おりじなりてぃとおしりなでてぃ
サオリンピュードカンドンという国に、シナボンというマスコットキャラクターがいます。
シネボンとか言って虐めてはいけません。
シナボンは繊細な心を持った優しいマスコットキャラクターなのです。
ところで、サオリンピュードカンドンに住むマスコットキャラクター達には毎日楽しみにしていることがありました。
それは国外に暮らす人々に夢や希望を与え、願う幸せを叶えてあげることです。
なのでシナボンは今日も元気よく家をぴょんと飛び出すと、国外に暮らす人々に夢や希望を与え、願う幸せを叶えるためにるんるんと出掛けました。
ボンボンシナボン♪
マシュマロみたいに白くて柔らかい体のシナボンボン。
長くて可愛いお耳が自慢なんだよシナボンボン。
くるんと丸まったふわふわの尻尾が素敵なシナボンボン。
胸につけた青いリボンがとてもお気に入りのシナボンボン。
いぇあ、へいやぁ、シナボンボン。
駆ける転ぶ笑って泣いて、叫ぶ希望と夢に応えて。
今日もポップに弾けて、みんなにラックを授ける。
愛嬌振り撒くマスコットキャラクター
そぅ、君の名前は。
やあ、僕シナボン♪
「あ!シナボンだ!」
体重およそ百七十ほどの小学生の男の子が、シナボンの歌に誘われてずっしりどっしりとやって来ました。
「やあ!僕シナボン!」
「可愛いー!もふもふだー!」
シナボンに相撲を取るように抱きついて、男の子はご満悦。
羨ましいですね。
「君はどんな幸せを願うのかな?」
シナボンが聞くと、男の子は恥ずかしそうに言いました。
「痩せたいです」
「ようし!僕に任せて!」
からのシナボン大爆発。
「ママアアアアア!!」
男の子はすっかり焼け焦げて博物館に飾られているミイラのようになるかと思われましたが、なんということでしょう。
そこにはイケメンがいるじゃないですか。
「痩せた!凄いよシナボン!」
「脂肪燃焼効果だよ!」
「ありがとう!シナボン!」
シナボンは嬉しそうにスキップして帰る男の子を、見えなくなるまで手を振って見送りました。
「やあ!僕シナボン!」
次にシナボンは、シナボンの耳と同じくぴょこぴょこ跳ねるツインテールが愛らしい園児の女の子と出会いました。
「シナボーン!」
女の子はシナボンに向かって、とてぱたと駆けてめいいっぱい飛び付きました。
「シナボンいいにおーい」
シナボンは幼女に負けないぐらい魅力的なシナモンあヤバイ違ある香辛料の匂いがするのです。
「シナボンだいちゅき!」
「ありがとう!僕も大好き!」
シナボンは優しく慈しむように女の子の頭を撫でて、たくさんの抜け毛をそこに残しました。
「ねーねーシナボン、おねがいあるの」
「言ってごらん」
「あのね、すきなひとがいるの」
「ようし!僕に任せて!」
からのシナボン大爆発。
「きゃあああああん!!」
女の子は服が全部燃えて可哀想なことになるかと思われましたが、なんということでしょう。
お古で貰った服が素敵な新品のドレスに変わっているじゃないですか。
「わあ!かわいい!」
「君の想いが爆発して奇跡に変わったんだよ!」
「よくわかんない!」
「でも、これで大丈夫だね」
「うん!すきっていってくる!」
シナボンは転んだ女の子を立たせて上げて、それから見えなくなるまで手を振って見送りました。
「やあ!僕シナボン!」
次にシナボンは必殺戦隊チマミレンジャーの戦いに巻き込まれました。
迫る戦闘員の攻撃を滑らかにかわすと、サバンナの猛々しい獣のような動きで彼らをぺほっとやっつけました。
そして彼らと共に。
「赤錆たバールが歴戦の勝利を語る。レッドバイオレンス!」
「トラウマを抉り砕く平和の使者。ブルーメンタル!」
「狙った血管は外さないマッドソルジャーな男。イェローカッター!」
「爆弾装飾ボンバーセンスの極み。ピンクアート!」
「どんな毒薬も勝利のトロフィー。ホワイトアウト!」
「溢れる夢と希望に応えて爆発する幸せ!僕シナボン!」
シナモンが名乗りを終えると、最後にみんなでバッチリポーズを決めて叫びます。
「必殺戦隊!チマミレンジャー!」
そのときに起こった連続的な爆発によって二十六体の敵は砕け散り、残る敵は機械聖母チチドリルマザーのみとなりました。
「全男性の抹殺を承認。これを実行します」
危ない、シナボンは男の子です。
しかしご安心を。
シナボンはチチドリルマザーから放たれたチチドリルを空中で体を翻してかわすと、着地すると同時に大地を蹴って加速して、チチドリルマザーの光線を素早く避けながら懐へと潜り込み、残像が見えるほど素早い動きでチチドリルマザーに怒濤の攻撃をぽふぱふと浴びせました。
「おのれシナボン……!」
「悪いことはもうしちゃ駄目だよ」
シナボンはすごく悲しい目を向けて言いました。
「悪いこと?悪は女性を傷つける男性だ!私は彼らを必ず抹殺」
「残念」
からのシナボン大爆発。
「ごめんね……」
なんということでしょう。
シナボンが心をひどく痛めて涙を流しているじゃないですか。
先述したように、シナボンは繊細な心を持った優しいマスコットキャラクターなのです。
「ねえ」
シナボンが必殺戦隊に話しかけようと振り向きましたが、なんということでしょう。
彼らの姿はもうそこにはなく、いつの間にかシナボンはひとりぽっちじゃないですか。
「ほらね。戦いの後には涙の跡しか残らないんだよ」
シナボンは地面にある涙の跡を越えて、気を取り直して一歩未来に踏み出しました。
「やあ!僕シナボン!」
次にシナボンは、ポニーテールが似合うウサギみたいな可愛い顔をした女性と出会いました。
「シナボンだ!こんにちは!」
「こんにちは!」
シナボンの柔らかい体に顔を埋めて、彼女は至福の時を過ごしました。
いいなあ。
「ねえ。君は何を持っているの?」
シナボンは女性が持っていたポリエチレンの袋を気にして聞きました。
「これ?ポップコーンを食べようと思って」
彼女が取り出したのは、電子レンジで温めてパチポンするタイプのポップコーンでした。
それを見たシナボンは閃きました。
「ようし!僕に任せて!」
からの大爆発。
「シナボン。すっごく温かいよ……」
彼女も驚いて悲鳴を上げると思いきや、なんということでしょう。
彼女はシナボンの愛情に全てを委ね、ポップコーンの雨の中笑っているじゃないですか。
「どうぞ召し上がれ!」
シナボンはポップコーンを一つも落とすことなく袋で受け止めて、それを彼女に渡しました。
「シナボンありがとう!」
「どういたしまして!」
「あーんして。これは、おすそわけ」
そう言って彼女がくれたポップコーンをサクサクしながら、シナボンは彼女が見えなくなるまで手を振って見送りました。
「やあ!僕シナボン!」
次にシナボンは今にも死にそうなご老人と出会いました。
今死にました。
「たいへんだ!誰か救急車を呼んでください!」
通り掛かった男性が急いで電話を取り出しました。
シナボンはご老人の胸に手を当て、心臓の鼓動を確認しました。
「そんな……」
なんということでしょう。
老人はやっぱり死んでいるじゃないですか。
シナボンは頭に傷がないか確認した後、気道を確保して。
「ようし!僕に任せて!」
からの大爆発。
「るびぃちゃあああああん!!」
もう誰もが助からないと諦めたその瞬間、なんということでしょう。
ご老人が孫娘の名前を叫びながら元気よく体を起こして生き返ったじゃないですか。
「シナ……ボン……?」
「うん!僕シナボン!」
「君が助けてくれたのかね」
「おじいさんが元気になって僕嬉しい!」
拍手の嵐の中を走り抜けて救急隊員が駆けつけました。
「おじいさん。元気でね」
「ありがとうシナボン。この恩は死んでも忘れんよ」
シナボンは、救急車に運ばれるご老人を見えなくなるまで手を振って見送りました。
ずっと先、ご老人は元気に百二十一歳まで生きたそうです。
「やあ!僕シナボン!」
いつか、シナボンがあなたのところへもやって来るかも知れません。
その時、あなたはどんな幸せを願いますか。
「ようし!僕に任せて!」
からの大爆発で、きっと何でも叶えてくれるはずです。
お楽しみに。