プロローグ『解雇』
『SP-Security Princess-』
今までの人生でこんなにも手が震えたことは一度もない。
『辞令 長瀬真守は本日をもって解雇とする』
凜々しい雰囲気の女店長から渡された紙には、俺・長瀬真守の名前がはっきりと書いてあったのだ。
「どうして、突然クビにさせられなければならないのですか。初めてのことで戸惑ったことは多々ありましたが、俺は一生懸命やってきたつもりです」
解雇という突然の辞令に俺は納得できるはずがなかった。右手で紙を握り潰す。
「それに、解雇するなら、どうして俺にちゃんと給料をくれたのですか」
「君はその給料を貰うに相応しい仕事をしていたからだよ」
「なおさら納得できません!」
ひさしぶりに声を荒げた。女性に対してはこれが初めてかもしれない。
ただ、俺のそんな態度に呆れてしまったのか、女店長は露骨にため息をついた。
「……君は高校に通うべき。確かに最初の頃はミスもあった。ただ、新人なのだからミスもあって当然のことだ。君は飲み込みが早くて器用な人間だ。仕事へ真摯に取り組む姿勢は評価しているよ」
「何を言うかと思えば――」
「ただ、君は本当にお金に困っているわけじゃないでしょ。君が頼めば保護者になってくれる親戚がいるのは分かっている。ここで働かないと君は死ぬ運命しかないのか?」
「そういうわけではありませんが……」
そうは言ってみるものの、何も反論できない自分がいる。女店長の言ったことは正しいから。
「それなら、さっさとここから出て行ってくれない? 昨日渡した給料は君がちゃんと働いた分の貰うべき報酬。返せなんて言わないから。ほら、さっさと出なさい。さもなければ、客としても出禁にするよ」
早く追い出したいのか、女店長は鋭い目つきで俺を見ながらそう言った。
どんな理由であれ、突然解雇させられることは納得できないけれど、俺は女店長に対してぐうの音も出なかった。女店長の言うとおり、すぐに書店を後にした。
こうして、俺は中学校を卒業してから1ヶ月も経たずに、無職となってしまったのであった。