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お菓子作りが得意な悪役令嬢は、領地民のヒーローになります!~ほろ苦い過去はスパイスに、お菓子と笑顔で繋がる優しい領地再生~  作者: 虹湖
第四章 王妃マティルドのゆるふわ宮廷スイーツ革命♪ ~愛と幸せのレシピは国境を越えて~

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第39話 王妃、故郷へ錦を飾る(アレク王子と大量のクッキーと共に)

 アストリア王宮での「ディルフィア流ゆるふわ育児戦争」も、アレクサンダー王子(愛称アレク)の天使の笑顔と、私の作る愛情たっぷり離乳食(と、時々フローラが持ち込むディルフィアの珍味)のおかげで、あの鉄の乳母頭ヒルデガルド女史の心をもちょっぴり溶かし、どうにかこうにか平和的解決(?)を見た今日この頃。アレクも元気に一歳を迎え、おぼつかない足取りで王宮の廊下を探検し、「まんまー!(私のことらしい)」「ぱぱー!(レオニード陛下のこともちゃんと認識している!…はず)」「くっきー!」などと、可愛らしいおしゃべりを始めた。


 そんなある日、レオニード陛下が、いつになく真剣な顔で私に提案してきた。

「マティルド、アストリアと友好関係にある国々へ、そろそろ君と共に公式訪問するのはどうだろうか? 君の作る素晴らしいお菓子は、もはや我が国の最強の外交カードだからな! アレクも、少しは外の世界を見せてやる良い機会だろう」


 国際親善のための公式訪問。王妃としての、大切な務めだ。そして、その最初の訪問先として選ばれたのは――。


「まあ! ディルフィアへ…!」


 私の愛する故郷、ディルフィア領! 王妃として、そしてアレクの母として、錦を飾る(というほど大袈裟なものでもないけれど)ことができるなんて! 喜びと、ほんの少しの緊張で、私の胸はいっぱいになった。

 早速、フローラとアルト様に手紙を出すと、即座に「領を挙げて、首をキリンさんのように長ーくして、お待ち申し上げております!(追伸:アレク様へのお土産に、ディルフィアの幻の巨大イチゴ『プリンセス・ストロベリー』の初物を、死守して確保しておきます!byフローラ)」という、それはもう熱烈な返事が届いた。


 数週間後。私たち一家――マティルド王妃、レオニード国王、そして「まんまー!ふねー!おおきーい!」と目を輝かせるアレク王子――は、アストリアの豪華な王室専用船に乗り込み、ディルフィアへと出発した。船上では、アレクが初めて見る広い海に大興奮し、甲板をハイハイで駆けずり回り、そのたびにレオニード陛下が「アレク! そっちは危ないぞ! ああ、見てごらん、あれがディルフィアのクジラだ!(どう見てもただのカモメです、陛下)」と、早くも親バカぶりを遺憾なく発揮していた。


 そして、ついにディルフィアの港が見えてきた。その光景に、私は思わず息をのんだ。港には、信じられないほどの数の領民たちが詰めかけ、色とりどりの旗や手作りの横断幕を振りかざしているのだ!


「聖女様がお戻りだー!」「マティルド王妃陛下、万歳!万歳!」「アレク王子様、ちっちゃくてかわいー!」


 地鳴りのような歓声と、大量の紙吹雪(よく見たら、やっぱりクッキーのレシピが書かれた古い帳簿の切れ端が大量に混ざっている)が舞う中、私たちはタラップを降りる。その変わらぬ、いや、以前にも増して熱烈な歓迎ぶりに、私の目頭は自然と熱くなった。


 懐かしい工房の前では、フローラが「マティルド様ー!レオニード様ー!そして、ちっちゃなアレクちゃーん!お帰りなさいませー!」と、太陽みたいな満面の笑みで、両手を広げて飛びついてきた。彼女の後ろには、ディルフィア宰相としてすっかり貫禄のついたアルト様が、穏やかな(しかし、フローラの暴走を警戒する鋭い眼光は隠せない)表情で立っている。


「王妃陛下、国王陛下、そしてアレクサンダー王子殿下。長旅、さぞお疲れのことと存じます。ディルフィアの全てが、皆様の御帰還を心より歓迎しております(…私の胃腸と、国家予算以外は、ですが…)」

 アルト様の最後の小声は聞き流すとして、彼のその落ち着いた佇まいと、領地を見事に治めているという自信が、私にはとても誇らしかった。


 実家である侯爵邸では、父である侯爵が、初めて会う孫のアレクをその腕に抱きしめ、「おお…マティルド、こんなに立派な王妃となって…そして、こんなにも愛らしい孫まで授かるとは…わしは、わしはもう、いつお迎えが来ても悔いはないぞ…!(号泣)」と、それはもう盛大に涙腺を決壊させていた。そして、レオニード陛下の大きな手をがっしりと握り、「さあ、婿殿! 今宵はディルフィア秘蔵の『千年熟成葡萄酒(ただし、実際はまだ3年もの)』で、夜が明けるまで、ゆっくりと語り明かそうではないか!」と、国王相手にもかかわらず、すっかり上機嫌で酒盛りを始めようとする(もちろん、アルト様が「侯爵閣下、国王陛下は明日も重要なご公務が…」と、丁重かつ迅速に阻止していたけれど)。


 ディルフィア滞在中、私はアストリア王妃として、そしてディルフィアの聖女スイーツ令嬢として、故郷の食材をふんだんに使った新作スイーツを披露し、両国の友好をさらに深めるための「お菓子外交」を展開した。領内の有力者や、近隣領地の代表者を招いた盛大なお茶会では、アレク王子が、テーブルに並べられた色とりどりのプチフールを見て、「くっきー!あれも!これも!ぜんぶ、アレクのー!」と、可愛らしい声で叫んで会場の緊張を一瞬で解きほぐし、結果的に、難しい交渉事もスムーズに進むという、まさかのファインプレーを見せてくれたりもした。我が子ながら、末恐ろしい外交センスかもしれないわ!


 もちろん、フローラおばちゃん(自称)も、アレク王子にべったりだ。

「アレクちゃん、あたしが本当のママよー! なーんちゃって!」と冗談を言って、レオニード陛下に本気で「フローラ嬢、それは聞き捨てならんな!」と睨まれたり、ディルフィアの山奥で採ってきたという「食べると熊のようにたくましく、そして賢くなるという、伝説の『賢者の木の実』(ただし、ものすごーく苦くて、食べた者は三日三晩奇声を発し続けるという副作用の噂あり)」を、アレクにこっそり食べさせようとして、アルト様に「フローラ工房長! 王位継承者に対し、そのような未確認物質の投与は、国家反逆罪に問われる可能性も…!」と、本気で取り押さえられたりと、相変わらずの自由奔放ぶりで、王宮とはまた違った意味で周囲をハラハラさせていた。アルト様の、ディルフィアに常備してある胃薬(もちろん特製ブレンド)の消費量が、また少し増えたのは言うまでもない。


 故郷ディルフィアでの、温かくて、ちょっぴり騒々しくて、でも最高に幸せな日々。私は、王妃としての自分の成長を実感すると共に、私の原点であるこの土地と、ここに住む愛すべき人々への感謝の気持ちを、改めて胸に刻んだ。

 レオニード陛下も、ディルフィアの豊かな自然と、素朴で美味しい料理、そして何よりも、マティルドがこれほどまでに領民から愛される理由を肌で感じ、両国の未来への決意を新たにしたようだ。

 アレク王子は、ディルフィアの美味しいお菓子と、優しい人々に囲まれて、毎日たくさんの笑顔を見せてくれた。


 さて、次なる公式訪問の国では、一体どんな「美味しい出会い」と、そしてどんな「お菓子な騒動」が、私たちを待ち受けているのかしら?

 私の「ゆるふわスイーツ外交」は、可愛い王子様という最強の助っ人を加え、まだまだ始まったばかりなのだ!

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