アズの村へ その3
「あの……。話が全然見えないので、何を俺に聞きたいのか教えてください」
晃一の言い方に、ここら辺を知っている人間ではないと分かったらしい。
老人が森の方を指さす。
「おぬし、あの森で水場を見はせんかったか?」
そこは先程まで彼が休憩していた森だった。
「小さな湖というか沼がありました。
ちょうど魚に水を与える必要があったので助かりました」
すると子供の表情が明るくなった。
「フォドさん。やっぱりあの森に"ニゲヌマ"はあったんだ」
「確かに、この兄さんの荷物がまだ濡れているということは、あの森に水場があるということになるのぉ」
老人は晃一の顔を見る。
「兄さんはこれから何処へ行くんじゃ?」
「一応、アズの村です」
「それなら道は間違っておらん。
もしかして知り合いが村におるのか?」
何処まで突っ込んだ質問をされるのか晃一には見当がつかない。
だが、子供の方が目を輝かせて自分を見ているので、あまり変な対応はしたくない。
自分に落ち着くよう念じながら、彼は会話を続けた。
「村に知り合いはいません。
ただ、アズの村に魚を持って行ってみようと思っただけです」
食えない魚を持って行って何になるのかは、晃一自身にも分からない。
しかし彼は、何も無くても良いように思えた。
「なるほど。それなら商売がやりやすいよう口添えをしてやるから一働きせんか」
そういう老人の表情は、既に晃一に協力をさせようとする気満々だった。
「まずはケイン。この兄さんの魚を村に持っていけ」
フォドに言われてケインは頬を膨らませた。
「僕も行く!」
しかし、老人は首を横に振った。
「駄目じゃ。このままでは兄さんの魚が弱ってしまう。
お前の足なら、すぐに村へたどり着けるだろう。
人に何か頼むときは、なるべく相手の負担にならないように行動しなくてはならん。
そうでないと、この兄さんが適当な案内をしてもワシらは文句は言えんぞ」
そう諭されて、ケインは渋々晃一の袋を持った。
「兄ちゃん。魚はちゃんと持っていくから、フォドさんを案内をしてよ」
彼は大きな袋を担いで村の方へと引き返す。
ただ、フォドが言うほどすぐではなさそうな足どりではあった。
「さて、ワシらも森へ行こう」
晃一を沼へ引き返させることになる為、フォドは自分たちの目的を説明し始めた。
「──兄さんの名はコーイチと言うんじゃな」
簡単な自己紹介だったが、晃一はドキドキしながら喋る。
生国などを聞かれたら、どう答えようかと悩んでしまったからだ。
しかし、フォドは名前を聞いただけで、他のことは尋ねたりはしなかった。
「コーイチに手間を取らせる以上、こっちの事情も話しておこう」
「……」
「問題の水場は、ここら辺では幻の沼として有名なんじゃよ」
フォドは苦笑いをする。
「そこに盗賊が宝を隠したとかで、実はアズの村は今、ちょっと緊迫しておるんじゃよ」
聞かない方が良さそうな話題に、晃一は自分の中で好奇心と警戒心が働いているのが分かった。