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失礼な殿方とその最愛

作者: 山吹弓美

ざっくりふんわり設定。

「はあ!?」


 婚約者と共に出席したパーティで、失礼な殿方に出会いました。

 それなりに整っていると思われる顔を酷く歪めながら、わたくしを睨みつける殿方の何と醜いことか。

 そしてお連れの方も、相応に品のないドレスをお召しなのは御本人の趣味でしょうからよろしいのですが、ねえ。


「何で、あいつがあんな……」


「ええ……殿下ぁ、あれおかしいですよねえ? 婚約者じゃない男連れって、駄目ですよね!」


 さて、この方……とそのお連れの方がどれほど失礼かと言いますと。

 わたくしの婚約者は、この国の公爵家嫡男。わたくしはこちらの国に嫁ぐことになっている、隣国の第二王女でございます。本日はわたくしがこちらで顔を広めるために、パーティに出席させていただきましたの。

 なお、わたくしも婚約者もそれぞれの国で王位継承権を持っております。こちらに嫁ぐことでわたくしの方は権利停止となるのですが、万が一を考えて破棄とはならないそうですわ。

 対して当の殿方は……臣籍降下が確定している、この国の第四王子殿下。要するに、わたくしの婚約者とは親戚関係になりますわね。もちろん王位継承権はわたくしの婚約者よりは高いのですが、側室様のお子ということで低く保たれております。そもそも第四、という時点で察せられますけれど。

 さらにあの方、その継承権を破棄の上でこちらの国の侯爵家に婿入りすると伺っているのですが、お連れになっているご令嬢は婚約者ではありませんわ。信頼できる筋から伺った話では、子爵家のご令嬢だとか。

 まあ、そういうことです。いずれ侯爵家に入るはずなのに婚約者以外のご令嬢を侍らせている愚かな第四王子が、いずれ公爵家に入る第二王女のわたくしをあいつ、などと呼んだのですから。

 そして、令嬢のほうが「婚約者じゃない男連れ」などとわたくしのことをおっしゃっているようですが、当然それは勘違いですしね。


「おかしい、というのはこちらの台詞だよな」


「ええ、まったくですわ」


 婚約者様と顔を見合わせて、くすくす笑ってしまいましたわ……はしたないですわね。ただ、彼が軽く手を振ると、従者の方が一礼をして下がっていかれました。さて、どのくらいお時間がかかりますやら。

 ちなみに、第四王子殿下が愚かな発言をされている理由も一応存じ上げております。ですので、一言申し上げに参りましょうか。




「……え……隣国の第二王女……」


「嘘でしょお……? おかしいじゃないのお……」


 婚約者からわたくしのことを紹介されて、第四王子殿下とご令嬢は信じられない、というお顔です。公爵家嫡男たるわたくしの婚約者から説明されて、なお。

 ……一応、王子殿下とは面識はあるはずなのですよ。幼い頃に、こちらに来たことがありますし。ま、覚えておられないようですね。


「ふふ。よしなに」


 とはいえ、きちりと説明されたのですから愛想よくご挨拶はしておきませんとね。


「ところで」


 わたくしの婚約者も笑顔で言葉を紡ぎます。もっとも、涼やかな瞳は笑っておられませんが。


「彼女から聞いたのだが。貴殿、侯爵家令嬢との婚約を貴殿の有責にて解消されたそうだな? そちらのご令嬢が貴殿にとっての『真実の愛』、などとのたもうているとか」


「は?」


 まあ、よく通る声でおっしゃること。いえ、王子殿下の真実をここで述べるだけですものね。それには周囲の皆様にもよく聞こえたほうが、話が早くてよろしいですわ。


「俺の、有責?」


 ただ、第四王子殿下がお顔を引きつらせておられるのはどうやらその一点についてのようで。

 ええ、殿下の有責ですわよ。それと、『解消された』ですわ。過去形です。

 さて。


「侯爵家の当主夫人は、わたくしの母の妹ですの。つまり、あなたの婚約者であった彼女はわたくしの従妹に当たりますわね」


 なぜ第四王子殿下の婚約周りを存じ上げているか、しっかりお教えしましょうね。

 ……と言いますか、この程度の家系図など王族であれば頭の中に叩き込んでおくべきかと存じますが。


 わたくしは隣国の王女で、母たる王妃は隣国の公爵家の出です。

 その母には姉妹、わたくしにとっての伯叔母が数名おりまして、その中のひとりがこちらの国の侯爵家に嫁いで参りましたの。そうして生まれた娘が、この王子殿下の婚約者とされたご令嬢です。わたくしの、従妹。


「顔もよく似ておりますし、歳も同じですから仲が良くて、昨日は侯爵家のタウンハウスにお邪魔させていただきましたのよ。お昼は一緒に取りましたの」


「え?」


 実はそうなのですよ。嫁ぐことになる公爵家とも親しい関係の家ですし、わたくしにとっては頼りになる親戚ですし。……隠しておりませんから、それなりに情報を持つ家ならばご存知のはずなのですがねえ。王家ならば、当然。

 そういうわけで、昨日は身内だけでゆるりと過ごすはずだったのです。夕方には、婚約者様がおいでになる予定でしたしね。ですが、その前に。


「その直後、先触れもなしにおいでになった客人がおられましてね。従妹が顔色を悪くしたので、事情を聞いたうえでわたくしがまず対応させていただきましたの」


「え、あっ」


「少しばかりお待たせしましたから、大変お怒りでしたわね。先触れをよこさないお客様がたが悪いというのにね、ふふ」


「じゃ、じゃああの時のは……あんただったの……?」


「ええ。王子殿下ともあろうお方がご自身の婚約者様とその従姉、しかも隣国の王女を見間違えるとは思いませんでした。違和感すらなかったようですしね……婚約者としての交流もほとんどしておられなかったとのことで、よほど興味がなかったのでしょうねえ」


 あらあら。昨日の従妹より、もっとお顔の色が悪くなりましたわねえ。『先触れをよこさないお客様がた』?

 よく似ていると言いましても、それは顔貌や髪の色。瞳の色などは違いますし、それぞれの家族は当然ですがわたくしの婚約者様などは、ふたりをきちんと見分けてくださいますよ。


「僕が侯爵家のタウンハウスに到着したのは、失礼な客人がどうにか帰ったその少し後だったそうだ。皆、疲れた顔をしていたよ」


 その婚約者様が、くくっと喉の奥で笑いながらわたくしの言葉を引き継いでくださいました。

 ええ、第四王子殿下とその真実の愛様、こちらの言うことをほとんど聞いてくださいませんでしたもの。ご自身の言いたい放題でしたから……従妹を奥に控えさせていてよかった、と思いましたわ。


 やれ、お前は俺を愛しているのだろうが俺はそうではない、とか。

 やれ、本来ならばこのような婚約など破棄してやるが、真実の愛を連れて婿入りしてやるから喜んで仕えろ、とか。


 王子殿下だけでしたらまあ、内心呆れ顔で聞き流すだけでしたんですがね。問題はその、真実の愛様の方でして。


 やれ、殿下の子は自分が産んであげるからお仕事頑張れ、とか。

 やれ、表向きの妻なんてかわいそうねえ、とか。


 要するに、王子殿下と子爵家の娘でもって侯爵家を乗っ取る、とおっしゃっていましたの。


「我が婚約者とその従妹令嬢、その場に控えていた侯爵家家令や侍従、侍女たちからきっちり話は聞いたよ。その上で侯爵家当主夫妻からそちらの有責による婚約解消、及び慰謝料の支払いについて僕が仲介してこちらの王家と話をつけたんだ」


 まあまあわたくしの婚約者様、満面の笑みですのにお怒りであることが皆様によくよく御理解いただけるなんて。ふふ、王子殿下もご令嬢も数歩足を引かれましたわ。


「だから君の婚約者は、昨晩の時点でそちらのご令嬢になっているはずなんだけどな。何だい、誰からも話を聞いていないのかな?」


 以前から第四王子殿下の振る舞いは王家でも問題視されていたようなのですが、あちらとしては王子を婿入りさせてやるのだから問題ないだろう、と特に王子殿下の母君たる側室様が主張されていたようで。

 ただ、国王陛下といたしましては高位貴族の家を乗っ取る、ということを問題視しておられました。隣国の公爵家の娘が嫁入りした家なのですから、一つ間違えば国際問題になりかねませんしね。

 というわけで、王子殿下のお家乗っ取り疑惑が確定した時点でそういうこととなりました。殿下ご自身に自覚がなかったとしても……いえ、それならば余計に悪いですわね。ご自身の婿入り先について、何もご存じないってことなのですし。


「お家にお戻りになっていれば、少なくともご両親からお話は聞けていたはずですわね? 今日はどちらからいらっしゃったのやら、ねえ」


 外見上は穏やかに笑いつつそう伺ってみましたところ、お二方揃ってお顔を赤くされました。あらまあ、外泊だったりしますの? 婚約者のいる王子殿下が、婚約者でない貴族の娘と。

 ああいえ、昨晩にはもう婚約者同士だったのですわよね。ならば、問題はありませんわ。失礼致しました。

 それと、もう時間稼ぎは済みましたし、お話はここまでということで。


「義叔父様、そろそろよろしいですわよ」


「そうだな。手間を掛けさせてしまって済まなかったね、ふたりとも」


「いえいえ。侯爵閣下、さすがの手際ですな」


『っ!?』


 わたくしの義理の叔父様。つまり、本来なら第四王子殿下が婿入りするはずだった侯爵家ご当主様がお迎えに来てくださったんですよ。ご自身の娘を傷つけた愚か者どもを連行し、それに対する罰を与えるために。

 さきほど婚約者様が従者を向かわせたのは、つまりこのためですわ。わりとお早うございましたわね、別室で待機しておられたからでしょうか。


「国王陛下より、速やかに出頭せよとの命が双方に出ている。抵抗すれば叛意あるものとみなされます故、どうぞ穏やかに」


「……! わ、わかった……っ」


「ひっ」


 そうして、国王陛下の命令と言われてはさすがの王子殿下でも歯向かうことはできませんわね。露骨に顔を引きつらせたまま、真実の愛様とともに退出されました。

 これからお叱りを受けて、そうして何らかの処分をくだされるものでしょうねえ。おとなしく昨晩にお話を聞いていればともかく、外泊されてのことですから……殿下、と呼ばれるご身分のままでいられるかどうかは、さて。


「わたくしの従妹ですが、そういうことですので今日はタウンハウスでゆっくりしておりますわ。余計な噂はわたくしも彼も好みませんので、よろしくお願いいたしますわね。皆様」


「しょうもない噂を流す口は、嫌われますよ」


 周囲の皆様には、そうやってふたりで笑いかけておきました。これで後日何かございましたら、そのときは遠慮なくその口を捻り上げますわね。

 さあ、ひとまずお話は落ち着きましたし、踊りましょうか婚約者様。彼らについてはもう、わたくしどもの手から離れましたものね。

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― 新着の感想 ―
第四王子のぽんこつぶりよ。これ、母側妃も何らかの処罰がありそう。
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