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【無料】注文の少ない料理店  作者: くらむぽん
16/18

かえる

山が一つすっぽり入るような敷地に学校よりも大きな建物を幾つも建てて、庭には油の川や池を持ち、ロボットを使って町を支配する。

そんな金持ちのガマガエルが一匹おりました。


今にも雨が降りそうな、どんよりとした雲が重く空に留まる今日。

そのガマガエルのところへ、他所から上等のお客がやって来ました。

そのお客はヒキガエルと呼ばれるカエルで、損得で贔屓することが大好きなカエルでした。

彼は主に、ロボットを作って金持ち達に売る仕事をしています。


「ガマ様。お久しゅうございます」


「うむ。で、今回のロボットはどんな手段でアマガエル達を殺せる」


ガマガエルはベッドのように大きなソファーに寝転んだまま言いました。


「今回は町の調査用ロボットにございます」


「町の調査用ロボット?」


「さよう。監視ロボットとは違い、彼らの私生活により迫ります」


「そんなのどうでもよい」


言って、ガマガエルは大きな口にバケツいっぱいのクッキーを全て放り込みました。


「いや大事。見えぬ所で何やら隠し事や贅沢をしている輩がいるやも知れませんぞ」


「げこげこ。それは気になる」


「では、さっそく町に送らせて頂いてもよろしゅうございますか」


「許可する」


こうして、一体のロボットが町に送られました。

ロボットはアマガエルによく似た見た目をしております。


「おい、そこの君」


ロボットは初めに、今にも干からびそうなオタマジャクシに声を掛けました。


「何ですか?」


「君は何を食べて暮らしているんだい」


「あなたもアマガエルなら知っているでしょう。仲間の死骸に集まるハエです」


「なるほど。それは旨いかい」


「ううん」


ロボットはオタマジャクシの側にある死骸に気付いて言いました。


「ハエがいるぞ。食べないのかい」


「お母さんが肉を食べてからだよ」


「そうかい。大人は死骸を食べるのかい」


「そうだよ」


ロボットは辺りを見渡して、次に見つけた適当なお店に入りました。


「おい、そこの君」


ロボットが声をかけると、ずいぶん痩せ細ったアマガエルは小さく返事を返しました。


「ここは何の店だい」


「見ての通り、農具を売っているんだ」


ロボットが店内をよく見ると、ところどころ錆び付いたり埃の積もった農具が少しばかり売られていました。


「売れるのかい」


「売れるもんか。だから今日で店終いにするつもりだ」


痩せたアマガエルは鎌を持って震えて答えました。


「ガマガエル様に税金を払えなくなるぞ」


「あのガマ財布にくれてやる金なんてない」


「その言葉、今に酷い仕打ちを受けるぞ」


とロボットが言ったところで、痩せたアマガエルはもう返事を返せませんでした。

ロボットは次に畑の方へ向かうことにしました。


「町には干からびそうなオタマジャクシと痩せたアマガエル、それに彼らの死骸ばかりだ」


さらに建物は全て廃墟のように寂れていました。

ロボットは町の様子をしっかりと記録して畑へとやって来ました。


「おい、そこの君」


ロボットは膝をついて動かない、これまた痩せ細ったアマガエルに話しかけました。


「何をしているんだい」


「これから肥料を撒くところさ」


言って、アマガエルは隣に置いた袋から、緑や赤が綺麗な肥料をヘドロのような畑にばら蒔き始めました。


「それはどんな肥料だい」


「栄養はないけど、愛のある可愛い肥料だよ」


「愛で何が育つんだい」


「育てるものはもうないね」


「じゃあなぜ肥料を撒くんだい」


「仕事をしないと殺されるからさ。自分が生きるためなら何だってするよ」


「そうかい」


ロボットは最後に工場へ向かうことに決めました。

ヘドロのような田園地帯を長いこと歩いて、折れた煙突から紫色の煙が立つヒビだらけの工場へとやって来ました。


「おい、そこの君」


ロボットは赤錆びた大きな鉄鍋を混ぜる、もう見慣れた痩せ細ったアマガエルに声をかけました。


「はい」


「ここは何を作る工場だい」


「加工肉を作るところです」


「それはどんな肉だい」


「未熟な肉に薬品を混ぜて美味しくこしらえるのです」


「それをガマガエル様に納めるのかい」


「そんなことしたら殺されるよ。僕らが納めるのは税金だけです」


「ガマガエル様をガマ財布と侮辱するカエルがいた。ガマガエル様は金を食べるとでも言うのかい」


「ガマガエル様は他所から必要なものを運んでいるから。まったくワガママで勝手で血も涙もない」


アマガエルがそこまで言ったところで、いきなり空から落ちてきた針に体を貫かれて彼は死にました。

長い舌が鍋に垂れてゆらゆらと揺れました。


「なるほど」


そうしたこれまでの出来事を、この国の遠く離れたどこかで、お偉いトノサマガエルが見ておりました。


「ガマガエルを即刻排除しろ。ロボットは全て廃棄だ」


トノサマガエルは部下のウシガエル達に命令して、続けて電話を掛けました。


「げろげろ」


「ご苦労、ヒキガエル君」


「トノ様。お役に立ちましたでしょうか」


「ああ。全国に流したこの映像のおかげで、今や私を支持する歌はうんと高くなって空まで届きそうだ」


「それはよろしゅうことで。おや、お金がもう振り込まれている」


「げっここげっここ。そんな子供の小遣いぐらいさっさとくれてやるよ」


「子供の小遣いですか」


「ガマガエルの財産は間もなく全て私の物となる。それにやがて、全国の勝手な金持ち共の財産も全て私の物になるからな」


「そういうことですか」


「私は馬鹿な金持ち共とは違う。お前のように損得に厳しいのだ」


「ごもっとも。私は損得に厳しい男であります」


その時、ドタバタという騒がしい音が聞こえたと思ったら、慌ててウシガエル達が駆け込んで来ました。


「何事だ。無礼じゃないか」


「ご無礼をどうかお許しください。しかし、緊急を要しまして」


「緊急?」


「トノ様のお話が全国に筒抜けにございます」


「何だと!まさかヒキガエル貴様!」


「げろげろははは!愉快ですな!」


「貴様これはどういうことだ!」


「私は損得に厳しい男。あなたに勝手ばかりされては私の将来が損しますので」


ウシガエル達は情けなくゲーコゲーコと泣き出しました。

トノサマガエルは顔を真っ赤にして、頬も腹も大きく膨らませて電話を叩き壊しました。


それから後に、この国は大きく変わることになりました。

損得に厳しいヒキガエルが国を治めたからです。


「げこげこあーあー」


ヒキガエルは喉の機械を新しい物に取り替えると公の前に出て言いました。


「皆さん。これからもより良い社会を目指して共に頑張りましょう」


アマガエルによく似た見た目の国民達は、大きく歌ってそれに賛同しました。

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