かにさるがっせん
ある山に、仲の良い蟹と猿がありました。
二人は肩を並べて川に遊びに行きました。
するとそこへ、川上から大きな桃がドンブリコドンブリコと流れてきました。
それを見て、蟹は言いました。
「なんと美味しそうな桃だこと。猿さんや、それを取っておくれ」
猿は笑って、それを川から上げました。
そしたら、蟹は真っ先に桃に食らいつきました。
「そら僕も」
そう言って猿が桃を食べようとすると、蟹はハサミをチョキンと鳴らして威嚇しました。
「待て待て、君は体が大きい。まずは体の小さな私を優先しておくれ」
猿が断り首を振ると、蟹は猿の尾をハサミで挟みました。
「やい。言うこと聞かないとチョッキンするぞ」
猿は悲しい顔をして、蟹が食べ終わるのを待ちました。
しかし、とうとう、蟹はひとりで桃を平らげてしまいました。
それを見て、猿はついに怒りました。
「ひどいや蟹さん。たとえ謝っても許さないぞ」
すると蟹はムッとなって、猿の尾をチョキリと切ってしまいました。
「ぎゃ」
と悲鳴を上げて苦しむ猿を見て、蟹は大きく笑いました。
「愉快愉快、踊れや踊れ、そら今日は祭だぞ」
それを聞いて頭にきた猿は、蟹の甲羅を爪でひっかいてやりました。
ところが、そのあまりの硬さに、猿の爪はポキリと折れてしまいました。
それを見て蟹はまた大笑いして、左右に揺れて踊ってみせました。
「その目をもいでやる」
怒りに顔も尻も真っ赤にさせた猿は、蟹に「えいっ」と跳びかかり、目を一本もいでやりました。
「ひっ」
と悲鳴を上げて、一転、カッとなった蟹は、いよいよ猿の首をチョン切ってしまいました。
死体は落ち着く間もなく川に放り捨てました。
それから家に帰り、ようやく落ち着いた蟹は、思案しました。
そして、よし、と何かを思い立つと、翌日、再び山に出掛けました。
蟹が横ばいになってチロチロと歩いていると、森の中で糞と会いました。
「蟹さん、こんにちは。どうしてあなたが森に?」
糞にそう問われると、蟹は残った目から真珠のような涙を溢してカレコレと訳を話しました。
「実は親友の猿にいきなり目をもがれましてね。私、必死に抵抗したんです」
そうして争ううちに、猿は足を滑らせ、自ら崖の下に落ちたと言って、蟹は訳を話し終えました。
「それは大変でしたな」
「大変なのはこれからです」
「え?」
「猿の子供が私を殺そうとしています。この甲羅をご覧なさい」
言われて糞が蟹の甲羅を見ると、小さな傷がひとつついていました。
「ややっ、これはまたヒドイですな」
「彼ら親子は揃って気が狂いでもしたのでしょう。私は必死に逃げてこの森へ」
糞はそれを聞いて、うんこ、と頷きました。
そして子猿の退治を提案しました。
蟹は左右に揺れて喜び、それを受けました。
こうして共に子猿の家へと向かうことになりました。
その道中、お花畑で蜂に会いました。
蟹は糞に話したのと同じことを、泡を噴きながら話しました。
すると蜂も仲間になりました。
続けて森で栗が、芝原で臼が仲間になりました。
いつか、一行は子猿の家へと来ました。
家からは、小さなすすり泣く声が聞こえてきました。
「あら、誰か泣いているみたいよ」
蜂が疑問を口にすると。
「罠だよ。猿はズル賢い生き物だから」
と、蟹はサッと答えました。
「では、まずはオラが行く」
初めに、栗が派手に戸口を破壊して侵入しました。
「なに」
と驚く子猿の喉へといきなり栗が突き刺さりました。
そこへ蜂が入ってきて、咳き込む子猿の目を刺してやりました。
子猿は怯え苦しみ、もがき、暴れるように部屋を走り回りました。
その時、子猿は糞に足を滑らせ転倒。
終わりに、臼が勢いよく上から落ちて、子猿の小さな体を容赦なく潰しました。
蟹は子猿がやっと息絶えたのを確認すると、それから安心したように息を漏らしました。
そして、左右に揺れながら感謝を述べました。
「みんな、ありがとう」