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とある老人の過去話

作者: 帰上空路

 静かな病室、そしてたまに聞こえる老人の咳

 ベッドで横になり、虚空を眺めるしかないこの時間は見方によっては拷問になるかもしれない

 この老人の名は章介しょうすけと言い、この先がもう長くないことを知っていた、それは科学的な根拠に(もと)づくものではなく老人の直感である

 その時、ドアの向こう側からドタドタと足音が聞こえ、その音だけで何かを察した老人は微笑む

 そしてガラガラと大きな音を出しながら章介の孫である健一けんいちがひょこっと顔を出し、老人の様子を見るなり、笑顔で章介に近づく

 健一「じいちゃん、今日も来たよ」

 章介「はっはっは、よくもまあ毎日来られるもんだ」

 そう言いながら章介は机からきれいなコップを取り出し、キンキンに冷えた麦茶をそそぎ始めた

 健一「だってじいちゃんの話面白いんだもん!お菓子も美味しいしね」

 章介「そんなこと言ってお菓子が目的だろう?おじいちゃんはなんでもお見通しだぞ?」 

 健一「どーだろうね!今日も話聞かせてよ」

 章介「いいぞ?昨日はどこまで話したっけな」

 健一「未知の洞窟を探索してたら地面が崩れて落ちちゃったって所までだよ」

 章介「そうだったそうだった、じゃああらすじから行こうか」

 机の引き出しから貰い物のワッフルを取り出し、袋を開け、健一に渡しながら章介は語り始める

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 19歳というのはワシの中で一番好奇心が旺盛だった時期だった、あの頃は友達と一緒ならば自転車でどこまでもいけると感じさせた

 しかし『好奇心は猫をも殺す』という言葉の通り、全てが上手く行くことはなかったし、命に関わる危険なこともいっぱいあった、その最たる例があの洞窟だった

 ある夏の暑い日の事だった、ワシは友人の金光かねみつと一緒に駄菓子屋に向かってたが、あまりにも暑いんで涼みがてら近くの崖のくぼみで休憩をとっていたんだ

 充分に涼んでそろそろ行こうかとしたところワシは岩につまづいて転んでしまったんだ、すると倒れた顔を近くの穴から冷たい空気の流れを感じ取ったんだよ

 そして当時は不思議なものを見つけた興奮で何も考えずにその穴に手を入れて広げようとしたんだよ

 だが端を少し掘った瞬間にひびがあっという間に広がって私と金光は落っこちてしまったんだよ

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 気づけば健一は持っていたワッフルをベッドに落とし、章介の瘦せこけた腕を掴みながら、興味津々な表情で話を聞いていた、そして話に一段落ついたと思うと静かに口を開いた

 健一「なんで!?ちょっと掘っただけで落っこちちゃったの!?」

 章介「なんでだろうねぇ、あそこは戦争地帯だし地盤が弱ってたんかねぇ」

 健一「地盤って知ってるよ!地面のかっこいい言い方だよね!」

 この子供ながらの自由ながらも適格な表現に、章介は今日も平和だなとしみじみ感じる、そしてその表現に合わせて言葉を返すのが大人としての流儀だ

 章介「正解だ、8歳なのによく知っているね」

 健一「そうでしょそうでしょ!早く続き話してよ!」

 章介「はいはい、ワシの腰らへんにあるワッフルを拾ったらね」

 健一「はぁーい」

 渋々と健一がワッフルを手に取ったのを見てから章介は続きを語りだした

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 落下してからしばらく意識を失っていたのか目が覚めると辺りには何もない暗闇の空間が広がっていたんだよ 

 感じるのは肌寒い空気とごつごつした地面だけ、あとたまにポツンと水の落ちる音が聞こえるだけだった

 やってしまったという後悔と暗闇からなる無限の恐怖が一気に襲いかかってくるのでワシはしばらく体育座りのまま動けなかった

 しかし体感で十分ほどたつと目が暗闇に慣れて辺りが見え始めた、最初に見えたものは見事な鍾乳洞でその美しさからまたしばらく動けなかった 

 すると遠くから金光の声が聞こえてやっと自分が置かれている状況が理解できた

 金光「おーい!章介ー?どこだー?」

 章介「はっ!金光!?おーい!オレはここだーッ!」

 そうしてお互い声を掛け合ってやっと合流できた、金光の顔が岩の影から現れたときはそりゃあもう嬉しさで涙があふれてきたよ

 ワシと金光は何も持っていなかった、白のタンクトップと黒の短パンに小銭が140円、洞窟に落ちた人間にとってこれほど絶望を感じる瞬間はなかった

 まず最初に始めたのは辺りを散策して情報を集めることだった、しかし歩き始めて5分たった頃二人は洞窟に食べ物になりそうなものはないと悟った

 そこで散策はやめにして出口を探すことにした、だが視界がまともに見えない中で闇雲に探すのは危険だというのは火を見るより明らかだ、だから二人は安全に先へ進む方法を模索し始め、一つの解決策を思いついた

 それは靴紐をほどいて端と端を手首と靴紐の穴に結んだ状態で靴を投げ、何も見えない暗闇の安全を確保するという方法だった

 しかしそれはあまりにも非効率だとすぐに思い知った、紐が短すぎたんだ、そんな方法で進んでいては何年たとうが出口にはたどり着けない

 そして二人は新たな方法を考え始めた

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 健一「思いついた!」

 章介が言い終えると健一が急に口をはさんできた、よっぽどいい案が思いついたのか目をキラキラさせながら章介の返事を待つその姿は思わず抱きしめたくなるような可愛さがあった

 章介「ん?何を思いついたんだ?」

 そう優しく聞くと健一は体をぴょんぴょんさせながら勢いよく自分の案について力説し始めた

 健一「あのねあのね!前の人が四つん這いになって後ろの人がその後ろを持って動けばいいんだよ!そうすれば例えば前の人が穴に落ちそうになっても後ろの人が引き上げれば落ちずに済むじゃん!」

 子供ながらの純粋でまっすぐな考えは時に大人を困惑させる、ここでその人の人間性が垣間見えるといっても過言ではないのかもしれない

 章介「ほほう、確かにそれはいい考えだ、しかしそれはすぐに疲れちゃうんじゃあないかな?洞窟の中には食べられるものは無いといってもいい」

 健一「そっかぁ・・・あ!コウモリは!?洞窟といえばコウモリでしょ!」

 章介「コウモリを食べて体力を回復させて・・・って感じかな?」

 健一「そうそう、あっでも捕まえるのも体力使っちゃうか・・・」

 章介「まぁとにかくワシと金光は最終的に・・・」

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 さっき言った鍾乳石を加工して円柱状にし、転がすことで先の安全を確保するという方法を取った

 鍾乳石のモース硬度は3・・・まぁ分かりやすく言えば頑張ればなんとか人間の力で形を変えられるほどの硬さしかなかったから簡単ではないにしても出来ないことではなかったんだ

 しかも少しの力で何メートルも進むし、この案を実行して上手くいったときはそりゃあもう嬉しかったね、ゴロゴロと大きな音を出しながら進む鍾乳石の姿は、二人の脳内に『革命』という文字を彷彿とさせた、あの光景は今でも昨日の事のように思い出せる

 そしてどんどんと突き進む鍾乳石の後ろ姿を見ながらワシと金光はとある約束をした

 金光「なぁ章介、この極限状態は人の精神を崩壊させるってどこかの本に書いてあった、だから正気を保つ誓いをたてよう」

 急にそんなことを言い出されたワシは戸惑ったが金光のあのまっすぐな目を見て、覚悟を決めながら質問した

 章介「誓い?なんの誓いだ?」

 金光「誓う事は二つある、『ここに落ちてきた事に対してお互いのせい』にしないってのが一つ目、二つ目は『お腹減った』とか『帰ったらあれを食べたい』とか食べ物に関する事を言わないよにする、これをすることによって俺たちは仲間割れしない」

 章介「確かに・・・それに『何があっても協力する』も追加しよう!おまけに『嘘をつかない』とかも入れちゃったり?」

 金光「おお!それいいな!嘘つかないんだったら・・・『お互いを完全に信頼する』ってのもどうだ?」

 章介「いいねいいね!それなら『過去の事は全て水に流す』とか!『借りたものはちゃんと返す』とか!」

 正気を保つためにたてた誓いだったが次第に楽しくなって、洞窟に関係ない誓いまでたてるようになった、そして『俺たちは一生親友でいること』を最後に全27個の誓いは終わりを迎えた

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 健一「じゃあ今もその誓いを守っているの?27個もあって?よく全部覚えてるね」

 章介「大事な思い出はそう簡単には忘れないもんだよ」

 健一「いやいや、それはおかしいよ、だって簡単に忘れないんだったら僕は教科書をぜーんぶ覚えてテストは満点になってるはずだよ!」

 章介「はっはっは、確かにテストも大事な思い出だが・・・世の中にはテストなんかよりも大事なことが山ほどあるというのを、健一はこれからの長い人生で学んでいくんだぞ」

 健一「ふーん、じゃあじいちゃんは今も金光って人とは親友なの?」

 章介「そうだよ?今も親友だし完全に信頼してるよ」

 健一「いいなぁ、それに比べてケイちゃんの奴は酷いんだよ?借りたものは返さないし、すぐ先生にチクっちゃうし・・・」

 章介「友達はいいもんだぞ?なんだかんだ言って最終的にはいつも助けになる、健一もそういうこと言いながらいつも遊んでいるんだろ?」

 健一「そうだけどさ・・・でもやっぱり金光みたいな友達がいい!」

 章介「そうだな、ワシもいろんな人と出会ってその何人かと友達になったが・・・金光みたいに心の底から親友と呼べる存在はなかったよ、今あいつはどこで何をやっているんだろうねぇ」

 健一「分かんないの?親友なのに?」

 章介「最後に連絡をとったのは何年も前だからねぇ、ま!分からないことをずっと考えていても仕方がない、話の続きと行こうか」

 どうも初めまして、帰上空路です

 言い訳をするつもりはありませんが、初めて書いた物なのでなにか不手際があっても暖かい目で見逃してください

 もしこの話を読んで「続きが読みたい!」という珍しい方が一人でもいるのであれば、私はその人のために書きます

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― 新着の感想 ―
見逃して、と書いていたので悩みましたが誤字報告は一応送りました。 こう言う性分なもので許してください。 先は気になるっちゃ気になるけれど、なーんか辛い、いや暗い?話になりそうなので、悩み所…。 誤字…
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