀式のために 沢山の犠牲者が出てる・・。


気持ちとしては 敬遠したい所だが・・



この惑星の民として・・いずれは 彼らを受け入れ

彼等が 変化してゆく為にも 東の地にも緑の恵みが必要だ・・。



・・・まだ 完全に変化したわけでない

彼等の一部が まだ 生贄の儀式をする可能性もある・・。


「我等の村には 祖母のアリアにリーシュ達・・ナギ・ナジュアナリ達もいる」




「天空人の姿を受け継ぎ生まれた・・あの子らに

それから・・彼等 天空人達の安全のためにも・・」


「天空人の指導を受けた 

村の戦士達のグループが 東の地に入り 彼等を指導する・・。」



「それから 戦士達は 彼等 東の部族の村でなく 

砂船で移動して そこで寝起きする」


「何かあれば 砂船で 逃げる算段か・・

今は それが一番安全で 正しいやり方だろうな 親父殿」



「彼等が変化するまでは・・

それに 我々の 彼等に対する感情も・・変化するまでは・・」

親父殿は 酒を口に含みながら つぶやく


「東の部族たちが 動いたら 

我等に 敵対していた他の部族も動き出す・・

彼等のように 和平と技術提供を申し込む部族も現れるだろう・・。」


「まあ 中には 先日の南の村の連中のように 

襲来をかける奴らもあるかも 知れないが・・」と親父殿



「ああ・・3日前の あの騒ぎ・・

2つ離れた村では 大変な騒ぎだった・・」


「まだ 生贄の儀式に固執して 

水欲しさに 生贄用の人をさらう為に 村を襲ってきたんだって!

信じられないよな! 

他の奴らみたいに 豊かになった土地を欲しがるなら まだわかるけど!」


「幸い 親父達が 水路建造の為に あの村にいたから

簡単に撃退したけど・・。」




「いやおうなく 変化する・・ 」

俺はぽっんと言う


この世界は 砂の魔人のくびきから解放される・・。

何世代にも渡る 水への渇望の苦しみから・・



レーヴ達 天空人が 水と緑の恵みをもたらす・・。



そして・・俺達 砂漠の地の民が 彼等とともに

この地に 新しい世界を創るのだ・・・。


大昔のテラ・フォーミング・・惑星改造計画書を見直す


途中まで作り上げられて その後 砂の海に沈んだ

建造物を 現地まで行き 確認して 東の水の塔や西の水の塔のように

まだ使用可能か 確認作業・・


それに・・それらを再生させる為の作業・・に


現在の状況を見直し 


計画に新たな水の塔の建設や人工の水路の建造を

加える・・。


星の箱舟からの贈り物は 様々な作物の植物の種だけでなく

家畜用の生き物も贈り物となった・・


「ええ!これがヤギ それから 豚に牛!

鶏って 大きい!」

祖母やリーシャ・・村人達ははじめて見る生き物達に興奮ぎみだった



砂漠の地に住むのは 人間だけでなく 凶暴なモンスターもいた


だが・・俺達は 頑張り通した・・


砂漠の魔人のくびきを逃れて・・

天空人の助けを借りて・・

水と緑の恵みを この手におさめる為の努力を続けた・・。




一年後

俺の村の近くに出来上がった 簡易の小さなエアポート

そこに降り立ったシャトルに 俺とレーヴの父親が乗り込む


説得されて・・彼の妹と弟の世話は こちらでするという話が出て

彼の妹アファイアや弟のウインダムは 子供好きの祖母が世話をしたいという話となり


生贄の儀式から助けた少年ナギ・ナジュアナリも一緒に行く事となった・・。



どうやら・・ピウスさんは 祖母も連れて行きたかったようだったが・・?


名残おしげにピウスさんは 祖母のアリアを見てる・・。


親父殿や村人達 妹のリーシュ達の皆が 俺達を見送る


リーシュは悪性の風邪をひき 

間際で 元来体が弱い妹は 今回のフライトでは

まだ体力がもたないとドクター オズから診断を受け

次回に見送ることとなったのだ・・。


そして・・


あの呑気なレーヴが この惑星に残るというのだ・・。


レーヴが遅れて来た

彼は 勢いよく俺達に向かって手をふっている。



能天気で まったく そうは見えかったのだが・・

技術者としても 植物の品種改良についても 彼は博士号とやらを

持っているらしかった・・。


ゆえに・・まだ若いのに・・ちゃっかり この惑星改造計画の一員として

ついて来たのだった・・という・・。


俺は内心てっきり 

好奇心やら親の七光りで ついて来たものだとばかり

思っていたのだが・・



そう一週間前に

本人の前でも つい口が滑り 

「お前・・親のピウスさんに 「おまけ」として 付いてきたとばかり・・」


「ひ・・ひどい!ファリい~それはないだろう!」

レーヴは涙を浮かべて そして彼に抗議された・・。


だってな・・憎めない とても いい奴ではあるのだが・・

あの能天気ぶりは・・確かに・・

誰だってそう思うと・・


「・・・違うのですか?」

と先日の生贄騒動で助けた彼ナギ・ナジュアナリも・・


ちょうど ドクター・オズからのリーシュの薬を届けにきて

その場にそこに居合わせ 


綺麗な青紫の瞳を大きく見開き

驚いたように言う


「え! レーヴさんって 学者さんなの!

てっきり お父さんのピウスさんについて来ただけとばかり・・」

とこちらはリーシュ・・。


「リーシュちゃ~んまで・・ ひどいよ!」泣いているレーヴ


「レ・・レーヴさん 元気だして! 

ほらコケの実入りのお菓子 あげるから・・」


「僕も 弟達にもらったコケの実の蒸したお菓子 沢山持ってますから どうぞ」

慌てて差し出す ナギ・ナジュアナリ


「あ・・レーヴ・・そういえば 東の方の水晶や紫水晶のある丘

あそこに行きたいって・・言ってたよな・・

東は敵対する部族や 巨大モンスターが多いからって 反対されてたけど・・」


「まだ 俺が惑星ファルトーナへの出発まで 一週間あるから・・


明日 明後日中に行こう・・

戦士の俺が付き添いなら 許可は下りるはずだから・・な・・」


とりあえず・・俺達は

若きレーヴ・K・B・アレクサンドル博士のご機嫌をとってみた・・。



レーヴは・・菓子や遠方のピクック(調査の為の採取とも言う・・。)に

とりあえずは 機嫌をなおしたようだった・・。



本当に レーヴ・・奴はいい奴で・・

そして・・失敗も多いが 優秀な植物学者だった・・。


あのコケのトリブルや彼レーヴに言わせるところの

サボテンもどきサツバールから


そう・・彼レーヴが

品種改良した植物をそれは驚く程に 沢山作り上げた。


あるいは その遺伝子情報とやらから・・

記録や保存されてなかった・・滅んだはずの植物を再生させて


新たに生まれた植物や大昔の植物の果実の実は

やがて・・人工水路から 作り出させれたオアシスで

栽培されて・・その実は 豊かに実り 


俺達の食卓のテーブルに 所狭しと 並べるのには

そう時間もかからなかった・・。



どこに そんな時間や元気があるか わからないが

彼レーヴは 小さな子供たちの為に 小さな学校まで作った


あの箱・・コンピューターを使い 

子供達が喜びそうな様々な映像や子供用の勉強のソフトを

作る・・あるいは

砂漠にある石ころで 遊び道具を考案したり・・

身近な道具で 数の勉強道具を作った・・。


もっとも 後に 多忙になった彼の代わりに

妹のリーシャや村の年長者たちが教師をつとめる事となったのだが・・



まあ・・多才で優秀ではあるのだが・・

ついでにドジでおっちょこちょいで・・・どっか大事な事を忘れてたりと


明るくて素直で 子供のように純真で 

いつもキラキラしているレーヴ


俺は そんな彼を 微笑ましく 大変好ましく思っていたが・・

俺達がついてないと・・本当に大丈夫だろうか・・と

心配でもあった・・。


やはり彼の父親ピウスさんも同じ考えだと聞き 

本当に 心から 納得した・・。



好奇心は・・旺盛・・

油断すると 

植物を何でも口にする性格・・いや癖だけは直した方がいいと


彼にも

俺の妹リーシュにも・・頼んでおいたが・・


口に含み 一度泡をふいて倒れたにもかかわらず

何度も同じ事をする・・あの性格・・

本当に大丈夫だろうか・・と俺は少々心配であったが・・


あるいは・・リーシュ目当てのようでも

あるのだが・・・




何はともあれ・・

俺は 彼の薦めと・・

好奇心も手伝ってレーヴ故郷の惑星フォルーナへ向かう事となった


レーヴの父親ピウスさんが保護者で 


俺ファリ・ナジュルは招待留学生いう名目で

小型シャトルで 惑星の衛星ステーションから

惑星フォルーナへ


ナギ・ナジュアナリの方は 

レーヴの父親ピウスさんの仲間で親友が

彼の保護者となった


彼ナギ・ナジュアナリの場合は 彼の身体・・

彼の中にある 天空人の遺伝子などの検査確認のために


衛星にあるエアポート・・

宇宙ステーションに しばらく残る事になった


「10日後には 入国出来るから・・待っていてください

惑星ファルトーナで また・・・」

彼は笑って 惑星フォルトーナに向かう俺達に手を振った。




そこは 水だけで構成された星 

核となる衛星に引力やらで 水が布のように巻きつき

星を形成されているのだった




水中に暮らす人々を除き

おもに人々が住まうのは 円形の船のような大陸や空中都市

もっとも その円形の船というものは とてつもなく巨大だったが・・・


いや人工の大陸が水の上に浮かんでいる・・という表現が正しい・・。


そして 水中にも多くの人々が住んでいた・・

惑星の本来の住人の多くは 半魚人で 

こちらは 水中の中にある都市に住んでいた


後から聞いた話になるが

彼の父親ピウス達は 

この惑星フォルトーナに移住してきた子孫だと・・言う事だった・・。


「我々の住んでいた星は 超新星で すでにないんだが

緑が多い綺麗な場所だったんだよ」

レーヴの父親 ピウスさんはほがらかに笑う


大きな噴水や 階段脇にも水が流れ 小鳥達が綺麗な声で 

さえずる 沢山の緑に花の香り


エアポートを降り 衛星エアポートに続いて

身体検査やら 何やらで 長い時間を過ごしてから


それから


あの3Dの映像の少女が 

俺達に向かって手を振ってやってきた


「父さま!」 「おお!元気だったか! エル」


「はじめまして! 兄さんからのメールで知ってます!ファリさんですね

私はエル・パイシス・ヴォワラクテ・アレクサンドルです。


これから しばらく私達の家に滞在して 学校に通ってくださいね

それから 沢山 遊びましょうね!」嬉しそうに声をかけた



それからは 目まぐるしい日々だった  

基礎過程を 彼の家のコンピューターが家庭教師となり

教え込まれる


何せ 本もない世界で育ったのだ・・

学ぶ事は多かった・・。


それから

なにやらコンピューターが出した複数のテストに合格すると

基礎過程合格の認定書をもらった

「ファリ・ナジュム 合格か・・」


認定書をぼんやりと・・俺はしばらく見ていた・・。


あの赤い砂漠の惑星で 

砂魚を採っていた 俺ファリ

ファリ・ナジュム

 

時には 部族間の争いとかで 戦士の一人として戦った事もあった・・。



本というものさえ なかった荒涼とした世界で

俺は一生を終えたかも知れなった・・。


それから・・

基礎過程が済むなり 幾つかの予備校に通い

ひたすら勉強にいそしむ日々が続く・・。


本試験に合格して 学校に通い 

そこは俺みたいな異星人ばかりの集まりで

ドラゴン型の人間やら 蝶みたいな羽のついた人間とか

そんな連中と気がつくと友達になっていた。


同級生の中に あの一緒に この惑星に来た

ナギ・ナジュアナリもいた・・。


彼ナギ・ナジュアナリは ピウスさんの友達が保護者となり 

やはり俺と同じ招待留学生として

この学校に通う事になってはいたが・・

彼ナギ・ナジュアナリは 賢くて・・

最初は俺が彼から学科など多く学ぶ事となった・・。


それから

ナギ・ナジュアナリ

その容姿はもっとも古い種族の天空人の瞳を受け継ぎ

見目麗しいことから・・

同級生や学校の人達の多くは 彼に憧れの目で見る者も多かった



そして彼もまた この惑星に順応してゆく・・。


はにかみ屋で 穏やかなナギ・ナジュアナリ

そして あの故郷の砂の惑星ヴァンダルを故郷に持つ

同じ仲間


俺にとっても

彼はエルとともに 誰より仲の良い友人・・。


学校は 将来 連邦という組織を復活させて

その為の人材やら・・

自分達の惑星に戻った時に・・

技術面も含めた指導者達を育成する場所だった・・。


敵やモンスターを倒す訓練は 故郷の砂漠の惑星で戦士として

戦っていた頃を思い出す・・。


他の惑星の体術の訓練は 事のほか楽しかった

「へえ~こんな技があるんだ 村の連中にも教えてやりたいな!」


気持ちのいい汗をかきながら

技の習得にいそしむ


最初は苦手だった 機械類の扱いにも

ほどなく俺は慣れてきた・・。


ナギ・ナジュアナリの方は 軍事訓練は苦手だったらしく

こちらはパスしたようだ


機械の補修などの基礎的なエンジニアの勉強を習得すると

今度は 他の惑星の言語に文学 それから音楽に・・

それからレーヴのように 植物などの育成や品種改良の勉強にと 

彼はいそしんでいたようだった・・。


そして俺の保護者ピウスさんと

彼の保護者アンドレア・タカキは 

本当に仲がよく

ナギ・ナジュアナリもまた よく家に泊まりがけで 遊びに来た・・。


今日は ピウスさんとアンドレアさんは宇宙ステーションにある

連邦の開設の為の事務局に出かけていた。

ナギ・ナジュアナリが一人で 遊びにきた・・。


遊びに・・というより実は 俺の今度の試験勉強を教えてくれる為に

来ていたのだが・・

成績優秀な彼は 飛び級で 先月卒業したのだった。


「ファリは勉強熱心だね」

「そうか? 早く卒業したいだけさ・・」俺は笑う


「ファリの成績は優秀だよ 次の試験 絶対大丈夫!」


「ナギ・ナジュアナリに太鼓判を押されたから 安心だな」

「あと5つ 大きな試験が済んで 合格点をもらえば

俺も卒業だ・・。」


「ファリも飛び級の試験を受けるの?」


「まあね・・。」



彼の顔を見ながら 俺は聞いた

「ナギ・ナジュアナリは?卒業したから これから何がしたい?」


「そうだね・・しばらくは連邦の組織の仕事を手伝う事になるけど・・

レーヴさんみたいに植物の研究も楽しそうだね

それか 音楽の演奏の仕事もしてみたい・・ふふ・・。」


「連邦の組織の仕事をしながら 大学に通っている人もいるって話だが

音楽の専門の学校に通ってみる?」


「ああ!それもいいね!」

「僕の場合 連邦の組織の方で 

植物を扱う部署か宇宙船の補修を手伝う部署を

希望を出しておいたけど・・

惑星の本部なら 音楽の専門学校にも通えるね。」

嬉しそうに笑うナギ・ナジュアナリ


「仮に宇宙ステーションの方でも 通信学校もあるらしい

数回の実地試験を受けに学校に行かないといけないらしいが・・」


ポンと資料を彼に渡す

「え!調べてくれたの! ファリ 勉強や試験で忙しいのに!」


「いや・・ついでがあったから・・それだけ」

俺は肩をすくめる


「有難う!ファリ!」

ナギ・ナジュアナリが抱きしめる


「ねえ 地球産の紅茶が入った・・だけど・・何してんの?」

怪訝な顔するエル


「いや その・・多分 男の友情だ・・。」言葉を濁す俺 ファリ





俺の部屋のベットでナギ・ナジュアナリが寝ている

俺はソファで寝ていたが


夜半 ナジュアナリがうなされて それから

彼の悲鳴で 俺は飛び起きる

隣で ゼイゼイと息を吐くナギ・ナジュアナリ


「どうしたの!」心配そうにエルが入ってきた


「大丈夫だエル・・いつもの発作だから・・

俺がナギに・・ナギ・ナジュアナリについてる・・。」


あの生贄の儀式に 

南の村での監視され 冷たく扱われていた生活

多くは語らないが・・逃げようとして鞭で叩かれるなどの虐待も・・


それらが ナギ・ナジュアナリの心に深い傷を残していた・・。



「・・・わかったファリ 何かあったら呼んでね」


「あ・・すまん ホットミルクをいいかい?」


「ええ わかった!」

程なく エルがホットミルクを持ってきて

ナギ・ナジュアナリに差し出す


「有難うエル・・。」

青ざめた顔で ナギ・ナジュアナリはエルを見てる


「ナギ・ナジュアナリ ねえ・・ナギ 私達 友達よ」

エルが微笑む


「助かったよ エル 後は俺が・・」


「うん じゃあお休み 二人とも」


「ああ・・」


「ごめんねエル」


「気にしない じゃあ!お休みなさい また明日ね」

エル笑顔を見せて 部屋の扉をゆっくりと閉めた



「ほら ホットミルク」

「医者から もらった薬があるだろう? それも飲む・・。」


「うん・・ファリ」


「ああ・・汗かいてる 

俺の服か・・サイズ的には レーヴの服がいいな」


「確か ここにあった」


俺の今の部屋は 本当はレーヴの部屋の一つで

・・・

レーヴは ああ見えて学者なので 本や資料が多くて

荷物が多く 


クローゼットの中にはレーヴの服やら小物

・・ロボットの模型とか

アニメのビデオやらが沢山あった・・。


小物・・アニメのビデオは・・多才で多趣味な彼の持ち物

・・・趣味も広い・・。


ごちゃごちゃした 開かずのクローゼットから

・・俺としては 気になるし 整理してもいいんだが・・


レーヴにとって大事な宝物が沢山あるらしく

下手にさわると 無くしたり・・しそうで・・


なるべく 開かずの間であるクローゼットには触れないように

していた・・。


そのクローゼットの荷物の中から

丁度 よさ気な服を探し出す

パジャマ代わりになりそうな 大きなTシャツ

いや・・おそらく・・パジャマ用だっただろう


値札つき・・アニメの可愛い女の子の絵柄がついてる

・・

アニメの女の子の絵は・・なんとなく妹のリーシュに似てる

淡い青い髪・・髪の頭の髪の一部を左右のお団子にして 

それに残りの髪を流してる所


・・髪型まで似てる・・

・・・

・・・・・Tシャツの絵の・・女の子が本当に妹に似て愛らしい・・

・・・とても愛らしいと俺は思う


後で レーヴがいいと言うなら俺がもらおう・・。

・・いや・・いやがって泣こうが・・俺がもらう・・。


心の中でこっそり 思う・・。


「ああ・・これなら 新品で サイズもあう」


「これに着替えて ナジュアナリ」


「うん・・いいのかな?」


「レーヴの・・ あの呑気な能天気な性格から言って まず問題はない」

俺は断言した

「文句を言ったら 俺が言い返す・・心配するな」


まあ・・レーヴは明るくて 優しい奴だから

ナギ・ナジュアナリの為だと言えば すぐに納得するだろうから・・。



「うん・・あ・・このTシャツの絵柄可愛いね

今度メールで 譲ってもらえるように 頼んでみようかな」


・・・微妙だが・・仕方ない 


嬉しそうなナギ・ナジュアナリの顔をみて

ここは涙を飲んで 俺は譲る事にした・・。



「俺からもメールしておく・・。」


「有難うファリ いつもご免ね・・。」


「ナギ・・気にするな・・」



ナギ・ナジュアナリは時々 

あの東の部族達に生贄にされそうになった体験で 

悪夢に襲われるらしく


こうして夜に飛び起きる事がしばしばあった・・。


ドクター・オズに紹介された 

ユメノというカウンセラーの下に定期的に今は通っているそうだ・・。


「ファリは 今度 衛星にある軍事訓練を受けるって?

がんばってね ファリ」


彼 それから

エルや俺と三人で 学校にある食堂で

昼食を食べながら仲良く話しをしていた・・。


訓練地の一つ 衛星を訓練機関にした場所で

宇宙空間での作業も実地で行われ


宇宙空間で 宇宙服を着けて

レーヴが乗っていた空中バイクにも乗ってみた


そして・・

「ファリ! ファリ! 前だ!前の氷の塊にぶつかるぞ!」

「え!!」

ものの見事に 宇宙に浮かぶ氷の塊にぶつかり

空中バイクは大破・・俺も大怪我を負った・・。


まあ・・相手が氷の塊で まだ良かった・・

でなければ 怪我ぐらいで済まなかったはずだから・・


俺ファリとしては・・・


レーヴや妹達には 心配するだろうし

俺の親父殿は 戦士たるものが!と呆れられるに違いないだろうし


あのレーヴだけには こんな間抜けな事態を知られるのは

もちろん 気恥ずかしかったのだが・・

だが・・・


そう もちろん黙っているつもりだったのだが・・

彼レーヴの妹エルや彼の父親ピウスが心配をして 

しっかりと・・俺の怪我についての連絡が 彼等に伝わり

・・・


予想通りの親父殿の言葉のメッセージに


心配する祖母に妹ミーシュやレーヴのメッセージもついて

見舞いの品々が 

しばらく後に山のように届けられたのであった・・。


見舞いには 砂魚サマクの干したものに

惑星で収穫されたというパイナップルにナツメヤシ

品種改良したコケの実トリブル・・

コケの実トリブルは レーヴの品種改良の成果で種類が増えて

味も格段と上手くなっていた


レーヴのおかげだった・・。


それらの

果実が沢山 それは食べきれない程の量・・


俺の惑星は 穀物や果実を多く生産出来る 

豊かな星へと変貌をとげつつあった・・。


やがて・・うわさ(見舞いの品)を聴きつけた

学友達が見舞いと称して現れて それらを事ごとく

彼等の腹に収めて帰っていったのだった・・。


まあ・・どうにか 

一部は俺の腹にも 当然 無事に・・おさまったのだが・・



エルやナギ・ナジュアナリが交互によく見舞いに来ては

俺の世話を焼いてくれた・・。




「林檎をむいたの・・食べる?ファリ?」

「ああ!有難うエル!」


淡い金の髪から 甘い香りがする・・

彼女の綺麗な瞳が 俺をじっと見てる・・。


すぐ傍にいる 彼女エルの笑顔にドギマギしている自分がいる


「ファリ! 調子はどう? エル 元気?」

ドアを開けて 微笑む ナギ・ナジュアナリ 

「今日の授業の講義 パソコンにデータとしてまとめておいたから」

「はい!どうぞ」


「二人とも成績が優秀だって 父さんが褒めてたよ ふふ」

とエル


「ふふふ・・俺はナギ・ナジュアリ程ではないよ

まあ・・本もない世界で育って・・その分

ここでは 頑張らないとな・・」と俺ファリは笑う


「ファリは 努力家だよね 感心する・・。

でも・・育った本のない環境で 条件は同じでも 僕の場合は

ファリと違って 軍事の鍛錬は まったく駄目だけど


だから・・その他の教科で 点数を稼がないとね・・」

ナギ・ナジュアナリ


「何言ってんだよナギ・ナジュアナリ・・あれほど高得点な成績を

修めておいて・・」


「軍事訓練の場合

俺は 部族では 戦士の一人だったから・・

ある程度は 向いていたんだろうから・・」

首をすくめる俺


「それに ナギは 楽器の演奏が得意なんだって! 

今度聞かせてくれるか?」


「うん ファリ!」


見舞いの林檎を食べながら・・

「これも 持ってゆけよナギ

この果物・・レーヴが品種改良して作っただけど・・


何だと思う?」


「え! 何?」ナギ・ナジュアナリ

「ザファールの実に こっちはコケの実トリブル・・品種改良版だよ」


「ええ!色も大きさも違う! 

それにサボテンのザファールはめったに実をつけないのに」


「ザファールが沢山 実をつけるように品種改良したってさ

一つ食べてみて?ナギ・ナジュアナリ」


「うわああ!美味しい すごく甘い!

これレーヴさんが品種改良をして作ったの!すごいや!」


「沢山あるから・・これもナギ・ナジュアナリ」


「有難う・・レーヴさんにも御礼のメールしなくちゃ!」

「あ・・じゃあ お邪魔しちゃ 悪いから・・

僕はこの辺で・・またね ファリ エル!」


「あ!せっかくだから 砂魚サマクはいらないか?」

「え!いいの 果実に砂魚まで・・ 有難う ファリ」


彼は微笑んで 土産の砂魚サマクを受け取ると

春の風のように そっと立ち去った

長い艶やかな黒髪を揺れらしながら部屋のドアを閉める



エルは 俺の顔を見ながら 微笑む

「来週までには 退院出来るって聞いたわ

来週初めから始まる水中都市での祭りに行かない?」


「水中都市?」


「素敵なところよ・・だめ? 勉強が忙しい?」


「うん・・行こうかエル」うなずく俺・・


「やったあ!」エルは 嬉しそうに声をあげた・・。



そう・・

彼の妹エルは綺麗なだけでなく 少々世話好きで

多忙な彼の父親の代わりだと言っては

よくよく俺を遊びに連れ出した。


水中都市での祭り


後で気がついたのだった・・


うっかりしていたのだが・・次の試験が待っていたのだ・・。


俺は エルの笑顔を見てるうちに次の試験の準備も忘れて

うなずいてしまっていた。



水中都市は 長いエレベーターのようなものか水中船で渡る


俺達は 水中エレベーターで一番近くの水中都市へ向かった


水中エレベーターは 

一度に20人は乗れる代物で人数分の座り席も用意されていた


座席も エレベーター自体も 

エレベーターの管も 透明


水の中で泳ぐ 鮮やかな色合いの魚達が エレベーターの廻りを

泳ぎ去る。


赤や紫 黄色と青のグラデーションのコントラストの鮮やかな魚たち

中には 小型船ほどの大きな魚までいた

水圧とかの問題で 身体をゆっくり慣らしながら時間をかけて進む・・。


移動に時間がかかるエレベーターの中の人達を

リラックスさせる為に

穏やかな音色の音楽も奏でられていて


それは 心地よく耳に響く




エレベーターの中で 俺達は一式の特殊な服や道具をそれぞれに手渡される


それから その手渡された宇宙服ならぬ 空気のボンベつきの水中用の服をまとい 

ヘルメットをかぶり 三重の扉のエレベーターがゆっくりと開く


上の都市のそのままに 都市は白亜で美しい

レンガは使われてないが 違う素材の綺麗な石が使われていた・・。


そして 大きな違いは水中の中にあり ここは水中の中 

浅い位置にあるので太陽の光は届いて 

水の中で 複雑な屈折帯びながらも光煌き


木々に 花や小鳥の代わりに 

海草やサンゴがあり 色鮮やかな魚達が泳いでいる事


時折 水中都市の住人・・

水色の髪に 銀色の鱗 

それから 足には 華やかな色合いの

グラデーションを帯びた赤い色

魚のヒレの人達 いや人魚と呼ばれる

者達とすれ違い


互いに手を振る・・。


尾ひれは まるで柔らかな布を何枚か重ねたように

とても綺麗なものだった・・。


彼等の服もまた 重ねた柔らかく透けたシフォンのような生地で

動くたびに水の中で軽やかに踊るよう・・。


祭りの宴の為に

沢山の色あいの透ける長い布が水中都市に飾りつけられている

水晶で出来た灯篭もあり 


水晶の灯篭の中に発光する物体が入れてあって

それが 都市のメインストリートに数多く飾られて 

光り輝くダイヤのように


水中の中で

それは 美しく煌いている・・。


水中都市の住人・・人魚達は メイン会場で 舞い踊る

着飾った人魚達の舞は それは美しいものであった・・。


「ええと・・ビデオ・・妹に見せてやらないと・・」


「ふふ・・ファリ 私が撮影してあげる」


「あ・・頼むよ エル有難う」

照れくささで 顔が少しばかり赤くなる


「ファリも撮るから・・こっちを見て!」とエル


「あ・・いいから! とにかくあの人魚姫たちの舞を頼むよ」


「そんなに照れなくてもいいのに・・」

クスクスと笑うエル


「あ・・あれ!踊りの中心にいるの・・

 ナギ・ナジュアナリじゃない!」


「え!本当だ!」

彼は 口と鼻にはわずかに色のついた透明なマスクをして

耳と耳元近くに何か装置のようなものをつけていた・・


衣装は白い 古代の地球の衣装・・ギリシャ神話だったか・・

そんな感じの柔らかな生地を重ねで着ていた・・

胸元や頭には 金細工の飾り・・。


髪には まるで小さな花びらを散らしたように

涙型の小さな宝石 アクアマリンにサファイアにルビー

それからアメジスト・・紫水晶が 髪の中のあちらこちらに

ピンで はめ込まれていた・・。


服の裾にも 彩りとして 同じく涙型の宝石が縫いこまれていた・・。


水のゆらぎで その重なりあった生地は 美しいウエーブを描く


天使か妖精のような風情のある

どこか中性的な彼には よく似合っている・・。


彼の長い黒髪が水の揺らぎにそよぎ 

白い肌が水中の中の光りを浴びて

輝いてみえた・・。


彼は 舞を踊る水中の人魚・・舞姫たちの中心にいて

手に持ったハープのような楽器を奏でている・・。


水中でもよく響くように造られ調整されたもの・・


水中服の集音器が音を拾う・・。

綺麗な音色・・・

奏でられる曲に 耳をすます・・。


曲が何曲かすみ 彼や舞姫達は聴衆に頭を下げ

聴衆は 拍手で手を叩くかわりに 彼等に手を振った



「あ!ファリ エル! 祭りに来てたの!」ナギ・ナジュアナリ

「すごいじゃないか! 曲 素晴らしかったよ!」


「それにしても・・教えてくれても良かったのに・・」とエル


「ふふふ・・急に決まったんだ・・ハープの弾き手が急病でね

ピンチヒッターだったんだよ・・。

学校で 丁度 彼等の音楽を勉強してたから・・。」ナギ・ナジュアナリ


「それにしても 水中服なしで平気なのか?」と俺



「うん大丈夫・・実は検査でわかったんだけど・・」

そう言って 彼ナギ・ナジュアナリは自分の鱗のついた手の甲を見せる・・。


「僕の天空人の遺伝子だけど・・

鱗でわかるように・・水中で暮らしていた人達だった・・。


で・・

調べたら・・

僕の体には 退化したけど 耳の後ろ部分にエラがあったり

肌も大丈夫だった・・。


浅い水圧なら平気で・・


それから・・

体の中に空気を貯める袋がついていた・・。」

ナギ・ナジュアナリは言う・・。


「だから・・退化した耳元のエラを強化する機械と 

地上に適応してる部分をカバーすれば・・

つまり・・水に適応しない部分


この場合 耳や鼻とかだけど・・

浅い水深のこの水中都市なら 長時間過ごす事は可能なんだ・・」

「多分 ファリの妹リーシュさんも 古い水の種族の姿をしているから 

検査しないと わからないけど・・僕より 適応出来ると思う・・。」


「俺の妹リーシュも?か?」目を見開く・・


「だが 驚いたな・・身体が この水の惑星にあってるんだ・・」


「なあ・・・

ナギ・ナジュアナリは こっちの暮らしの方が楽しい?」


深い意味などなく 何気に俺は彼に問いかけた・・。


「まだ よくわからないけど・・砂漠の故郷の惑星での

暮らしは苛酷だったから・・それに あやうく殺されかけたし・・」


「他にも・・様々な事があったから・・

でも・・確かに 僕の一部は この水の惑星に適応してて

ここでの暮らしは楽しくて快適だし・・」


「でも・・この身体の一部は 砂漠の地の者と同じ・・

それに ファリ達と同じ血が流れてるのは 僕ナギ・ナジュアナリにとって

とても大事な意味がある事・・。」


「ファリ達は 命の恩人で・・それから」

 


「ファリ達の部族の人達は まるで僕を家族の一員のように

扱ってくれた・・

僕は ファリ達の部族の村では幸せを感じていたよ」ナギ・ナジュアナリ


「南の僕が育った村では 年の離れた姉さんや2つ上の兄さんみたいに

東の部族に連れて行かれて 生贄にされるかと思うと怖かった


逃げ出したかったけど・・結局 ファリ達に助けられるまで

逃げられなかった・・。」


「え!兄さん! 兄さんや姉さんがいたのか!」


「うん ファリそうだよ・・」

「僕や妹と同じ瞳に それから銀色の髪をしていた・・。

兄さんや姉さんは優しかった

僕らに 幸せが来るように祈っていると言った・・


兄さんの名前 ナジュアリ・・兄さんがいなくなってからは

僕の名前は ナギ・ナジュアリ・・


最初に一番上の姉さん・・それから二年後 

ナジュアリ兄さんが連れてゆかれた・・」


「それからね・・天空人の姿の者は

あの村では 冷たく扱われ いつも監視されていた


僕らは 東の部族との取引のために 逃げ出さないように

閉じ込められていたんだ・・。

本当は別の村で産まれたんだけど・・彼等が村を襲って

連れてこられた・・。」


「妹達も あの村では 辛い思いをしたけど・・。 

今はファリ達の部族の元で 今では豊かに 幸せに暮らしているから・・」


「あ・・!」驚くナギ・ナジュアナリ

「え!ファリ!!君泣いてるの!」とナギ・ナジュアナリ


「え?・・」知らずに涙がこぼれていた・・。


「・・・」どうしていいかわからず俺は涙をぬぐいたかったが

水中服を着ている状態では無理な話だった・・。



「有難うファリ・・ごめんね こんな話を聞かせてしまって・・。」

ナジュアナリは微笑む・・。


「僕はファリ達 皆が大好きだよ・・でも確かに ここの暮らしは

昔の頃に比べたら 夢のようだよ・・。


ファリは ここの暮らしは楽しい?」


「そうだな・・楽しいよ

水のある豊かな暮らしに・・大昔から伝えられてきた伝承や子守唄

俺は 何世代もの間 夢みてきた 桃源郷にいる・・。」


「それに本来なら よそ者は はじき出される事も多いのに

この星の人々は 異邦人に優しくて 受け入れくれるから・・


これから出来上がる 新しい「連邦」という組織で

活動してみるのも 悪くないと思っている・・。


でも・・確かに時折 あの赤い砂漠が恋しい時もある

あそこは故郷で 大事な家族がいる・・。」


彼の瞳・・虹彩を帯びた青紫の瞳が 水の中で煌く・・

あの瞳は 水中の中で一番美しく輝くように思えた・・。


「あ! 次の会場に行かないと・・

演奏はまだ 次の会場であるから・・

じゃあ ファリ また明後日 学校でね!」


「ああ!またな!」俺は手を振った


彼は白い人魚のように 優雅に泳ぎ去っていった・・。



ナギ・ナジュアナリの兄や姉なら さぞや美しかったのだっただろう・・

彼や彼の弟や妹の美しい面立ち


犠牲になったのは 彼等だけでなく

俺の祖父達も・・


もし・・・もう少しだけ 俺達の惑星に水があったなら・・

生贄の儀式の習慣など 生まれなかったに違いない・・



あるいは もう少しだけ 早くレーヴ達の連邦の組織の星の箱舟が

惑星に戻ってこれたなら・・


せめて・・ナギ・ナジュアナリの兄や姉は助かったかも・・



エルが話しかける

「ずいぶんと長く話しこんでたけれど・・?」


「・・話せば 長い話だよ エル

それに ちょっと故郷での辛い話もあって 今は上手く話せない・・」


「エル・・君の話が聞きたいよ・・楽しい話がいい

今度の3D映画の話でも・・なんでもいい・・」


「うん わかったわファリ ますは食事しましょうね!」


そっと エルがささやくように 身体をよせて

近くで言う

「とても悲しそう・・ファリ・・。」


「そう? 」と俺・・

「・・・あの苛酷な砂漠の星の人々に 伝承の中の残酷な砂の魔人は

どれだけの犠牲を払わせるのか・・と思うと・・悲しくなったんだ・・。」


「ファリ?」


「エル・・この楽園で君という天使に出会えて よかった・・。」


「今は食事だ・・エル」

上の住人達の為に用意されている建物が幾つかある 

その中には ホテルやレストランなどの設備も・・・


「今日は豪華な食事をして帰りましょうね!」彼女エルは笑う

建物に下から潜りこむように入る


階段を上がると そこは 水のない空間 ワインレッドのような深い色合いで

統一された内装 


「上の都市でも 見たことない内装だけど?」俺は水中服を脱ぎながら

問いかける

「ふふふ ここはね 連邦が始まった惑星の一つ 地球の欧州ヨーロッパ

19世紀ごろのアール・ヌーボー?だったけ?

地球の大昔の風俗をテーマにしたレストランなの!」


「そうなのか・・よくわかないけど 綺麗だとは思うよ エル」


「ふふふ・・ファリ

あと 地球の東洋風の日本とか 他のアジアをテーマにした

レストランもあるのよ


日本のレストランは 畳とか障子とかあって 

円筒形の竹という植物の中で ご飯を食べるの・・・」とエル。 


「へえ~」


「ここは 娯楽都市でもあるから 他にも沢山楽しい施設はあるわ!

今度 また来ましょうね ファリ」エルは ほがらかに笑う


俺は笑ってうなずいた。


彼女エルは ダイエットにいいの!といいながら

ステーキ風のコンニャクと

ほうれん草とジャガイモのポタージュスープを頼み

(スープはダイエットには 少々不向きだが・・)


ダイエットという言葉に

絶対的に食料や水が不足していた惑星に育った俺としては

少々 複雑な思いもあったが・・


エルが綺麗で 幸せなら それでいいか・・とも

思う事にした・・。


ステーキ風のコンニャクは

ナイフとフォークで上手に切り分け小さくして 

その愛らしい口元に運ぶ

「ん!美味しいわ!」エルは嬉しそうだった


それから 俺は地球の日本風という

米と呼ばれる穀物の上に 

サケという魚が乗ったものを頼んだ


鮭の身は ピンク色で 

その魚と米という穀物が茶碗に盛られて 

ワサビという緑色の練ったムースを少しばかりをのせて 

更に その上に鮮やかな緑色の熱い液体が注がれる

緑色の液体は 緑茶と呼ばれるものらしい


料理の名前は お茶づけ・・と言った



本来ははしという二本の棒を使い食べるらしいが

最初は それはぎこちなくて上手く掴む事が出来ない・・。


とりあえず 今回はスプーンで食べる事にした。


楽しい時間 俺達は 夜遅くに家に戻る


「じゃ お休み」エルは 俺の唇に軽くキスをした

「えええ!」 

彼女は笑い 自室に戻った


夢のような場所で 俺は 卒業を迎えて

それから・・更に数年が過ぎて

 

レーヴとエルの父親の団体(連邦)の仕事をして 

この惑星フォルトーナで暮らしていた・・。




「半年後には 戻るよ」

途切れがちな宇宙回線を使ったネット電話で 画面に向かい

レーヴと妹のリーシュに笑いかけた


「待ってるね! あ!お兄ちゃんが送ってくれた

冷凍茶づけセットと梅オニギリセット すごく美味しかった!

私達の星でも お米とかいう穀物育てられるかしら?」


「さあ・・大量の水が必要な植物らしいが

まあ 改良種もあるらしいから 今度詳しく調べて 可能なら種を送るよ」


「こっちも 砂魚サマクの干した分が大量に届いた 

久しぶりに焼いて食べたが上手かった・・・有難うな」

俺は昨日食べた あのサマクの味を思い出して笑みが浮かぶ。


「砂魚サマクは 今度 他の星にも養殖が始まって 

岩だらけの星の住人がとっても喜んでいたよ 

なんでも泥の中で養殖してるらしい


品種改良に成功したレーヴのおかげだな・・。」


「ああ そうだ!・・リーシュ お腹の赤ちゃんは 大丈夫か?」


「うん お兄ちゃん! 赤ちゃんが大きくなったら

そっちの惑星にも 旅行に行くから」


「ああ!

ナジュアナリさんの妹のアファアちゃんと弟のウインダムちゃんに

会った?


ナジュアナリさんは 惑星フォルトーナに移住するから

二人を先週呼び寄せたって・・」


「ああ・・昨日会った・・ずいぶんと大きくなった・・。」



「それから・・リーシュの腹も本当に大きくなった・・。」

声が低くなる


目が自分でも 釣りあがってゆくのが わかる・・。


「 なあ・・レーヴ・・・」

とチラんと画面ごしに軽く睨みながら 

レーヴの方を見る


「本来なら・・先月のフェスタ・・

惑星フォルトーナの空中都市での大きな祭りには 

二人でこっちに来るはずだっただよな・・。


花火や 小型飛行機のショーは素晴らしかったよ

見せてやりたかったな・・


昼間は 青い空の中を

小型飛行機が空中で弧を描いたり 見事な技だった・・。


夕暮れ・・・

濃紫の空に浮かぶ 二つの月・・

その中に浮かぶ 花火・・


花火は艶やかな花が 咲くように幻想的で 美しかった・・



まあ・・ビデオレターは送ったが・・

やはり ライブで見せたかったよ・・


それにエル達が ショッピングに連れて行き

リーシュの為のドレスやら宝飾品アクセサリーも

見立てる予定だったんだが・・


まあ・・こちらもエル達が 服やら何やら

せっかくだからと・・アリア祖母さまの分まで・・

先日見立てて 

つい昨日 その贈り物を郵送したが

こちらの荷物は 数日中に到着予定だ・・。


それとは別に部族の女性用に頼まれていた 

大量の生地とか

服とか・・刺繍用と織物用の糸とか・・


ああ服の型紙の資料も同封して・・


それから 部族の子供らには

大量の珍しい御菓子に 親父殿たちには酒が20ケース

かなりの大荷物になったよ


その辺の詳しい事は 本当ならリーシュでないと分からないだが・・

本人が来れなかったから・・仕方ない・・。


・・・・・・

今回来れなかったのは まあ・・レーヴのせい・・かな?」


「本当に・・リーシュの腹も大きくなった」

やぶ睨みがちに・・更に低い声で・・繰り返す・・



「・・う・・まあ・・勢いって事で・・あははは」


「おい・・レーヴ 

相手は俺の誰より可愛い妹なんだが?」


「はい! 絶対 幸せにします! まかせて下さい!」

赤くなりながら レーヴは高らかに宣言した



「あ・一応 こっちでも結構式あげたけど

新婚旅行をかねて そっちに戻って それから

もう一度 式をあげる予定だけど・・」


「ウエデングドレスは 腹に負担がかからないように

作り直したって 聞いたぞ・・・レーヴ・・。」


「いや・・その・・」


赤くなり照れながら そして

少々 バツが悪そうに 

レーヴは ひきつりながら笑って答えた


「・・・まったく」


「しかし・・ファリが 

あの難しい学校を 僅かな時間で卒業出来るなんて

びっくりだよ! 

もう小型宇宙船なら簡単な修理と操縦も出来るだって!」


「まあね・・操縦とか 射撃に体術の方が面白かったけどね・・

それに 教え上手なナギ・ナジュアナリという家庭教師様のおかげ・・」

と俺ファリ



画面がまた 途切れがちになる


「回線の状態が悪いな・・」


「ああ・・予想されてる10年後の大規模な磁気嵐ではないが

小規模な磁気嵐が起こりつつある


二ヶ月前の磁気嵐と同じクラスらしいが

あの時は 一週間 地下都市に逃げ込んだよ」


「被害も出た 地上にまで影響があって

大嵐だ・・・」


「建設中の水の塔が1基 破損 

多くのけが人も出たけどね・・。


やっと着手しつつある 南半球の水の塔の計画も遅れる」

真顔で 彼は重く言う


「磁気嵐が発生しても 惑星の地上に影響があるなんて

大昔に一度 確かにあったし 今度の予想される10年後の磁気嵐でも

地上に影響があることは予想しているが


2ヶ月前の規模の磁気嵐で ここまで被害が出たとなると

10年後の磁気嵐の時には 一体何があるやら・・・」


「大昔の記録やら照らし合わせて

備えだけは しないとな・・」レーヴは言う ため息まじりの声


「とりあえず 一部のオアシスにはドームで包む事になって

そっちの工事は急ピッチで進んでる・・

八割は完成したよファリ・・」



「今では 部族同士の対立もなく 人々は惑星の改造

テラ・ホーム計画に参加しているよ・・」

微笑むレーヴ


「東の塔も 先日 修理が完了して

あちらも 人工の湖が完成して それと新しい水路が引かれた

それから 磁気嵐対策のドームも一緒に設置して作った・・。」


「そうか・・あの東の塔が・・」


「他の塔の方も進んでるよ ファリ・・。

惑星中に 緑のオアシスが広がる」


「まあ・・本当に 砂の魔人・・か

あの磁気嵐の事が心配であるけど・・」レーヴは呟く・・。




不安・・不安感が頭をよぎる


そして・・・数週間後・・

それはしばらく後の事だった





発生した磁気嵐により その日から10日過ぎても

回りの宇宙空間に近づく事も出来ず


惑星は嵐の中に包まれた



そして 惑星に一番近い宇宙ステーションで

不眠不休の状態で 事態にあたる・・。


磁気嵐の規模は多くなり 10年後に起こるはずだった

嵐をも併発したのだった


それは

二年の歳月が過ぎても 収まる気配もなく・・


レーヴや妹達 家族 惑星の民を助ける為に動く

彼の父親ピウスも一緒だった・・。


ナギ・ナジュアナリも

その後 音楽家として活動していた彼だったが

一旦 活動を休止して


連邦の組織のメンバーとして

宇宙船のメンテナンスと通信の業務を

手伝った


通信業務にはエルも加わった


「また 宇宙船が一機 連絡が取れないだって!」


「磁気嵐を避けて 別の星域に渡るはずだった船だけど! 

あ!待って連絡が入った

こっちは大丈夫!」


「リュアンダ号から連絡が入った こちらに届ける必要な機材だけど

先程 発生した磁気嵐で 一週間遅れるそうです!」


「一週間も待てない 俺がシャトルで 一番必要な部品だけでも

取ってくる 連絡しておいてくれ! それと司令官に連絡をたのむ」


「気をつけて!」


「ああ!」



磁気嵐を中和する方法 

あるいは 磁気嵐から惑星の住民を救助する方法


「惑星に 住民の救出の為に 箱舟を下ろす事はやはり難しいか・・」


「研究中の転送ビームは まだ使えないか?」


「まだ・・難しい 研究段階だし・・

それに この磁気嵐だ・・

人間の細胞粒子を完全に移動先に再生させるのは 難しい・・。」


「やはり・・磁気嵐自体を消す方法を考えた方がいい」


沢山の研究が急ピッチで進み・・



そして・・・

新しい研究のひとつを試す事になった


それは

磁気嵐の核に 中和装置を打ち込む事・・。



中和装置をミサイルに取り付けてた

5機の特殊装備をしたシャトルが 磁気嵐の中心部に向かう


2機が途中で行方不明となり連絡が取れない・・


どうにか

1機の行方不明となっていた機体の乗組員を救出

機体が砕けたが 運よく彼等は助けだした


が・・

とうとう 1機は行方不明のままだった


それから・・激しい磁気嵐の中

残り3機のうち 2機が機体は途中で 

飛んできた無数の岩石のダメージを受けて基地に戻ってきた



残り1機・・

ついに磁気嵐の中心に到達・・


中和装置のついたミサイルを撃ち込む事に成功・・。


爆音が響き渡る それから衝撃が遠く離れた位置にある宇宙船にまで届く

その爆音は・・

俺にとって 砂漠の魔人の咆哮のように思えた・・。


何世代にも渡り 俺達を苦しめた砂漠の魔人・・。


大昔に訪れた善き天空人達を追い払った砂の魔人・・。

きっと奴の悲鳴なのだと・・・。



基地から歓声があがる




効果はゆっくりと現れる


二週間後  磁気嵐は消えた




惑星に降り立つ事が可能になり 先発隊の一人に俺は選ばれた

「行ってらしゃい 頑張って」 


ナギ・ナジュアナリが 声をかけて 見送ってくれた

シャトルに乗り込み 窓ごしに 俺は彼に軽く手を振る・・


星の箱舟・・巨大な宇宙船のハッチが開き

3機の先発隊のシャトルが飛び立った。



そうやって

俺は再び 数年ぶりに 生まれ故郷の惑星に降り立った


懐かしい赤と金の入り混じる砂の海

乾いた風が 吹きすさぶ


足元には あの砂魚サマクが サワサワと音をたてながら

群れて 砂の海から顔を出している


どれだけの生き物が生き延びれたのか・・

俺は不思議な面持ちで 名前を呼ばれるまで 

砂魚サマクをしばらく見ていた・・。


数年前までの俺ファリと・・今の俺ファリ・・・

ファリ・ナジュム


保護用に建造中だったドームに覆われた

西地域のオアシスの一部は ほぼ無事だった


中には 幾つか ドームの一部が崩れかけた物もあったが 

逆にそれらは

自然界で生きる この惑星の生き物たちの避難所となっていた。


地下都市・・東の水の塔 西の水の塔・・・建造中の幾つかの地下都市



どれも入り口が崩れて入ることは出来なかったが

宇宙からのモニターで 内部の無事だけは ある程度確認出来た


もっとも 完全にモニタリングは不可能だったので

実際状況は不明・・・。





星へと降り立ち


幾つかのチームになり 

それぞれのチームが惑星の探査にあたる


この惑星の住民の無事を信じて・・


俺は西の塔の方に行く事を希望した・・。



今・・・砂漠の風景を見下ろした後で


オアシスの地下水路を使って 俺と彼レーヴの父親ピウス

惑星に残った兄レーヴを心配するエルら 他数人のメンバーと一緒のチーム


俺達は

水中と陸が走行可能な 水陸両用小型のジープに 乗り込み

オアシスの地下水路に潜る事にした・・。


エル・・彼女は そっと俺の肩に手を乗せた

尖った彼女の耳元の葡萄の実を思わせる耳飾りが

彼女の動きにあわせて 揺らめきチャラリ・・と小さな音を響かせる。

エルと目があう・・。



その耳飾は・・


あの水中都市にある

レストランのすぐ横の店で

誕生日の贈り物として購入したものだった。


金の細工にアメジストとアクアマリン 

それからサファイアの宝石が寄り合わせたもの

耳飾は他にも オレンジがかった真珠のものも・・


初めての給料で 購入して 誕生日の祝いの贈り物に・・


そして 俺の手首には

エルから贈り物・・卒業祝いの品

金の細い手首用の細やかな細工の腕輪


宝石と真珠がついたもの・・後で知ったのだが 宝石の幾つかは高価なもの

ルビーに ガーネットに金剛石のダイヤ・・サファイア・・エメラルド

そして・・お守りの魔よけとして トルコ石にラピズラズリもはめ込まれていた



エルは ため息をつく 

「遠いわ・・・近くに来たのに まだ遠く感じる・・。」


「そうだね・・」

彼と彼女の父親 彼ピウスもそう言う


朗らかで 明朗・・明るかった彼。  

レーヴと同じく明るかった 彼の父親は

この事件で 沈みがちな表情を見せるようになった・・。


未だ通信装置はダウンしたまま 安否は不明

設備は無事でも 惑星の住人達の無事は不明なまま・・



目的地 西の水の塔の地下都市に辿り着く

水路の水の中からゆっくりと浮上する・・・。


地上の夕暮れの明かりが 

光ファイバーのラインを伝って 地下都市を照らしていた


「空気は幸いにもある・・・。」俺はヘルメットを外した

「大丈夫です 二人とも・・」声をかける


一部 崩れた建物などが見受けられる 





それから・・・


建物の影から 音が響いた

タライと洗濯物を抱えた 妹リーシュの姿と祖母の姿


タライを落として こちらを驚き見つめている「お・・お兄ちゃん!」

そして 背中には赤ん坊の姿があった


「お兄ちゃん!」妹リーシュは駆け寄り それから俺達は

涙を流して 互いに抱きしめあった


「会いたかった!会いたかったよおお!!ファリ兄さん」

妹は泣きながら俺に言う


「俺もだ! 俺も・・・リーシュ」


抱きしめあう俺達の傍で


そして

ピウスさんは 物憂げに祖母を見ていた・・。

祖母もまた 彼を見て 微笑んだ・・。



「皆 無事か!」

「父さん達や村の人達は皆 無事だよ・・レーヴのおかげ・・」




「西の塔の地下都市に避難した人たちは ほとんど無事だったけど


他の塔に避難した人達の行方は消息は不明なの 

ここからは どの地下都市からも離れて孤立してるから・・


他の塔は建造中もあって不明だけど 

多分 南の塔と・・東の塔の地下都市は無事だと思うわ。」


「 今 レーヴは?」


「・・・」妹リーシュは口ごもる


2日前に 安全なドームに水路を使って 

潜水服を身につけて出かけたまま

まだ 戻らないそうだった


村の者達と相談して 誰かが捜しに行くと相談中だったとの事


「俺が行く・・」


「しかし・・」


「大丈夫だ・・俺なら 機器の扱いにも

仮に緊急を要する事態だとしても・・


この惑星の事も俺なら詳しい・・。」


俺は 急ぎ そのドームへ向かうことにした・・。


「エル! ピウスさん! 彼を必ず見つけ出してきますから」

俺はテキパキと水中に潜る準備をしながら言った


「頼む・・」

「信じてるわ・・ファリ」エルはそおっと 俺の頬にキスをした。



潜水服をまとい 水中に潜る 長い地下水路

ところどころに崩れた岩の障害物


そして・・薄暗い地下水路から上がり

その目に見たものは・・・ 

ドームの透明なガラスファイバーの天井から降り注ぐ


黄昏の光と・・・

ドームの中の 穀物の畑の金色の海だった


そして奥の方では 実をつける木々が植えられて 花を咲かせていた

「これは・・」



「・・・・見事だろう・・ファリ

久しぶりだ 元気だったか?」

誰かが 水路近くの 畑の中に横たわっている


手持ちの服を布団代わりにして その身を横たえ

それから 脚には服が包帯のように巻かれている

赤い血がところどころに染まっていた。

ぐったりとしていた・・。


俺は 慌てて彼に駆け寄り 抱きしめる

「レーヴ!レーヴ!!」


うっすらと瞳を開けるレーヴ


やつれてはいたが・・日によく焼けた顔で 

にこりと笑う


昔と変わらない笑顔を見せている・・。


「迎えに来てくれたんだ・・」レーヴは笑う


「ああ・・・その脚?脚の怪我 獣にやられたのか?」


レーヴは脚を手持ちの服を包帯代わりにして巻いていたのだが 

包帯代わりのその服は血が滲んでいる


「そうだよ・・完全に覆われたドームだから

獣は紛れ込んでくるはずもないとタカをくくってたら この有様さ


まあ 偶然たまたまだろうけどね・・・。

どうやって潜り込んだかは 

今度調べるけど 穴でも掘ったか 地下水路のどちらかだろうね」

ため息をつくレーヴ


「すごいだろう・・この畑・・麦に

水田を必要としない品種改良した米だよ・・・」


「塔の入り口は壊れてしまったけれど 地下水路は無事だったから

こうして無事なドームで畑やら木々から食物を収穫していたんだ


奥にはオレンジとか柑橘類にナツメヤシ 葡萄 

バナナやパイナップル

トウモロコシやら 胡瓜やトマト・・


カカオやらコーヒー豆に

品種改良タイプのプラム(梅)もある

プラム(梅)は 甘くしたり 地球の日本風に酸っぱく漬け込む

米に合うんだ・・酸っぱくしたものは 日本風に発音するとウメボシとか言うらしい」


「で・・・話が戻るけどね

獣は倒して 獣の屍骸は 僕のお腹に納まったけど

この怪我ともなると 長い地下水路を渡るほどの体力に自信がなくてね

止血はしたけど 当然傷口が開くだろうし・・


おまけに 通信装置は獣の戦いの最中 壊れてしまって」


「とりあえず ここで休んでいた・・

行きと違って 帰りはゆるやかとはいえ 逆流を泳ぐことになるから・・。」

レーヴはため息をついた


「・・体内に毒を持ってる獣でなくて良かったな」


「え!いるの!ファリ!」とレーヴ


「いるの・・・何年 この惑星に住んでいるんだ?

まったく のん気な奴だ・・」と今度は俺がため息をつく



「あはは・・

まあ・・誰かが迎えにきてくれると思ってたから 

こうして 水路の近くで過ごしていたのさ

水陸両用の乗り物は 今は故障中だから・・・


もっとも 地下水路には岩の障害物もあるから

今は難しいかな・・。


いざとなったら 傷が癒えるまで 荷物を運んでもらって

キャンプしながら ここで過ごす事になるかな・・なんて考えていたけど・・」


「まさか君が・・ ファリが来てくれるとはね・・」

彼は涙ぐみ 両手を広げた


そして 俺は 彼を再び 強く抱きしめた 


「ああ 迎えにきたレーヴ 話したいことも山程ある」


「こっちもだよ・・ファリ」



透明なドームの天井から黄金色の光が注ぎ 奥の木々やこちらを

照らして その黄金色に染め上げる


豊かな実りの麦や米の穀物達の金色の穂がゆらぐ・・。


FIN




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ