第一章
「えぇっ!?!?」
愛奈の部屋に、美夜の声が響く。
「美夜…反応大きすぎですよ」
愛奈に制され、我にかえる。
「でも…」
美夜はそれでも、あわてふためく。
「良い報せではありませんか。ねぇ、麻癒」
麻癒は頬を赤らめる。
麻癒が子供を身篭った。
むろん、汰奈の騎士団長との子だ。
さすがに夫婦ばらばらと言うわけにもいかないので、麻癒は汰奈に行く事になっ
た。
「しっかしなぁ…」
美夜は少し呆れ顔になる。
「な…何…?」
麻癒がたじろぐと、美夜はニッ、と笑った。
「元気な子を産みなさいよ」
「わ…分かってます…」
それでは、と言って麻癒は部屋から出て行った。
部屋には美夜と愛奈が残された。
「………」
気まずい沈黙が続く。
「美夜は…」
先に口を開いたのは愛奈だった。
「は…?」
「美夜は結婚しないのですか?」
美夜は大きくため息をついた。
「媛…そっくりそのままお返し致します」
「冗談ですよ」
愛奈が手を軽く振ってみせる。
「秋王とはいかがなもので?」
美夜が質問すると、運悪く部屋の戸が叩かれた。
「はい?」
愛奈は美夜に確認するように促した。
「どちらさま…?」
戸を開けるとそこには蹂が立っていた。
「よ、久しぶりだな」
「…何しに来たのよ」
美夜はいかにも嫌そうな顔で言った。
「まぁまぁ…怒るなって。愛奈様に報告だよ」
蹂はそう言って部屋に入って来た。
美夜は先月、軍から抜けた。
理由は嶺国の裏切り。
裏切りの代償として、美夜は二度と戦場には出れなくなった。
代わりに、愛奈の護衛に回った。
「報告とは何でしょう」
愛奈は穏やかな顔で言った。
「愛奈様。突然で申し訳ないのですが、今すぐに国会に参加くださるようにとの事です」
蹂は深く頭を垂れた。
「分かりました。美夜、沙菜を呼んで下さい」
美夜は沙菜を呼んだ後で、蹂と共に中庭に出た。
「一体何があったと言うの?」
「梁国を知っているか?」
聞き慣れない言葉に、美夜は復唱した。
「やな……?分からない…」
「ああ。俺も初めて聞いた…しかし、嶺国より少し小さいくらいで、実質的にはかなりデカイ国らしい」
美夜は些か驚いた。
なぜならば、嶺国は揮熬国との戦で勝利し、更に国土を広げたのだった。
「それで…?」
「梁国は、我が国と同盟を結びたいらしい」
美夜の表情が一瞬にして強張る。
「本当か?」
一変して美夜の口調が変わった。
それは、かつての武士の血が濃く残っているからであろう。
「ああ。しかも、軍隊の数も相当なものらしい」
そこで、二人は口を閉ざした。
また戦になるのか…?
美夜はそう考えていた。
しかし、自分はもう戦場に出る事は許されない。
そうと分かっていても刀を握りたくなってしまう。
「美夜…」
最初に口を開いたのは蹂だった。
「何?」
「軍に戻りたいか…?」
「!?」
蹂の言葉は決定的なものであった。
美夜は口元を歪めた。
「戻りたくない訳はない…でも、私のしたことは事実として永遠に残る…それに…」
一度目を伏せてから、蹂の方を見て微笑んだ。
「愛奈様を放っておけないし」
蹂は口元を緩めた。
「そうだな…」
そう言った美夜の気持ちを蹂は知っていたから…
無理矢理笑った美夜に何と声をかけたらよいか分からなかった。
『残酷だな…』
蹂は一人思った。
「同盟の件は…私は黙秘させていただきます」
愛奈の言葉に閭が論を成した。
「愛奈様、ご自分の国の事なのですよ」
「分かっています。だからといって、私が口を出す事ではないでしょう」
「つまり愛奈、貴方は賛成ではないと言う事ですね?」
愛奈は無言で頷く。
「もちろん、他国と仲がよくなる事に越したことはありません。しかし、また戦になりかねないではないですか」
そこで、会議室にいた人達は皆さ口を閉ざした。
「なん……」
美夜は息をするのを忘れるくらい、驚いた。
それは、沙菜が泣きながら告げた。
「さ…な…それは…本当なのか……」
呼吸がうまくできない…
足がふらふらする…
「っ…て…!私だって反対しましたっ…!!でも…秋王は……っ!!」
沙菜は感情を抑えきれない。
「では……では、この国に愛奈様以外の……」
沙菜が告げた事…
それは―――
「秋王が他国から二人の王妃を貰う―――」