召喚の儀
「それでは、本日は使い魔の召喚を行います。」
色欲と虚無が影に住みだして数日が経ったある日、授業中にそんなことを言われた。
「は?」
その反応を見たレヴィはジト目で俺を見返してきた。
「貴方は、毎回寝てたから話を聞いてなかったからねぇ。知らなくて当然よね。」
うっ、それを言われると何も言えないな。
「はぁ、説明するわよ。」
「頼む。」
「今日は私達の学年の全員が使い魔の召喚を行うのよ。だから、朝からみんな少しピリピリしてるのよ。」
何でその程度でピリピリしなくちゃいけないんだよ。
「貴方、何でその程度でって思ってるわね。」
何故バレてるし⁉︎
「………本当に常識に疎いわね。いい? 召喚によって召喚される使い魔によっては、将来が物凄く左右されるのよ。」
「へぇ〜。で?」
「………本当にぶん殴るわよ?」
その瞬間に右から拳が飛んできた。
「物騒だな。」
「貴方が、常識に疎すぎるのよ!!」
おお、こわいこわい。
「全く、話を戻すけど、この召喚される使い魔によって、所属できるギルドが大きく変動されるのよ。」
「そういうことか。」
「そうよ。だからみんな躍起になってるのよ。」
「俺みたいにアヴァロンに所属していても焦ることか?」
その瞬間にクラス全体が凍った。
「はぁい、アトスちゃん。」
その凍ったクラスに場違いな声が響いた。
「みんなどうしたのかしらぁ?」
「アリス様、アトスがあの『アヴァロン』に所属してるのは本当なのですか?」
一人の勇気ある男子生徒が尋ねた。
「ん〜、アトスちゃんバラしちゃったの?」
「いや、口が滑った。」
「大して変わらないじゃないのぉ。」
アリスは苦笑した。
「う〜ん、まぁ、いいわぁ。そうよ、アトスちゃんは確かにアヴァロンに所属しているわよぉ〜。」
「ほ、本当にあの『アヴァロン』に………。」
男子生徒が呆然としている。
「俺、何かしたか?」
ズパンッ!
「貴方、ぶん殴るわよ?」
「もう殴ってるよ。」
「貴方が所属するギルド『アヴァロン』は世界最高戦力が集まる所よ。また、別名を『化物の巣窟』って言われるくらいよ。」
(それに、貴方があの化物共を従えてるみたいなもんよ。あまり口に出すことは止めたほうがいいわ。」
(なるほどな。了解した。)
「皆さん、そろそろ移動しないと遅れるのじゃないかしらぁ?」
アリスの一言で全員はいそいそと準備をして出て行った。
教室にはアリスとアトス、レヴィだけが残された。
「アトス、さっきの失言はよくありませんよ。」
「それについては、申し訳ない。」
「まあ、広がってしまったものは仕方がありません。何とか最小限にとどめてみましょう。」
「すみません。」
「ま、アトスちゃんの凄さも少しは分かってもらえると思うわねぇ。次の授業は遅れないようにねぇ〜。」
そう言って、アリスは去って行った。
「行きましょう。遅れるわよ。」
「そうだな。」
俺たちも教室を出た。
「何だよ、この無駄にデカイ召喚紋は。」
見て思ったのがとにかくデカイ。
「つーか、今思ったけど、俺は既に召喚獣いるんだった。」
「私もよ。ちょっと人前には出せないけど。」
レヴィのは結構前に見せてもらったが、確かに人前には出せるものではなかったな。
「あぁ、あれは確かにな。」
「そういう貴方もよ。」
俺は実際には見せてないが、鱗片を少し見せたらレヴィは顔を蒼白にして腰を抜かしていた。
「あんなのに敵うわけないじゃない。本当に鱗片だけで殺されるかと思ったわよ。」
そんなことを話しているとほとんどの生徒が召喚し終わっているみたいだった。
その中に10人ほど凄いと思ったのがいた。
「お、あいつはドラゴンだぜ。それにそっちは大精霊だぞ。」
「そうね。あっちを見て。」
レヴィに言われた方向を見ると暗い雰囲気を出した女子生徒がいた。
「あの子の使い魔を見て。」
ん?
それよりも、あいつはどっかで見たことあるぞ?
「レヴィ、ちょっと待て。」
間違いない。
忘れるはずもない。
唯一最後まで俺の味方だったんだから。
「あいつは俺の妹だ。」
「は? 妹?」
「そうだ。俺は捨てられたからな。ちなみに、あいつが契約したのはアイスフェニックスだな。ハーピーに化けてるが、俺たちは誤魔化せないな。」
「次のレヴィさん! 召喚を行いますので来てくださーい!」
「呼ばれたから行ってくるね!」
「ああ。」
俺はレヴィの方を見るが、妹の悲しそうな顔が頭から離れなかった。