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お菓子作りが得意な悪役令嬢は、領地民のヒーローになります!~ほろ苦い過去はスパイスに、お菓子と笑顔で繋がる優しい領地再生~  作者: 虹湖
第三章 王太子殿下と秘密のレシピ

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第28話 陰謀のレシピと、秘密の作戦会議(お茶菓子付き)

 イザベラ王女の私室は、あの「焼きリンゴ外交」以来、すっかり私たちの秘密の作戦基地と化していた。氷の王女の仮面を脱ぎ捨てた彼女は、意外と情熱的で、そして何より、あの古狸…もとい、宰相閣下への積年の鬱憤がマグマのように溜まっていたらしい。


「これを見てくださいまし、マティルド様!」


 イザベラ王女は、まるで伝説の勇者が聖剣を掲げるかのように、震える手で数通の古びた羊皮紙の書簡と、一冊の分厚い革表紙の帳簿を私たちの前に差し出した。その瞳には、恐怖と、しかしそれ以上の確固たる決意が宿っている。


「これは…宰相の執務室の隠し金庫から、我がエルドラードの近衛騎士であるエリオット(彼女がそう紹介した、隣に控える爽やかで朴訥なイケメン騎士だ。フローラが早速目をハートにしている)が、命懸けで持ち出してくれたものです。彼の長年にわたる裏切りの、動かぬ証拠となるはず…!」


 アルト様が、まるで鑑定士のように手袋をはめ(どこから出したの!?)、それらの書類を慎重に検分し始める。その間、部屋には緊張した沈黙と、イザベラ王女が「これ、美味しいですわね…」と、いつの間にか私の持参した「ディルフィア産くるみと木の実のざくざくクッキー」を頬張る音だけが響いていた。うん、どんなシリアスな場面でも、美味しいお菓子は必須よね。


 やがて、アルト様が顔を上げた。その表情は、いつになく険しい。

「…これは、驚きましたな。宰相閣下は、エルドラード王国の一部の貴族と裏で手を組み、アストリア国内の重要なミスリル鉱山の採掘利権を、不当に安い価格でエルドラード側に売り渡す密約を交わしていたようです。その見返りとして、莫大な賄賂が宰相個人の懐に…この帳簿はその金の流れを如実に示しています」


 その言葉に、同席していたレオニード殿下の顔が、怒りでみるみる赤く染まっていく。

「あの宰相…! 父王の長年にわたる信頼を裏切り、国を、民を売ろうとしていたというのか! 断じて許せん! あのような国賊、ディルフィアの特製激辛ソースを塗ったタルト生地のように、薄っぺらく引き伸ばして、アストリアの砂漠の果てまで追放してくれるわ!」


 …殿下、その例え、若干具体的で物騒ですけど、お気持ちは痛いほど分かりますわ。


 こうして、打倒宰相(と、ついでにアストリアの鉱山利権を守り、レオニード殿下と私の未来も守る)のための、秘密の作戦会議が、イザベラ王女の豪華な私室で、美味しいお茶菓子(もちろん私提供)と共に、正式に幕を開けたのだった。メンバーは、私、レオニード殿下、アルト様、フローラ、そしてイザベラ王女と、彼女の忠実なる騎士エリオット殿。なんだか、伝説の勇者パーティみたいで、ちょっとワクワクするわね!


「はいはーい! あたしに名案がありますっ!」


 早速、フローラが元気よく手を挙げた。

「まず、あたしが可愛い踊り子に変装して宰相の屋敷に潜入します! そして、得意の『ディルフィア豊穣の舞(ベリー摘みバージョン)』でヤツを油断させて、その隙にエリオット様がバッサリ! …じゃなくて、残りの証拠をがっぽり奪ってくるっていうのはどうでしょう! 名付けて『踊る聖女とイケメン騎士☆甘い罠にご用心♪作戦』です!」


「…フローラ工房長。その作戦は、開始30秒であなたが踊りに夢中になり、エリオット殿があなたの護衛で手一杯になり、結果として宰相閣下に警戒されるだけで終わる未来しか見えません。却下します」


 アルト様の、あまりにも冷静で的確なツッコミに、フローラは「ちぇー」と頬を膨らませる。その隣で、エリオット殿は「お、踊り子の護衛…? そ、それは騎士の務めとして…(真っ赤)」と、朴訥に困惑していて、なんだか微笑ましい。


「やはり、公の場で、多くの貴族たちの目の前で、宰相の罪を白日の下に晒すのが最も効果的でしょう」とアルト様が続ける。「問題は、いかにして決定的な証拠を提示し、彼を追い詰めるか、ですが…」


 そこで、私がそっと手を挙げた。

「あの…もしよろしければ、私に一つ、考えがございますの。近々、エルドラード王国との友好を祝う(という名目の、実は宰相が自分の手柄をアピールするための)晩餐会が開かれると伺いました。その席で、私が特別なデザートをお出しするのはいかがでしょう? そのデザートが、彼の罪を暴くための、小さな『スパイス』になるかもしれませんわ」


「デザートで…?」レオニード殿下が不思議そうな顔をする。


「ええ。例えば…『真実の味がする』と噂の、特別なチョコレートケーキとか。あるいは、食べた人の一番後ろめたい記憶を呼び覚ます、という言い伝えのある『懺悔のベリータルト』とか…」

「マティルド様、それはお菓子ではなく、もはや呪いのアイテムでは…?」アルト様が真顔で突っ込む。


「もちろん、本当にそんな効果があるわけではありませんわ。でも、噂と雰囲気、そして少しばかりの仕掛けで、人の心は揺れ動くもの。そこに、アルト様が集めてくださった確かな証拠を突きつければ…」


 私の提案に、イザベラ王女がポンと手を打った。

「それ、面白いですわね! 実は、宰相は極度の迷信家でしてよ。不吉な占いや、ちょっとした凶兆の類を、それはもう病的なまでに気にするのです。デザートに何か不吉な暗示でもあれば、きっと狼狽えるに違いありませんわ!」


 なんと、氷の王女改め、情報通のイザベラ様から、またもや有益な情報が! 彼女、作戦会議の最中も、私の持ってきた「脳を活性化させる!ディルフィア産クルミとドライフルーツの栄養満点クッキー(アルト様命名)」を、リスのように頬張り続けている。どうやら、すっかりお菓子の魅力に目覚めてしまったようだわ。


「よし、方向性は決まったな!」レオニード殿下が力強く宣言する。「晩餐会で、マティルドのデザートを合図に、我々が宰相の不正を暴く! エリオット殿には、万が一の際の武力制圧を…いや、それは最終手段だな。アルト、証拠の最終確認と、当日の段取りを頼む!」

「かしこまりました。フローラ工房長には、当日の会場で、何か…その、予想外の活躍を期待しております」

「えへへ、任せてください! あたし、そういうの得意ですから!」(主に騒ぎを大きくする方が、だけど)


 こうして、私たちの「打倒強欲宰相!ドキドキ☆スイーツで真実を暴け大作戦!(フローラ命名)」は、着々とその輪郭を現し始めたのだった。部屋には、皆の熱気と、そしてマティルド特製「作戦会議応援!集中力アップハーブティー」の爽やかな香りが満ちていた。


 アルト様は、そのハーブティーを一口飲むと、「…ふむ。この作戦が成功すれば、私の長年の相棒である胃薬の消費量も、劇的に改善されるはずだ…! その暁には、ディルフィアに『アルト様専用・胃腸に優しいお菓子研究所』の設立を具申せねば…!」と、かつてないほどの熱意(と、若干の個人的野望)で、計画書を練り上げていた。


 果たして、私たちの「お菓子な作戦」は、老獪な宰相の陰謀を打ち砕くことができるのか? そして、レオニード殿下と私の未来は…?

 物語は、いよいよクライマックスへと向かって、甘く、そしてスリリングに加速していく!

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