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【無料】注文の少ない料理店  作者: くらむぽん
17/18

ふしぎのくにのありす

オッソ・オルミゲーロという女子高校生がアリました。

彼女はホワイトベージュの髪にスカイブルーの瞳をした、かなりの美人さんでアリました。

なので、小中学生の頃に同級生達から妬まれゲロというアダ名でからかわれました。


以来、ゲロはグレにグレてしまいました。

高校生になると立派なギャルになってしまいました。


そんなゲロはかなりのサボリ虫です。

平日にも関わらず、今日も図書館に来ていました。

ゲロはグレにグレてはいますが、昔から絵本だけは大好きでした。

物売りと森の動物たちや目白押しといった数冊の絵本を返却して、ゲロは新しい絵本を探し始めました。


「前向き後向き。絵本にしちゃゲロみたいなタイトルだな」


絵本は大好きと言いましたが、内容はとことん馬鹿にします。

そうして自分の人生の方が楽しいぞ、と自分を誤魔化すのでアリます。


「後向きとか陰キャかよ。ウジウジ野郎の脳にはウジ虫とクソ虫がシェアハウスしてんだろうな。ちょーうける」


ゲロは幾つかの絵本を馬鹿にすると、今日はロクな物がないと愚痴りながら図書館を出ました。


「あっついんだよ。マジ死ね太陽」


ゲロは外に出て、夏が訪れたことを改めて思い出しました。

図書館に戻ろうかとも思いましたが、またアイツ来たよ、等と思われたくないので公園に移動しました。


ゲロは木陰のベンチでお昼頃まで携帯をイジり、ネットの一次創作作品群にゲロカス罵詈雑言を書き終えると、お母さんの手作り弁当をカバンから取り出しました。

それには一枚の手紙が付いてアリました。


「今日も一日学校生活を頑張ってね!」


ゲロは母親の真似を大袈裟に終えると、手紙を全力で握り潰してゴミ箱に叩きつけてやりました。


「マジで食欲失せたんだけど。あのババア弁当になんちゅー罠仕込んでくれんだよ」


ゲロは心を鬼にして弁当をそっと地面に置きました。

そして、コンビニに行ってパンを買って戻っていざ食べようと思いましたら、放置した弁当にいつの間にかアリがたかっていることに気付きました。


「人の飯にたかるザコが」


ゲロはアリの巣にイチゴ牛乳を注いでやろうと思い、米粒を一生懸命に運ぶアリを追いかけました。

そしていざアリの巣にイチゴ牛乳を注ごうとしました時、ふいに意識が朦朧として、彼女はそのままアリの巣へと落ちてしまいました。


ゲロは狭い穴の中を全身ぶつけながら転がって、やがてどこかに落ち着きました。


「いってえなクソ!」


ゲロが叫ぶと、まあなんとも可愛い幼女が心配して声をかけてきました。


「おねえさん。大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけないじゃん。見てわかんないの?そっか馬鹿なんだね」


ゲロは小さい子相手にも容赦なく暴言の角で殴りました。

すると幼女はクスンクスンと泣いて、走って行ってしまいました。


「しょんべんもらすなよー!」


と追い撃ちを背中にぶん投げたところで、ゲロは自分の置かれた状況に気付きました。

急いで幼女を追いかけます。


「うわっと!」


ゲロは部屋を出たところで危うく落ちそうになりました。

目の前に伸びる穴は上下に続いていて、四方の壁には様々に工夫が凝らされた扉がアリました。

ゲロはそれを見て、ここはアリの巣だと女の勘で気付きました。

それから慌てて幼女を探すと、幼女が壁を走って下に降り、桃色のプリチーな扉の中へと入るのを見つけました。


ゲロも恐る恐る一歩踏み出しました。

奇妙な感覚ですが、ゲロも壁を歩くことが出来ました。

そこからは走って追いかけます。

そして桃色のプリチーな扉を開くと、ゲロは中を見て驚きに驚きを重ねました。


「いらっしゃいませえ!」


なんと新たな幼女がファーストフード店を開いていたのです。


「マジどうなってんだよ。アリえねえだろ」


「ご注文はお決まりですか?」


レジ幼女は言いました。

ゲロは少し考えて、お昼まだだし何か食べようと決めました。


「えーと、じゃあね」


メニューには米としかアリませんでした。


「米しかねえじゃん!馬鹿にしてんのか!」


「ふぇ……」


ゲロは奥からこちらを覗いて震えるさっきの幼女を見つけると、思いっきりメンチビームを放って叫びました。


「おい他にねえのかよ!」


さっきの幼女はバリアを張って、ただシクシクと泣くばかりです。

レジ幼女はよしよしと彼女をなだめてやりました。


「もういい。とりあえず米ちょうだい」


ゲロがそう言うと、二人は笑顔になって同時にかしこまりました。


「はあ!?携帯どっか落としてんじゃん、マジゲロムカつくんですけど!」


えびふぃれおのようにプリプリ怒るゲロのもとへ、さっきの幼女がよたよたしながら、大きな米を乗せたトレーを運んできました。


「お待たせしました」


「ありがと。怒鳴って悪かったね」


ゲロに謝られると、さっきの幼女は一段と笑顔になって、無料でスマイルをオマケしてくれました。


「てか何だよこのでかい米粒。あ、もしかして私が小っさくなってんのか」


とは言っても、しかしゲロは気にしません。

さっそく米に食らいつきました。

冷めてはいましたが、もちっとした食感とふわっとした甘味が改めて米の美味しさを教えてくれました。


「うまくねこれ?」


止められない止まらない。

米をガツガツ食べ終えて、すっかりお腹いっぱいになったゲロは何か違和感を感じました。

そっと頭に手をやると、触覚が生えておりました。


「何これマジキモい!ジブリーの蝉の恩返し的なやつじゃん!」


ゲロはここで初めて危機感を覚えました。

そこで幼女二人に質問をしようとしましたが、幼女達の姿はもうアリませんでした。


「私よく似てるのに、なんで思い出のマロニーみたいに幸せになれないんだろう」


一人になると、途端に寂しさが込み上げてきました。

しかしゲロは泣きません。


「そうだ。上に上がればいいだけじゃん!」


ゲロが希望を取り戻して扉を開けると、なんということでしょう、穴は横に伸びていました。


「は?ちょまてよ」


左右を交互に見て、ゲロはどちらに行けば良いか迷いました。

ここで、にわかに右の方から物音が聞こえたのでゲロがそちらの方を見ますと、さっきの幼女が上に付いている星形の扉から落ちてきてお尻をひどくぶつけました。

さっきの幼女はお尻をさすって立ち上がり、辛そうにフラフラしながら奥へ向かいました。


ゲロは必死に追いかけます。

さっきの幼女は下に付いていたビックリマークの下部分の丸い扉に入りました。

ゲロも続けて飛び込みます。

扉の中は青空の壁紙が貼られた病室になっていました。


「あ、来てくれたんだ」


さっきの幼女は少し成長して女の子になっていました。

アリ柄のパジャマを着てベッドに横たわっていたその女の子は、顔を上げて嬉しそうにそう言いました。


「君はアリスっていうの」


ベッドに付いていたネームプレートに名前が書かれてアリました。


「うん。アリスだよ」


「アリスは怪我でもしたの?」


「お尻をぶつけたの」


ゲロは堪えきれず大声で笑いました。

ベッドを壁をバンバン叩いてのけ反ってさらに笑います。


「ひどいよ……」


アリスは悲しい顔をしました。

ゲロは少しからかってやろうと思って、怪我の具合を見せてと言いました。

アリスは素直にズボンとパンツを下げました。

そこには綺麗なおしりがアリました。


「怪我してねえじゃん!」


「よく見て」


よく見ると、小さなトゲが刺さっていました。

ゲロがそれを取ってやると、いきなり扉が凄い音を立てて、誰かが部屋に落ちてきました。


「びっくりしたじゃねえか!病院では静かにしやがれ!」


医者幼女と看護師幼女の二人は困った顔をしてゲロを見たあと、アリスのおしりの診察を始めました。


「健康的なおしりです。もう大丈夫でしょう」


医者幼女はアリスのおしりをペチンと叩いて言いました。


「良かった」


「ええ。あのトゲがまさか取れるなんて、アリスさん良かったですね」


「あの人が取ってくれたの」


医者幼女はゲロの手を取って一礼しました。


「アリが九匹でありがきゅー」


「は?」


「いやあ、落ちた衝撃でトゲが食い込んでしまったらしく、我々としては絶望的だと半ば諦めていたんですがね」


「本当に良かったわ」


看護師幼女は泣いて喜びました。

ゲロがそれを見て呆れている横で、アリスがいつの間にか梯子を登って上に戻ろうとしているのに気付きました。


「あ、待て!」


焦ってゲロも追いかけて登ります。

上に戻ると穴は斜めになっていました。

アリスはこれまたいつの間にか可愛いお洋服を着て、下へと駆けていました。

ゲロは走って、アリスについて木の形をした穴によじ登って入りました。


「次は学校かよ……」


中はドキッ幼女だらけの教室となってアリました。

ゲロは教室の雰囲気にゾッとしてなお気分が悪くなり、今にもゲロを吐きそうでした。

そういえばゲロをよく吐くから、ゲロって呼ばれるようになったんだよな。

それを思い出して何とか我慢できました。


「先生来るよ」


また一段と成長して少女になったアリスがすでに着席していました。

ゲロに向かっておいでおいでしています。

たくさんの幼女に囲まれて嫌でしたが、ゲロはこれも我慢してアリスの隣に着席しました。


「がおー」


とてとて、幼女先生です。


「さっそく授業を始めます。教科書の三ページを開いて下さい」


「ねえよ」


ゲロが一応聞こえないように言うと、アリスがおいでおいでするので、アリスの側に席を移動しました。


「今日はポエムを勉強します」


ゲロが教科書に目を落とすと、そこには可愛い文字で『さっきはアリガト』と書かれていました。

ゲロはちょっぴり嬉しくて顔を逸らしました。


「アリスちゃん。お読みなさい」


「はい先生!」


アリスは席に座ったまま、大きな声で元気よくポエムを朗読します。


「今日もみんなに大きな声でおはよう。元気に挨拶したら心はごきげんよう。勉強を誰より頑張るぞ、負けない自分を作るためにかきかきとん。運動を誰より頑張るぞ、強い自分を作るためにたっとてたん。芸術を誰より頑張るぞ、諦めない自分を作るためにぬりぬりるん。掃除を誰より頑張るぞ、挫けない自分を作るためにきゅきゅきゅんきゅん」


「よろしい。みなさん拍手」


アリスはみんなに拍手されて、てれてれぺろ。


「ふあ……」


ゲロは可愛い拍手を聞いていると何だか心地よくなってきました。

それからついに眠くなったゲロは、すやすやと眠り始めました。

サボり虫の悪いところです。


「オルミゲーロ!」


ハッとなって目を覚ますと、ゲロは病室にいました。

外はすっかり夕方で、病室には母親と担任の先生がいました。

母親はゲロを見ると、ほっとして、安堵の表情を浮かべました。


「オルミゲーロ。目を覚ましてくれて良かった」


母親は優しくオルミゲーロを抱きました。


「お前が熱射病で倒れているのを通り掛かった人が見つけて、救急車を呼んでくれた」


この先生はゲロの敵の一人でありました。

すぐに(頸動脈にでも)噛みついてやろうとしましたが、母親が側にいるので諦めました。


「あなた、また学校に行かなかったのね」


「うるせえな。それはこいつら……あー……学校は退屈なんだよ」


「そうか。しかし良くなったら学校に来るんだ」


先生は冷たくそう残して帰って行きました。

瞬間、ゲロはこの世に生きる人間が皆敵に思えて胸が怒りでいっぱいになりそうでしたが、心がズキッとして怒りだけは収まりました。


と、ゲロの視線の先に汚れた弁当がアリました。

母親はそれに気付いて残念そうに言いました。


「転んだ時にダメになったのね。また作るからいいよ」


ゲロはうつ向いたまま言いました。


「うん。良くなったら学校に行くからお願いね」


「本当!お母さん頑張るわ!」


喜ぶ母に抱かれて、ゲロは心の中で感情なく呟きました。


「死にたかった」


その時です。

可愛いらしい声が一つ微かに聞こえました。


「がんばれ!」


滲む世界の向こうできっと。

ゲロによく似た美しい少女が弁当の上で手を振っていました。

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