まほうしょうじょ
私は歌宝菫!
菫は小学五年生の女の子。
私はなんと魔法少女なんです。
クラスのみんなには内緒だよ!
ある日のことです。
私は可愛い赤ちゃんを橋の下で拾いました。
そしたら家に王様とたくさんの兵隊さんがやって来てびっくり。
王様は、いきなり赤ちゃんを私に預かってほしいと言いました。
王様にお願いされたら断れないよね。
私がオッケーしたら、王様は私を魔法少女にしてくれました。
ということで。
私は魔法少女になって、町のみんなを助けたり、妖精さんと友達になったり、楽しい毎日を送っているのです。
そして今、突然ですが私は隣国の魔王のところに来ています。
魔王は悪い人で、人の願いを悪い形で叶えたり、妖精さんに意地悪したりします。
だから今日、私は魔王をやっつけにきたのです。
負けないぞ!頑張るぞ!
「魔王様!覚悟して下さいね!私は怒っているんですからね!」
「気付け。そなたは利用されているだけだ」
「え?」
「そなたはなぜ魔法少女になって、辛い目に合いながらも戦い続ける」
「それは私が決めたことで、繋がる笑顔と命の物語を描くためです!」
「綺麗な夢だ。しかし、その純粋な想いを王に利用されていることに気付け」
「王様はいい人です!」
「ひとつ。余は王の息子だ」
「えーーー!!」
びっくり!
魔王が王様の子供だなんて絶対に信じられない!
「ふたつ。その赤子は元勇者だ」
「え!世界を悪夢から救ったあの勇者さん!?」
「みっつ。勇者は余と戦い、この手によって赤子となった」
「うそうそ!そんなの絶対信じられないよ!」
「全て、紛れもない事実だ」
「どうして勇者さんと戦って、赤ちゃんにしてしまったんですか?」
「そやつは父に言われて、早計にも余の命を奪いにきた。余がこの身で悪夢を抑えようとしていたところへな」
「それはつまりどういうことですか?」
「父は悪夢を恐れた。それで余を犠牲にしてまで悪夢を完全に滅ぼそうとした。一生叶わぬ間の抜けた理想と知らずにな」
「そんな……」
「それから余は、父に思い知らせるために悪夢を利用することを決めた」
「駄目だよ!それは間違ってます!」
「本当の間違いとは何だ」
「え?」
「夢も悪夢も同じく、人の想いから生まれる願望だ」
「そうだけど……うん。何があっても誰かを傷つけたり悲しませることは間違いです!」
「ほう」
「魔王様、王様ときちんとお話をしましょう!」
「断る」
「どうして?」
「あなたは、たくさんの人の想いと戦ってきたはずよ」
「留衣ちゃん!」
逢花留衣ちゃん。
彼女は私の学校に転校してきたクラスメイト。
私と同じ魔法少女で、友達で、ライバルです。
「留衣ちゃん、どうしてここに?」
「留衣は余の娘だ」
「えーーー!!」
もう何が何だか私さっぱりだよ!
「菫。戦いましょう」
「やだ!せっかく仲良くなれたのに!」
「…………」
「それに約束したじゃない!一緒に繋がる笑顔と命の物語を描こうって!」
「ええ。だから戦うのよ」
やだよ!
絶対にやだ!
「ばぶぅ」
「ユウくん?」
「ばぶあ!」
「ユウ。余の弟よ」
「えーーー!!」
弟!?
ユウくんは勇者さんで魔王の弟で王様の子供で、もうめちゃくちゃ!
「余と再び戦おうというのか」
「ばぶりっしゅ!」
「望むところだ」
「だめだめー!」
ユウくんは魔王に向かってワープハイハイをしました。
戦いは始まってしまったのです。
「留衣ちゃん……」
「ちじんぶゆうのおんたから」
留衣ちゃんは呪文を唱えて、大きな星の形をした魔法を私にたくさん投げつけました。
「きゃん!やめて!」
「戦いなさい」
「やだ!」
「今までそうしてきたでしょう」
「今までとは違う!」
「違わない。さあ、あたしのために戦って」
「留衣ちゃんのために?」
いつも素直じゃない留衣ちゃんが私にお願いなんて。
きっと何か考えがあるんだ。
私は……私は留衣ちゃんを信じる!
「ちじんぶゆうのおんたから!」
私は大きな花の形をした魔法をたくさん留衣ちゃんに投げました。
「それでいい」
留衣ちゃんはそれを受け入れて爆発しました。
どうしてなの。
「留衣ちゃーーーん!!」
私が駆けつけると、留衣ちゃんはケガもなく無事でした。
「留衣ちゃん大丈夫!」
「大丈夫」
「何もなかったから良かったけど」
「あたし達の魔法が誰かを傷つけることはない。忘れたの?」
そうだ。
私達の魔法は誰かを笑顔にするためのもの。
留衣ちゃんの笑顔を見て、私はそれを思い出しました。
「あたしは、菫の覚悟がみたくてわざと挑発したのよ」
「私の覚悟?」
「ええ。たとえ相手が誰でも、笑顔にするためなら真っ直ぐに向き合って立ち向かう。その覚悟を、勇気をみたかった」
「留衣ちゃん……」
「あたし達は人の想いと戦う魔法少女だから」
「うん。そうだね」
「……お父さんは」
留衣ちゃんについて向こうを見ると、ワープハイハイをしながらおしゃぶりを操って戦うユウくんと、地と水と火と風を利用して戦う魔王がいました。
二人はとても悲しい顔をして戦っています。
「お父さんはね。人の想いをよく知るために悪夢を利用したの」
「妖精さんへの悪戯は?」
「夢を強くして悪夢に負けない力を育てるため。私達は妖精の力を借りて、想いを夢に変えて戦うでしょう」
「じゃからと言って迷惑な話じゃ」
「ほっけさん!」
ほっけさんはホッケの妖精さん。
ふわふわの白い髪が綺麗な、まるでおばあちゃんみたいな妖精さんです。
私の大切なパートナーだよ。
あ、妖精さんは手のひらに乗るくらい小さくて、可愛い女の子の姿をしています。
「ほっけさん。私は良かったと今は思いますよ」
「姫ちゃん!」
姫ちゃんは留衣ちゃんのパートナー。
くるんとした桃色の髪が素敵な妖精のお姫様だよ。
「実を言いますと、私が留衣ちゃんのパートナーになったのも、人の想いをより近くで感じるためなのです」
「姫様。しかし、あれをご覧下さい」
「二人は儚い想いをぶつけて戦っています。誰よりも自分と。そして、相手に理解してほしいから、あんなにも悲しい顔をしているのです」
「姫ちゃん。力を貸してくれる?」
「はい、もちろんです。最後の仕上げといきましょう」
「最後の仕上げ?」
「そう。あたし達は強くなった。今なら二人を、世界だって救える」
「二人を、世界を」
「一緒に頑張ろう。菫ちゃん」
「うん!留衣ちゃん!」
「仕方ない。菫、わしも力を貸す。小娘と共に想いを込めて呪文を唱えるのじゃ」
「わかった!」
ほっけさんと姫ちゃんは私達に温かいものを与えてくれました。
私達はそれを希望にしました。
「笑顔と!」
「命の!」
二人で一緒に強く願います。
「繋がる世界になーれ!」
そして想いを込めて唱えました。
「ちじんぶゆうのおんたから!!」
すると、私達の想いは奇跡を輝かせて、ユウくんと魔王を優しく包み込みました。
「これは……!」
ユウくんが元の姿に!
「これが真なる誰かを想う願望か。留衣」
「はい。お父様」
「今まで、世話をかけてすまなかった」
「いいえ」
留衣ちゃんとても嬉しそう。
良かったね。
「菫」
「ユウく……あ!勇者様!」
「ユウくんでいいよ」
「じゃあユウくんで……えへへ」
やんやん!けっこーイケメン!
きゃーユウくん素敵!
「今まで面倒を見てくれて、そして助けてくれてありがとう」
「いーえ!」
「妖精さん達もありがとうございました」
「余からも謝罪と礼を言う」
「これからはしっかりの」
「仲良くお元気で、またお会いしましょう!」
このあと、ユウくんと魔王様は王様としっかり仲直りしました。
私達はというと、魔法少女としての活動を続けることにしました。
人には良い想いも悪い想いもあるからです。
夢と悪夢に終わりはないのです。
それでも、私達は諦めません。
私達はこれからも、繋がる笑顔と命の物語を描き続けます!
負けないぞ!頑張るぞ!